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解説記事2025年01月20日 第2特集 上場準備会社における訴訟トラブル(2025年1月20日号・№1059)

第2特集
現物出資の評価を行った税理士法人にも損害賠償請求
上場準備会社における訴訟トラブル


 本特集では、上場準備会社において訴訟に至った事件を2件紹介する。1件目に紹介する事件は、出資者が上場を予定しているなどの虚偽の説明を受けたとして、元代表取締役らに損害賠償請求が行われたもの。併せて、現物出資の価格証明を行った税理士法人に対しても損害賠償請求が行われている(令和5年10月30日、令和3年(ワ)第11418号)。本件では、事実認定の上、上場を予定していなかったとはいえないとの判断を裁判所が示し、原告の出資者らの請求を棄却している。また、税理士法人についても、現物出資に関し不相当な価格証明を行ったと認めるに足りる証拠はないとしている。
 2件目は、上場準備会社に入社した公認会計士が、入社時に約束したストックオプションが付与されなかったとして、会社及び代表取締役に対して損害賠償請求を行った事件だ(令和5年9月13日、令和2年(ワ)第16801号)。本件では、従業員等の地位にあることをストックオプションの付与ないし権利行使の条件とするものであったと認めるのが相当であるとし、原告である公認会計士の請求を棄却している。原告の公認会計士は、内部監査及び経営部門のスタッフとして入社したものの、その後、代表取締役が関係する社会福祉法人に入社。社会福祉法人は被告会社と同一の法人であるなどと主張したが、認められなかった。

出資した会社が破産手続の開始を決定

 本件は、出資者である原告らが、破産手続の開始が決定されたI社の代表取締役ら及び同社の会計参与を務めた税理士法人に対し、共同不法行為に基づき、損害賠償金を請求した事件である。被告のI社の代表取締役らは、同社が上場を予定しており、かつ、上場の見込みがあるかのような虚偽の説明をしたというもの。また、被告の税理士法人は、I社の親会社によるI社への現物出資について不相当かつ不適法な価格証明を行い、同社に対して源泉所得税の納付を指示・指導しなかったために、I社の資本金及び資本準備金の額が現実に十分に確保されていないのに確保されていると原告らに信じさせたことにより、原告らがI社への出資を行うことになったとしている。
 原告らは、被告の代表取締役らは上場準備のための監査法人による監査や主幹事証券会社の選定などの上場準備の進捗状況、上場予定時期、収支計画(事業計画)や事業実態に照らした上場の実現可能性等について、事実と違う説明をしたことが不法行為に該当するなどと主張したが、裁判所は、N−2期中に監査法人と契約し、期中監査を行うことにより、東証マザーズへの上場も不可能ではなく、原告らに対する出資の勧誘時にI社が監査法人と契約していなかったことや主幹事証券会社を選定していなかったことをもって、上場を予定していなかったとはいえないとの判断を示している(参照)。

