解説記事2017年02月27日 【税務マエストロ】 相殺取引(2)(2017年2月27日号・№680)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
相殺取引(2)

#183 熊王征秀(税理士)

略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授

次回のテーマ
#184
外国子会社合算税制の総合的見直し②
PwC税理士法人
品川克己
税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一
人者がそのリスクを検証する。

マエストロの解説  消費税の世界では相殺取引は原則として認められない。売上高と仕入高を両建にし、常にグロスの金額で課税標準額や課税売上割合、仕入控除税額を計算する必要がある。今月は、相殺取引に関する国税庁ホームページの質疑応答事例を紹介し、必要に応じて解説を加えていく。

○商品を融通し合う場合の課税(資産の譲渡等の範囲7) 
【照会要旨】  複数の事業者間で商品を融通し合ったときは、それぞれが資産の譲渡等に該当することになりますか。
【回答要旨】  商品の融通が買取り又は交換に該当する場合には、資産の譲渡等に該当しますが、単に一時的に商品を融通し合い、その融通について、同種、同等、同量の物を返還し、手数料、利子、使用料その他名目のいかんを問わず一切金銭等の支払がなされないものは、資産の譲渡等には該当しません。
<解説> 1 交換について  たとえ金銭の授受が無い場合でも、資産の交換は資産の売買に該当する(消基通5-2-1(注))。交換により自己資産を引き渡し、その売却代金相当額として相手資産を取得することから、取得資産の時価が交換譲渡資産の譲渡対価となり、自己資産の時価が交換取得資産の取得対価の額となる。

 金銭の授受がある場合には、前頁の算式により売上(仕入)金額を計算する(消令45②四)。
 なお、当事者間で定めた資産の価額と実際の相場が異なる場合であっても、それが正常な取引条件に基づく交換であるならば、その合意した価額により売上金額、仕入金額を計上することができる(消基通10-1-8)。
【計算例】 (1)自己所有の資産(時価200)と相手先所有の資産(時価180)の交換にあたり、現金20を取得した場合には、売上高は200(180+20)、仕入高は180(200-20)となる。
(売上金額の考え方)  交換の場合には、売上代金を収受する代わりに相手資産を取得するわけであるから、相手資産の時価(180)が売上計上する金額となる。なお、時価の差額を補うために取得した金銭(20)は、まさに売上代金の一部であることから、これを売上金額に加算する。
(仕入金額の考え方)  交換の場合には、仕入代金を支払う代わりに自己資産を引き渡すわけであるから、自己資産の時価(200)が仕入計上する金額となる。なお、取得した金銭(20)については、仕入代金について釣銭を収受したと考え、これを仕入金額から控除する。
(2)自己所有の資産(時価180)と相手先所有の資産(時価200)の交換にあたり、現金20を支払った場合には、売上高は180(200-20)、仕入高は200(180+20)となる。
2 資産の融通につき、金銭の授受がある場合  資産の融通に伴い、手数料、利子、使用料などの名目で金銭の授受がある場合には、その金銭等の額は資産の貸付けに係る対価の額として売上(仕入)高に計上することになるものと思われる。この場合において、融通した資産の貸付対価の額と融通を受けた資産の借受対価の額を相殺することは認められない。貸付金額(売上高)と借受金額(仕入高)を両建計上する必要があることに注意が必要だ。
 また、手数料、利子、使用料などの名目で決済する場合であっても、それが交換資産の対価の一部と認められる場合には、上記1のとおり、その金銭等の額を売上(仕入)高に加減算する必要があろう。
3 資産の融通につき、金銭の授受がない場合  無償による資産の貸付け(借受け)であり、対価性のない取引として課税の対象とはならない。なお、この場合における会計処理としては、商品融通売上(仕入)高などの経過勘定を用いることにより、課税区分の入力誤りなどがないように注意する必要がある。

