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解説記事2017年07月31日 【税務マエストロ】 租税条約の意義と現状①(2017年7月31日号・№701)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
租税条約の意義と現状①

#194 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#195
非課税(1)
税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。

マエストロの解説  我が国は、現在、110か国地域との間で、68の税務に関連した条約を締結している(平成29年5月1日現在の財務省情報)。この税務に関連した条約とは、一般的な租税条約のみならず、税務行政執行共助条約や情報交換条約といった形態の条約もある。これら租税に関する条約は、「課税関係の安定(法的安定性の確保)、二重課税の除去、脱税及び租税回避等への対応を通じ、二国間の健全な投資・経済交流の促進に資するもの」(脚注1)と説明されている。この租税に関する条約の意義、目的について検討する。なお、租税に関する条約には、相続税に関する条約や国税に関する易協定等もあるが、以下、所得税(法人税)に関する条約を前提とする。

1 租税条約の意義  租税条約の意義は、大きく「課税関係の明確化」及び「政府間協力の推進」という2つの側面でとらえることができる。これら2つの意義が相互に影響し合い、その結果、租税条約締結国間の投資及び経済の交流が促進されると考えられている。
(1)課税関係の明確化  租税条約の意義の一つである「課税関係の明確化」とは、条約相手国の企業や居住者(自然人)に対する課税関係を明確にすることである。この課税関係とは居住地における課税(本国における課税)ではなく相手国における課税であり、以下に述べる事項が相まって、その地でどのような場合に課税されるのか、どの程度の課税を受けるのかという点が明確にされるということである。その結果、予期せぬ課税を受けるリスクが除去されると同時に税金コスト等のインパクトの予想が立つこととなり、相手国に対する投資に安心感、安定性を与えることとなる。
 ① 所得源泉の明確化  租税の賦課、すなわち課税という行為は、国家主権に基づく固有の権利と考えられている。この固有の権利は、租税高権と呼ばれている。この租税高権が及ぼされる範囲をどのようにとらえるのか、すなわち、何をどこまで課税することが適当なのかという問題は、必ずしもすべての国で統一された共通認識が存在するわけではない。しかしながら、ここには大きく2つのとらえ方がある。一つは「居住地国課税」でありもう一方が「源泉地国課税」である。
 居住地国課税というのは居住地性に基づく課税であり、自国の居住者(内国法人及び居住者個人)に対する課税権の行使ととらえることができる。つまり自国民に対する課税であり、そもそも他国が干渉する問題ではないであろう。なお、通常、居住地国課税は課税対象となる所得の源泉地(狭義で考えれば発生場所)に関わらずすべての稼得所得を課税対象とする「全世界所得課税」となる。一方、源泉地国課税は、自国内に源泉がある所得に対する課税ととらえることができ、所得の稼得者は原則要件とならない。しかしながら、自国の居住者に対する全世界所得課税においては、当然に自国内に源泉がある所得も含まれるため、源泉地国課税の文脈で論じられる対象は、結果的に自国居住者以外の者(すなわち外国法人、外国居住者)ということになる。そして租税高権の範囲、すなわち課税対象となる範囲は、一般的には居住地国課税と源泉地国課税の両方でとらえられている。その結果、一方の国の自国居住者は、他国に源泉がある所得(すなわち外国で稼いだ利益)については、自国において居住地国課税を、他国において源泉地国課税に晒され、二重課税が発生することとなる。ここで、ある国が、自国に源泉がある所得を非常に広くとらえたらどうなるであろうか。つまり、いろいろな所得について、すべてその国で発生した所得と主張し、源泉地国課税の考え方で課税権を主張すれば、それだけ二重課税の蓋然性が高まることとなろう。
 租税条約は、こうした事態の発生をあらかじめ防止するため、締約国間で合意することにより、自国源泉の所得の範囲を明確に確定させている。具体的には、たとえばロイヤルティについての源泉地を明確にし(どういうロイヤルティがその国に源泉があるとするか)、源泉課税(源泉徴収)の範囲が明確に限定されることになる。その結果、二重課税の発生はその範囲に限定される。そしてさらに、源泉地(相手国)で源泉徴収された源泉税は、自国において外国税額控除(若しくは国外所得免除)により実質的に自国で納付すべき税額を減少させることとなる。つまり、当該ロイヤルティについては、相手国に優先的課税権を与えることとなる。この意味で、租税条約による源泉地の明確化は、特定の所得に対する課税権の振分けの効果をも有することとなる。課税権を振り分けることにより、課税関係を明確にする意味を持っているといえよう。
 ② PEの範囲  自国以外の国(租税条約の相手国)で事業を営む場合、その事業から生じる所得(事業所得)は、通常、実際に事業が行われている国に源泉があるととらえられ、その国で源泉地国課税の対象となる。ただし実際の課税においては、当該事業が行われている地に「恒久的施設(PE)」が所在し、そのPEを通じて事業が行われている場合にのみ、そのPEに帰属する所得のみが課税されることとなる。したがって、事業所得については源泉の範囲は概念上明確であるが、PEの範囲についての認識が異なる場合が生じる。