【表】原告らの主張に対する裁判所の判断

上場準備のための監査法人による監査を受けている旨の説明について
・被告が原告に送信したメールには、I社で公認会計士による任意監査が進められているとの記載があることからすると、被告において、I社への出資勧誘時に、I社が監査を受けている旨の発言をしたことがうかがわれ、やや誤解を与えかねない発言であった可能性があるが、任意監査と上場準備のための監査法人による監査とは自ずから大きな差異があることにも照らすと、後者の監査を受けている旨の説明をしたことをうかがわせるものとはいえない。
主幹事証券会社をすでに選定している旨の説明について
・I社への出資の勧誘にあたって、原告らに交付された資料には、I社が主幹事証券会社を選定する予定である旨の記載は見当たらず、I社が証券会社との間で秘密保持契約を締結し、証券会社がI社への出資者の反社会的勢力該当性のチェックを行ったことを原告に説明したことを誤信した可能性が否定できない。
実現不可能な上場予定時期について
・東証マザーズに令和2年5月期を基準として上場する場合には令和元年5月に、令和3年5月期を基準として上場する場合には令和2年5月期に監査法人による監査を受ける必要があるのが原則であったにもかかわらず、I社は令和元年5月期及び令和2年5月期に監査法人による監査を受けていなかったことが認められる。しかし、被告らが原告Aに交付したI社への出資の概要について記載された書面には、エグジット(投資の回収方法)として、株式上場、第三者への株式譲渡、合併等があげられ、「最短では20年5月期の決算を基準とし21年の上場を計画する」との記載があったが、原告B及びCに交付された令和2年1月の事業計画書には「2021年度(2022年5月期)を基準期として国内IPO又はバイアウトでのエグジットを計画する」との記載になっており、さらに、新型コロナウイルスの世界的な流行を受けて見直した令和2年3月30日付けの事業計画書ではエグジットに関する記載が削除されたことが認められる。このようなエグジットに関する事業計画書等の記載の変遷の経緯のほか、I社が設立後間もないベンチャー企業であり、I社の事業が東京オリンピックを契機とした市場動向の予測に基づき展開が計画されていたことにも照らすと、被告らの説明は、I社の事業状況や社会経済情勢等を踏まえた見通し等を踏まえて上場時期を変更し、これを出資者に伝えるものであった可能性があり、上場時期について確定的・断定的な方針を伝えたものとみるのは疑問が残る。
I社の事業実態について
・監査法人は、I社の事業価値をDCF法によって再評価し、1億4,606万4,000円を中央値として算定していることなどからしても、I社に東証マザーズへの上場を想定し得る事業実態がなかったとは認められない。
上場予定がないにもかかわらず上場予定である旨の説明について
・N−2期中に監査法人と契約し、期中監査を行うことにより、東証マザーズへの上場も不可能ではなく、原告らに対する出資の勧誘時にI社が監査法人と契約していなかったことや主幹事証券会社を選定していなかったことをもって、上場を予定していなかったとはいえない。

税理士法人が会計参与に就任後、現物出資の評価を実施

 また、裁判所は、税理士法人に対しても、原告らに対して不法行為責任を負うことはないとの判断を示している。
 原告らは、税理士法人は(I社設立以来、税務顧問を務める)平成29年6月29日からI社の会計参与に就任し、I社への現物出資財産の価格証明が法令上認められていないにもかかわらず(会社法207条10項1号)、事業譲渡代金債権(現物出資②)について不適法な価格証明を行ったなどと主張した。
会社法違反も不法行為責任は負わず
 裁判所は、監査法人がライセンス権の価値をDCF法によって評価するとともに、I社の事業価値をDCF法によって再評価し、算定していることからすると、ライセンス権やI社の事業に実態がなかったとは認められず、被告の税理士法人が不相当な価格証明を行ったと認めるに足りる証拠はないとした。また、被告税理士法人が会計参与就任後に行った現物出資②に係る財産の価格証明は会社法207条10項1号に反して認められないが、被告がI社に対して評価額4,000万円と現物出資②の対象財産の実価格との差額につき支払義務を負う(会社法213条3項)などの責任を負うことはあっても、原告らとの関係で、直ちに不法行為責任を負うとはいえないとしている。
 また、原告らは、被告の税理士法人が、I社に対し、源泉所得税の徴収高計算書の提出及び税金納付を指示・指導する義務があったにもかかわらず、これを怠ったと主張するが、裁判所は、会計参与は主として、取締役と共同して計算書類等の作成を行うことを職務とし、この職務を行うため、いつでも会計帳簿又はこれに関する書類を閲覧・謄写し、取締役等に対し、会計に関する報告を求めるなどの権限を有するにとどまり(会社法374条1項2項)、会社に対して、源泉所得税の徴収高計算書の提出や税金の納付を指示・指導する義務や、加算税が発生していない段階で加算税について計算書類に記載すべき義務を認める法令上の根拠は見当たらないとした。

