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解説記事2020年07月20日 解説 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準等」等の公表に伴う財務諸表等規則等の改正について(2020年7月20日号・№843)

解説
「会計上の見積りの開示に関する会計基準」、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準等」等の公表に伴う財務諸表等規則等の改正について

前 金融庁企画市場局企業開示課 課長補佐 小作恵右
前 金融庁企画市場局企業開示課 専門官  村瀬正貴
  金融庁企画市場局企業開示課 専門官  前田和哉
前 金融庁企画市場局企業開示課      鰺坂弘樹

Ⅰ.はじめに

 2020年(令和2年)6月12日に「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(令和2年内閣府令第46号)が公布・施行され、あわせて関係ガイドラインが改正・公表された(以下、内閣府令第46号と関係ガイドラインをあわせて「改正府令」という)。
 改正府令は、2020年(令和2年)3月31日付で企業会計基準委員会(ASBJ)から公表された企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下、「見積りの開示基準」という)、改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「会計方針の開示基準」という)、改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「改正収益認識基準」という)等を踏まえ、以下の規則及びこれらのガイドラインについて、所要の改正を行うものである。
・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「財規」という)
・中間財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「中間財規」という)
・四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「四半期財規」という)
・連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「連結財規」という)
・中間連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「中間連結財規」という)
・四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「四半期連結財規」という)
 本稿は、改正府令の主な内容について解説を行うものであるが、意見にわたる部分については、筆者らの私見であることをあらかじめ申し添えておく。

Ⅱ.見積りの開示基準に伴う改正

1. 改正の経緯・概要
 財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議に対して、国際会計基準審議会(IASB)が公表した国際会計基準(IAS)第1号「財務諸表の表示」で開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」について、財務諸表利用者にとって有用性が高い情報として日本基準においても注記情報として開示を求めることを検討するよう要望が寄せられた。その後、ASBJにおいて、基準諮問会議からの提言を受けて検討・審議を開始し、見積りの開示基準が開発された。
 改正府令においては、見積りの開示基準の公表を踏まえ、注記に関する規定の改正を行っている。

2. 注記に関する規定
 見積りの開示基準では、会計上の見積りの開示を行うにあたり、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別し、識別した項目のそれぞれについて、会計上の見積りの内容を表す「項目名」に加え、「当年度の財務諸表に計上した金額」及び「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」を注記することとされた。なお、見積りの開示基準では、重要な会計上の見積りに関する注記における開示目的を示したうえで、具体的な開示内容は企業が当該開示目的に照らして判断することとされた。
 これらを踏まえ、改正府令においては、重要な会計上の見積りに関する注記として、次のとおり規定している(財規第8条の2の2第1項、連結財規第13条の2)。なお、重要な会計上の見積りに関する注記は、財務諸表利用者のニーズを踏まえ、重要な会計方針の次に注記することとしている(財規第9条、連結財規第16条)。

 当事業年度の財務諸表の作成に当たつて行つた会計上の見積り(この規則により注記すべき事項の記載に当たつて行つた会計上の見積りを含む。)のうち、当該会計上の見積りが当事業年度の翌事業年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるもの(以下この条において「重要な会計上の見積り」という。)を識別した場合には、次に掲げる事項であつて、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならない。
一 重要な会計上の見積りを示す項目
二 前号に掲げる項目のそれぞれに係る当事業年度の財務諸表に計上した金額
三 前号に掲げる金額の算出方法、重要な会計上の見積りに用いた主要な仮定、重要な会計上の見積りが当事業年度の翌事業年度の財務諸表に与える影響その他の重要な会計上の見積りの内容に関する情報

 重要な会計上の見積りに関する注記については、見積りの開示基準と同様に、企業の実態に応じて、企業自身が開示目的に照らした柔軟な開示を可能とするため、財規第8条の2の2では、見積りの開示基準で定める注記事項を規定し、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならないとしたうえで、財規ガイドライン8の2の2では、財務諸表提出会社において、開示目的に照らして、記載内容及び記載方法の適切性を判断して記載することを明らかにしている。
 なお、財規第8条の2の2第1項各号に掲げる事項については、法令としての規範性等の観点から、見積りの開示基準に定める注記事項等を若干修正等したうえで規定しているが、実質的な意味が異なるものではない。また、財規ガイドラインでは、財規第8条の2の2に規定する注記は、見積りの開示基準が適用される場合の注記であることも明らかにしている。

