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企業法務2023年04月21日 在宅勤務中にまじめに働いていない社員への対応 共編/芦原一郎(弁護士)、明石幸大(弁護士)



 当社は社員の一部に在宅勤務を許可していますが、在宅勤務中に業務メールの返信が滞ったり、連絡が取れないときがあるなど、まじめに働いていないことが疑われる社員がいます。会社としてどのように対処すべきでしょうか。

アドバイス
 本事例のように中抜けがなされる等まじめに働いていない場合には、社員の職務専念義務違反に当たります。会社は、まず事実を調査し、その事実が認められる場合には、社員本人から事情を聴取した上で、指導を行い、改善を求めます。それでも改善がない場合には、在宅勤務の許可を取り消した上、懲戒処分も検討します。
法律上のポイント
1 テレワークの意義
 テレワークとは、通常の勤務地から離れた場所において(=テレ)情報通信技術を活用して、仕事をする(=ワーク)ことをいいます。テレワークには、①社員の自宅において情報通信機器を利用して労務に従事する「在宅勤務」、②社員が出張先のホテル・喫茶店・交通機関内等自由に就労場所を選択できる「モバイル勤務」、③自社や共同利用のサテライトオフィスにおいて就労する「サテライトオフィス勤務」等があります。テレワークには、通勤時間の短縮、業務の効率化・時間外労働の削減、育児・介護との両立等に資するため、仕事と生活の調和を促進するメリットがあります。働き方改革の一環としても、テレワークが推奨されており、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」等のテレワーク導入に際し参考になる資料が厚生労働省によって策定・公開されています。
2 在宅勤務と労働時間制度
 (1) テレワークにおける労働時間の管理
 テレワークをしている社員にも労基法が適用されますので、会社は社員の労働時間を適正に把握・管理する義務を負います。テレワークをしている社員は自宅等のオフィス以外の場所にいるため、会社が社員の勤務状況を逐一把握することは困難なことが多いという問題点があります。休憩時間中の行動は原則として社員の自由ですが、労働時間中に業務から一定時間会社の許可なく離脱(中抜け)しているのであれば、職務専念義務の不履行に当たります。一方で、所定の休憩時間以外であっても育児・介護等のやむを得ない事由によって、業務以外のことをしなければならない社員も存在することから、何らかの対策を取ることが必要です。
 (2) 休憩時間等の変更
 厚生労働省が策定した「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」は、就業規則にあらかじめ規定しておけば、「使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保証されている場合、終業時刻の繰り下げなど所定労働時間の変更は可能」であるとしています。そこで、業務時間中に中抜けが必要な社員に対応するため、会社の事前承認を条件に休憩時間・始業時間・終業時間を変更できる旨の規定を就業規則に追記するとの対応をすることが考えられます。
 (3) フレックスタイム制
 フレックスタイム制とは、社員が、1か月などの単位期間の中で一定時間数(契約時間)労働することを条件として、1日の労働時間を自己の選択する時に開始し、かつ終了できる制度のことをいいます。多くの場合、出退勤のなされるべき時間帯(フレキシブルタイム)及び全員が必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)が定められます(菅野労働法(12版)536頁)。フレックスタイム制度を採用すれば、社員は、中抜けが必要な時間を勤務時間から除外することができますので、中抜けをしても労務管理上問題にはならなくなります。
対応するには
1 在宅勤務規程の整備
 社員は労働契約上の誠実労働義務の内容として、就業時間中は職務専念義務を負っています(菅野労働法(12版)978頁)。もっとも、在宅勤務規程又は就業規則中に当該義務が明記されることで、在宅勤務者に自覚を促す効果が期待できます。そのため、在宅勤務規程又は就業規則中に、在宅勤務中の他の服務規律と併せて、職務専念義務を明記した方がよいでしょう。
2 職務専念義務違反の事実の調査
 在宅勤務者の中抜けによる職務専念義務違反が疑われる場合、会社は、事実を調査する必要があります。前述のとおり、会社は社員の労働時間を適正に把握し管理する義務を負いますので、在宅勤務制度を採用している会社は多くの場合、電話、Eメール、始業・就業時刻を管理するアプリ等を用いて、在宅勤務者の勤怠管理を行っています。しかしこれらのツールでは、必ずしも在宅勤務者の中抜けを把握できない場合があります。近年、在席管理ツールとして一定期間ごとに画面キャプチャを自動的に撮影するアプリや一定時間ごとに写真を自動撮影するWEBカメラ等が利用されるようになりました。これらの在席管理ツールの使用選択肢の1つとなりますが、社員のプライバシーを過度に侵害する危険があるという点には配慮が必要です。
3 改善指導
 会社は在宅勤務者による無断中抜けの客観的証拠を収集しつつ、当該在宅勤務者本人から事情を聴取すべきです。そして、在宅勤務者による無断での中抜けが認められる場合には、まずは在宅勤務者本人に対し注意・指導をして、本人に業務態度を改善する機会を付与すべきです。
4 在宅勤務許可の取消し
 在宅勤務者に改善指導を行っても、社員の勤務態度が改善されず、職務専念義務違反が続く場合には、在宅勤務許可を取り消し、通常勤務に戻すべきでしょう。また、情状によっては、けん責等の軽い懲戒処分を検討すべき場合もあるでしょう。

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