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解説記事2019年06月10日 【税務マエストロ】 組織再編成の検討の実務(2)―税務担当者やアドバイザーが知っておくべきポイントと心構え(2019年6月10日号・№790)

税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
組織再編成の検討の実務(2)
―税務担当者やアドバイザーが知っておくべきポイントと心構え

#232 栗原宏幸(弁護士・税理士)

略歴 森・濱田松本法律事務所 パートナー。広島県呉市出身。広島学院高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒業。留学先の米国スタンフォード大学、ニューヨーク大学で国際税務を学ぶ。
国際税務、税務紛争、タックス・プランニングに精通。M&A、ファイナンス等の知識・ノウハウを生かし、法務・税務ワンストップの総合的なアドバイスを得意とする。

 前号では、税務当局が組織再編成の適格性を否認する根拠が、「適格要件を満たしていない」というものと「行為計算の否認規定に基づいて否認する」というものの二点であることを明らかにした。
 本号では、これらの二点について筆者の経験を踏まえて納税者やアドバイザーとして注意すべきポイントを具体的に説明する。ここでは、基本的な組織再編成の類型である合併、分割、株式交換、株式移転及び現物出資を念頭に説明している(脚注8)。

6 適格要件の充足性に関する留意点
(1)概要
 適格要件は、(a)100%支配関係のある企業グループ内の組織再編成の場合、(b)50%超100%未満の支配関係のある企業グループ内の組織再編成の場合、及び(c)共同事業を行うための組織再編成の場合の3パターンについて、それぞれ、組織再編成の各類型(合併、分割等)について横並びの要件となっている(表1「適格要件の概要」参照)。

(2)検討の際の留意点
(i)条文をよく読むこと 
 適格要件を検討する際の留意点は、「条文をよく読む」ということである。前号の2.の組織再編成の適格性の説明で述べた「移転資産の支配の継続性」という基本的な考え方は、あくまで適格要件がどのような考え方に基づいて設定されているのかを整理する視座に過ぎず、個々の条文の文言に即して適格要件の充足を検討する必要がある。コンセプトを理解していても、個々の要件の内容を正確に把握したうえで検討を行わなければ、税務の検討としては十分とはいえない。
 これは当たり前のことであるが、当たり前のことを行うのが実は難しいとよく言われるとおりであり、そのことは税務の検討においても妥当する。大丈夫だと思って条文をよくよく確認せずに進めてしまうと後で取り返しのつかない状況になってしまうので、基本に立ち返って条文をよく読む必要がある。
 以下、筆者の経験に基づいていくつか具体例を挙げる。
(ii)具体例①:横並びの要件であっても組織再編成の類型によって内容が異なる場合がある  まず、上記(1)で、組織再編成の各類型(合併、分割等)について横並びの要件となっていると説明したが、実際には完全な横並びではなく、組織再編成の類型によって要件の内容が異なることがある。
 例えば、合併の場合、④の「経営参画要件」は、被合併法人の常務クラス以上の「特定役員」が合併法人の特定役員になることが見込まれていることを要件としている(脚注9)。これに対し、分割の場合、分割法人の「役員等」が分割承継法人の特定役員となることが見込まれていることが要件とされており(脚注10)、分割法人の役付でない取締役であっても要件を満たすことができるとされている。
(iii)具体例②:同じ組織再編成の類型でも場面に応じて要件が異なる場合がある  また、同じ組織再編成の類型であっても、場面に応じて要件充足の判定方法が異なることがある。
 例えば、分割の場合、③の「事業関連性要件」と④の「事業規模要件」は、原則として、「分割法人が分割承継法人に承継させる事業(分割事業)」と「分割承継法人が分割前に行ういずれかの事業(分割承継事業)」の関係に基づいて判定するものとされている(脚注11)。
 しかし、複数の分割法人が同一の分割承継法人に事業を承継させる新設分割(複数新設分割)の場合には、例外的に「分割法人の分割事業」と「他の分割法人の分割事業」の関係に基づいて判定するものとされている(脚注12)。
 この取扱いの差異を押さえておくことは、ジョイント・ベンチャー(JV)を組成する際のプランニングにおいて極めて重要である。
 すなわち、事業会社A社とB社が共同で新設分割を行ってC社(JV)を新たに設立する場合(新設分割スキーム)、複数新設分割に該当するため後者の取扱いが適用され、「A社がC社に承継させる事業」と「B社がC社に承継させる事業」に基づいて事業関連性要件と事業規模要件を判定する。
 これに対し、事前にC社を少額の金銭出資で設立しておいて、その後にA社とB社からの各吸収分割でJVに事業を承継させるというスキーム(吸収分割スキーム)をとることがある。例えば、分割後のC社の事業に許認可等が必要であり、事業の移転前にC社による許認可等の取得が必要となる場合などである。
 この吸収分割スキームの場合、新設分割ではなく吸収分割を用いるため、複数新設分割には当たらず、前者の原則的な取扱いが適用される。その結果、事業関連性要件と事業規模要件は、A社・C社間の吸収分割について「A社がC社に承継させる事業」と「C社の分割前の事業」に基づいて判定し、B社・C社間の吸収分割について「B社がC社に承継させる事業」と「C社の分割前の事業」に基づいて判定することとなる。
 新設分割スキームと吸収分割スキームはいずれもC社をJVとして設立するスキームであり、最終的な出来上がりに実質的な違いはない。しかしながら、どの事業をみて事業関連性と事業規模要件を判定するのかが異なっている(表2「JV組成時の事業関連性要件と事業規模要件の判定方法」参照)。

