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解説記事2017年03月13日 【税理士のための相続法講座】 遺産分割(6)-遺産分割調停・審判(2017年3月13日号・№682)

税理士のための相続法講座
第25回
遺産分割(6)-遺産分割調停・審判
 弁護士 間瀬まゆ子

 遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停や審判で解決していくことになります。本連載は税理士の方々を対象とするものですので、詳細に言及することはせず、概要と実務上の留意点についてのみ触れておくこととします。
1 手続の流れ  民法907条2項は、遺産分割について、共同相続人間で協議が調わないとき、あるいは協議ができないときは、その分割を家庭裁判所に請求することができる旨を定めています。具体的には、家庭裁判所に対して、遺産分割調停または審判の申立てをすることになります。
 遺産分割事件に関しては、いわゆる「調停前置主義」が採られていないため、調停を介さず直接審判の申立てをするということも可能です。ただ、その場合でも、例外的な場合を除いて、裁判所の職権で調停に付すのが実務上の取扱いですので、結局、調停手続きから段階を踏んで進めて行くことになります。
 調停の期日は、一般的に1ケ月ないし1ケ月半の間隔で開かれます。事案によってかなり幅はありますが、期日にして7回程度、期間にして申立てから1年程度で終わるのが標準的なケースのようです。
 調停を進めたものの不成立(不調)となった場合には、当然に審判手続に移行します。その際、調停申立時に遺産分割審判の申立があったものとみなされることになっています(家事事件手続法272条4項)。
 また、遺産分割審判が出た後、これに不服がある場合には、高等裁判所に即時抗告の申立てをすることができます。
2 調停・審判事件の実態  続いて、平成27年の統計を紹介しておきます。同年に、全国の家庭裁判所に新しく申し立てられた遺産分割調停の数は12,971件です。平成27年の死亡者数が約129万人ですので、概ねその1%にあたると言えます(平成27年に申し立てられた調停が、必ずしも同年に開始した相続に限るものではないため、単純な比較はできませんが。)。ちなみに、平成27年の死亡者のうち、相続税の申告において被相続人とされたのは103,043人(死亡者の約8%)です。
 また、平成27年に既済となった遺産分割調停13,121件のうち、成立したもの7,240件と調停に代わる審判がなされたもの(大方の相続人の間で合意形成がなされているのに一部の相続人が意思を表示しない場合等になされます。)1,546件を合わせると、約66%となります。一方、調停不成立(不調)となったのは1,352件で、全体の約10%です。その余は、取下げ等で終了した事件です。
 ごく大雑把に言うと、調停の6割ないし7割が解決し、1割が審判に移行しているということが読み取れます。
3 管轄裁判所  遺産分割の当事者や対象等については既に述べてきたところですので、ここでは、実務上問題になる点として管轄についてのみ触れておきます。
 実際に遺産分割調停を申し立てようという際に、当事者や代理人にとって重要になって来るのが、管轄裁判所はどこかという点です。
 家事調停は、相手方の住所地の家庭裁判所が管轄を有することになっています(家事事件手続法245条1項)。相手方が遠方に住んでいる場合、遠方の裁判所に申立てをし、その後、期日毎に当該裁判所に通わなければならないこととなり、申立人にとっては負担となります。
 このような場合に、遠方の裁判所に出向くことができない相当な理由があれば、管轄外の裁判所に申立てるとともに「自庁処理」(申立てを受けた裁判所が自ら処理すること)をしてもらえるよう上申するという選択肢も考えられます。また、管轄について当事者間で合意をするという方法もあり得ます。しかし、前者については相手方が反対の意見を述べ、後者についても協力を得られない可能性が高く、どちらも容易ではありません。
 より現実的な方法としては、本来一緒に申立人となってもよいような協力的な関係にある相続人を、敢えて相手方として申し立てるという方法が考えられます。すなわち、複数の相続人が近隣に住んでいて、敵対している相続人のみ遠方に住んでいるというような場合に、近隣に住む相続人の一部を相手方とすることで、近隣の裁判所に申立てることが可能となるのです。
 ただ、現在は、家事調停においても、電話会議システムを利用することが可能となっています。以前に比べると、遠方の裁判所に申立てることのデメリットは少なくなっていると言えます。
 なお、申立人にとって、相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する裁判所の方が都合がよいという場合に、審判の管轄が、調停と異なり、相続開始地にあることを利用して、敢えて調停を介さず審判を申し立てるというベテラン弁護士の話を聞いたことがありますが、現在この方法はおすすめできません。前述のとおり、審判を申し立てると通常は調停に付されるのが実務であり、家事事件手続法は、付調停となった場合に、原則として、調停事件の管轄を有する裁判所が処理する旨を定めているからです(274条2項本文)。
4 調停による柔軟な解決  最後に、調停と審判の違いという観点から、調停による解決を特に目指すべきケースについて触れておきます。
 一般的に、審判官が判断する審判に比べて、当事者間の話し合いによる解決を目指す調停の方が、柔軟な解決が可能であるのは容易に想像できるところです。とりわけ、以下に述べるとおり、代償金による解決を希望している当事者にとっては、調停により解決した方が望ましい結果が得られることが多いと言えます。
 審判で代償分割が命じられた場合、代償金の支払は現金による一括払いとなり、分割払いが認められません。調停であれば、分割払いにして、その代わりに遅延損害金を高く設定したり、担保権を設定したり、現金に代えて固有の財産を渡したり(課税の問題はありますが。)といった柔軟な解決が可能となりますが、審判ではこのようなことができません。
 また、対象の財産が抵当権付の物件であった場合も、審判を受けると厄介なことになります。審判では、相続債務を分割の対象とすることができないため、代償金についても債務を考慮しない金額とされてしまうからです。この場合、債務は法定相続分で各相続人が負担するため、代償金を支払う相続人の総負担額が増えるわけではありません。しかし、債務を全て自分が負担すると約束する場合に比べて、代償金の金額が大きくなるため、目先の出費がその分だけ増えてしまうのです。
 更に、審判では代償金の支払能力の証明を求められる点も、調停段階とは異なります。仮に支払能力を証明できず、代償分割が認められないことになると、換価分割(競売)が選択されることになる恐れもあります。「代償分割がダメなら共有にしてもらえばいい」と考える当事者もいますが、審判では、原則として、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の順に優先して分割方法が選択されますので、望みどおりに行くとは限りません。
 遺産分割で紛争化した場合、感情面が大きく、経済的な理由のみで判断できなくなる例は多いように思います。ですが、相続税に関してはもちろんのこと、上記のような理由においても、早期の解決を図った方がよいケースは多いというのが、弁護士として日々感じているところです。

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