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解説記事2019年07月01日 【ニュース特集】 詳報・デジタル課税の「作業計画」(2019年7月1日号・№793)

ニュース特集
年内にも大枠合意へ、近い将来の国内法改正は避けられず
詳報・デジタル課税の「作業計画」

 OECDが5月31日に公表した「デジタル課税に関する包摂的枠組の作業計画」が6月8日~9日に開催された福岡G20財務大臣会合で承認された。年内にも長期的解決策の大枠について合意する方向だ。
 検討作業はネクサス(課税の根拠となる結びつき)及び利得配分に関する国際課税原則の見直しを取り扱う「第1の柱」とグローバルな税源浸食防止措置としての「第2の柱」のアプローチに沿って進められることになる。
 「第1の柱」については、今年2月の公開討議草案で出された「ユーザ参加案(英国)」「マーケティング無形資産案(米国)」「重要な経済的存在案(インド)」の優劣を論じることなく、むしろこれらの案の共通要素である「市場国又はユーザの参加国により課税権を配分する」という点をベースに議論が行われている。その上で、利益の算定方法については、「修正残余利益分割法」「定式配分法」「distribution-based approaches」の3案が提示されている。
 第2の柱は、CFC税制を補完するものと位置付けられる「所得合算ルール」、軽課税国に所在する関連者への支払いについて損金算入を否認するといった仕組みをとる「税源浸食支払税」からなり、各国による合意のレベル、コミットの程度は第1の柱に比べればやや緩やかになる可能性がある模様。ただ、日本はドイツ・フランスと並び比較的高税率国であり、ミニマムタックスを導入するインセンティブが高いとみられるだけに、第2の柱も無視できない存在となっている。
 本特集では、日本企業に対する広範な影響も懸念されるデジタル課税の“設計図”とも言える作業計画の内容を詳報する。

2020年1月の包摂的枠組会合までに求められる「大枠合意」という成果
 既報の通り、OECDは5月31日、デジタル課税に関する最終報告書とりまとめに向けた「作業計画」(デジタル課税に関する包摂的枠組の作業計画)を公表したが(790号7頁参照)、同計画が6月8日~9日の福岡G20財務大臣会合で承認された。作業計画は「ネクサス及び利益配分ルールの見直し(第1の柱)」と「軽課税国への利益移転に対抗する措置(第2の柱)」からなり、かなりの分量に及ぶが、OECDは、作業計画における長期的解決策の大枠について「2020年1月」までに合意した上で、2020年末までに最終報告書を取りまとめるというスケジュールを描いている。
 2020年1月は包摂的枠組会合の開催月であることから、それまでに大枠合意するということは、実務的には年内に決着させるということを意味する。早期の国際合意に向けた関係各国の強い意思が感じられる一方、議論の過程で意見を出すこととなる企業側にとっては極めてタイトなスケジュールでの対応が求められる。年内にもう一度、公聴会が開催される可能性もありそうだ。
 デジタル課税の検討作業は、上述したネクサス(課税の根拠となる結びつき)及び利得配分に関する国際課税原則の見直しを取り扱う「第1の柱」とグローバルな税源浸食防止措置としての「第2の柱」のアプローチに沿って進められることになる。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)への対応が関心を集める中、デジタル課税については課税権の配分やネクサスに係る第1の柱の方が脚光を浴びているが、後述するように、日本企業にとっては第2の柱も無視できない。以下、それぞれについて詳しく見ていこう。

