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民事2024年04月04日 SNS投稿の岡口判事罷免 表現行為で初、弾劾裁判 遺族中傷「著しい非行」 提供:共同通信社

 交流サイト(SNS)への投稿で殺人事件の遺族を中傷したなどとして訴追された仙台高裁の岡口基一(おかぐち・きいち)判事(58)=職務停止中=の弾劾裁判で、裁判官弾劾裁判所(裁判長・船田元衆院議員)は3日、岡口氏を罷免する判決を言い渡した。SNS投稿などの表現行為を理由とした判断は初めて。事件遺族の名誉を毀損(きそん)したと認め「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」と結論付けた。
 弾劾裁判による裁判官の罷免は約11年ぶりで、1947年の制度開始以降8人目。不服申し立てはできず、退職金は出ない可能性が高い。最低5年間は法曹資格を失い、弁護士にもなれない。
 船田裁判長はまず、罷免事由の「非行」に当たるかどうかは「裁判官に対する一般国民の尊敬と信頼」を基準にすべきだと判示し、一連の表現行為は非行に該当すると認定した。
 岡口氏が遺族からの抗議などを受けても投稿などを執拗(しつよう)に繰り返し、遺族感情を傷つけた点に関し「表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱した」と指摘。特に遺族に対して「俺を非難するよう東京高裁に洗脳されている」と書き込んだことは、「遺族の社会的評価を低下させ、名誉を傷つけた責任は極めて重い」とした。
 その上で、裁判官として少数者の基本的人権を保障する「憲法の番人」の役割からかけ離れ「国民の信託に背いた」と判断した。
 一方、裁判官が国家権力を批判する発言については「萎縮を招かないよう細心の注意を払うべきだ」とも言及。国会の裁判官訴追委員会や東京高裁に対する岡口氏の批判的な投稿については、罷免事由から除外した。
 過去に罷免された7人は重大な職務違反のほか、児童買春や盗撮など刑事罰に問われたことが理由で、今回は法曹界や識者の間で裁判官の「表現の自由」の在り方などを巡り意見が割れていた。
 岡口氏は2015年に東京都立高3年の岩瀬加奈(いわせ・かな)さん=当時(17)=が殺害された事件に関する投稿など計13件に関し、裁判官訴追委員会から21年に訴追された。
 投稿の中には「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」「そんな男に、無惨にも殺されてしまった17歳の女性」とする内容も含まれ、判決文を閲覧できるリンクも記載された。

判決骨子

 一、岡口判事を罷免
 一、殺人事件遺族の抗議を受けても投稿などを続けたのは「表現の自由」として許容されない
 一、「洗脳」投稿などで遺族の感情を傷つけた
 一、「憲法の番人」の役割からかけ離れ、国民の信託に背いた
 一、一連の表現行為は罷免事由の「著しい非行」に該当する

判決要旨

 仙台高裁の岡口基一(おかぐち・きいち)判事(58)を罷免とした弾劾裁判所の判決要旨は次の通り。
 【主文】
 岡口判事を罷免する。
 【認定した事実】
 岡口氏は2015年に女子高校生が殺害された事件に関して交流サイト(SNS)への投稿など10件の表現行為をした。また犬の返還請求に関する民事訴訟に関しても3件の投稿をした。
 【一連の表現行為に一体性が認められるか】
 訴追された裁判官の複数の行為が、その裁判官の同一の人格態度を表していると認められる場合には「事実関係の一体性」があるものとして評価することが許される。
 殺害事件に関する投稿など10件を検討すると、このうち9件は一つのまとまりある行為群として認めることができるので「事実関係の一体性」があると評価できる。犬の訴訟の投稿3件も同様で、岡口氏の表現行為は、殺害事件と犬の訴訟、二つのまとまりある行為群に分けられる。
 【一連の表現行為が「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に当たるか】
 岡口氏の行為が「非行」に当たるかどうかは、裁判官という地位に望まれる「一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を辱める行為」かどうかで判断すべきだ。殺害事件の9件は、岡口氏としては積極的に遺族を傷つける意図はなかったが、結果として何度も遺族を傷つけたと評価できるから「非行」に該当する。遺族を「東京高裁に洗脳されている」とした投稿は社会的評価を低下させ、受忍限度を超えて名誉感情を侵害しており責任は極めて重い。犬の訴訟の3件も「品位を辱める行為」であることは否定できず非行に当たる。
 一方、非行だとしても「威信を著しく失う」程度だったと評価できなければ罷免できない。憲法や弾劾制度の趣旨から「憲法によって国民が裁判官に与えた信託に背反する行為」が認められる場合に限り、非行が「著しい」と評価すべきだ。
 殺害事件に関する一連の行為で岡口氏は遺族に精神的苦痛を与え続けた。「憲法の番人」の役割からかけ離れ、国民の信託に背反する程度に達していた。ただし、現役裁判官が自身の意見などを表現することは憲法の「表現の自由」によって保障されている。
 岡口氏はSNSの特性を熟知しながら、他者を傷つけないよう配慮することなく結果的に遺族に精神的苦痛を与え続けてきた。裁判官による表現の自由の行使手段としてはなはだ問題があった。
 一方、裁判官が国家権力に対して批判的見地からものを申すことに萎縮する状況を招くことのないよう、細心の注意を払うべきだ。その見地から検討すると、殺害事件の9件のうち2件は、司法府内部や裁判官訴追委員会を批判する意図があったと認められるため、裁判官としての表現の自由を尊重すべきだ。
 しかしこの2件を除く行為が、反復して遺族の心情を傷つけ、平穏な生活を送ることを妨げたことは否定できず、表現の自由として裁判官に許される限度を逸脱したと言わざるを得ない。著しい非行と評価できる。
 犬の訴訟の3件は殺害事件の行為群と比べて悪質性は低く、非行が著しいとまで評価できない。