3.個別財務諸表・中間(連結)財務諸表の取扱い
(1)個別財務諸表における取扱い

 見積りの開示基準では、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において、「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」について連結財務諸表における記載を参照することができるとされた。
 なお、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって、「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」の注記事項に代えることができることとされたが、この場合であっても、連結財務諸表における記載を参照することができるとされた。
 これらを踏まえ、改正府令においては、関連する規定を設けている(財規第8条の2の2第3項、第4項)。
(2)中間(連結)財務諸表の取扱い
 中間(連結)財務諸表は、中間(連結)会計期間に係る企業(企業集団)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関して、有用な情報を提供するものでなければならないが、国際会計基準では期中に会計上の見積りに関する注記が求められていないことや見積りの開示基準の開発経緯等を踏まえ、改正府令においては、重要な会計上の見積りに関する注記は求めないこととしている。

4. 適用時期等
 改正(連結)財規の規定は、2021年(令和3年)3月31日以後に終了する事業年度(連結会計年度)に係る(連結)財務諸表について適用される。ただし、2020年(令和2年)3月31日以後に終了する事業年度(連結会計年度)に係る(連結)財務諸表から早期適用が可能とされている。
 なお、重要な会計上の見積りに関する注記については、(連結)財務諸表に初めて改正(連結)財規の規定を適用する場合には、当該(連結)財務諸表に含まれる比較情報の記載は要しないこととした。

Ⅲ.会計方針の開示基準に伴う改正

1. 改正の経緯・概要
 ASBJにおいて、基準諮問会議からの依頼に基づき、「経営者が会計方針を適用する過程で行った判断」に関する注記の充実への対応について検討を行った結果、我が国の会計基準等においては、取引その他の事象又は状況に具体的に当てはまる会計基準等が存在しない場合の開示に関する会計基準上の定めが明らかではなく、開示の実態も様々であるといった違いがあることが見出された。これを受け、ASBJにおいて、基準諮問会議からの提言を踏まえ、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実のため、会計方針の開示基準が改正された。
 改正府令においては、会計方針の開示基準の公表を踏まえ、注記に関する規定の改正を行っている。

2. 注記に関する規定
 会計方針の開示基準では、重要な会計方針の注記における開示目的を定めたうえで、具体的な開示内容は企業が当該開示目的に照らして判断することとされた。また、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続の開示上の取扱いを明らかにして、財務諸表利用者が財務諸表を理解する上で不可欠な情報が提供されるようにすることは有用であると考え、重要な会計方針の注記における開示目的は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同じである旨が明らかにされた。
 これらを踏まえ、改正府令においては、重要な会計方針の注記として、次のとおり規定している。
(1)重要な会計方針の注記
 重要な会計方針の注記については、会計方針の開示基準と同様に、企業の実態に応じて、企業自身が開示目的に照らした柔軟な開示を可能とするため、財規第8条の2では、財務諸表作成のための基礎となる事項であって投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならないとしたうえで、財規ガイドライン8の2では、財務諸表提出会社において、開示目的に照らして、記載内容及び記載方法の適切性を判断して記載することを明らかにしている。
 なお、旧財規第8条の2各号で列挙していた会計方針は、会計方針の開示基準で例示として取扱うこととされたため、当該各号の定めを削除することとしたが、重要な会計方針に関する注記における従来の考え方を変更するものではなく、これまでの実務を変更することを意図するものではないことを明らかにするため、財規ガイドライン8の2に従前と同様の内容を記載している。
(2)関連する会計基準等の定めが明らかではない場合に記載する会計処理の原則及び手続
 改正府令では、会計方針の開示基準の内容を踏まえ、会計処理の対象となる会計事象や取引に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合(特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続きを採用する場合や業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続を適用する場合を含む。)には、財務諸表提出会社が採用した会計処理の原則及び手続を記載するものとしている(財規ガイドライン8の2)。
 なお、関連する会計基準等の定めが明らかではない場合に記載する会計処理の原則及び手続については、「パブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」において未適用の会計基準等に関する注記の対象とならない旨を明らかにしている。
(3)未適用の会計基準等に関する注記
 改正府令において、会計方針の開示基準の内容を踏まえ、未適用の会計基準等に関する注記については、専ら表示方法及び注記事項を定めた会計基準等である場合には、当該会基準等が財務諸表に与える影響について記載することを要しないとしている(財規第8条の3の3第2項、連結財規第14条の4)。
 なお、専ら表示方法及び注記事項を定めた会計基準等であるかどうかについては、「パブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」において財務諸表提出会社が判断する旨を明らかにしている。

