カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2006年04月03日 【実務解説】 会社法で見る企業承継のための自社株式対策(2006年4月3日号・№157)

実 務 解 説
会社法で見る企業承継のための自社株式対策

みずほフィナンシャルグループ 法務・コンプライアンス部 参事役  安藤 均


Ⅰ はじめに

 5月1日に施行される会社法では、定款自治が広く認められることになり、従来以上に定款の規範性は強化されると考えられる。
 現行の有限会社は整備法2条で会社法の規定による株式会社(特例有限会社)として存続する。一方、会社法ではすべての株式に譲渡による取得について会社の承認を要する旨の定款の定めがある譲渡制限株式会社が基本となる。これは、会社法2条五号で公開会社が定義されておりその反対解釈によるものである。大多数の会社が中小会社であることを踏まえ、商法の有限会社が会社法の譲渡制限株式会社となったと理解すれば良く、商法で大会社に馴染んでいる人にとって頭の切り替えが必要となる。
 ところで、オーナー色の強い中小会社で創業者が死亡した場合、相続財産の帰属の係争に加え、後継人事をめぐり当該会社の株主総会において議決権行使に絡むトラブルの発生例が見受けられる。このような問題を解決するには、譲渡制限株式会社においても、自社株式対策の観点から議決権制限株式などの種類株式を活用すべきものと考えられる。また、会社法では、譲渡制限株式会社において定款自治として株主の属性・個性に着目し配当・議決権等を株主ごとに異なる取扱いをすることが認められる。会社法の新しい考え方(取扱い)をどの程度活用できるのかについて新たに検討が必要となる。
 そこで、本稿ではまず、共同相続人間のトラブルが原因で取締役選任の株主総会の決議が取り消された最高裁判例を採り上げ、商法下での問題を会社法下に置き換えて検討したい。次に、会社法でどのような対策が種類株式等の活用で考えられるのかを検討する。
 なお、以下の意見はあくまで個人的見解であり、条文の解釈・理解を含め所属組織とは無関係である。

Ⅱ 自社株式を後継者に集中できなかった事例 

1. 問題の所在

 商法203条2項では相続に伴い準共有株式となった場合には、共有者が権利行使するためには代表者を選定しなければならないとされている。共同相続人間の紛争で代表者を選定できない場合に会社法では議決権の行使はどうなるのか。さらに、準共有株式となった場合には議決権の不統一行使が行えないのかを考える必要がある。
商法下では次頁の最高裁判決がある。

2. 最高裁平成11年12月14日判決(判タ1024号163頁)
(1)事案の概要

  Y会社(被告)の株主で故創業者Aの長男X(原告)が役員選任の株主総会の決議取消を求めた訴訟である。
  創業者Aは生前二男であるBを後継者として会社を代表させたが、自社株式対策はなされず相続により兄弟間で内紛が顕在化した。Y会社の株主構成は、発行済株式総数4万株のうちAが8割の3万2千株を保有し、残りをX、Bらが所有していた。昭和55年にAが死亡しX、Bら相続人7名による相続が発生した。平成8年7月に役員選任のためY社の株主総会がB議長のもとで開催され、Xら相続人全員が出席した。故創業者名義株式分について相続人による権利行使者の選任通知がないにもかかわらず、会社は相続分に従った相続人の権利行使を認めたがXがこの取扱いに反対し、役員選任の採決がなされた。そこで、Xは、共同相続人の準共有に属する相続株式について商法203条2項の定める権利行使者の選任と会社への通知を欠く手続により総会決議に瑕疵があるとして決議の取消を求めた。
(2)最高裁の判断
  最高裁は、権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠くときは、共有者全員が議決権を共同行使する場合を除き会社の側から議決権行使を認めることができないとして、非後継者の長男の請求を認め第一審、控訴審と同様にY会社の総会決議の取消を認めた。

