民事2025年06月01日 「拘禁刑」6月1日導入 118年ぶり刑罰見直し 懲らしめ脱却、更生軸足 提供:共同通信社

懲役と禁錮を廃止し「拘禁刑」に一本化する改正刑法が1日、施行された。刑罰の種類変更は1907(明治40)年の刑法制定以来初となる。刑務作業を義務とはせず、罪を犯したことへの「懲らしめ」との考えから脱却。受刑者の特性に応じた24の処遇課程を設け、改善更生や再犯防止に軸足を移す。1日以降の事件や事故で有罪となった人が対象。
受刑者の分類はこれまで、犯罪傾向の進み具合が主な基準だった。だが、万引を繰り返す高齢者と暴力団関係者のように、背景が大きく異なっても罪を重ねたというだけで同様に扱わざるを得ないケースが生じ、課題とされてきた。
再編される処遇課程は、受刑者個々の特性に着目。70歳以上で認知症などを抱える「高齢福祉」、薬物依存の回復を目指す「依存症回復処遇」、知的・発達障害者ら向けの「福祉的支援」などとした。20歳以上26歳未満の「若年処遇」や刑期10年以上の「長期処遇」などは更生の意欲や再犯リスクに応じ3~4種類に細分化した。
足腰の弱った高齢受刑者が、作業よりも身体能力や認知機能の維持・向上のためのリハビリに注力できるようになる。若い受刑者も、出所後の就学を見据えて必要な学力を身に付けやすくなる。刑務所ごとに対応可能な課程を設定し、受刑者の個性を見極めた上で収容先を決定。6カ月おきに状況を調査し、変化に応じて課程を変更できる。
職員らの向き合い方も変容する。集団全体の規律重視を改め、個性を見つめて社会復帰に向けた意欲の喚起を心がける。意識変革の一環として、既に受刑者への呼び捨てをやめて「『さん』付け」とし、移動中の集団行進を廃止した。
また改正法は、執行猶予期間中に犯した新たな罪に対し、再び執行猶予を付けられる要件を緩和。保護観察制度の積極的な活用が期待される。
出所後、円滑な社会復帰を 犯罪被害の連鎖歯止めに
厳しく指導すれば受刑者が罪と向き合い更生するとは限らない―。再犯防止を重視する拘禁刑下で、刑事施設側は受刑者へのアプローチを一変させる。従来の規律重視や厳格な対応を改め、まず個別の背景やニーズに目を向ける柔軟な姿勢に転換。出所後の円滑な社会復帰を図り、犯罪被害の連鎖に歯止めをかけたいとの思いが根底にある。
「痛いところはありませんか?」。東京都府中市の府中刑務所で5月、自転車型トレーニング器具をゆっくりこぐ高齢の男性受刑者に、作業療法士が優しく問いかけた。隣では数人の受刑者がストレッチをしたり、端末を使い図形の問題を解いたりしていた。さながら福祉施設のようだ。
参加するのは70歳以上が対象の「高齢福祉」処遇に相当する男性たち。認知機能や身体能力の維持、向上に力が注がれている。受刑者の高齢化もあり、2020年度から取り組みを始めた。
男性受刑者(73)は窃盗罪で23年末に入所した。刑務所は四十数年ぶり。前回は刑務官に強い言葉で指示をされ、木製の額縁を黙々と作った。「腰痛で昔のようなことはできない。今のメニューを受けると歩行が楽になるし、認知症も予防できそう」と笑顔を見せる。
男性は今夏の出所を予定し、ゆくゆくは地元の東海地方での暮らしを思い描く。こなすプログラムは主に出所後を見据えて考案された。担当の作業療法士は「動けるだけで選択肢が大きく増える」と狙いを語る。
職員側も更生意欲を喚起するための寄り添いが求められ、受刑者との対話を重視する。むやみにつらい作業はさせず、呼称も「さん」付け。かつてとは異なる対応に、現場からは戸惑う声も上がる。ある刑務官は「厳しい指導で『二度と刑務所に来たくない』と思わせるのが改善更生だと以前は考えていた」
ただ、再犯者の多さが処遇上の課題なのも事実だ。犯罪白書によると、入所受刑者のうち2回目以上の「再入者」は、06年以降5割を超える。西岡慎介(にしおか・しんすけ)所長は「適切な支援を受けずに犯罪に走る人も少なくない。再犯を防ぎ新たな被害を生まないことが、国民のオーダーに応えることになる」と話した。
刑罰
改正前の刑法では、刑事施設に収容し自由を奪う自由刑として、刑務作業を伴う懲役、作業を義務としない禁錮、収容30日未満の拘留を規定。財産刑には原則1万円以上の罰金と、1万円未満の科料がある。このほか、重大犯罪には死刑を科す。犯罪白書によると、2023年入所受刑者のうち懲役は1万4033人、禁錮は49人、拘留は3人。禁錮受刑者の約8割は自らの意思で刑務作業に従事しており、禁錮と懲役に大差がないという実態も両刑罰を統合する理由とされる。
(2025/06/01)
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