民事2008年06月25日 遺産分割事件における依頼者との信頼関係 執筆者:仲隆
遺産分割事件は、弁護士の辞任・解任という事態が生じやすい事件であろう。また、弁護士に対する懲戒請求なども多いようである。赤の他人からすれば(むろん弁護士も)、先妻の子と後妻のようにもともと円満な話し合いを期待しにくい場合はともかく、実の親子間あるいは兄弟姉妹間のようにそれまで平穏に生活してきた間柄においては、法定相続分に応じて仲良く協議すばよいと思うし、所詮自ら築き上げた財産でもないのだから遺産に固執するのもいかがなものかと感じたりするのである。しかし、依頼者は、当事者間で円満な話し合いができないからこそ弁護士に依頼するのであって、それを忘れて弁護士が家族の理想像を説いても依頼者との信頼関係は築けるものではないし、不労所得などと言ってしまっては依頼者の感情を逆撫でしかねない。
依頼者は、「兄は生前、故人から多額の援助を受けてきた(特別受益)。」「兄は生前、故人の財産を使い込んできた(不当利得・不法行為)。」「兄名義の土地は本当は故人の財産だ(遺産の範囲)。」「私は生前、故人に対し多大な貢献をしてきた(寄与分)。」などと主張する。もちろん、これらの主張は、ある程度客観的な資料がなければ相手方に認めさせるのは困難なのであるが、依頼者は必ずしもそうは思っていない。資料がなくても自分が多くを語ることによって、弁護士の助けを得て相手を納得させることができるだろうと考えたりするのである。
また、依頼者は、積年の恨み辛みを相手方に訴えたい、金銭の多寡の問題ではないなどと言うのである。経済的合理性を第一義に考える弁護士からみれば、全く無駄な紛争であったりするのであるが、依頼者は戦うこと自体に重要性を感じたりするのである。
そして、遺産分割手続には調停制度が設けられている。調停は話し合いの場なのであるが、依頼者は、弁護士に依頼し、裁判所が介入すれば、きっと真実に到達できるはずだというある種の誤解をしたりする。一方、弁護士の方も調停制度を利用すれば落ち着くところに落ち着くであろうと安易に考えることも少なくない。遺産の範囲の争いや不当利得・不法行為が絡む内容であるのに調停手続で解決しようなどとしても徒労に終わりかねないし、何の証拠もないのに特別受益や寄与分の主張について依頼者を期待させるのも危険である。このように依頼者も弁護士も調停制度を見誤って捉えていたのでは両者間に亀裂が生じてもおかしくないであろう。
こうして考えると、遺産分割事件において、依頼者との信頼関係を築くにあたって、重要な作業は次のように言えるであろう。1つは、遺産分割も法律問題であり、主張を通すためには客観的な証拠が必要であることを依頼者に十分に理解してもらうことである。いま1つは、依頼者の言いたいことを忍耐強く聞き、相手方や裁判所に訴えてあげることである。当たり前のことのようであるが、両者は矛盾する部分も含んでおり、その使い分けを丁寧に行わないと依頼者との信頼関係は築くことができないと自戒を込めて思う次第である。
(2008年6月執筆)
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