3. 論 点
(1)会社法106条からのアプローチ
  会社法106条1項は、「株式が共有のときに、共有者が権利行使を行うには権利行使者一人を選定しその旨を会社に通知しなければ、当該株式について権利行使をすることができない。ただし、株式会社が当該権利行使に同意した場合は、権利行使ができる。」と規定する。
  会社法と商法を対比すると、商法203条2項は権利行使者の選任通知の定めを規定していないものの、解釈上当然に選任の通知は必要と考えられているので、会社法本文の定める内容は商法と同一である。問題は会社法のただし書で、商法にはその規定はない。そして、このただし書の解釈として、会社が権利行使を認める場合に、共同相続人全員が単一(同一)の意思表示を行うことに限られるのか、あるいは、法定相続分に応じて議決権の行使ができるのかが定かではない。
  上記最高裁判決によれば、会社が認める場合には共有者全員が議決権を共同行使することが求められており、権利行使者が選定された場合と同様に単一の意思表示を行うことに限られる。通説は共有者全員により共同の権利行使のみを可とする全員一致説であるが、少数説としては、議案の内容を問わず相続分に応じた議決権行使が認められるとする個別行使説、株式の内容を変更する場合には共有者全員による共同の権利行使を必要とするがそれ以外は相続分に応じた個別の議決権行使を認める折衷説とがある。
  この問題と併行してあるのが権利行使者の選任方法についての問題で、通説は共有物の保存行為に準じる全員一致説であるが、共有物の管理行為とする持分価格多数決説、あるいは上記と同様の折衷説がある。最高裁平成9年1月28日判決は、傍論との指摘が多いが、持分の準共有者間において権利行使者を定めるには持分の価格に従いその過半数をもって決するとした。
  権利行使者の選定制度が会社の事務処理上の便宜のためとはいえ、これらの問題のポイントは、特に閉鎖性の強い譲渡制限株式会社の場合、共同相続人間で相続をめぐり紛争になり遺産分割が確定するまでの間利害関係人の法律関係を動かすことが企業承継を考えるうえで良いかどうかであろう。
  新たに規定された会社法106条1項ただし書の位置付けについては、この平成11年判決を踏まえたものとも考えられるが、条文からは明確ではなく相続分(持分の価格)に応じた客観的な基準によると解釈することも可能である。因みに、立法担当者の私見はこのような理解ではなく、共有者間において権利行使者を定めるときは持分の価格に従いその過半数をもって決し、議決権行使をどのように行使するかも持分の価格の過半数で決すると解するのが妥当としている。この考えによれば、権利行使者の選定の通知を欠くときでも会社は共有者間で過半数による議決権行使の決定があることを調査したうえで共有者の一部を権利行使者として認めることができる。これは、従来の学説の議論とも最高裁の考えとも違うものと考えられる。
(2)会社法313条からのアプローチ
  会社法313条1項は、株主は議決権の不統一行使をすることができると一般的に規定しており、3項では株主が他人のために株式を有する者でない場合には、会社は議決権の不統一行使を拒否できるとしている。
  会社法と商法とを対比すると、商法239条ノ4第3項では他人のために株式を有することの例示として、株式の信託を引き受けたことが挙げられているが、実質的な差異はないと考えられる。有限会社法においても、明文の規定はないものの解釈上不統一行使は可能と考えられている。
  信託銀行名義の株式投資信託では、信託銀行は機関投資家の複数の委託者もしくは受益者から議決権行使の指図を受けるので、当然に議決権の不統一行使が認められて良い。相続の準共有株式の場合はどうであろうか。商法239条ノ4第3項の沿革的な理解としては、他人のために有するということは複数の株式が法律上一人に帰属しているものの実質的には複数人のものと認められ、その者の間に統一的な意思決定をすることができるような団体関係が存在しない場合であるとされている。共有の場合は民法252条に対応する商法203条2項の定めに従い権利行使者の選定を行って権利行使をすれば良いので、相続による準共有株式は他人のために株式を有することには該当せず、会社は議決権の不統一行使を拒否できると解するのが通説である。これに対し、少数説は、共有株式についても権利行使者が他の共有者のために議決権の行使をする側面は否定できないとする。
  そこで、会社法106条のただし書と313条3項との整合性をどのように考えるのかが問題となる。まず、従来の通説からは、相続の準共有株式にはそもそも313条の議決権の不統一行使は適用されず106条のみを考えればよいことになるはずである。そして、最高裁平成11年判決に従い会社が認める場合でも単一の共同行使しか認めないことになるが、立法担当者の私見と言える考えに従えば会社のオウンリスクで共有者の一部の議決権行使を一定の前提のもとで許容することになる。少数説に立てば313条と106条のただし書は競合し議決権の不統一行使は可能と考えることもできる。313条と106条のただし書の整合を考えると、もともと株主は議決権の不統一行使が認められることが前提であり、その考え方はこのただし書にも及び、会社が認める場合には法定相続分による議決権行使を認めると考えることもできるはずである。確かに単一の共同行使しか認めないことは権利行使者を早期に選定するようなインセンティブが働くが、共同相続人間で対立がある以上会社の支配を決する議決権が長期にわたって未行使のままであることは問題である。また、共有者の一部を権利行使者として認めることを許容する場合でも共有者間の協議が前提になっており、その協議を強いることは難しい。従って、共同相続人間の対立により権利行使者が選定できない場合には、共同相続株式は共有のままで、議決権については客観的な基準である法定相続分に応じた不統一行使を認めるべきではないかと考える。