 吸収分割スキームにおいてJV組成の局面に前者の原則的な取扱いを適用することには違和感があるものの、現行法の解釈としてはそのように解さざるを得ない。しかしながら、吸収分割スキームの場合、C社は設立して間もない会社であり、C社の事業と各吸収分割の分割事業の規模に大きな開きがあることも多く、事業規模要件の充足が困難な場合もある。この解決方法はいくつかあるが、いずれにせよ、条文をきちんと読まないとこの違いには気付くことができない。組織再編成の実務に習熟した専門家のアドバイスが必要となる一例と言えよう。
(iv)具体例③:「移転資産の支配の継続性」があるといえそうな場合であっても要件を満たせないことがある
 ほかにも、「移転資産に対する支配の継続性」という基本的な考え方に照らして考えれば要件を満たしてもおかしくないケースにおいて、適格要件を充足できないケースがある。
 例えば、分社型分割(脚注13)の場合、⑧の「株式継続保有要件」は、分割により交付される分割承継法人の株式の全部が分割法人により継続して保有されることが見込まれている場合に要件が満たされる(脚注14)。では、分割法人が分割承継法人株式をその完全子会社に移転することが分割時に見込まれている場合、株式継続保有要件を満たすことができるか。
 条文上、答えはNoである。条文の文言を忠実に解釈すれば、分割法人自らによる継続保有が見込まれていない以上は株式継続保有要件を満たすことはできないということになる。
 「移転資産に対する支配の継続性」という基本的な考え方に立ち返ると、完全子会社に株式を移転した後も分割法人はその完全子会社を通じて分割事業に対する支配を継続しているとみることは可能であり、この場合に株式継続保有要件を満たさないという帰結は不合理であるように思われる。しかしながら、現行法の文言解釈としては、完全子会社への株式の移転が見込まれている場合には株式継続保有要件を満たすことができないと考えておいた方が穏当であるように思われる(脚注15)。
(v)小括  以上のとおり、適格要件を検討する際には条文をよく読むことが必要である。
 また、組織再編成に限らないが、税法の要件の判定は私法上の法律関係に基づいて行われるため、その検討には関連する私法に関する知識が不可欠である。組織再編成は、民法、会社法、労働法といった様々な私法が交錯する分野であり、適格要件を検討する際には、組織再編成の法実務に精通した法律の専門家を検討に加えることが特に有益である。