第1の柱
利得配分について麻生大臣が「“ビッグルーザー”を出すべきでない」旨公言

 まず「第1の柱」については、今年2月に明らかにされた公開討議草案(ディスカッション・ドラフト=DD)の段階では、ユーザ参加案(英国)、マーケティング無形資産案(米国)、重要な経済的存在案(インド)が掲げられていたが、今回の作業計画では、これらの案の優劣を論じるのではなく、むしろこれらの案の共通要素、すなわち「市場国又はユーザの参加国により課税権を配分する」という点をベースに、議論が行われている。その上で、利益の算定方法については「修正残余利益分割法」「定式配分法」「distribution-based approaches」の3案が提示されている。
 各案の内容、論点等は下記のとおり。
修正残余利益分割法  修正残余利益分割法は、今年2月に公表されたDDでも、マーケティング無形資産案(いわゆるグローバル残余利益分割法)の文脈で提案されていたところ。具体的には、分割すべきグループの利益をルーティン利益とノンルーティン利益に分け、ノンルーティン利益のうち市場国の貢献に係る部分を特定、一定の配分キーにより市場国に分割する。
 比較的精緻な手法ではあるが、その分、執行の難しさが問題となる。特に「ノンルーティン利益のうち市場国の貢献に係る部分」をどう測定するかが課題との指摘はかねてから聞かれる。企業の価値創造の源泉はマーケティング活動や販売活動など、市場国と関連する活動だけではない。むしろ、本店所在地国における研究開発活動が重要な価値のドライバーとなる場合も多い。
 こうした中、日本企業からは、市場国への追加的な利益配分は、(あったとしても)ごく穏当なものとすべきとの声が上がっている。この点については麻生財務大臣も、「“ビッグルーザー”を出すべきでない」旨、福岡G20財務大臣会合の直前に行われた大臣級シンポジウムの場で発言している。また、OECDの民間経済諮問機関であるBIACや米国の一部の製造業なども、穏当配分論を支持している。
定式配分法  定式配分法では、ルーティン利益とノンルーティン利益を区分せず、分割すべきグループの利益を市場国に配分する。修正残余利益分割法に比べれば簡素だが、価値創造を正確に反映できるのかという問題が生じる。
 なお、定式配分法は作業計画の原文では「fractional(断片の、端数の)apportionment」とされており、定式配分という言葉から想起される「formulary(定式の)apportionment」とは異なる。
distribution-based approaches  distribution-based approachesは、3月の公聴会でジョンソン&ジョンソンが提案していた案に触発されたもので、市場国におけるマーケティング・販売・ユーザ関連活動に対し、一定の「ベースライン利益」を配分するもの。売上に「みなし利益率」を乗じるなどの方法が念頭に置かれている模様だ。
 また、ベースライン利益を企業グループ全体の収益性に応じ増減させるパターンも検討される。この案は計算の簡素化の要請から出てきたもので、ジョンソン&ジョンソン以外の生活用品系の米国企業からも一部、賛同の声が上がっている。
 もっとも、「みなし利益率」といっても業種によって標準的な率は大きく異なることから、こちらについても価値創造との整合性を疑問視する日本企業もある。

利益配分ルールは「簡素さ」と「正確性」とのバランスがポイントに
 上記3案のうちいずれが採用されるにしても、精緻・複雑な計算では執行がもたないとの懸念は強い。実際、120を超える包摂的枠組参加国の過半は途上国であり、これらの国は執行の簡素化を望んでいる。
 これを受け米国政府も、「新たな利益配分ルールは、かなり定式的な(フォーミュラリック)なものになる」と簡素化の必要性を認めている。もっとも、あまりにもざっくりとした計算では企業実態と乖離するため、ノンルーティン利益に着目した制度を考えるべきとの立場をとっている。
 このように、利益配分ルールについては、いかにして簡素さと正確性をバランスさせながら議論を収斂させていくかが最大のポイントとなる。OECDもそれをサポートすべく、新たな課税方法の導入に伴うインパクト・アセスメントを実施する。秋には分析結果のドラフトが公表される見込みだ。