4. 小 括
 これまで閉鎖性が強く、人的関係が緊密な中小会社では、いかに相続に伴う議決権の行使の取扱いが悩ましいかを準共有株式の議決権行使に焦点を当てて見てきた。議決権の争奪は財貨の帰属を伴う会社の支配権の紛争そのものであり、特に譲渡制限株式会社で先鋭化するものである。従って、生前にどれだけ入念に企業承継としての自社株式対策を講じたかの巧拙が問われることになる。

Ⅲ 自社株式を後継者へ集中させるための方策

1. 問題の所在

 中小企業の企業承継対策は経営者の交代をいかにスムーズに行うかにつきるが、これは、オーナーの有する自社株式を死亡後の後継者にいかに集中させるかがポイントになる。
 民法の均分相続に従えば共同相続人に自社株式が分散し、その結果後継者が会社経営に十分なリーダーシップを発揮できない可能性がある。オーナーはきたるべき相続時の相続人間のトラブルを最大限回避するため、早めに後継者を決めることはもちろんのことであるが、オーナーの保有する自社株式をどのように相続させるかの道筋を整えることが円滑な会社継続のために必要である。
 自社株式については、相続時に共有株式となるような事態をどのように避けるかということと共有株式となる場合でも相続人による遺産分割の際に後継者に議決権のある株式を集中させることができないかを考えてみる必要がある。 
 そのためには、種類株式、例えば譲渡制限株式、議決権制限株式、取得条項付株式と株主ごとに異なる取扱いを行うみなし種類株式などの活用がポイントになり、定款でその内容をどのように手当するのかを考える必要がある。

2. 譲渡制限株式の活用の検討
(1)会社法における考え方

  議決権制限株式等の活用の検討を行う際にそれらに共通して利用されるものとして会社法2条十七号の譲渡制限株式がある。譲渡制限株式については、閉鎖性の強い中小会社では相続時のみならず平時においても望ましくない人物が経営に関与してくるのを避けるために商法、有限会社法で認められてきた。商法では株式の譲渡制限は株式の種類ではなくその属性とされているが、会社法では譲渡制限は株式の内容とされ、譲渡制限株式は種類株式のひとつとされている。
  商法では204条1項で株式を譲渡するには取締役会の承認を要する旨定款で定めることができ、有限会社法では19条2項で社員ではない者への持分譲渡は社員総会の決議を要するとされている。会社法でも107条2項一号、108条2項四号で定款の定めで譲渡制限株式とすることができ、譲渡制限株式の譲渡には139条1項で原則として取締役会設置会社は取締役会の、非取締役会設置会社は株主総会の承認を要するとされている。そして、同条1項ただし書で株主からの譲渡の請求についての決定をオーナー等の代表取締役などに委任することも定款で定めれば可能であり、商法、有限会社より定款による自治が拡大されている。なお、従来は株主平等の原則により株主の属性から承認の要否に差別をつけることはできないと考えられてきたが、会社法107条2項一号ロでは、「特定の属性を有する者」に対する譲渡については承認を要しないと定款で定めることもできるとされた。
  ところで、108条2項四号で発行株式の全部ではなく一部の株式を譲渡制限株式とする種類株式とすることも可能であるが、中小会社の企業承継対策を考えるに当たっては、全部の株式を譲渡制限株式とする譲渡制限株式会社とすべきであろう。議決権制限株式総数の発行限度について、商法では222条5項で発行済株式総数の2分の1以下とする制約があったが、会社法では115条で譲渡制限株式会社に限りその制約がなくなった。なお、全部の株式の内容として譲渡制限株式とするための定款変更には309条3項一号により株主総会の特殊決議を要する。特殊決議としては、原則として議決権を行使することができる株主の半数以上でその議決権の3分の2以上の賛成が必要である。
  さらに、譲渡制限株式について企業承継対策で考えておかなければいけない点は、会社法174条1項で、定款で定めれば譲渡制限株式について相続が発生した場合に、会社は株主総会の特別決議によって相続人に対して相続株式の売渡し請求をすることができることになったことである。商法、有限会社法では、株式・持分の譲渡による移転に限って譲渡の承認の対象としており、相続の場合は譲渡ではなく一般承継なので相続により当該株式・持分は相続人に当然に移転するため、会社にとって好ましくない者が株主として現われる可能性がある。これに対して、会社法ではこの売渡し請求の制度で相続による一般承継に譲渡承認を必要とする効果を事実上持たせており、会社にとって好ましくない者を排除できることから、企業承継対策として重要である。なお、売渡し請求ができる期間は、176条1項で相続があってから1年以内となっている。また、売買価格についての協議が不調な場合には177条で裁判所が売買価格を決定することになる。
  ただし、「相続人等に対する売渡し請求」については、会社が売渡し請求をするためには175条1項で株主総会の決議を要することになり、同条2項で売渡し請求の対象となる相続人にはたとえ大株主であっても当該総会では議決権行使ができないことから、大株主の排除にこの制度が悪用されるおそれが生じる。そのような事態を避けるためには、オーナーが生前に早めに後継者を決め、相続分を除いて後継者が株主総会で議決権の過半数を取得できるようにするなどの対策を事前に講じておくべきであろう。
(2)企業承継対策としての活用例
  株式の一部を譲渡制限株式として種類株式とするのではなく、全部を譲渡制限株式として譲渡制限株式会社とする。そして相続人に対する売渡し請求の制度を設ける。これらを定款で手当てをする必要があることは説明した。
  この場合の定款の記載例は、以下のとおりである。

