民事2024年04月04日 投稿内容の悪質性重視 罷免理由に反発も 「弾劾裁判判決」 提供:共同通信社
仙台高裁の岡口基一判事(58)を罷免すると判断した弾劾裁判では、交流サイト(SNS)への投稿内容を理由に、裁判官を辞めさせるべきかどうかが初めて問われた。重大な職務違反や犯罪といった過去の罷免理由とは大きく異なり、法曹関係者から反発する声も上がったが、判決は殺人事件の遺族を繰り返し傷つけたとして、投稿内容の悪質性を重視した。
▽型破り
「結果的にSNSで市民の心情を傷つけ、繰り返してしまったら、著しい非行と認定される。裁判官が魅力的な職業とは思えなくなる判断だ」。3日の判決後、記者会見した弁護団の伊藤真(いとう・まこと)弁護士は憤りをあらわにした。
岡口氏は2008年から実名でX(旧ツイッター)を始めた。裁判や時事問題に関する記事をコメント付きで紹介する一方、自身のブリーフ姿をアップするなど「型破りな裁判官」と話題に。投稿は約8年間で計約4万回に上り、17年12月時点で約3万8千人のフォロワーがいた。
22年に弾劾裁判が始まると、各地の弁護士会は罷免反対の声明を次々と発表。「私的な表現活動に強い萎縮効果をもたらす」(仙台弁護士会)、「裁判官の独立に与える影響が甚大」(兵庫県弁護士会)と懸念を示した。
公判には岡口氏と同様に、実名で十数年にわたり投稿を続ける津地裁の竹内浩史(たけうち・ひろし)判事も出廷し、裁判官のSNS発信は極めて少ないと説明。「裁判所は消極的で、とにかく沈黙を守る行動を取るよう誘導している」とし、背景には事なかれ主義があると証言した。
一方で「公平であるべき裁判官が事件遺族を傷つけた事実は重く、罷免はやむを得ない」(現職裁判官)といった声も少なくなかった。
▽逸脱
過去7人に出た罷免判決の理由は、大量の事件記録を放置し失効させるといった重大な職務違反や、児童買春、盗撮といった刑事罰を受けたケースだった。これらとは根本的に異なる「表現行為」をどう判断するかが最大の焦点だった。
判決はまず、罷免は裁判官の品位を辱める「非行」にとどまらず、「国民の信託に対する背反」が認められる場合に限られるとし、岡口氏の投稿内容を個別に検討した。
殺人事件に関する投稿について「遺族から抗議を受けても真の反省や改善がなく、長期にわたって断続的に同様の投稿を続けた」と指摘。表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱していると断じた。ただ、東京高裁や裁判官訴追委員会を批判した投稿は「裁判官としての表現の自由を尊重すべきだ」として罷免理由から外した。
広島大法科大学院の新井誠(あらい・まこと)教授(憲法)は、判決が投稿内容を個別に考慮して判断したのは妥当だとしつつも、罷免の結論は重く、裁判官にとって非常に厳しい判決になったと指摘する。「SNS投稿が罷免対象になると分かり、弾劾理由の範囲が広がったのは間違いない。結果として『黙っておいた方がいい』と考える裁判官が増えるのではないか」と危惧した。
国会議員が「罷免」判断 控訴不可、法曹資格も失う Q&A「弾劾裁判」
交流サイト(SNS)への投稿で事件関係者を傷つけたなどとして、弾劾裁判にかけられた仙台高裁の岡口基一(おかぐち・きいち)判事(58)に裁判官弾劾裁判所が3日、罷免の判決を言い渡しました。
Q 弾劾裁判所とは。
A 重大な職務違反や、刑事事件など裁判官としての信頼を失うような行動をした裁判官を辞めさせるかどうか決める機関で、1947年に創設されました。国会議員14人が裁判員となって、専用の法廷を使って審理します。訴追された裁判官は弁護人を付けることができます。判決は「罷免」「不罷免」のどちらかで、これまでに罷免となったのは7人です。
Q どうしてこのような制度があるの。
A 裁判官は圧力を受けずに公正な裁判ができるよう、憲法で厚く身分が保障されていて、最高裁裁判官の国民審査や、重い病気を除けば弾劾裁判でしか辞めさせることができません。弾劾裁判所が国会に置かれているのは、三権分立のバランスを保つためです。
Q 岡口氏はなぜ弾劾裁判にかけられたの。
A 東京都の女子高校生が殺害された事件に関してSNSに投稿するなど、計13件の表現行為が問題視されました。岡口氏は投稿の一部が不適切だったと認めたものの、弁護団は「辞めさせるほどの非行ではない」と訴え、審理には2年以上かかりました。これまでの弾劾裁判で最長です。
Q 岡口氏はどうなるの。
A 罷免判決には控訴などができず、確定します。裁判官を辞めさせられて法曹資格を失い、弁護士にもなれません。ただ5年たてば資格を回復するための裁判を申し立てることができます。
(2024/04/04)
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