内部監査部門として入社も、被告会社から社会福祉法人へ転籍

 次に紹介するのは、元社員の原告が上場準備会社と雇用契約を締結した際の合意に反して原告にストックオプションを付与しなかったとして、被告会社に対しては、債務不履行に基づく損害賠償の一部として、被告会社の代表取締役(被告)に対しては、会社法429条に基づく損害賠償の一部として、1,000万円超の損害賠償を求めた事件である。
 原告は、公認会計士の資格を有しており、監査法人の勤務経験がある者。前職を退職した後、人材会社から上場準備企業であり内部監査の知識経験のある人材を探していたA社(被告)を紹介され、雇用契約を締結。その際には、原告がA社に入社することに同意した条件として、①入社日を平成29年2月1日、②月額給与を60万円、年収・年棒を720万円、③所属部署を内部監査及び経営企画とすることなどのほか、④ストックオプションの付与(0.4%)を予定することなどが記載されていた。
 ただし、原告の入社後、被告代表取締役は、被告会社を退職して被告の代表取締役が理事等を務める社会福祉法人の特別養護老人ホームの新設プロジェクト推進業務を行ってほしいと要請。原告が拒否すると、自宅勤務を命じられたため、平成29年3月、被告A社との間で、原告の自己都合により雇用契約を合意解約することなどを記載した退職合意書を取り交わし、その後、原告は、同社会福祉法人に就職し、令和2年に退職した。
社会福祉法人は実質的に被告と同一と主張
 原告は、仮に被告会社に在籍していることなどがストックオプションの付与ないし権利行使の条件であったとしても、社会福祉法人は実質的にみれば被告会社と同一の法人格を有する会社であるから、同法人に異動、出向又は転籍した原告はそのような条件を満たしているというべきであるなどと主張した。

従業員等であることがストックオプション付与の条件

 裁判所は、新株予約権付与時の払込価額、権利行使価額及び権利行使期間その他の内容については具体的な言及がないものの、原告と被告会社との間では税制適格要件を充足するストックオプションが想定されていたことが認められるから、そのような要件の枠内で合意内容はある程度特定されていたとし、雇用契約締結の際、被告会社がストックオプションとしての新株予約権を発行する場合には、原告に対し、被告会社の発行済株式総数の0.4%に相当するストックオプションを付与する旨の合意が成立していたとした。
 その上で、裁判所は、ストックオプションが付与対象者に対し発行会社の株価向上等への貢献を動機付けるインセンティブ報酬であることからすると、会社が、会社の役員や従業員になろうとする者等に対し、ストックオプションの付与を約するのは、ストックオプションの付与ないし権利行使の時点でその付与対象者が職務執行や労務提供により会社の株価向上等に貢献し得る地位にあることを当然の前提とするものと解されるとした。そして、本件においても、ストックオプションの合意は、新株予約権発行時に明示的に定められた権利行使の条件と同様、「被告会社若しくはその子会社の取締役、監査役、従業員又はこれに準じる地位にあること」をストックオプションの付与ないし権利行使の条件とするものであったと認めるのが相当であるとし、原告の請求を棄却した。
取締役と理事を兼任する者はなし
 原告は、実質的にみれば社会福祉法人は被告会社と同一の法人であると主張するが、裁判所は、社会福祉法人は持分の観念がなく被告会社と資本関係がないほか、平成29年4月以降、被告会社の取締役と社会福祉法人の理事を兼任する者がいたとは認められず(被告代表取締役は平成29年3月まで理事)、役員構成の同一性もないと指摘。被告会社ないし被告の代表取締役が社会福祉法人に対し事実上強い影響力を有していたと推認されることを踏まえても、直ちに実質的に社会福祉法人が被告会社と同一法人であるとまでは認められず、原告が、被告会社の新株予約権発行時に社会福祉法人に在籍していたことをもって、「被告会社若しくはその子会社の取締役、監査役、従業員又はこれに準じる地位」にあったと認めることはできないとしている。

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