○ゴルフ会員権の所有者の債務と当該会員権の預託金部分とを相殺した場合の消費税の取扱い(資産の譲渡等の範囲9)
【照会要旨】  A社は、B銀行からゴルフ会員権の取得資金を借り入れ、ゴルフ会員権発行会社であるC社から預託金方式によるゴルフ会員権を取得しました。C社は、A社の銀行からの資金の借入れに際して、A社の連帯保証人となりました。
 その後、A社が借入金の返済を遅延したことから、保証委託契約に基づき連帯保証人であるC社が、A社の借入金をB銀行に代位弁済し、C社はA社に対する求償権とA社が入会に際して支払った預託金とを相殺しました。
 A社は代位弁済されたことにより当該ゴルフクラブの会員たる地位を失い、入会保証金証書及びその預り証は無効となりますが、この場合において、A社のゴルフ会員権の喪失は、求償権の代物弁済によるゴルフ会員権の譲渡として消費税の課税対象となるのでしょうか。

【回答要旨】  C社が有する求償権とA社が有する預託金の相殺は、ゴルフ会員権による代物弁済に当たらず、消費税の課税の対象となりません。
(理由)  A社は、C社がB銀行に代位弁済した時点でゴルフ会員としての地位を失い、ゴルフ場施設の優先的利用権及び年会費等の支払義務が消滅し、入会保証金証書及びその預り証は無効となり、A社は預託金返還請求権のみを有することとなると認められます。
 したがって、照会の取引は、A社の預託金返還請求権とC社の求償権とを相殺したものですから、A社とC社がそれぞれ有する金銭債権が対当額で消滅したにすぎず、資産の譲渡等に該当しないため、消費税の課税対象外です。
<解説>  資産の譲渡等については、その原因(理由)は関係がないことから、保証債務を履行するために事業用の資産を売却したような場合であっても、その行為は消費税の課税の対象となる(消基通5-2-3)。また、借金の形(カタ)として事業用資産を債権者に引き渡した場合にも、その行為は代物弁済として課税の対象に組み込まれることになる(法2①八)。
 借入金の返済のために債権者に資産を引き渡すことを代物弁済といい、この「代物弁済」という行為は、資産を売却した代金で借金を返済することと実態は何ら変らないことから資産の譲渡等に含めることとしている(消法2①八)。
 代物弁済があった場合の対価の額(課税標準)は、その代物弁済により消滅する債務の額に取得する金銭等の額を加算した金額となる(消令45②一)。

○テナントから領収するビルの共益費(資産の譲渡等の範囲10)
【照会要旨】  ビル管理会社等がテナントから受け入れる水道光熱費等の共益費等は、いわゆる「通過勘定」という実費精算的な性格を有することから、課税の対象外としてよいでしょうか。
【回答要旨】  ビル管理会社等が、水道光熱費、管理人人件費、清掃費等を共益費等と称して各テナントから毎月一定額で領収し、その金額の中からそれぞれの経費を支払う方法をとっている場合には、ビル管理会社等が領収する共益費等は課税の対象となります。
 また、水道光熱費等の費用がメーター等によりもともと各テナントごとに区分されており、かつ、ビル管理会社等がテナント等から集金した金銭を預り金として処理し、ビル管理会社等は本来テナント等が支払うべき金銭を預かって電力会社等に支払うにすぎないと認められる場合には、当該預り金はビル管理会社等の課税売上げには該当しません。

○ホテルの客のタクシー代の立替払(資産の譲渡等の範囲25)
【照会要旨】  ホテルにおいて客のタクシー代や宴会のコンパニオン派遣料等を立替払した場合の課税関係はどうなるのでしょうか。
【回答要旨】  ホテル等が客の依頼を受けて、又は客が自らタクシーや宴会のコンパニオンを呼んだ場合においては、本来それらの役務の提供の対価は客が直接役務の提供者に支払うべきものですから、ホテルが当該対価を客に代わって立替払をし、その旨を明確に区分している場合には、その代金を客から領収しても課税の対象とはなりません。また、その支払はホテルの課税仕入れにも該当しません。
 なお、タクシー代やコンパニオン代の実費にホテル等のマージンを上乗せして客から領収する場合には、単なる立替えとは異なりますので、その全額が課税の対象となります。

