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民事2010年07月16日 離婚事件における別居期間の考え方 執筆者:大西未紗

 離婚をしたいとの相談を受けた場合、弁護士は何を考えるべきでしょうか。
 まずは、離婚訴訟となった場合に、その夫婦を法的に離婚させることが可能かどうか(法律上の離婚原因があるか)を検討します。その上で、協議離婚または調停離婚といった話し合いにて何とか決着せざるを得ないのか、裁判離婚までも選択肢に入れるのかといった今後の方針を決めていくことになります。
 民法上の離婚原因のうち770条1項1号ないし4号の離婚事由、もしくは1号ないし4号事由に匹敵するような決定的な有責事由ないし破綻事由がある場合(暴力・虐待等)、要素たる客観的事実が比較的立証しやすいこともあり、離婚訴訟に発展しても、離婚認容判決を得られる可能性は高いでしょう。
 しかしながら、上記のように決定的な有責事由ないし破綻事由がある場合はごく稀であり、そのような決定的事由がない相談(性格の不一致、精神的虐待等)が殆どであると思います。
 この場合、弁護士は、相談者の離婚理由が、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるか、言い換えれば、「婚姻関係が既に破綻しており回復の見込みがない場合」にあたるか、を検討することになります。
 どのような場合に5号事由が存在すると認められるかという点につき、過去の裁判例は、婚姻中の両当事者の行為や態度、子の有無及びその年齢、婚姻継続の意思、双方の年齢、健康状態、資産状況、性格等々、婚姻生活全体の一切の事情を考慮して判断しています。
 この中でも、婚姻破綻の判断において裁判所が重視する傾向にあるのは、破綻を示す客観的事実となる、別居の有無及び期間です。
 では、どの程度の別居期間があれば、婚姻が破綻したと認められるのでしょうか。
 平成8年に法制審議会が答申した民法改正案では、「夫婦が5年以上継続して婚姻の本旨に反する別居をしているとき」を提案しており、まずは、5年が一応の目安になると考えられます。
 他方、裁判例は、上記で例示した事情と別居期間を合わせ考慮した上で判断していることから、目安となる明確な期間は判然としません。しかし、最近では、他の様々な事情も総合的に判断の上、3年程度の別居期間で離婚を認めている例があり、一応の参考にできると思います。
 では、決定的な離婚理由もなく、未だ同居している、もしくは別居期間が比較的短い依頼者が離婚相談に訪れた場合、弁護士は事件の見通しについて、どのように考えるべきなのでしょうか。
 まず、現在も相手方と同居している、もしくは別居期間が比較的短期にとどまる相談者であれば、すぐに離婚訴訟を提起しても、離婚判決が得られる見込みが薄いと思われます。したがって、協議離婚や調停離婚といった話し合いでの解決を模索することになろうかと思います。
 この場合、相手方が離婚に同意しなければ離婚できない、というハンデがあることから、条件闘争ともなれば、離婚したい相談者側に厳しい条件が提示されることも考えられます。条件を問わずに早期の離婚を望むのか、別居期間がある程度の期間に達するまで時期を待つのか等々、相談者と今後の方針をよく相談する必要があります。
 他方で、別居期間が相当期間に亘っている相談者であれば、相談時点では別居期間が3年に満たなくとも、調停手続を経て、離婚訴訟の口頭弁論が終結する際には、別居期間が3年もしくはそれに近い期間に達することが予想されます。
 この場合、離婚事由やその余の事情に照らせば、離婚訴訟で離婚判決が得られる可能性も相当程度あると考えられます。敢えて不利な条件に応じることなく、協議離婚・調停離婚で積極的な交渉を行うことも可能になるかと思います。
 いずれにせよ非常に判断に悩むところではありますが、相談者が置かれている状況、早期決着の必要性等を丁寧に聴き取り、今後の対応につき相談者とよく話し合うことが肝要であると思います。

 厚生労働省の統計(平成21年度)によれば、協議離婚の場合、別居期間1年未満で離婚届出に至った夫婦は85.1%、裁判離婚(調停離婚、審判離婚、和解離婚、認諾離婚、判決離婚)の場合、別居期間1年未満で、成立ないし確定に至った夫婦は64.4%であるとのことです。
 当該統計から直接導き出せるものではありませんが、一度は生涯を共にすることを決意した夫婦が別居するともなれば、別居期間の長短にかかわらず、別居をするというその行為自体が、将来の離婚に向けた強いシグナルであるとも考えられます。
 このように考えれば、すでに別居し形骸化した夫婦関係から早期に解放するよう、裁判所に求めていくことも、時には事案に適した対応となるのではないでしょうか。

(2010年7月執筆)

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