・当社の発行する株式は、譲渡制限株式とする。
・当社は、相続により当社株式を取得した者に対して会社法の定めるところにより当該株式を当社に売り渡すことを請求することができる。

  なお、「会社法の定めるところにより」とするのは、この売渡請求には461条1項五号で分配可能額の範囲内という財源規制がかかることによる。

3. 株主ごとに異なる取扱いの株式(みなし種類株式)の活用
(1)会社法における考え方
  
  譲渡制限株式等の活用を考える際、譲渡制限株式と同様に共通して利用しうるものに会社法の109条2項で株主ごとに異なる取扱いを定款で定める方法がある。会社法の譲渡制限株式会社は有限会社を想定した定めになっており、105条2項で剰余金の配当受領権、残余財産の分配受領権、議決権の3つについて、株主ごとに異なる取扱いをすることを認めている。これは、有限会社法の39条、44条、73条の定めるところと同様で、譲渡制限株式会社の閉鎖性を考慮し株主の属性なり個性に注目して株主ごとに権利内容を変えることを可能にするものである。この定めの株式は正確には種類株式そのものではないが、同条3項で株式会社と組織再編の規定の適用にあたっては種類株式とみなされるので、結果としては種類株式と同じ取扱いになる。
  これらの権利について株主ごとに格別の定めを設ける、あるいは変更するためには、定款の定めが必要で309条4項で株主総会の特殊決議によるものと他の決議に比べ過重されている。特殊決議の要件としては、原則として総株主の半数以上で総株主の議決権の4分の3以上の賛成が求められる。ここでは総株主となっているので、株主ごとに異なる取扱いとして無議決権株式としても、この定めの定款変更にあたっては議決権を有することになり、正確にいうと完全な無議決権ではないことになる。
  なお、株主ごとに異なる取扱いを定款で定めた場合、当該株主が死亡した場合にはどうなるのであろうか。この定め方は株主の属性・特性に応じたものなので、いわば一身専属であり、当該株主の死亡に伴い当然にイレギュラーな取扱いは消滅すると考えられる。そうなると、当然のことながら法定相続人のうち後継者以外の者の株式を無議決権株式としても将来に亘って保障されるものではない。なお、この定款の定めを廃止する場合には形式的な定款変更なので、会社法の309条4項で株主総会の特殊決議の対象外とされている。
  また、株主ごとに異なる取扱いを定めることは株主平等の原則の例外にあたるため、ある株主の株式については無議決権とする代わりに優先配当を与えた場合には、出資に対する非按分的な利益配当として所得税法上のみなし贈与などの問題があるのでこの点を事前に検討しておく必要がある。
  さらに、種類株式については会社法の911条3項七号、八号、九号で株式の内容等を登記する必要があるが、この株主ごとの異なる取扱いは種類株式とみなされてもその適用規定がないため登記不要とされている。ただし、現行の有限会社については会社法のもとで特例有限会社として残り、整備法10条、42条8項で種類持分の登記を求められるというアンバランスが生じており、登記不要とすることに異論がある。
(2)企業承継対策としての活用例
  単純な例としては、オーナーが生前に企業承継対策を講じることなく相続が発生してしまったため、遺産分割の後に株主総会の特殊決議により株主ごとの異なる取扱いとして非後継者の相続人が相続した普通株式を無議決権株式、優先株式にすることが考えられる。
  以下の例では、オーナーをA、共同相続人のうちオーナーの長男に代表される後継者をB、非後継者をC、Dとする。
  この場合の定款は、譲渡制限条項に加えて以下の記載を設けることになる。
・当社の発行する株式のうち、C及びDが保有する株式は無議決権とする。
・B、C及びD間の剰余金の配当、残余財産の分配を受ける権利の割合は、何れも1:2:2とする。