表現の自由、萎縮招くな SNS不適切投稿で罷免

 【解説】岡口基一(おかぐち・きいち)判事を罷免した3日の裁判官弾劾裁判所判決は、交流サイト(SNS)で事件遺族を繰り返し中傷した行為の悪質性を重く捉え、憲法で身分が厚く保障された裁判官の職を失わせる結論を下した。極めて重い判断だが、今回の投稿内容は特異なケースで、「表現の自由」を巡って裁判官全体の萎縮を招いてはならない。
 判決は、裁判官であっても自身の意見や思いを主張することは「表現の自由として保障されている」と示した。その上で、不特定多数に拡散するSNSの特性に鑑み、他者を傷つけないよう十分に配慮すべきだとくぎを刺した。
 SNSの中傷被害が社会問題化する中、こうした配慮は一般国民にも求められる当然の心構えだ。岡口氏が裁判所側から厳重注意や戒告とされ、遺族から抗議を受けた後も執拗(しつよう)に続けた行為は言語道断で、今回の罷免判決はやむを得ない。
 弾劾裁判では、SNSで情報発信する裁判官が極めて少ないとの実態も浮き彫りになった。保守的な裁判所組織に縛られ、他の職種に比べ裁判官が情報発信を自重する傾向があるのは間違いない。裁判官の表現行為はどうあるべきか。岡口氏個人の問題にとどめず、真剣な議論を進めるべきだ。

中傷投稿「その先想像を」 訴追求めた事件遺族

 「指先一つで安易に投稿したその先を、想像してほしい」。まな娘の殺害事件を巡る中傷の投稿を交流サイト(SNS)で繰り返した岡口基一(おかぐち・きいち)判事(58)に対し、東京都江戸川区の岩瀬正史(いわせ・まさし)さん(55)、裕見子(ゆみこ)さん(55)夫妻はそんな思いで約2年に及ぶ弾劾裁判の行方を見守ってきた。3日の罷免判決を受け「表現、言論の自由には必ず責任が伴う。今の時代に沿った判決が出て安心している」と胸中を明かした。
 2015年、高3だった次女加奈(かな)さん=当時(17)=が男に殺害された。手先が器用で、歯科技工士の学校への進学が決まっていた。
 「おばあちゃんになっても来るからね」「ずっとそばで岩瀬を感じて頑張って生きる」。当時の友人たちが今も手紙を寄せてくれるほど周囲に愛されていた。
 男の刑事裁判が続いていた17年12月。ストレスで体調を崩していた裕見子さんは「無惨にも殺されてしまった」などと記した岡口氏の投稿を初めて知った。「なぜこんな…」。治療のため訪れていた病院のロビーで、心が凍り付いたように動けなくなった。
 岡口氏は東京高裁などに二度と投稿しないと約束したが、今度は加奈さんの命日に「遺族は俺を非難するよう東京高裁事務局に洗脳されている」と投稿した。
 岡口氏は弾劾裁判で謝罪の言葉を口にしたが「洗脳という言葉が悪い意味だとは思わなかった」「発達障害の影響だった」などと弁明。一方で、職場での人間関係は良好とし、自らの仕事の実績もアピールした。裕見子さんは「都合の悪いことだけ病気のせいにする。そんな人が裁判官を続けていいのかな」と感じた。
 2人はインターネット上で「クレーマー遺族」といった中傷にも苦しんだ。裕見子さんは各地の学校などで講話活動を続け、毎回問いかけている。「みなさんのSNSの使い方、間違っていませんか」

