解説記事2016年09月05日 【税務マエストロ】 日本・台湾租税協定と国内法の整備③(2016年9月5日号・№657)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
日本・台湾租税協定と国内法の整備③
#171 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#172 被合併法人の繰越欠損金の引継ぎ否認金額と合併法人の特定資産譲渡等損失額の関係 税理士 朝長英樹 経営戦略の1つとして組織再編成税制を活用できる方法を、同税制等の創設を主導した筆者が事例形式で解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
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3 日台租税協定に係る国内法の整備(承前)
(2)事業所得に対する非課税
 ① 事業所得に対する非課税の概要
 日台租税協定第7条では、事業から生じる所得(以下「事業所得」)に対する課税原則が定められている。この規定は、現行のOECDモデル条約及びAOA原則(脚注1)に基づくものではなく、2010年改正前のOECDモデル条約に基づく規定となっている。具体的には、相手国における事業所得に対しては、「恒久的施設(PE)なければ課税なし」、「旧来の帰属主義(AOAでない)に基づく課税」、「単純購入非課税の原則」がその特徴といえる。日台租税協定実施法では、これらを実施するための規定が設けられているところである(7条)。
 旧来の帰属主義とAOAの大きな相違点は、PEと本店等との内部取引の認識にある。現行の所得税法及び法人税法は、AOAと同様、本支店間取引において厳格な独立企業間原則を取り入れ、原則として内部取引を認識して課税所得を計算する方式となっている。一方、旧来型の帰属主義では、こうした内部取引を認識しないこととされており、これまでの日本が締結した租税条約では旧来型の帰属主義を定めるものがほとんどであり、所得税法及び法人税法も、こうした租税条約が適用される場合には、PEと本店等との一定の内部取引を認識しないこととされている(所法162②、所令291の2、法法139②、法令183)。日台租税協定は旧来型の帰属主義に基づく課税原則を定めており、日台租税協定実施法においても、一定の内部取引を認識せずに課税所得を計算することとされた(7条21項、22項)。
 なお、「単純購入非課税の原則」について、日台租税協定では次のように定められている。
(第7条 事業所得) 5 恒久的施設が企業のために物品又は商品の単なる購入を行ったことを理由としては、いかなる利得も、当該恒久的施設に帰せられることはない。
 この定めを受け、日台租税協定実施法においては、外国居住者等(具体的には台湾居住者個人及び居住者法人)の国内事業所等(後述)に該当するPEが事業場等又は本店等のために棚卸資産を購入する業務及びそれ以外の業務を行う場合には、そのPEが行う棚卸資産を購入する業務から生ずる所得(PEに帰属するもの)はないものとされている(7条23項)。
 ② 国内事業所等の概念  事業所得に対する課税原則の最も重要なものは「PEなければ課税なし」といえる。つまり相手国にPEを有し、そのPEを通じて事業を行っている場合のみ、そのPEに帰属する所得が相手国で課税できることになる。したがって、PEを通じて事業を行っているかどうか、また、事業を行っている場所、施設がPEを構成するか否か、といった点が重要となる。
 日台租税協定では、他の租税条約と同様、PEについての定義を設けている(協定5条1~6)。具体的には、(イ)恒久的施設の原則的定義、(ロ)恒久的施設の例示、(ハ)建設PE及び役務提供PE、(ニ)PEに除かれる活動、(ホ)従属代理人等及び(へ)独立代理人に関する規定が設けられているが、基本的にOECDモデル条約をはじめ、一般的な租税条約における規定とほぼ同様のものである。そして、これらを国内実施するために日台租税協定実施法に反映すべく、以下のようにPEを「国内事業所等」として定義している(2条6号)。
 なお、この定義は、所得税法及び法人税法における「恒久的施設」の定義(脚注2)及び我が国が締結した一般的な租税条約と異なる部分もある。具体的には、建設PE及び役務提供PEなど、国内法令に比しPEに該当する活動等の範囲が広く定義されている点である。また、日台租税協定実施法が所得税法及び法人税法その他の国税関係法律の特例であること(1条(脚注3))に鑑みれば、結果的に台湾法人等についてのみ、PEの範囲が広くなり、日本における課税権が拡張されることになってしまっていると解されよう。所得税法及び法人税法ではPEに該当しない活動であっても、台湾法人等の日本における一定の活動についてのみ日台租税協定実施法によって「国内事業所等」(つまりはPE)に該当し、その事業所得について日本で課税されることもある点に注意する必要がある。この点についての政策的論点、無差別原則との関連についての評価は割愛する。
 イ 国内事業所等の定義  「国内事業所等」とは、次に掲げるものが該当する(2条6号)。
(イ)外国居住者等の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所(以下「支店等」)。具体的には、次に掲げる場所が該当する(政令4条1項)。
 (i)事業の管理を行う場所、支店、事務所、工場又は作業場
 (ii)鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他の天然資源を採取する場所
 (iii)その他事業を行う一定の場所(次の建設作業等を行う場所及び特定役務提供を行う場所は除かれる。つまりこうした活動、場所は次の(ロ)及び(ハ)に定める基準により判断することとなる。