 そもそもPEとは「事業を行う一定の場所」と定義されるが、この概念はあいまいであり、特に「一定の場所」のとらえ方、解釈は非常に難しいところでもある。実務上はOECDモデル条約コメンタリーによる部分が多くなるが、そもそも「恒久的施設」と言われるように、その存在はある一定程度の恒久性が求められている。つまり、どの程度の期間事業の用に供していたら恒久性があるといえるのか、半年なのか、1年なのか、国によって考え方が異なるところである。租税条約は、こうしたあいまいな点に一定の明確な基準を与えることにより、PEの定義をより明確にし、事業所得に対する課税権の調整を図り、課税関係を明確にしているといえよう(脚注2)。
 特に、「建設PE」については、通常、「6か月」若しくは「12か月」といった明確な基準が定められている。一般的に、途上国においては先進国の企業が事業進出することが多く、当該先進国企業の事業活動に対する課税権の確保の観点から「6か月」という短い期間を主張することが多い。これは、見方を変えれば、途上国にとっては先進国の資本による対内投資に逆効果となり、投資、経済の交流促進とは別方向に働くところであるが、途上国と先進国との間の条約モデルと言われている国連モデルでは、「6か月」とされている。先進国間の条約モデルであるOECDモデル条約では「12か月」とされている。
 ③ 課税の減免  課税関係の明確化は、実質的には相手国での源泉地国課税の制限であり、一般的には通常の源泉地課税より少ない課税に制限されることとなる。これは、結果的に通常の課税を減免することとなる。典型的な例としては、配当、利子、ロイヤルティに対する限度税率である。
 配当については、通常20%程度の源泉地課税(源泉徴収)されるところであるが、租税条約の規定により、これを0%~10%に制限している。投資する者(配当の受取側)からみれば、通常20%で課税されるところ0%~10%の課税に免除されていることとなる。0%ということは課税の免除(非課税)でもある。同様に、利子、ロイヤルティについても通常は20%程度の源泉徴収に服するところ、10%に制限、免除されるところとなる。特に、ロイヤルティについては、先進国間においては0%(源泉地免税)をポリシーとしていることが一般的であり、我が国もロイヤルティについて0%(源泉地免税)を定める租税条約を結びつつあるところである。限度税率は、相手国においてそれ以上の源泉地課税(源泉徴収)を受けないという点で、課税関係の明確化を図っている項目といえる。特に、国内法制でこうした源泉税率を後に引き上げた場合でも、その影響を受けず、一定の税率(つまりは限度税率)での源泉地課税が維持、確保される点で、まさしく課税関係が安定的に明確にされているととらえることができる。
 なお、課税の減免の観点からは、その他の項目としてキャピタルゲインに対する課税、短期滞在者免税などがあげられる。特に、株式に関するキャピタルゲインについては、原則、源泉地において免税とされる租税条約が多い。一部の租税条約では、事業譲渡類似株式譲渡及び不動産化体株式譲渡のみを源泉地課税としているが、そのような場合でも一般的な株式の譲渡益は源泉地免税とされる。このように、条約相手国で株式譲渡から生じる所得がある場合に、源泉地たるその国で課税されるのか、どういう場合に免税となるのかなどが条約の規定により明らかになることはまさしく課税関係の明確化であり、これにより当該国の証券市場の活性化に資する効果も期待されるところである。
 また、短期滞在者免税とは、個人の給与に対する所得税の源泉地免税である。そもそも給与についての源泉地は、給与の支払者の場所ではなく、給与の基因となった労務の提供場所で判断されることとされている。したがって、短期間(たとえば1週間程度の出張)で条約相手国に赴きそこで仕事をした場合、その勤務期間に対応する給与は、本国でなく、理論上は勤務が行われた相手国で源泉地課税されることとなる。しかし、給与そのものが本国で支払われる場合、当該納税のコンプライアンスの問題が生じるが、そもそもきわめて短期間の滞在であり、したがって課税対象となる給与そのものも少額である場合にまで厳格に課税すべきとは言いづらい面もある。こうした少額の場合には、源泉地免税とし、人的交流を促進させることの利点の方が重要との考え方もあろう。こうしたことから、短期間の滞在であれば免税であることを明確にし、人的交流の促進を図るものが短期滞在者免税である。
 ④ 二重課税の回避、排除  一般的に、海外投資、海外事業展開を進めた場合、結果的には源泉地国課税と居住地国課税の二重課税が生じる。この二重課税を調整、排除する税制上の仕組みが外国税額控除であり国外所得免除である。これらは、我が国では法人税法等に定められ、租税条約がなくとも適用される制度となっている。しかしながら、一部の国では当該制度を国内法制上有せず、租税条約で定めることにより二重課税排除が行われる制度とする国もある。特に租税条約に定める場合には、租税条約で源泉地国課税を認めた租税につき二重課税が排除されることが明示され、相手国へ投資しやすくなるという効果も期待できよう。
 なお、租税条約は一般的に「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とA国政府との間の条約」というように、そのタイトルに「二重課税の回避」という文言を含み、その意義が明示されているととらえることもできよう。

脚注
1 「租税条約の概要」財務省HP
2 この論点については、条約本文に数字による明確な基準が示されることは少なく、まさしくOECDモデル条約コメンタリーによる解釈に従うこととなる。

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