3. 適用時期
 改正(連結)財規の規定は、2021年(令和3年)3月31日以後に終了する事業年度(連結会計年度)に係る(連結)財務諸表について適用される。ただし、2020年3月31日以後に終了する事業年度(連結会計年度)に係る(連結)財務諸表から早期適用が可能とされている(中間も同様)。

Ⅳ.改正収益認識基準等に伴う改正

1. 改正の経緯・概要
 収益認識に関する会計上の取扱いについては、ASBJにおいて、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準として、2018年(平成30年)3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」を公表した。このうち、財務諸表等の表示及び注記事項については、2021年(令和3年)の強制適用時までに、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づく開示例等を踏まえ改めて検討することとされ、早期適用のために必要最低限の事項のみが定められた。
 改正収益認識基準等では、強制適用時までの検討とされていた財務諸表等の表示及び注記事項についての定めに係る改正が行われた。これを踏まえ、改正府令においても、財務諸表等の表示及び注記に関する規定の改正を行っている。

2. 財務諸表等の表示に関する規定
(1)損益計算書における「売上高」等の表示

 改正収益認識基準等では、顧客との契約から生じる収益を適切な科目(例えば、売上高、売上収益、営業収益等)をもって損益計算書に表示し、顧客との契約から生じる収益については、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、又は両者を区分して損益計算書に表示しない場合には、顧客との契約から生じる収益の額を注記することとされた。これを踏まえ、改正府令において、売上高については、顧客との契約から生じる収益及びそれ以外の収益に区分して表示するほか、顧客との契約から生じる収益の金額を注記する場合には、顧客との契約から生じる収益とそれ以外の収益をまとめて売上高として表示することもできるとしている(財規第72条第2項、連結財規第51条第2項等)。
 なお、売上高の記載については、顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合には、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)を損益計算書において区分して表示することに留意する必要がある(財規ガイドライン72-2)。
 また、改正府令において、製品売上高と商品売上高との区分表示(旧財規72条第2項等)及び半製品、副産物、作業くず等の売上高又は加工料収入等の役務収益の別掲(旧財規72条第3項等)については、収益認識に関する注記事項(後述)の内容と重複すると考えられるため、関連する規定を削除している。
 一方で、二以上の種類の事業を営む兼業会社の売上高及び売上原価に関する記載方法については、事業の種類ごとに区分表示する売上原価に関する情報は財務諸表利用者にとっても有用であると考えられることから維持することとしたが、改正収益認識基準の内容との整合性を踏まえ、財規ガイドラインにおいて定めている事業の種類に関する記載は削除している(旧財規ガイドライン71)。
(2)貸借対照表における「契約資産」等の表示
 改正収益認識基準では、企業が顧客との契約における義務を履行している場合又は企業が当該義務を履行する前に顧客から対価を受け取る場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示することとされた。また、契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表に他の資産と区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記するとともに、契約負債についても、貸借対照表において他の負債と区分して表示しない場合には、契約負債の残高を注記することとされた。
 これらを踏まえ、改正府令において、従来から流動資産の範囲に属する受取手形又は売掛金の定義を見直し、顧客との契約から生じた債権が含まれることを明らかにするとともに、契約資産は流動資産の範囲に属し、契約資産を示す名称を付した科目により区分表示することとしている(財規第15条、第17条第1項、連結財規第23条第1項)。ただし、顧客との契約から生じた債権及び契約資産については、それぞれの残高を注記する場合には他の資産と一括して表示することができることとしている。なお、売掛金及び受取手形に顧客との契約から生じた債権とそれ以外の債権を含めて表示している場合にも、顧客との契約から生じた債権の残高を注記しなければならないことに留意する必要がある(財規第17条第4項、連結財規第23条第5項)。
 また、従来から流動負債に属する前受金は一般用語として用いるとともに、契約負債は流動負債の範囲に属し、契約負債を示す名称を付した科目により区分表示することとしている(財規第47条、第49条第1項、連結財規第37条第1項)。ただし、契約負債については、残高を注記する場合には他の負債と一括して表示することができることとしている(財規第49条第5項、連結財規第37条第6項)。
 なお、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権それぞれの用語については、法令としての規範性等の観点から、改正収益認識基準に定める用語の定義等を若干修正等したうえで規定しているが、実質的な意味が異なるものではない。