異彩判事のSNS投稿指弾 遺族安堵、弁護団怒り 「裁判ダメ」早速書き込み

 多数の著書や交流サイト(SNS)への発信で異彩を放っていた岡口基一(おかぐち・きいち)判事(58)に3日、裁判官弾劾裁判所が罷免判決を言い渡した。「表現の自由として許容される限度を逸脱した」と指弾する内容に、投稿で傷ついた事件遺族は「今の時代に沿った判決」と安堵(あんど)した。一方、罷免回避を求め続けた弁護団は「結論ありきだ」と怒りをあらわに。「裁判ダメでした」。岡口氏は判決後、早速フェイスブックに書き込んだ。

「罷免」結論に表情変えず 岡口判事、異例の訴追

 交流サイト(SNS)への投稿が訴追対象となった異例の弾劾裁判に臨んだ岡口基一(おかぐち・きいち)判事(58)は「罷免」の結論に表情の変化は見られなかった。髪を短く整えたダークスーツ姿で東京・永田町の裁判官弾劾裁判所に出廷。船田元裁判長に「主文は最後に読み上げます」と告げられ、判決理由の朗読中は証言台に座って、両手をひざに置き、前方やや下に目線をじっと向けて聞き入った。
 2時間超に及んだ言い渡しの最後に起立して向き合った船田裁判長から「罷免する」と言い渡された際、淡々と受け止めていた様子だった。閉廷後には自らのフェイスブックに「裁判ダメでした」と笑顔の顔文字と共に記した。
 判決後、岡口氏側が東京都内で開いた記者会見に自身は姿を見せず、弁護団のみが出席し「証拠に基づかず、結論ありき」「理解不能だ」と判決内容を批判した。野間啓(のま・けい)弁護士は、岡口氏が罷免の要件に該当するとした判断について十分な理由の説明がないと指摘。「整理した議論ではなく、なんとなく感覚や感情に引っ張られたのではないか」と語った。
 SNSへの投稿で殺人事件の遺族を中傷したなどとして訴追された岡口氏。これまでの公判では自ら「(投稿の)真意が伝わらず、不快な思いをさせ申し訳ない」と述べ、遺族への謝罪を繰り返した。責任を取るとして再任に必要な手続きをせず、4月中旬の任期満了で退官する予定で、法廷では「一つのけじめだと思った」と語った。
 弁護側は判例を広く紹介する目的で複数の投稿をし、遺族らを傷つける意図はなかったと法廷で説明。岡口氏には発達障害があり、SNSのコミュニケーション能力に支障があったのが一因だとも主張していた。

「前例なし」苦悩吐露 裁判長ら記者会見

 岡口基一(おかぐち・きいち)判事を罷免する判決を出した裁判官弾劾裁判で裁判長を務めた船田元衆院議員らは3日、判決後に開いた記者会見で、判断に至るまでの苦悩を吐露した。過去に罷免されたのは刑事訴追されたり職務懈怠(けたい)があったりした裁判官で、船田議員は「前例がなく比較対象がなかった」と今回のケースの難しさを指摘した。
 最終的に殺人事件の遺族を中傷する交流サイト(SNS)への投稿などを罷免事由とした判断に関し、裁判員の階猛衆院議員は「誹謗(ひぼう)中傷で自殺する人もいる。著名な裁判官が、嘲笑するような内容を繰り返し投稿したのは重いという意見があった」と明かした。
 岡口氏は遺族への投稿のほか、東京高裁を批判する投稿でも訴追されたが、3日の判決では罷免事由から除外された。この点について、階議員は「権力批判を萎縮させるようなことはあってはならない」と理由を説明した。

