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解説記事2023年02月20日 特別解説 報酬依存度に関する規定と中小規模の監査法人(2023年2月20日号・№967)

特別解説
報酬依存度に関する規定と中小規模の監査法人

はじめに

 前回の本稿でも取り上げたが、公認会計士が遵守すべき倫理規則が日本公認会計士協会によって改正され、2022年7月25日付で公表された。
 この改正により、前回の本稿でも取り上げたように、倫理規則の体系や構成の整理が行われたほか、国際会計士倫理基準審議会(IESBA)が制定する国際的な倫理規程の規定に足並みをそろえる形で、多くの規定が新たに導入された。本稿では、今回追加された規定のうち、報酬依存度に関する規定について取り上げ、これらの規定が主に我が国の中小規模監査法人に与える可能性がある影響について考えてみることとしたい。
 なお、以下の文章で引用している項番号は、すべて改正後の倫理規則のものである。

報酬依存度の計算方法

 特定の依頼人(被監査会社)に関する報酬依存度の具体的な計算方法は、倫理規則実務ガイダンスの「倫理規則に関するQ&A」のQ410−5−4に定められている。「報酬の依存割合の計算は具体的にはどのように行えばよいですか。」という問いに対する回答は、以下のとおりである。
 この報酬の依存割合(報酬依存度:監査意見を表明する会計事務所等の総収入のうち、特定の依頼人からの総報酬が占める割合)の計算は、次のように行うことが適切である。

 さらに、「解説」として、次のような説明が加えられている。
 分母とする会計事務所等の総収入は、専門業務に係る継続的収入の総額とするが、会計事務所等を開業している公認会計士個人がIESBA(国際会計士倫理審議会)の倫理規程が想定している職業会計士(Professional Accountants)としての業務(Professional Activity)を兼業している場合には、これらに係る収入を含む。なお、IESBAの倫理規程が想定している職業会計士としての業務は、会計、監査、税務、経営コンサルティング及び財務管理を含む、職業的専門家の会計その他の関連する技能を必要とする活動であり、これには、公認会計士が兼業している税理士業務や不動産鑑定士業務等及び会社法に基づく会計参与等の業務等が含まれる。
 また、監査法人の場合は、社員が個人で実施している公認会計士法第2条第2項業務に相当する業務(いわゆる監査業務以外の非監査業務。公認会計士法第34条の14において禁止されている競業に該当しない場合)、IESBAの倫理規程が想定している職業会計士としての業務と考えられる税理士業務(監査法人と支配関係にある税理士法人の収入を含む。)や不動産鑑定士業務等及び会社法に基づく会計参与等の業務に係る収入がある場合にはこれを含む。なお、分子とする特定の依頼人及び依頼人の関連事業体から会計事務所等が受け取る報酬の範囲は、分母と同様とするとされている。
 報酬依存度計算の算式の分子にある「関連事業体(related entity)」とは、倫理規則で次のように定義されている(下線は筆者)。

依頼人(被監査会社)との間に、次のいずれかの関係を有する事業体
(1)依頼人を直接的又は間接的に支配する事業体。ただし、依頼人がその事業体にとって重要である場合に限る。
(2)依頼人に対し、直接的な金銭的利害を有する事業体。ただし、その事業体が依頼人に対し重要な影響力を有し、依頼人に対する利害がその事業体にとって重要である場合に限る。
(3)依頼人が直接的又は間接的に支配している事業体。
(4)依頼人又は依頼人と上記(3)の関係にある事業体が直接的な金銭的利害を有することにより重要な影響力を及ぼす事業体。ただし、依頼人及び依頼人と上記(3)の関係にある事業体にとって、当該金銭的利害が重要である場合に限る。
(5)依頼人と共通の事業体によって支配されている事業体。ただし、この事業体と依頼人が、ともに両者を支配する事業体にとって重要である場合に限る。

 なお、R400.20項で規定されているとおり、監査業務の依頼人に含めて独立性が求められる関連事業体の範囲は、次のとおりである。
(1)依頼人が上場事業体である場合
 特に記載のない限り、上記(1)から(5)までの全ての関連事業体が含まれる。
(2)依頼人が上場事業体以外の場合
 関連事業体のうち、上記(3)の依頼人が直接的又は間接的に支配している事業体をいう。
(以下略)
 「支配」や「重要な影響力」という用語が使われていることもあり、被監査会社が連結対象とする子会社や親会社、持分法を適用する関連会社等をイメージすればよいと思われる。 
 被監査会社そのものから収受する監査報酬はそれほど多額ではなかったとしても、当該被監査会社が親会社や子会社、関連会社等を多く有しており、それらの会社の監査業務も受嘱している場合には、分子の総報酬が大きくなり、報酬依存度も上昇するため、留意することが必要である。