  なお、この取扱いについては、所得税・贈与税等税法の関係を明確にしたうえで使い勝手を最終的に決める必要がある。

4. 議決権制限株式の活用の検討
(1)会社法における考え方

  中小会社の企業承継のための自社株式対策としては全部の株式を譲渡制限株式とする譲渡制限株式会社にしても、オーナーに相続が発生した場合には、その所有していた株式に議決権を残すことに火種がある。従って、議決権なしの株式とすることが最後の決め手となる。
  そこで、議決権制限株式の活用を考えることになるが、会社法と商法との関係を確認しておく。議決権株式については、商法222条1項で定款の定めにより種類株式のひとつとされている。有限会社法においても39条1項で定款の定めにより議決権制限持分を認めている。種類株式制度の弾力化がなされた平成13年11月の商法改正前では議決権は株式の内容ではないとされ、種類株式のひとつである利益配当優先株式にのみ認められた。そこでの議決権は優先株式に付随する性質とされ、決議事項の一部のみ制限する一部議決権制限株式は認められていなかった。しかし、平成13年11月の商法改正後は、議決権制限株式は種類株式のひとつに加えられ、全部議決権制限株式と一部議決権制限株式の何れもが認められた。会社法では、105条2項で株主の属性により異なる取扱いとして完全に議決権を与えない無議決権株式とすることもできるし、108条1項三号で議決権制限株式の種類株式とすることもできる。議決権制限株式を発行するためには、108条2項三号により、株主総会で議決権を行使できる事項と議決権行使の条件を定款で定めなければならない。議決権制限株式を発行するための定款変更は、309条2項十一号により株主総会の特別決議を要する。    
  ところで、種類株式を発行する場合には、実際に種類株式を発行しなくても2条十三号、108条により定款で2以上の種類株式の手当てをしておく必要がある。また、会社経営を円滑に進めるうえで、種類株主総会を不要とする手立てを考えておく必要がある。会社法では322条1項である種類株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがある会社の行為については種類株主総会の決議を要するとして、定款変更を含む13の類型が列挙されている。しかし、同条2項で株式の内容の変更などの定款変更を除き、種類株主総会は不要と定款で定めることができる。従って、この種類株主総会の決議を不要とする定款の手当てを併せて講じておかないと、無議決権株式としても合併等の事業再編のための総会決議はその種類株主総会の決議が必要になるので、定款で種類株主総会を不要する手当てを行うことになる。種類株式発行後にこのための定款変更をするにはさらに同条4項により当該種類株式の株主全員の同意を得なければならない。
(2)企業承継対策としての活用例
  単純な例としては、オーナーの生前に、企業承継のための自社株式対策としてオーナーの保有する株式を普通株式と議決権制限株式とに分けてしまう。そして、共同相続人のうち後継者には普通株式を、非後継者には議決権制限株式を遺言で相続させることが考えられる。普通株式を議決権制限株式に切り替える方法としては、会社法の160条1項により株主総会の特別決議により会社は自己株式の取得としてオーナーの普通株式を取得したうえで新たに議決権制限株式を発行し、会社が取得した普通株式は消却すれば良い。
  この場合の定款は、譲渡制限条項に加えて以下の記載を設けることになる。
・当社の発行する株式は、普通株式と議決権制限株式とする。
・発行可能株式総数は、普通株式○○株、議決権制限株式○○株とする。
・株主総会において議決権を行使することができる事項は、普通株式は株主総会の議題となる事項の全部であるが、議決権制限株式は取締役及び監査役の選任議案を除く事項とする。
・議決権制限株式については、会社法で定める格別の場合を除き当該種類株主総会の決議を要しない。

