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民事2022年03月04日 失踪宣告~法律上死亡とみなす制度~ 執筆者:亀井真紀

 失踪宣告という手続きをご存じでしょうか?
 全く行方が分からなくなった人(「不在者」といいます)につき、その生死が7年間明らかでないときや戦争や事故、災害などの危難に遭遇しその危難が去った後その生死が1年間明らかでないときに、家庭裁判所が利害関係人の申立てにより、審判手続きにより、不在者を法律上死亡したものとみなす民法上の制度です。
 どういった場合に申立てがなされるかというと、例えば相続の手続きをする必要がある時に、法定相続人の一人と連絡がつかない、調査を尽くしても行方が全く分からないということがあります。住民票を取り寄せしてもそこには実際住んでいない、職権消除されている、外国に行ってしまいその後の消息がつかめない・・・等々です。相当な年齢であり死亡している可能性も高いが戸籍上は生存したままということもあります。
 前述の相続手続きにおいては、被相続人に遺言書がない限り、金融機関は法定相続人全員による遺産分割協議書や委任状・印鑑証明書等がなければ通常払戻しには応じません。不動産がある場合、法定相続分通りの相続時であれば相続人の一人からの申請が可能ですが、他の相続人には登記識別情報通知が交付されないという手続き上のデメリットの他、処分売却することができないという問題が生じ得ます。
 こういったケースの場合に失踪宣告手続きが利用されることがあります。
 具体的には、冒頭にあるように所在不明が7年以上又は危難から1年以上が経過している場合には、他の相続人が利害関係人として家庭裁判所に戸籍謄本や失踪を証する資料を提供して申立てをすることになります。失踪を証する資料についてはケースバイケースです。危難を理由とする場合には災害・事故の発生や不在者が巻き込まれた可能性があることを裏付ける資料などが考えられますが、単純に7年以上所在が分からない場合には具体的な資料といっても限界があるので、親族や知人らの陳述書なども活用することが考えられます。いずれにしても生きているかどうか分からない人を死亡したとみなすわけですから、家庭裁判所も調査官による調査をした上で慎重な判断をすることになります。
 また、危難が去ってから1年以上、又はそれ以外の場合は7年以上の経過はしていないが、遺産分割協議を行いたいという時にはまずは不在者財産管理人選任の申立てをし、当該管理人に遺産分割協議に参加してもらうことになります。その過程でもやはり行方が分からない場合には、最終的には不在者財産管理人が失踪宣告の申立てをすることが多いです。
 失踪宣告の審判が下されて確定した場合には、10日以内に申立人が市区町村役場に失踪の届出を行います。これにより戸籍に初めて死亡したことが反映されることになります。死亡したことを前提に不在者を被相続人とする相続も発生します。
 なお、この手続きは、あくまでも死亡したことを「みなす」制度ですので、仮に不在者がどこかで生存していた場合の様々な権利が失われるわけではありません。当然ですが、社会から抹消されるわけではありません。もしその後不在者の所在が判明し、生存していることが確認できれば、本人や利害関係人から取り消しの申立てをすることができます。取り消しが認められれば、最初から死亡していなかったことになります。とはいえ、当該失踪宣告により財産を得た者(例えば、不在者を被相続人として相続による利益を得ていた人など)は、現に利益を受けている限度においてのみ、財産を返還する義務を負うとされています。ケースによっては巻き戻すための清算はなかなか難しいこともあります。
 この10年間ほどの司法統計によれば、毎年全国で2000件以上の申立てがされているようです。これには失踪宣告の申立てと取消しを含みます。とても珍しい手続きかというと実際はそうでもありません。
 昨今のように家族・親族が従来に比べて疎遠になりつつあり、また海外移住も珍しくない社会においては、不在者財産管理人選任申立てや失踪宣告申立てはますまず増加していくように思います。

(2022年2月執筆)

執筆者

亀井 真紀かめい まき

弁護士

略歴・経歴

第二東京弁護士会所属。
平成13年弁護士登録。北海道の紋別ひまわり基金法律事務所(公設事務所)に赴任。
その後、渋谷の桜丘法律事務所(現事務所)に戻り現在に至る。
第二東京弁護士会高齢者・障がい者総合支援センター委員会、日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員会等所属。
一般民事・家事、刑事事件のほか、成年後見、ホームロイヤー契約等高齢者、障がい者の事件を多く担当する。

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