訴訟実務の著書多数 裁判所批判も、異色存在

 弾劾裁判で罷免判決を受けた仙台高裁の岡口基一(おかぐち・きいち)判事(58)は民事訴訟に長く携わり、実務に関する多数の著書は高い評価を得てきた。一方、交流サイト(SNS)には白のブリーフ姿の自撮りとみられる写真を投稿したことも。たびたび裁判所の在り方を批判しており、法曹界では異色の存在として知られている。
 大分県出身で東大卒業後の1994年に任官し、水戸地裁や東京高裁の判事などを歴任。民事訴訟に関する「要件事実マニュアル」などの著書は「訴状を書く際に役立つ」と弁護士らから好評を博した。
 2019年には、SNS投稿を理由とした自身に対する最高裁の分限裁判に疑問を呈し、裁判所の組織を批判する著書「最高裁に告ぐ」を発表した。
 19年に東京高裁から仙台高裁に異動。21年に弾劾裁判所へ訴追されて職務停止となり、それ以来裁判官としての仕事はしていない。この間もブログで司法の話題や時事問題に関する発信を継続し、講演会や、著書の執筆にも取り組んでいた。

遺族が請求、心情に応じる 識者談話

 元裁判官の森炎(もり・ほのお)弁護士の話 弾劾裁判は通常、「司法の威信」が傷つけられたことを理由に、最高裁が訴追請求をして開始される。だが、今回は殺人事件の遺族が請求した点に特殊性がある。その心情に応えるため、罷免の結論になったのだろう。問題となった表現行為が、果たして、司法の威信を甚だしく損なうものだったかは微妙だ。インターネットの時代を迎え、表現の自由と、それに伴う責任との兼ね合いが見直されている時期だ。今回の判決は現職裁判官のネット上の表現行為について厳しい責任倫理を課すものとなった。

萎縮招く重大さ理解せず 識者談話

 ジャーナリストの江川紹子(えがわ・しょうこ)さんの話 受け手の被害感情で全てが決まるという驚きの判決だ。被害者に寄り添うという言葉が肥大化し、発信者の意図や動機が無視された。他者を傷つけないよう配慮するという道徳と、憲法で保障されている表現の自由はてんびんにかけられるべきものではない。判決が表現の萎縮を招くことの重大さを、裁判員を務めた国会議員が理解していないことが恐ろしい。侮辱的な言動には民事訴訟などで対処すべきだ。岡口氏のコミュニケーションに難点はあったが、資格剥奪はペナルティーとして重すぎる。異議申し立てができない制度にも問題がある。

最高裁「誠に遺憾」 岡口判事罷免判決受け

 仙台高裁の岡口基一(おかぐち・きいち)判事(58)を罷免とした3日の裁判官弾劾裁判判決を受け、最高裁の徳岡治(とくおか・おさむ)人事局長は「誠に遺憾だ。裁判官各人において、改めて職責の重さを自覚し、国民の信頼にこたえていくよう努めたい」とするコメントを出した。

岡口判事を巡る経過

 2016年6月 岡口基一(おかぐち・きいち)判事が上半身裸の男性の画像などをSNSに投稿したとして、東京高裁長官が厳重注意
 17年12月 東京都立高3年の岩瀬加奈(いわせ・かな)さんが殺害された事件について投稿
 18年3月 東京高裁長官が厳重注意
 10月 最高裁大法廷が戒告とする決定
 19年11月 岩瀬さんの遺族について「洗脳されている」などと投稿
 20年8月 最高裁大法廷が戒告とする決定
 21年6月 裁判官弾劾裁判所に罷免訴追される
 22年3月 初公判で罷免には当たらないと主張
 23年1月 岩瀬さんの遺族が起こした民事訴訟で東京地裁が岡口氏に賠償命令。その後確定
 24年2月 弾劾裁判が結審
 4月3日 弾劾裁判で罷免判決

裁判官の罷免

 裁判官は公正な裁判ができるよう憲法で厚く身分が保障されている。最高裁裁判官の国民審査や、心身の故障による場合を除き、裁判官弾劾裁判所の判決でしか辞めさせることができない。著しい義務違反や職務怠慢、裁判官の威信を失う非行があった場合、国会の裁判官訴追委員会からの訴追を受け、弾劾裁判所が罷免するかどうかを決める。弾劾裁判は衆参議員計14人の裁判員で構成され、3分の2以上の賛成があれば罷免される。

(2024/04/04)

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