7 行為計算の否認規定に関する留意点
(1)概要
 行為計算の否認規定とは、一定の条件の下で納税者の税務処理を否認する権限を税務当局に与える規定である。
 現在の法人税法上、行為計算の否認規定は、①同族会社等に係るもの(脚注16)、②組織再編成に係るもの(脚注17)、③連結法人に係るもの(脚注18)、④外国法人の恒久的施設帰属所得に係るもの(脚注19)の4つの規定が存在する。
 組織再編成に対しては②の組織再編成に係る行為計算の否認規定の適用がまず考えられるが、組織再編成の当事会社が同族会社である場合には①の同族会社等に係る行為計算否認の規定の適用も問題となる。この場合、両方の行為計算の否認規定についてそれぞれ適用可能性の検討を行う必要がある。
 以下では、②の組織再編成に係る行為計算の否認規定について概要を説明し、その検討に当たっての基本的な考え方を述べたい。
(2)組織再編成に係る行為計算の否認規定  組織再編成に係る行為計算の否認規定(法人税法132条の2)の適用要件は、大要、以下の通りである。
(ア)同条に基づく更正又は決定の対象となる法人が、合併、分割等の当事会社、その株主等であること。
(イ)同条に基づく否認の対象が上記(ア)の法人の行為又は計算であること。
(ウ)合併等に係る行為又は計算を容認した場合には「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」こと。
 これらの要件のうち主に問題となるのは(ウ)の要件(いわゆる不当性の要件)である。
 ヤフー事件最高裁判決(脚注20)によれば、法人税法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かは、当該法人の行為又は計算が、組織再編成に関する税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうとされている。また、その濫用の有無の判断に当たっては、「通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか」、「税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか」等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編成に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するとされている。
 そして、ヤフー事件最高裁判決を担当した最高裁判所調査官によれば、「税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか」については、租税回避以外の事業目的等が存在するか否かのみを基準とする考え方ではなく、行為・計画の不自然さ(異常性・変則性)の程度との比較や税負担の減少目的と事業目的との主従関係に鑑み、「行為計算の合理性を説明するに足りる程度の事業目的等が存在するかどうか」という点を考慮するものとされている(脚注21)。
(3)検討の際の留意点(脚注22)
 上記(2)の説明から明らかなように、法人税法132条の2の適用は「不当」という抽象的な要件をどのように解釈するかにかかっている。
 ヤフー事件最高裁判決は、組織再編成に関する税制に係る各規定の濫用があった場合に「不当」に当たるという枠組みを示すとともに、濫用の判断において重視される主要な要素を示した。しかしながら、それでもなお「組織再編成に関する税制に係る各規定の濫用」があるかについて、事前に確度の高い検討を行うことは容易ではない。
 もっとも、これまでの否認事案を見る限り、税務当局が行為計算の否認規定を適用して否認しようとする場合とは、基本的に、組織再編成を行う事業上の理由が希薄である中で繰越欠損金を活用するために組織再編成が利用されるなど、税務当局が「けしからん」と考える場合であるといえるように思われる。これに対し、スキーム全体に事業上の正当な理由があり、スキームの中で組織再編成を用いたことが節税以外の理由で説明できるようなケースについては、税務当局が行為計算の否認規定を持ち出して否認しようとする蓋然性は高くないように思われる。
 そのため、組織再編成のプランニングにおいては、具体的な事実関係を踏まえて税務当局が納得できるようなストーリーが描けるかを検証する作業が不可欠である。そしてそれには、税務担当者だけでなく、事業サイドからのインプットが必要であり、そのインプットを踏まえて最終的にどのような全体像を描けるのかについて、専門家も交えて慎重に検討を行う必要があろう。
 また、筆者の経験上、税務当局が「けしからん」と思うかどうかは、節税のためだけに組織再編成を行うことにしたかのような印象を与える資料や、要件を充足するために無理をして事実を作り上げたことを覗わせる資料が税務調査で調査官の目に触れるかどうかによるところが大きいように思われる。これらの資料には、役員会のような議事録だけではなく、税務担当部署やアドバイザーによる検討資料、担当者のメールや手控え等も含まれる。
 筆者の経験上、取引を行う事業上の理由等を正面から記述した資料が作成される機会は多くないのに対し、税務上の検討については、その性格上、多数の資料が作成されることが多い。そうすると、真実は十分な事業上の理由があり、節税目的はその事業上の理由を大前提として従たる検討事項として行われたにすぎない事案であっても、税務の検討資料しか調査官の目に触れないとなると、行為計算の否認規定の適用が現実味を帯びることとなる。
 このような事態を回避するためには、プランニングの段階から税務調査を視野に入れた資料作りを行う必要があるが、筆者の経験上、その辺りを意識したプランニングを行っている納税者は少ないように思われる。
 組織再編成のプランニングを行う際には、プランニングだけでなく税務調査の実務にも精通した専門家を初期段階から関与させて「戦略的な証拠化」を行うことが、この行為計算の否認規定の適用リスクを減らす最も効果的な方法であるといえよう(脚注23)。

8 結 語  組織再編成が事業の活性化や会社の集中と選択等のために有用なツールであることは改めていうまでもないが、税務の検討が不十分であったためそれ自体が税務リスクになってしまっては元も子もない。
 本稿は、会社が攻めの組織再編成を行うために税務担当者やアドバイザーがどのような点に気を付けるべきかについて、筆者の経験を踏まえて述べた。本稿が税務担当者等の検討の一助になれば幸いである。

脚注
8 なお、分割については、事業のスピンオフのために行われる分割に関する適格要件が別途設けられている。また、スクイーズアウトのために行われる株式売渡請求等については、50%超100%未満の支配関係のある企業グループ内の組織再編成の場合の適格要件と同等の要件を満たした場合に適格組織再編成となるものとされている。
9 法人税法施行令4条の3第4項2号
10 法人税法施行令4条の3第8項2号
11 法人税法施行令4条の3第8項1号・2号
12 法人税法施行令4条の3第8項1号・2号
13 分割により分割法人が交付を受ける対価が分割法人の株主に交付されない分割等をいう(法人税法2条12号の10)。
14 法人税法施行令4条の3第8項6号ロ
15 ⑥の「従業者引継要件」や⑦の「事業継続要件」については、平成30年度税制改正により、組織再編成の後に合併法人等が完全支配関係のある他の法人に従業者や事業を移転することが見込まれている場合にも要件を満たすものとする改正が行われた(法人税法施行令4条の3第4項3号・4号等)。同様の措置を株式継続保有要件について設けることも立法論としては検討に値する。
16 法人税法132条
17 法人税法132条の2
18 法人税法132条の3
19 法人税法147条の2
20 最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁
21『最高裁判所判例解説 民事篇 平成28年度』108-109頁(法曹会、2019)
22 本(3)で記載した留意点については、組織再編成に係る行為計算の否認規定だけでなく、他の行為計算の否認規定の適用を検討する場合にも一般に妥当すると考えてよい。
23 ここで説明しているのは、あくまでプレゼンテーションの問題であり、税務調査用に虚偽の事実を記載した資料を残しておくことを推奨するものではない。

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