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解説記事2016年12月12日 【税理士のための相続法講座】 遺産分割(3)-遺産分割の方法(2016年12月12日号・№670)

税理士のための相続法講座
第22回
遺産分割(3)-遺産分割の方法
 弁護士 間瀬まゆ子

1 遺産分割の方法
 遺産分割の方法には、①現物分割、②代償分割、③換価分割及び④共有分割があるとされます。
 遺産分割調停が不調となり、家事審判手続きに移行して審判官の判断を仰ぐこととなった場合、上記の方法は、①ないし④の順序に従って優先的に選択されることになります。しかし、家事調停を含む話し合いの場面では、このような縛りはありませんので、より柔軟な対応が可能となります。
2 現物分割  現物分割は、原則的な遺産分割の方法とされるもので(民法258条2項、家事事件手続法195条)、自宅は長男、アパートは長女というように取得させる場合のほか、一つの不動産を分筆して複数の相続人にそれぞれ取得させるような場合も含まれます。
 多くの場合、現物分割と、次に述べる代償分割が併用されます。
3 代償分割  代償分割は、特定の相続人に遺産を現物で取得させ、当該相続人に、他の相続人に対する代償金債務を負担させる方法です。
 調停までの段階においては、代償金に関する条件も柔軟に定めることができます。例えば、支払の期限に猶予を与えたり、分割払いとしたりする場合のほか、代償金の支払に代えて、代償金債務を負う相続人固有の財産で支払うことを定める場合などがあります(なお、代償財産が不動産である場合には、時価により譲渡したものとして、譲渡所得税が課されます。)。
 被相続人の遺産の大部分は自宅と隣接するアパートで、そのいずれも長男Aが取得し、長女Bには代償金を支払うことになった。ただ、Aが代償金を一括で払うことができないため、遺産分割時に一部を払った後、残余はアパートの収益から分割して支払うことになった。Bは、Aが確実に代償金を支払ってもらえるか不安に思っている。
 遺産分割協議の債務不履行解除を最高裁が否定しているため(最一小判平成元年2月9日集民156号225頁)、将来Bの不安が的中してアパートの経営が悪化し、Aが代償金を支払えなくなったとしても、Bは、代償金の不払いを理由として遺産分割を解除することができません。ですから、Aが確実に支払ってくれるのかは、Bにとって重要な問題です。
 この点、事前に講じることができる手段として確実なのは、担保権の設定です。実際、遺産分割に際して、代償金債務の担保として抵当権を設定するケースもないわけではありません。ただ、Aが難色を示すのが通常で、抵当権を設定させるのは容易ではありません。
 そのため、代償金の支払いに不安があるときには、一時金の比率を高くする、分割払いの期間をできるだけ短くする等の条件を提示していくというのが現実的でしょう。なお、家事審判になると、原則として代償金の分割払いは認められませんので、Bにとってはこのことも一つの交渉材料となり得ます。
4 換価分割  換価分割は、遺産を売却してその売却代金を分割する方法で、(a)遺産分割協議の手続中に遺産を売却して、その換価代金を分割協議の対象に含めることを合意する場合と、(b)分割協議の中で、(分割協議後に)遺産を売却して換価代金を分配することを定める場合があります。
 (b)の方法を採ると、実際に売却する段になって、誰に売却するか等で揉めてしまい、結局塩漬けになってしまうことがあり得ますので、当事者間に対立がある場合には、(a)の方法によった方が無難です(なお、(b)の方法を採ったとしても、売却に期限を設ける、当事者が持ち寄った中から一番高い価格を提示した希望先に売却することを予め約束しておく等の方法により、ある程度紛争を予防することは可能です。)。
 ただ、(a)の方法による場合、譲渡所得税への配慮が必要です。分割未了のうちに譲渡することになりますので、譲渡所得税は各人が法定相続分に応じて負担することになります。その後、換価代金を法定相続分と異なる割合で分配することが決まった場合、所得税の申告期限前であれば、各相続人がその取得割合に基づいて申告することが可能とされます。しかし、一旦法定相続分に基づいて申告した後、現実に取得した割合が法定相続分未満になった相続人が更正の請求をしたとしても、このような請求は認められません。そのため、金額の大きさ等によっては、遺産分割協議の中での調整が必要になることもあるでしょう。
5 共有分割  共有分割は、遺産の全部または一部を、共有・準共有によって取得する分割方法ですが、よく言われるように、共有にするのは将来に禍根を残す方法であり、出来るだけ避けたいところです。
 父親が亡くなった。遺産分割により、父親が保有していた賃貸アパートは、長女Cが2/3、次女Dが1/3の割合で取得し共有することになった。それから数年が経ち、Dはアパートを売却したいと考えるようになったが、一室を住居としているCがこれを拒絶し、2人は決裂した。しばらくして、Dから共有持分を譲り受けたという業者が、Cに手紙を送ってきた。
 共有にするリスクとしては、売却が困難になることのほか、管理について揉める場合があること等が指摘されますが、その他に、実は、上記の事例のような事態に陥るリスクもあります。
 共有分割が行われた場合、以後、対象の遺産の共有状態は、民法に定める共有物分割の手続きによって解消されることになります。
 民法上、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができ(256条)、分割に関して共有者間の協議が整わないときは、裁判所に対して分割を請求することができると定められています(258条1項)。
 Cに十分なお金があれば、金銭を支払うことで業者と和解したり、あるいは、金額で折り合いがつかない等により和解がまとまらなかったとしても、裁判で資力を証明することによって、業者に持分相当の賠償をする代わりにCが全ての持分を取得する(全面的価額賠償)という判決を得られる可能性が高くなります。
 しかし、お金がないとなると、そのいずれも困難ですので、業者との和解により持分を売却するか、判決で競売を命じられるか、いずれにしても所有権は失うこととなってしまいます(民法258条2項は、共有物を現物分割できない場合には裁判所が競売を命じる旨を定めています。)。
 稀ではありますが、不動産の持分を積極的に購入する不動産業者がおり、実際に上記のような事態に陥るケースもありますので、やはり共有分割は禍根を残すものであると思うところです。

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