報酬依存度に関する新たな倫理規則

 報酬依存度に関する倫理規則はセクション410に定められており、会計事務所等所属の会員(公認会計士)で、かつ監査及びレビュー業務における独立性に関する規定である。
 特定の監査業務の依頼人(被監査会社)に対する報酬依存度(具体的な計算方式は前記参照)が高い割合を占める場合、依頼人からの報酬を失うこと等への懸念は、自己利益という阻害要因の水準に影響を与え、不当なプレッシャーという阻害要因を生じさせる(410.14A1)。なお、「自己利益」とは、金銭的その他の利害を有していることにより、公認会計士の判断又は行動に不当な影響を与える可能性があることをいう。
 監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体(PIE)の場合、会計事務所等は、2年連続して、社会的影響度の高い事業体である特定の監査業務の依頼人に対する報酬依存度が15%を超える場合又は超える可能性が高い場合には、2年目の監査意見を表明する前に、会計事務所等の構成員ではない会員(公認会計士)による監査業務に係る審査と同様のレビュー(「監査意見表明前のレビュー」)が、阻害要因を許容可能な水準にまで軽減するためのセーフガードとなり得るかどうかを判断し、セーフガードとなり得ると判断した場合は、その対応策を適用しなければならないとされている(R410.18)。
 また、それに加えて、会計事務所等は、報酬依存度が2年連続して15%を超えるか、超える可能性が高い場合には、一定の開示を行うことが要求されている(R410.31(4))。
 さらに、報酬依存度が5年連続して15%を超えるか、超える可能性が高い状況が継続する場合には、5年目の監査意見の表明後に監査人を辞任しなければならないという規定までが今回新たに導入された(R410.20)。この規定は冒頭に「R」が付いていることから「要求事項(Requirement)」であり、これを行わなかった場合には倫理規則違反となる(以下では「5年辞任規定」という。)。
 この「5年辞任規定」の例外として、公共の利益の観点からやむを得ない理由がある場合、例えば、依頼人の事業の内容及び所在地に鑑みて、現実的に監査業務を代替できない他の会計事務所等が存在しないような場合(410.21A1)等が挙げられているが、上場会社等のPIEの場合に、これらの例外規定に該当するような事例があるかどうかは疑わしい。
 ちなみに、監査業務の依頼人がPIEではない場合には、報酬依存度が5年連続して30%を超えるか、超える可能性が高い場合のセーフガード(監査意見表明前のレビュー又は監査意見表明後のレビュー)の適用が求められる(R410.15)。

5年辞任規定が導入されることによる中小規模監査法人への影響

 改正倫理規則は、原則として2023年4月1日から施行するとされているが、報酬依存度が5年連続して15%を超えるか、超える可能性が高い状況が継続する場合には、5年目の監査意見の表明後に監査人を辞任しなければならないといういわゆる「5年辞任規定」が導入されたことによる、中小規模監査法人への影響について考えてみたい。
 日本公認会計士協会が2021年12月10日に公表した「監査実施状況調査(2020年度)」によると、金融商品取引法監査(個別のみ、連結あり)の監査報酬額の平均は、表1のとおりであった(上場会社の監査は、金融商品取引法監査に該当する)。

 さらに、「連結あり」の金融商品取引法監査について、被監査会社の売上高の区分別に1社当たり報酬平均額を示すと、表2のとおりであった。なお、監査実施状況調査では、表2の区分のほかに、売上高が「1,000億円以上5,000億円未満」、「5,000億円以上1兆円未満」及び「1兆円以上」の区分があるが、本稿が対象とする中小規模監査法人の被監査会社に、そのような規模の会社は少ないと考えられることから省略した。