ネクサスルール変更でモデル租税条約に新たな条文追加へ
 ネクサスについては、物理的拠点に限定しない方向性が示された。
 本来はネクサスが認定され、その後に帰属する利得を計算することになるが、今回のデジタル課税議論では順番が全く逆になっており、作業計画でも「利益配分ルール→ネクサス」の順番で章立てがされている。市場国等への追加的な利益配分ありきで議論が進んでいると言ってよい状態であり、既存の枠組みとの整合性はその後に考えるというスタンスが明確となっている。
 ネクサスルールの変更により、既存のモデル租税条約も見直されることになる。具体的には、第5条(恒久的施設)及び第7条(事業所得)を改定する案や、独立の新条を設ける案が検討されることになろう。OECDのパスカル・サンタマン租税局長は後者になるのではないかとの発言をしている。

多国間を含む紛争の予防・解決を重視、損失配分の取扱いも検討
 執行面では、多国間を含む紛争の予防・解決の重要性が作業計画に盛り込まれた。
 また、利益を配分するならば損失も配分するということで、具体的な取り扱いを検討することになった。
 企業側からすれば、これらは今回の作業計画の(数少ない)評価ポイントと言えそうだ。
 なお、物理的な拠点がない中で、実際にどのように税を徴収するかも課題となる。

第2の柱
軽課税国の反対で、合意・コミットの程度は第1の柱より緩やかに

 軽課税国への利益移転に対抗する措置である「第2の柱」については、国際的に最低限の税率を定めた上で、それを下回る国(軽課税国)への利益移転に対し、利益を移転されている国が課税できるよう、GloBE(global anti-base erosion)と呼ばれる税制措置を導入することが提案された。具体的には「所得合算ルール」や「税源浸食支払税」からなり、フランスとドイツが提唱する。BEPSの残された課題に対応するとともに、法人税率の引き下げに関する「底辺への競争」を防止するための措置であると説明されている。
 対象はIT企業に限定されない。OECDのパスカル・サンタマン租税局長によれば、各国による合意のレベル、コミットの程度については、第1の柱に比べればやや緩やかになる可能性がある。背景には、ミニマムタックスの導入に反対する軽課税国の存在がある模様だ。

ミニマム税率は10%台との観測
 「所得合算ルール」とは、軽課税国の子会社等に帰属する所得を親会社の所得と合算して課税するもの。米国税制改正で導入されたGILTI(グローバル軽課税無形資産所得)がモデルであり、既存のCFC税制を補完するものと位置付けられている。
 合算時に適用される税率は親会社所在地国の法定税率ではなく、ミニマム税率となる。作業計画ではこれを「トップ・アップでの課税」(ミニマム税率での課税)と表現しており、親会社所在地国の法定税率でフルに課税するCFC税制とは異なる仕組みとなっている。もっとも、子会社等が有害税制の恩恵を受けている場合には、フル税率で課税する案も検討するとしている。
 ミニマム税率には固定税率が想定されており、親会社所在地国の法定税率の一定パーセントとする案や、一定のレンジ・回廊内で自由に決めるという方式は採用しない。ミニマム税率の水準については、G7の英国(19%)より高いのはいかがなものかとの指摘や、BEPSの温床とされるアイルランドの税率(12.5%)や米国GILTIの数値(13.125%)を参照すべきとの声がある。現段階では10%台のどこかで決着するという観測がある。