3. 注記に関する規定
(1)収益認識に関する注記

 改正収益認識基準では、収益認識に関する注記における開示目的を定めたうえで、当該開示目的を達成するための収益認識に関する注記として、「収益の分解情報」、「収益を理解するための基礎となる情報」及び「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」を注記することとされた。ただし、企業の実態に応じて、企業自身が開示目的に照らして個々の注記事項の開示の要否を判断し、重要性の乏しいと認められる項目については注記しないことができるとされた。
 これらを踏まえ、改正府令において、収益認識に関する注記として、次のとおり規定している(財規第8条の32第1項、連結財規第15条の26等)。

 顧客との契約から生じる収益については、次に掲げる事項であつて、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならない。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。
一 顧客との契約から生じる収益及び当該契約から生じるキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に当該収益を分解した情報
二 顧客との契約から生じる収益を理解するための基礎となる情報
三 顧客との契約に基づく履行義務の充足と当該契約から生じるキャッシュ・フローとの関係並びに当事業年度末において存在する顧客との契約から翌事業年度以降に認識すると見込まれる収益の金額及び時期に関する情報

 収益認識に関する注記については、改正収益認識基準と同様に、企業の実態に応じて、企業自身が開示目的に照らした柔軟な開示を可能とするため、財規第8条の32第1項では、改正収益認識基準と同様の開示目的を達成するための収益認識に関する注記事項を定め、重要性の乏しい場合を除き投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならないとしたうえで、財規ガイドライン8の32では、財務諸表提出会社において、収益認識に関する注記における開示目的に照らして、重要性や記載内容及び記載方法の適切性を判断して記載することを明らかにしている。
 なお、財規第8条の32第1項各号に掲げる事項については、法令としての規範性等の観点から、改正収益認識基準に定める開示目的を達成するための収益認識に関する注記事項等を若干修正等したうえで規定しているが、実質的な意味が異なるものではない。また、財規ガイドラインでは、財規第8条の32第1項に規定する注記の内容は、改正収益認識基準が適用される場合の注記であることも明らかにしている。
(2)重要な会計方針の注記
 改正収益認識基準では、顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、少なくとも企業の主要な事業における主な履行義務の内容と企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)について注記することとされた。また、これらの項目以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容についても、重要な会計方針として注記することとされた。
 これらを踏まえ、改正府令において、重要な会計方針の一例である収益及び費用の計上基準として、主要な事業における主な履行義務の内容、財務諸表提出会社が当該履行義務に関する収益を認識する通常の時点その他重要な会計方針に含まれると判断した収益認識に関する注記事項その他の事項を記載することを明らかにしている(財規ガイドライン8の2)。
(3)棚卸資産及び工事損失引当金に関する注記
 企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」において、工事契約等から損失が見込まれる場合の注記事項として定められていた当期の工事損失引当金繰入額と同一工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金の注記事項が、改正収益認識基準に引き継がれたことを踏まえ、改正府令においても、関連する注記事項を規定している(財規第54条の4第2項、連結財規第40条等)。

4. 個別財務諸表における取扱い
 改正収益認識基準では、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、損益計算書及び貸借対照表の表示に関する注記(上記「2.財務諸表等の表示に関する規定」参照)や、上記「3.収益認識に関する注記」の一部(「収益の分解情報」及び「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」)について省略できるとされた。 
 改正府令においても、これらに関連する定めにおいて、連結財務諸表を作成している場合には注記が省略できる旨を規定している(財規第8条の32第4項)。
 なお、重要な会計方針として注記する必要があるとされている「企業の主要な事業における主な履行義務の内容」及び「企業が当該履行義務を充足する通常の時点」については、連結財務諸表を作成している場合であっても、個別財務諸表において注記が必要となることに留意が必要である。
 このほか、改正府令においては、改正収益認識基準の内容を踏まえ、「収益を理解するための基礎となる情報」についても、連結財務諸表の注記を参照することができるとしている(財規第8条の32第5項)が、連結財務諸表では消去される重要なグループ内取引や、連単の重要性の違いにより連結財務諸表では重要性が乏しいものの個別財務諸表では重要な取引等については、個別財務諸表において注記する必要があると考えられる。

