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税務・会計2007年03月13日 新しいビークルとしての信託の新類型と実務上の課題 執筆者:掛川雅仁

注目が集まる新信託法における信託の新類型と活用方法

 平成18年12月可決成立した新信託法による信託の新類型として、次の4つが、特に注目を集めています。
 (1)事業信託…委託者が受託者に財産を信託するとともに、債権者の同意を得て、委託者と受託者の合意に基づき、委託者の債務を受託者が(信託財産で)引き受け、実質的に資産と負債から構成される「事業」を信託したと同様の状態を作り出す信託。
 (2)自己信託…ある者(委託者)が自己の一定の財産の管理・処分を、受託者として自らすべき旨の意思表示をし、委託者自身が受託者となる信託。
 (3)限定責任信託…受託者の履行責任範囲が信託財産に限定される信託。
 (4)受益証券発行信託の特例…受益権の流通性の強化による資金調達等のニーズに応えるため、信託行為の定めにより、受益権を表章する有価証券を発行できる特例。
 これらの信託の新類型を組み合わせた様々な活用例が既に考えられています。例えば、a)新たな資金調達のビークルとして、①信託の倒産隔離を利用した事業の証券化や、②信託のより柔軟に受益権を組成できる点等を利用して、トラッキング・ストックに代わる活用、b)再生、提携、再編のビークルとして、③事業の実質的な保有を維持しながら、事業再生を第三者に委ね、再生後は事業を再び元の会社に復帰させる事業再生や、④信託受益権の譲渡や併合による事業提携、⑤一定の事業を本体から切り離す会社分割的なスピンオフのための活用、さらに、c)リスクのある新規事業進出のビークルとして、⑥限定責任信託を組み合わせた、新規事業進出の際の子会社設立の代替的活用などがあります。
 しかし、これら想定される活用例の大半は、株式会社や合同会社、有限責任事業組合(LLP)といった既存の他のビークルによっても、ほぼ同等の結果が達成可能です。

新たに登場したビークルの実務上の課題

 新たなビークルという選択肢が増えた今後は、目的達成のためには、どれが最適なのか検討し選択できるよう、各々の長所・短所を十分に理解しておくことが必要です。その際、各ビークルの法的側面だけでなく、会計・税務上の側面からも、比較検討ができるようにしておくことが大切です。ところが新しいビークルに関する会計・税務上の取扱いについて、実務レベルの各論まで踏み込んで検討している文献は、意外と少ないのが現状です。

LLPにおける先駆的実務研究と同様に切望される信託における研究

 特にLLPについては歴史が浅く、その処理の前提となる組合に関する会計慣行や会計基準、税務上の取扱いが十分に整備されていません。
 そのような状況を踏まえ、LLPの誕生から終結までの全編を通じた会計処理と税務上の取扱いに関する考え方について、今後の日本版LLPの会計慣行形成と税務上の取扱いの整理の一助を目指した書籍として、私が編集代表となり、新日本法規出版から刊行した「実践 LLPの法務・会計・税務 -設立・運営・解散-」があります。
 この書籍は、単にLLPの当事者である組合員とビークルとしてのLLPだけではなく、債権者から見たLLPとの取引上の留意点や、LLP組合員の組織再編の際の処理、さらに、LLPは国際的な投資活動への利用も見込まれるところから、国際課税上のLLPのPE判定と非居住者組合員に対する課税問題も取り上げています。
 信託の新類型の活用に関しても、同様のアプローチの文献が切望されるところです。

(2007年3月執筆)

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