優遇税制による税負担割合低下に配慮し適用除外も検討
 課税ベース(合算対象所得)は親会社所在地国のルールに従って計算することを原則とするが、簡素化の観点から会計情報の利用(及び必要な調整)が可能か検討する。
 本家のGITLIは計算過程が複雑であり、米国の企業・実務家からも批判が聞かれるところ。執行を考えれば、所得合算ルールはGITLIを丸写しするものとはならないだろう。むしろ米国財務省は、国際合意された仕組みを踏まえ、自国の制度を修正することも示唆している。
 適用除外も検討する。例えば、優遇税制の適用を受けた結果、ミニマム税率を下回ったとしても、それが有害税制に該当しない場合には問題視しない案や、所得が実質的な経済活動を伴うかどうかで判定する案、有形資産からのリターンをカーブ・アウトする案、一定の閾値を設ける案がある。もっとも作業計画では、これらの適用除外を設けることは、ミニマム課税の目的を損なう可能性があるとして、慎重な姿勢も見せている。
 東南アジアなどで優遇税制の適用を受けている日本企業は、子会社の税負担割合が下がり、思わぬ形でミニマム課税の対象となることを警戒している。ただ、OECDは、途上国・新興国における優遇税制の中には、投資誘致の観点から税収逸失を覚悟で設けられている不適切なものも含まれており、所得合算ルールの整備は、これら途上国等を税優遇の競争から救うことも意図していると説明している。適用除外の具体的な内容は今後の注目ポイントとなる。
 税率のブレンディングへの対処も課題となる。ブレンディングとは、高課税所得と低課税所得をミックスさせることで、ミニマム税率を上回る税率を創出することをいう。作業計画では、納税者によるこのような操作可能性を念頭に、事業体レベル、グローバルなグループレベルといった様々なブレンディングがあるとしており、特に法域レベル又はグローバルレベルでのブレンディングに着目し、必要な検討を行うとしている。
 その他の技術的論点としては、源泉税や移転価格税制、CFC税制など他のルールとの調整、重層的な資本関係がある場合の複数国におけるミニマム課税の調整、株式保有要件等がある。

税源浸食支払税、「関連者=25%の資本関係」案に「広すぎる」との批判
 税源浸食支払税は、軽課税国に所在する関連者への支払いについて損金算入を否認(又は比例的に否認)するUndertaxed payment ruleと、所得が最低税率に服している場合のみ条約上の特典を与えるSubject to tax ruleからなる。前者を後者が補完するという関係にある。米国財務省は所得合算ルールに関する議論を優先すべき旨の発言を行っており、税源浸食支払税は、重要性では一段劣ると見られる。
 作業計画では、Undertaxed payment ruleの制度設計における考慮事項として、実効性の確保、他のルールとの調整、二重課税又は過剰課税の回避、コンプライアンス・コストの最小化、関連者支払の範囲、支払がundertaxedであるか否かを決定する実効税率テストなどが掲げられている。
 一方、Subject to tax ruleの考慮事項としては、undertaxed payment ruleに加えて条約改正を行うことのコスト・ベネフィット、低税率の判定、支払の段階で受取側が軽課税かどうか分からない状況で条約特典の有無(源泉税の水準等)を判定することの実行可能性、非関連者にも適用対象を広げるか否か等がある。
 日本企業としては、両ルールにおける「(非)関連者」の範囲が気になるところであろう。2月のDDの段階では「25%の資本関係」で関連者を判定するとされており、広すぎるとの批判があった。今回の作業計画には具体的な持分割合は記載されておらず、今後の検討課題となる。また、実体の伴う事業活動に係る支払いについては除外すべきとの声がある。
 麻生財務大臣は「底辺への競争」が問題である旨発言しており、また、日本はドイツ・フランスと並び、比較的高税率国であることから、ミニマム税を導入するインセンティブは高いとみられる。

施行は早くて2022年
 デジタル・エコノミー(電子経済)を巡っては一国主義的な課税の広がりが懸念される中、上述のとおり、関係各国はデジタル課税ルールの国際合意を急いでおり、日本においても近い将来の国内法制化は避けられないだろう。
 とはいえ、上述のとおり、デジタル課税に係る最終報告書について国際合意が行われるのは2020年となる。したがって、令和2年度税制改正でデジタル課税の国内法制化が行われる可能性は低い。
 また、ネクサスルールの変更による租税条約の改定も、国内法の施行時期に影響を及ぼすことになる。日本を例にとれば、仮に多国間協定のようなマルチ条約を用いたとしても、国会で承認を得る必要がある。したがって、仮に最終報告書について予定通り2020年末までに合意したとしても、2021年以降の国会で条約について承認を得なければならない。結論として、条約が関係するルール変更の施行は早くても2022年からということになりそうだ。

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