(ロ)外国居住者等の日本国内にある建設作業等を行う場所。具体的には、外国居住者等が日本国内において行う建設、組立てもしくは据付けの工事又はこれらの指揮監督の役務の提供で6か月を超えて行われる場合が該当する(政令4条2項)。所得税法及び法人税法では、1年を超えて行われるものが該当することとされていることから、台湾法人等の場合にのみ、その範囲が拡張しているととらえることができる。つまり、米国企業である建設業者が日本において支店形態で建設作業等を行う場合、1年を超えなければPEとしての認定を受けることがないのであるが、台湾企業である建設業者のみが7~8か月程度の工事でもPE認定を受けることとなろう。
(ハ)外国居住者等の国内にある特定役務提供を行う場所。具体的には、日本国内での役務の提供を内容とする事業(たとえばコンサルタントなど。以下「役務提供事業」)を行う外国居住者等の役務提供の場所で、その外国居住者等の使用人その他の従業者が、1月1日から12月31日までのいずれかの日(外国居住者等が法人である場合には、その事業開始の日から終了の日までのいずれかの日)において開始し、又は終了する12か月の期間において、その外国居住者等の一のプロジェクト及び関連するプロジェクト(脚注4)について、その使用人等の日本国内におけるその役務提供事業のためにする役務の提供で183日を超える場合の役務の提供の場所(及び役務の提供そのもの)が該当する(政令4条3項)。こうしたPEは、所得税法及び法人税法には定められていない。その結果台湾についてのみ適用される種類のPEとなっている。なお、こうした役務提供PEは、日本・ベトナム租税条約(脚注5)、日本・中国租税条約にも見られるが、これらの国との関係においては、相手国で活動する日本企業にとっては相手国で相手国の法令によりPEと認定されることになるが、日本で活動する相手国企業についてPEと認定し課税することはできないこととなろう。これはPEの範囲を定める根拠法となる所得税法及び法人税法が、こうした役務提供PEを定めていないからである。しかしながら、台湾については、PEの範囲を定める根拠法は日台租税協定実施法となることから、この法律に基づき、日本で役務提供等の活動を行う相手国企業についてPEと認定し課税することができることとなろう。
(ニ)外国居住者等が日本国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者。具体的には、外国居住者等のために、その事業に関し契約を締結する権限を有し、かつ、これを反復して行使する者(一般に「契約締結代理人」といわれる)が該当する(政令4条5項)。
 ロ 国内事業所等に含まれないものの範囲 (イ)支店等、建設作業場等及び特定役務提供場所等に含まれないもの
  外国居住者等(役務提供事業を行う使用人等を含む)が次に掲げる活動のいずれかを行うことのみを目的として使用する一定の場所は、国内事業所等に該当しないこととされている(政令4条4項)。
 (i)外国居住者等に属する物品又は商品を保管し、展示し、又は引き渡すこと
 (ii)外国居住者等に属する物品又は商品の在庫を保管し、展示し、又は引き渡すこと
 (iii)外国居住者等に属する物品又は商品の在庫を、事業を行う他の者による加工のために保有すること
 (iv)外国居住者等の事業のために、物品もしくは商品を購入し、又は情報を収集すること
  また、外国居住者等が、その事業の遂行にとって準備的又は補助的な機能を有する事業上の活動を行うことのみを目的として使用する一定の場所も国内事業所等から除かれる。
(ロ)契約締結代理人に含まれないもの-独立代理人
  次に掲げる者は、契約締結代理人に含まれないものとされている(政令4条5項)。
 (i)契約締結代理人が、その事業に係る業務を、外国居住者等に対して独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合における当該契約締結代理人
 (ii)契約締結代理人の活動が、上記(ロ)(i)から(iv)までに掲げるいずれかの活動又は準備的もしくは補助的な機能を有する活動のみである場合における契約締結代理人

脚注
1 Authorized OECD Approachの略。現行(2010年改正後)のOECDモデル条約第7条では事業から生じる所得に対しては、PEに帰属する所得のみ源泉地国で課税できる「帰属主義」に沿っているところであるが、この「帰属主義」は、支店等のPEを本店等から独立した事業体とみなして、それらの間の内部取引を認識し、かつ、その取引にも独立企業間原則を適用するものとなっている。
2 所得税法第2条1項8号の4、法人税法第2条12号の18
3 「第1条(趣旨) この法律は、外国との相互主義に基づき、当該外国との間の二重課税を排除するため、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)その他の国税関係法律及び地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の特例等を定めるものである。」
4 「関連するプロジェクト」とは、外国居住者等の一のプロジェクトと商業的一体性を有するその外国居住者等の他のプロジェクトが該当する(規則2条)。
5 日本・ベトナム租税条約第5条「 4 一方の締約国の企業が他方の締約国内において使用人その他の職員を通じて役務の提供(コンサルタントの役務の提供を含む。)を行う場合には、このような活動が単一の事業又は複数の関連事業について12箇月の間に合計6箇月を超える期間行われるときに限り、当該企業は、当該他方の締約国内に「恒久的施設」を有するものとされる。」

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