  ところで、会社法の29条では、会社法の定めにより定款の定めがないと効力が発生しない事項以外にも会社法の定めに違反しない限り定款で定めることができると、定款の自治が強化されている。そこで、譲渡制限株式会社において従前の相続させる遺言を定款で手当てをしてしまうことができないかは今後の検討課題であろう。

5. 取得条項付株式の活用の検討
(1)会社法における考え方
  
  ここでは、商法の強制転換条項付株式に相当する会社法での取得条項付株式の活用について考える。まず、商法と会社法との関係を説明する。商法222条1項三号の買受株式と同項四号の償還株式とは、会社法では区別されずに会社による取得についての定めのある株式として括られる。また、会社法では株式の消滅とは自己株式をいったん取得したうえで消却するということになるので、商法の転換概念は転換により旧株式は当然に消滅するのに対し、会社法では会社がある株式を取得して他の株式を交付(発行)するということになる。また、商法では株式の転換で222条ノ2の転換予約権付株式あるいは222条ノ8の強制転換条項付株式を種類株式とはしていないが、会社法では108条で種類株式になる。これに伴い、商法の転換予約権付株式あるいは義務償還株式は会社法の2条十八号(108条1項五号)の取得請求権付株式に、強制転換条項付株式あるいは強制償還株式は2条十九号(108条1項六号)の取得条項付株式に組み入れられることになる。
  取得条項付株式を発行するためには、会社法の108条2項六号、107条2項三号により、会社が一定の事由が生じた日に会社がその株式を取得する旨とその事由そして取得する株式と引換え交付される株式などの算定方法等を定款で定めなければならない。この定款変更は、309条2項十一号により株主総会の特別決議を要する。さらに、種類株式発行後にこのための定款変更をするには、111条1項により当該種類株式の株主全員の同意を得なければならない。なお、定款の定め方は、108条3項を受けて会社法施行規則20条1項五号で柔軟な対応が可能となっている。
  ところで、取得条項付株式における一定の事由が生じたことの条件とは何かが問題となる。商法では強制転換条項における一定の条件として確定性・客観性が必要とされ、会社行為以外の一定の条件の成就または期限の到来と考えるとされている。商法の下で例えば、優先株式の一斉転換条項の場合には、転換請求期間中に転換請求がなかった優先株式は転換請求期間の末日の翌日をもって普通株式に転換されるとする場合である。また、ソニーのトラッキングストックでは、最初の発行の日から3年を経過した日で取締役会が定める日とする定めが認められたため、この定め方は取締役会の裁量に単純に委ねられたケースとは異なるとされている。
  企業承継対策として取得条項付株式の一定の事由をどのように考えることができるだろうか。まず、107条2項三号イにより一定の事由が生じた日としてオーナーに相続が発生した日と定款で定めることができないかを検討する。結論を先に述べると、不可と考えられる。まず、相続発生によりオーナーの株式は相続人の準共有となるが相続人間で遺産分割が成立した暁には民法909条により遺産分割は相続開始の時に遡ってその効力を生じるので、オーナーの株式について相続開始の日を一定の日とすることは不確定期限とはいえ可能であるように思われる。しかしながら、遺産分割には遡及効があるとはいえ遺産分割が実際に成立するまでは共有株式となっており、会社法106条で権利行使者を選定して共有株式の権利行使ができるため、単有のための遺産分割を前提とすることに矛盾が生じることが考えられる。また、170条1項では定款で定める一定の事由が生じた日に会社は取得条項付株式を取得するなど、登記と会計処理が必要となる。これに伴い、一定の事由を生じた日として相続が発生した日に遡る登記が実務上認められるのか疑問である。
  次に、107条2項三号ロの旨を定款に定める会社が別に定める日として、オーナーの株式について相続が開始した後の取締役会が定める日と定款で定めることができないかを検討する。結論を先に述べると、ソニーの取扱いに準じ可と考えられる。取得条項付株式の会社が別に定める日の決定は、168条1項により取締役会設置会社では取締役会の決議によるとされており、同条2項でその日の2週間前に当該日を株主に通知しなければならないとされている。相続に伴う名義変更の具体的な手続は133条により遺産分割協議書等の相続関係書類を会社に提出して行うことになるので、会社は取締役会の決議により完備した遺産分割協議書の受領日の2週間後に当該日を設定し、その旨を通知をすれば良いと考えられる。
  なお、取得条項付株式では、当該株式と引換えに交付することになる対価に留意しなければならない。108条2項三号により会社が当該株式を取得するのと引換えに交付されるものを他の種類株式ではなく、現金あるいは社債とすることも可能である。ただし、株式以外の対価の場合には、170条5項で分配可能額の範囲内でないと効力が生じないことに注意する必要がある。
(2)企業承継対策としての活用例
  分かりやすい例としては、オーナーの生前に、企業承継のための自社株式対策としてオーナーの保有する株式を普通株式と取得条項付株式に分けてしまう。そして、共同相続人のうち後継者には普通株式を、非後継者には取得条項付株式を遺言で相続させることが考えられる。普通株式を取得条項付株式に切り替える方法としては、議決権制限株式で説明したと同様に、会社は株主総会の特別決議でオーナーの普通株式を取得したうえで新たに取得条項付株式を発行すれば良い。今までの説明でわかるとおり、種類株式の一部をさらに別の種類株式にすることができないため、いったん会社は自己株式として取得し新たな種類株式を発行する手続を踏むことになる。
  この場合の定款は、譲渡制限条項に加えて以下の記載を設けることになる。
・当社の発行する株式は、普通株式と取得条項付株式とする。
・発行可能株式総数は、普通株式○○株、取得条項付株式○○株とする。
・当社は、会社法の定めるところにより当社が別に定める日に取得条項付株式を取得することができる。別に定める日は、A名義株式の相続発生後の当社の取締役会の決議によって定める日とする。当社は、当該株式1株を取得するのと引換えに、当該日に先立つ当社の最終の決算期の貸借対照表に基づき計算された相続税評価額による1株当たりの純資産価額相当額の金銭を交付する。

