一般2026年08月22日 クマはどこからやってきたのか…後手に回ったクマ対策、長年警鐘を鳴らしてきた先進県の研究者の指摘 各地でクマ人材獲得競争が勃発、「影響は間違いなく全国に及ぶ」とも 提供:共同通信社

全国で相次ぐクマによる被害。2025年度の出没件数は5万件を突破、人身被害者数は238人に上り、いずれも過去最多となった。国を中心とした対策が急ピッチで進められる中、全国有数のツキノワグマの生息地として知られ、20年以上前から独自に個体数管理を進めてきた兵庫県の取り組みに注目が集まっている。
管理を手がけてきた兵庫県立大の横山真弓教授は全国的に個体数が急増していると危機感を募らせる。「すでに多くの人命が失われてしまっている。被害が多い地域では、捕獲を急ぐべき状況だ」
クマはどこからやってきたのか―。ここ数年で劇的にクマの出没件数が増えた背景を探ると、地方衰退が拍車をかけるという構造的な問題が見えてきた。そして、カギを握るのは都市部で暮らす人々の意識だ。(共同通信=斎藤修真)
▽「絶滅のおそれ」から一転、急増で基準設定へ
大阪市内から車を走らせること約1時間半、のどかな水田と里山が広がる兵庫県丹波市に兵庫県立森林動物センターはある。2007年に開設された全国的にも珍しい野生動物の保全と管理を目的とした研究施設だ。
センターの研究部長も務めている横山さんによると、クマ管理に関する取り組みはセンター開設前の2003年から始まった。当時県内では絶滅の恐れが高まっており、横山さんらは保護に役立てるため捕獲個体に識別チップを埋め込んで放獣。データを蓄積する取り組みを開始した。
センター開設後は、独自の数式を基に、2011年に初めて県内の推定個体数を算出することに成功した。全国的にも先進的な取り組みだった。
ところがほぼ同時期に、個体数が増加傾向となっていることが判明。それまでの保護方針から、必要に応じて捕獲を進める方向へと転じる。環境省の「クマ類ガイドライン」(2010年版)で「絶滅の恐れは当面ない」とされる800頭を駆除の基準に設定した。
▽増加率は毎年約15%
兵庫県では野生動物対策として、シカの頭数調整に取り組んだ経験がある。1990年代から爆発的に増加。管理体制が整っておらず、捕獲が遅れたことが原因だった。駆除を強化したのは2010年からだという。
横山さんはこう振り返る。
「シカの頭数を減らすまで約10年かかった。野生動物は一度数が増えきってしまうと太刀打ちできなくなってしまうので油断できない」
クマについて県は現在、近隣府県との広域協議会において、2地域に分けて数を推定。2026年当初の推定値はそれぞれ700~800頭台で、絶滅の恐れがない、適正な水準に収まっている。ただし、クマの増加率は毎年約15%。捕獲をしなければ5年で倍増する計算だ。
▽好物減らして防除、生活圏分離も
横山さんは個体数管理と並行して、クマが人の生活圏に入らないようにする「被害防除」も重要だと指摘する。
では、兵庫はどのように対策を進めてきたのか。
県の調査で、クマが人間の生活圏に出没した際の誘因物を調べたところ、ある集落では「カキの木」が7割を占めた。カキはクマの大好物。県は住民らと協力して、集落内のカキの木の本数と場所をマッピングし、空き家付近などで必要に応じた伐採を進めた。
さらに、クマが人里に下りてこないようにする「バッファーゾーン」と呼ばれる緩衝地帯を整備。「うっそうとした森から突然視界が開けると、クマは人家に近づかなくなる」(横山さん)。
山林と人間の居住区域の間の草木を刈り取り、人工的な境界を作った。
▽後手に回ったクマ対策、山奥は過密に?
クマ対策の必要性が盛んに論じられるようになったのは、2023年。全国でクマによる人身被害が過去最悪の219人を記録したことをきっかけだ。状況を重く見た国が、捕獲を支援する「指定管理鳥獣」に指定したのは2024年のことだった。
だが、横山さんは国の動きは遅いと指摘。事実、長年にわたってクマ急増への警鐘を鳴らしてきた。
特に被害のひどかった秋田県では、2020年時点、すでに4400頭(中央値)もいたと推定されるという。「いくら頭数が増えすぎていると声を上げても、被害が顕在化しない限り行政の腰は重かった」。
クマは警戒心が強く本来は人前に現れることはないが、山奥が過密状態になれば、里側に分布が拡大する。山のえさの実りが悪ければ、さらに人里に下りてくる個体数も増える。
そうした個体が長い年月をかけて複数世代にわたって人里に定着したことが、近年の大量出没の一因になっていると横山さんは指摘。市街地に出没したクマを対症療法的に駆除するだけではなく「状況に応じて山奥のクマの個体数管理も必要だ」と話す。
▽全国的な人材獲得競争、ギャップ解消も
クマなどの鳥獣保護に関する専門的な知識を持つ各都道府県の職員数はごくわずかだ。2025年4月時点で計196人で、5人以上配置されているのは16道府県にとどまる。
政府は今年3月、クマ被害対策のロードマップを策定。捕獲作業などに従事する自治体職員の数を、2030年度までに現在の約3倍の2500人まで増やすことを目指すとしている。
ただ目標達成は容易ではなさそうだ。
「豊富な人材がいる分野ではない」。昨年度全国で最多となる67人の被害者が出た秋田県の担当者は共同通信の取材に対して、全国的な人材獲得競争が起こる可能性への懸念を示した。
横山さんも国が掲げる目標には課題があると話す。
「イノシシやサルなど他の野生動物の管理に加え、山林管理などとも兼業しているケースもある。せっかく専門的な知識を持った職員を入れても実務内容にギャップが生じてしまっている」。高度な知識を持ったクマ対策専業の職員を置き、待遇を改善することが必要だとした。
▽都市と地方の構造問題
クマ問題は、どのような問題だと考えればいいのだろうか。
横山さんは、近年のクマ被害を資本や人材の地域格差と結びついた「構造的な問題」だと位置付ける。
対策が後手に回ってしまった理由の一つとして挙げるのは、地方の人口衰退だ。総務省の「2026年版日本の統計」によると、都道府県別人口増減率のワーストは秋田・青森・岩手の順で並ぶ。3県はいずれもクマの被害件数でも上位を占めている。
「郡部ではクマの好物であるカキや栗が植えられた空き家が放置され、クマのすみかになっていた。だが、調査をする十分な人手が確保できないため状況を把握しようがなかった」
総務省によると、日本の人口の半数はいわゆる三大都市圏に集中。中でも東京圏は3割を超える。ほとんどの人はクマのいないところに住んでおり「クマ問題は他人事に感じられているかもしれない」と横山さん。
元来クマが多い地域では、一次産業に関わる地域の人々が、社会とクマの境界を守ってきた。ところが、地方ではいち早く人口が減少。いまクマ被害が広がっているのは、一次産業を支えているその地域だ。
担い手がいなくなった地方では、悪化に拍車がかかっている状況が浮かび上がる。そして立ちゆかなくなれば影響は間違いなく全国に及ぶと横山さんは訴える。
「都市部で生活する人も自らに直結する問題として捉えてほしい」
(2026/08/22)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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