一般2025年04月09日 「通信秘密」尊重規定明記 サイバー法案、衆院通過 恣意的運用に歯止め狙い 提供:共同通信社

サイバー攻撃に先手を打って被害を防ぐ「能動的サイバー防御」導入に向けた関連法案は8日の衆院本会議で、与党と一部野党の賛成多数により可決され、衆院を通過した。政府が通信情報を平時から監視し、攻撃元の無害化を可能とする内容が柱。恣意(しい)的運用に歯止めをかける必要があるとの野党側の修正要求を踏まえ、憲法21条の「通信の秘密」を尊重する規定を明記した。
採決では自民、公明両党に加え、立憲民主、日本維新の会、国民民主の各党と衆院会派「有志の会」が賛成。れいわ新選組、共産党、参政党は反対した。日本保守党は1人が賛成、1人が反対、1人が採決を欠席した。
林芳正官房長官は記者会見で「官民が連携し、早期に、効果的にサイバー攻撃を把握し対応することが可能になる」と述べた。
法案は、電気や鉄道などの基幹インフラ事業者が被害に遭った場合、政府への報告を義務付けた。修正に伴い、通信の秘密や国民の権利を巡り「不当に制限することがあってはならない」と記した。
監視対象として想定する通信情報は①日本を経由する外国間②外国から国内③国内から外国―の3種類。メール本文のようなコミュニケーションの本質に関わる情報は対象外としている。
攻撃元サーバーに対する無害化措置は、まず警察が担う。「特に高度で組織的かつ計画的な行為」が認められた場合、首相の命令に基づき自衛隊が対処する。
運用の監督機関として、通信情報の取得や分析、攻撃無害化の対応について事前承認する役割を持つ「サイバー通信情報監理委員会」を新設。委員長と委員4人の計5人を、裁判官経験者ら法律の専門家や情報通信技術の有識者で構成する。
収集情報を不正利用した行政職員や、報告を怠った基幹インフラ事業者への罰則も定めた。
国民の権利保障を担保 識者談話
日本サイバーディフェンスの名和利男(なわ・としお)シニアエグゼクティブアドバイザーの話 能動的サイバー防御の導入に向けた関連法案は、修正前だと政府の都合に合わせて運用できる余地が残っていた。国民の権利を不当に制限しないよう修正案に明記されたことで、権利の保障が一定程度、担保された。電気や鉄道などの基幹インフラ事業者がサイバー被害に遭うと、パソコンの調査や通信記録の提出などが求められて負担が増す。政府は民間の協力を求めるだけでなく、民間の負担軽減策や有用な情報の提供を考えることが必要だ。
慎重な運用と説明を 識者談話
中曽根平和研究所の大沢淳(おおさわ・じゅん)主任研究員の話 能動的サイバー防御の導入に向けた関連法案は安全保障上、重要だ。攻撃者の通信を取得し、攻撃を確認した上で無害化するという、これまでできなかった対策を可能にするためだ。政府が取得する情報は限定され、第三者機関によるチェック体制が整えられる。一方で、無害化の際に攻撃者に乗っ取られたIT機器を一時停止するなど、国民の財産権を制限することもある。慎重な運用と国民への十分な説明が欠かせない。無害化を実行する警察や自衛隊の技術向上と人材育成も急務だ。
サイバー法案を巡る経過
「能動的サイバー防御」導入に向けた関連法案を巡る経過は次の通り。
2022年12月16日 国家安全保障戦略に導入方針を明記
24年6月7日 法制化に向け政府有識者会議が初会合
11月29日 有識者会議が提言取りまとめ。憲法上の「通信の秘密」を保護するため、独立機関の監督の重要性を強調
25年2月7日 政府が関連法案を閣議決定
3月18日 衆院本会議で審議入り
4月4日 一部野党が主張した通信の秘密の尊重規定や、国会報告の項目を具体的に盛り込んだ修正案を衆院内閣委員会で可決
8日 衆院通過
通信の秘密
個人のプライバシーや自由を守るため、手紙や電話、電子メールといった通信の内容、相手などを第三者や公権力に知られない権利。憲法21条2項は検閲の禁止に加え「通信の秘密は、これを侵してはならない」と規定する。インターネット空間では電気通信事業法により、事業者は業務上知り得た他人の秘密を守らねばならないと定められている。一方で、憲法が規定する「公共の福祉」のため、やむを得ない限度で一定の制約を受ける場合があるとされる。
(2025/04/09)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.