5.中間(連結)財務諸表及び四半期(連結)財務諸表における取扱い
(1)中間(連結)財務諸表

 中間(連結)財務諸表における表示方法については、年度に準ずるものの、中間(連結)会計期間に係る会計情報の明瞭な表示を害しない範囲において、集約して記載することが従来から認められていることから、改正府令においても、顧客との契約から生じた債権及び契約資産を他の資産の項目と一括して表示した場合や契約負債を他の負債の項目と一括して表示した場合であっても、それぞれの残高を注記する規定は定めていない。
 一方で、収益認識に関する注記については、改正府令において、年度と同様の注記事項を規定しているが、中間(連結)財務諸表の作成会社は、主に金融機関等に限定されていることを踏まえると、改正収益認識基準が、これらの企業(集団)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する有用な情報を、中間(連結)財務諸表の利用者に対して提供することは限定的であると考え、「収益を理解するための基礎となる情報」及び「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」に関する注記は、顧客との契約に基づく履行義務の充足と当該契約から生じるキャッシュ・フローとの関係や、前事業年度末において存在する顧客との契約から当事業年度以降に認識すると見込まれる収益の金額及び時期等に重要な変化がない場合は、省略することができるとしている(中間財規第5条の23第1項、第2項、中間連結財規第17条の18)。
(2)四半期(連結)財務諸表
 改正収益認識基準において、収益認識に関する表示及び開示に関する規定が定められたことを踏まえ、企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」の改正が行われており、当該会計基準では、顧客との契約から生じる収益の分解情報が注記事項として定めている。ただし、これによって開示される収益の分解情報が、セグメント情報等に関する事項に含めて記載している場合には、当該注記事項を参照することにより、注記を代えることができるとされている。
 これを踏まえ、改正府令においても、顧客との契約から生じる収益の分解情報の注記を新設するとともに、他の規定で注記すべき事項において、同一の内容が記載される場合には、その旨を記載することで収益の分解情報の注記を省略することができると規定している(四半期財規第22条の4、四半期連結財規第27条の3)。
 なお、四半期(連結)財務諸表においても、中間(連結)財務諸表と同様、顧客との契約から生じた債権及び契約資産を他の資産の項目と一括して表示した場合や契約負債を他の負債の項目と一括して表示した場合であっても、それぞれの残高を注記する規定は定めていない。

6. 適用時期等
 改正府令においては、改正収益認識基準の適用時期及び経過措置の内容を踏まえ、次のとおり附則を置いている。
(1)適用時期
 改正(連結)財規の規定は、2021年(令和3年)4月1日以後に開始する事業年度(連結会計年度)に係る(連結)財務諸表について適用される。ただし、2020年(令和2年)4月1日以後に開始する事業年度(連結会計年度)から早期適用が可能とされている(中間・四半期も同様)。
(2)経過措置
 上記「2.(1)損益計算書における「売上高」等の表示」、「2.(2)貸借対照表における「契約資産」等の表示」及び「3.(1)収益認識に関する注記」については、(連結)財務諸表に初めて改正(連結)財規の規定を適用する場合には、前事業年度(連結会計年度)に係る(連結)財務諸表には適用しないことができる。また、前事業年度(連結会計年度)に係る(連結)財務諸表について、新たな表示方法に従い組替えを行わない場合、(連結)財務諸表の主な項目に係る前事業年度における金額に関する注記は不要としている(中間・四半期も同様)。
 なお、改正府令の附則では一般的な経過措置を定めているため、改正収益認識基準で定めるすべての経過措置を規定していない。このため、改正収益認識基準で定められているその他の経過措置を適用する場合においても、この改正府令を適用することは妨げられない。

Ⅴ.おわりに

 改正府令では、企業が開示目的に照らしながら、企業の実態に応じて、企業自身が何を注記すべきかを判断し、より有用な情報を財務諸表利用者に提供することを求めている。従来の画一的な注記ではなく、企業の創意工夫による注記が行われることによって、企業と財務諸表利用者との建設的な対話が促進されることを期待している。

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