  この取得条項付株式の対価については既に説明したとおり分配可能額の範囲内でないと効力が生じないため、会社の業況等を勘案してその発行株数を決めることになろう。この方法は対価が現金なので、相続人の相続税納付の負担軽減に役立つであろう。なお、108条2項三号ハでは、取得条項付株式の一部を取得する方法も可能である。また、取得対価の算定方法については決め方次第では税務上の問題がある。相続税評価方式によるとしても会社の規模により異なるからである。

6. 小 括
 以上、企業承継対策としてのオーナーの保有する株式を後継者にどのように移行させられるかを種類株式を中心に試みた。以上の検討によれば、「譲渡制限株式」、「議決権制限株式」を活用すべきである。さらに、株主ごとに異なる取扱いができる「みなし種類株式」とか「取得条項付株式」については、税務面の詳細検討が併せて必要になる。会社法で定款の自治が大幅に拡大されたことに伴い、商法に比べ格段使い勝手が良くなっている。今まで見てきた基本的なフレームワークから、さらに具体的かつ精緻化された対策が検討されることになるだろう。

Ⅳ おわりに

 会社法で閉鎖性の強い譲渡制限株式会社を想定して企業承継のための自社株式対策を見てきた。念のため最後に以下の点を申し上げて終りとしたい。
 まず、自社株式対策は机上からの立論では勿論なく、会社のオーナーがどのようなことを将来に見据え期待しているのかを正しく理解することが一番重要であろう。そしてオーナーに将来発生するであろう相続の対応を想定し、そこに登場する人間関係と利害関係とを理解した上での対策が必要である。要は共同相続人の利害得失、さらには愛憎が絡む問題であり、企業承継はつまるところ経営権の支配の問題として後継者を軸にどのようなスキームがベストなのか考える必要がある。
 次に、ここでは会社法を中心に検討してきたが、企業承継対策は法律と税務と会計、あるいは登記実務とが一体になって総合的に考える必要があり、スキームを考えるうえでもこの点は常に留意しなければならない。特に税務面での検討は欠かせない。
 最後に、譲渡制限株式会社の企業承継対策を立案する場合に、最終的にはそのスキームは使い勝手が良いものでなければならず、結果としては、シンプルイズベストに落ち着く可能性が高いと考えられる。
 今後の様々な角度からの検討の一助になりうれば幸いである。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索