○実費弁償金の課税(資産の譲渡等の範囲26)
【照会要旨】  弁護士の収入の中には実費弁償たる宿泊費又は交通費が含まれていますが、これらの宿泊費や交通費は、立替金として処理していれば、課税の対象外として取り扱ってよいでしょうか。
【回答要旨】  弁護士の業務に関する報酬又は料金は、弁護士がその業務の遂行に関連して依頼者から支払を受ける一切の金銭をいうものと解されています。
 したがって、実費弁償たる宿泊費及び交通費であっても、ホテルや交通機関等への支払が実質的に依頼者による直接払と認められるものでない限り、弁護士の報酬又は料金に含まれ課税の対象となります。
 なお、依頼者が本来納付すべきものとされている登録免許税や手数料等に充てるものとして受け取った金銭については、それを報酬又は料金と明確に区分経理している場合は、課税の対象となりません(基通10-1-4(注))。

○印刷業者が郵便葉書に印刷を行う場合(資産の譲渡等の範囲27)
【照会要旨】  印刷業者において、郵便葉書の印刷について次のような取引を行っていますが、消費税の取扱いはどのようになるのでしょうか。
1 郵便局で購入した郵便葉書に、当社で選定した文字、図柄を印刷し、これを5枚セットにして文房具店に販売します。
2 郵便局から購入して在庫としている郵便葉書に、企業や個人からの注文に応じて、企業名等を印刷して注文者である企業や個人に引き渡します。
3 注文者が持ち込んだ郵便葉書に注文者の指定する文字、図柄を印刷して引き渡します。
【回答要旨】 1 印刷業者は、自ら選定した文字や図柄を印刷した後の郵便葉書を自己の商品として販売していますから、文房具店等から収受する印刷後の郵便葉書に係る対価の全額が課税の対象となります。
2 注文者から収受する対価の全額が課税の対象となります。
  ただし、印刷業者において、郵便局から購入した郵便葉書について仮払金として経理し、注文者への請求の際には郵便葉書の代金と印刷代金とを区分の上、郵便葉書の代金について立替金として請求している場合には、印刷代金のみを課税の対象として取り扱います。
3 印刷代金のみが課税の対象となります。
<解説>  郵便切手類については、原則として課税期間中に使用した分だけを仕入税額控除の対象とするわけであるが、継続適用を条件として、課税期間中に購入したものについて、未使用の分も含めて仕入税額控除の対象とすることが認められている(消基通11-3-7)。
 印紙、証紙については、使用時に税金や行政手数料の支払となるものであるから、原則として購入時、使用時ともに税額控除はできないことになる。ただし、チケットショップなどで販売する印紙は非課税規定が適用されないため、継続適用を条件として購入時に税額控除の対象とすることができる(消基通6-4-1)。
 また、テレホンカードなどのプリペイドカードについても、業務用のものについては郵便切手類と同様に購入時点での税額控除が認められている。なお、贈答用のものは購入時、贈与時共に税額控除はできないので、プリペイドカードについては、その使用目的により課税区分を工夫しなければならない。
 商品券、ビール券などは贈答目的で購入するわけであるから、基本的には仕入税額控除はできないものと考えるべきであろう。
 なお、チケットショップなどでは、郵便切手類や印紙などを額面金額よりも安く販売するのが一般的であるが、このような場合の課税仕入高に計上する金額は、額面金額や券面額ではなく、当初の購入金額となることに注意されたい(消基通11-4-3)。
 よって、【回答要旨】の1と2のいずれにおいても郵便葉書の購入は非課税仕入れであり、仕入税額控除の対象とはならない。

この記事に関するご意見・お問合せは ta@lotus21.co.jp にお寄せください。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索