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2025年02月18日 災害時の労務管理-事前の対策と発生時の対応-(後編) 執筆者:福田惠一

 地震列島日本では「ここが危ない!」という地域だけでなく、「発生の可能性が低い」とされていた地域でもしばしば大きな地震が発生しています。また、地球温暖化の影響からか、「想定外」・「かつてないほど危険なレベル」・「これまでに例のないコースをたどる」台風がしばしば襲ってきています。そのため経営者は、今や「忘れぬ先からやってくる」非常災害発生時に対する方針や体制を整えることが強く求められます。今回は、特に労務管理を中心に話を進めてまいります。

目 次

Ⅰ.基本方針の明確化(前編)
Ⅱ.災害発生時の労務管理上の検討事項(前編)
 1.社員の生命・身体の安全確保(前編)

 2.災害時における労務提供と賃金支払の関係性の明確化
 3.災害時の労務管理体制構築のポイント
 4.災害後のフォローアップ

2.災害時における労務提供と賃金支払の関係性の明確化
 災害の襲来に備えるため待機するとき、あるいは現実に災害が発生し業務遂行ができないとき、労務提供と賃金支払の関係をどう考えるべきか。災害のような、会社にも社員に責任のない事態に対する負担を、会社がどこまで負うべきか。また、会社で待機する場合と自宅で待機する場合はどう違うかについて、労基法の面と福利厚生面とから考えていきます。

(1)賃金支払義務
 私傷病等自己都合による欠勤は、「ノーワークノーペイ」の観点から、賃金支払義務はありません。反対に、不況、資金難、材料不足等の経営障害による休業の場合は、労基法で当該社員の平均賃金の60%以上の休業手当の支給義務が定められています。
 では、災害発生の場合はどうなるか。災害等の不可抗力による休業の場合は、行政通達で休業補償は不要とされています。そして、不可抗力によるというためには、「➀その原因が事業の外部より発生したものであること、➁事業主が通常の経営者としての最大の注意をつくしてもなお避けることができないものであること」の2つの要素が必要とされています。ちなみに、2011年3月11日の東日本大震災の際には、行政通達で「企業側の責任とは言えず休業手当を補償する必要がない」としています。ただし、自然災害や交通機関の停止などの不可抗力によって出社できない場合には、労務提供がない以上賃金支払が免除される旨、あらかじめ就業規則に明記し社員に周知しておくことがトラブル防止になります。
 とは言うものの、災害発生を予測しての自宅待機での場合、「不可抗力」と言えるか微妙なところもあり、無給ではなく休業補償と同等の6割を支給することとし、社員に有給休暇取得か休業補償を受けるかの選択をさせるとする方が、社員に納得感を得やすいと言えます。

(2)会社と自宅とでの待機時間の労働時間性の相違
 災害の襲来に備え、あるいは現実の災害発生時に会社で待機する場合、待機時間が労働時間として扱われるか否かの判断は、その時間における業務上の拘束性がどの程度大きいかによって変わります。場所的な拘束性、時間的な拘束性、そして、指揮命令下の業務による拘束性があるかを見るわけです。会社で待機する場合は、PC等を使用した仕事は容易に可能です。それ以外にも、社内外からの連絡が入る可能性があり、それに対応した業務が発生することも十分あります。したがって会社で待機する場合は労働時間として把握されるべきと考えられます。
 一方、自宅待機は一般的に業務遂行が困難であり、社員が自由に時間を使うことが可能といえます。したがって、具体的な上司からの指示命令により業務遂行する場合や、テレワークをする場合を除き、自宅待機中は労働時間とは言えないと判断されます。

(3)福利厚生面からの対応
 災害の影響を受ける社員に、福利厚生の観点から有給の特別休暇とする選択もあります。しかし、公共交通機関の途絶や自宅の浸水倒壊等による出勤ができない状態が長期間継続するとなると会社の賃金負担も限度があります。付与日数は、3日~1週間を限度とすることが、現実的な目途と考えられ、それ以上は該当社員の多寡や被害の大小等で個別対応とし、これを福利厚生規程等で明示しておくべきと考えます。
 ただ、予測を超える災害は度々は発生しません。社員として金銭面で備えが十分でない場合もあります。そのようなときに会社が救いの手を差し伸べることは、社員の帰属意識を高めることになります。もしもの時に社員への支援を惜しまない姿勢が、その後の社員のモチベーションを高める可能性もあります。普段から災害時の金銭的支援の準備をすることが、長期的に見て会社経営にプラスになると考えられます。

●賃金について(規程例)
・災害の影響により欠勤した場合、休業補償手当を支給する。
 遅刻早退等の一部休業日は、「平均賃金×60%―支払われた賃金」を支給します。
・希望により有給休暇取得することができます。
・業務上必要がある場合は、振替出勤日を指定する場合があります。

3. 災害時の労務管理体制構築のポイント
 災害時にスムーズに対応するためには、事前に体制を整えておくことが重要です。以下は、労務体制の構築に必要な要素を示します。
項 目 概 要
1. 責任者の設置 指揮を執る責任者をあらかじめ明確にし、災害時に指導体制が直ちに構築できるように準備する。
2.安否確認システム 従業員の安否を迅速に確認できる仕組み(電話、SNS、システム等)を確立し、一定期間ごと正常に機能することを確認する訓練を実施する。
3.情報共有体制 平時からクラウド上で情報を迅速に共有できるチャネル(メール、社内SNS等)を確立し、災害発生時の電源や回線の確保ができるよう準備する。
4.訓練と周知 定期的な災害訓練を実施し、従業員に対して災害時ガイドラインを作成し、避難行動計画を周知し、一定期間ごと避難訓練を実施する。
4.災害後のフォローアップ
 災害後も社員の健康状態の把握や業務再開のための労務管理が重要です。以下の図表で、災害後の対応を整理します。
項 目 概 要
健康状態の確認 従業員が心身にダメージを受けていないかを確認し、ケアを行う。
業務再開の調整 業務再開に向けて段階的に業務を調整し、復帰を支援する。
支援金や助成金の活用 政府の災害支援金や補助金を活用して経済的支援を行う。

 以上、災害発生時に備え事前に構築すべき事柄を述べてきました。このような優先順位が低いが重要性の高いことは、つい後回しになりがちです。しかし、何も起きていない今こそ、敢えて想像力逞しくしてこれらに取り組むことか強く望まれます。

<プロフィール>
福田 惠一
寿限無(じゅげむ)経営コンサルティング代表

 金融機関にて営業・融資を担当後、同総合研究所で人事金制度構築コンサルの経験を積み、退職後「寿限無経営コンサルティング」を開業。上場会社総務顧問も経験。経営の観点と社員の双方にとっての望ましい労使関係構築支援のため、人事・賃金・考課制度の整備、人事労務トラブル対応、紛争予防のための社内規程整備、マネジメント研修・ハラスメント研修等社員各層への研修、各種助成金申請支援等に注力。

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