 連結子会社等が存在せず、連結財務諸表の作成を行わない会社の場合であっても、金融商品取引法に基づく監査の場合には、四半期レビュー、財務報告に係る内部統制の監査や有価証券報告書における開示の監査などが要求されることから、監査報酬は15,000千円から20,000千円、連結財務諸表を作成する会社の場合には、企業の売上高の規模に関わらず、概ね20,000千円を上回る水準となることが分かる(被監査会社と併せて連結子会社の監査も受嘱する場合には、連結子会社(関連事業体)から収受する監査報酬も分子に加算されるため、報酬依存度を上昇させる要因となる)。
 単純計算ではあるが、ある特定の被監査上場会社から収受する監査報酬が15,000千円である場合、報酬依存度が15%を超過しないためには、監査法人(会計事務所)として1億円以上の収入(監査報酬と非監査業務報酬等の合計)が必要となる。
 さらに、監査報酬が22,500千円であったとすると、報酬依存度が15%を下回るために必要となる監査法人の収入は1億5,000万円となる。
 日本公認会計士協会が運営管理する上場会社監査事務所名簿には、2022年12月末日現在、監査法人(個人の公認会計士事務所を含む)が129法人登録されているが、このうち、売上高(監査業務収入と非監査業務収入の合計)が1億円を下回るのは30法人、1億5,000万円を下回るのは46法人あった。
 上記は、各監査法人が日本公認会計士協会に提出し、上場会社監査事務所名簿で開示されている「業務及び財産の状況に関する説明書類(説明書類)」に記載された直近期の売上高を基にしたものであり、概算による推計値の域を出ないが、報酬依存度に関する「5年辞任規定」が中小規模監査法人に与える影響の大きさを伺い知ることができると思われる。
 上場企業の直近の有価証券報告書(会計監査の状況)と各監査法人の直近の説明書類(売上高)を基に、現時点において報酬依存度が15%を超過していると考えられる主な企業と会計監査人(監査法人)を列挙すると、表3のとおりであった。なお、これは知名度の高い主要な企業を筆者が任意にピックアップしたものであり、報酬依存度が15%を超過していると考えられる事例をすべて網羅しているわけではないことにご留意頂きたい。

 表3で列挙した企業は、いずれも現任の監査法人が5年以上継続して監査を実施している。ここ数年は4大監査法人が主に中堅上場企業や会計上の不祥事を起こした上場企業等との監査契約を次々に解除して、設立からまだ日が浅い中小規模監査法人がこれらの企業の会計監査の受け皿となっている事例が散見されるが、このような場合には、5年間の猶予期間があるとはいえ、報酬依存度が15%を超過する事例が少なくないであろうと推測される。

終わりに

 わが国の上場企業の監査マーケットにおいては、新日本、あずさ、トーマツ及びあらたの4大監査法人による寡占の状態が長く続いてきたが、ここ2、3年の間に4大監査法人が主に中堅や新興の上場被監査会社との監査契約を解除し、後任の会計監査人として準大手監査法人や中小規模監査法人が選任される事例が急速に増えてきた。なかには、設立後間もない中小規模監査法人が、上場企業の監査業務を受嘱するような事例も見られる。
 これを受けて、規制当局である金融庁、業界団体である日本公認会計士協会や関係者は、中小規模監査法人が上場企業の監査を適切に担ってゆけるように、様々な支援のための施策を打ち出すとともに、これまでは主に大手監査法人の適用を念頭に置いていた監査法人のガバナンス・コードを、中小規模監査法人が適用しやすいようにするための改訂作業を行っている。
 わが国における中小規模監査法人のプレゼンスが増大し、それらの法人の基盤整備を、公認会計士業界全体を挙げて本腰を入れて進めようとしていた矢先に、「5年辞任規定」が導入されることによる影響は決して小さくないと思われる。
 EY新日本、トーマツ、あずさ及びあらたの4大監査法人は、監査業務に加えてコンサルティング、税務等のいわゆる非監査業務をそれなりの規模で行っており、これは分母の「会計事務所等の総収入」に加算されるため、特定の被監査会社への報酬依存度を引き下げる効果がある。しかしながら、一般的に言って、中小規模監査法人の場合は上場会社の監査業務を業務の中心に据えている場合が多く、非監査業務収入の規模は小さい。したがって、この意味からしても、「5年辞任規定」が中小規模監査法人に与える影響は大きくなりやすい状況にあると言えよう。
 もしかすると、改正後の倫理規則の施行から5年を待たずに、本稿で取り上げたような上場会社は会計監査人の交代を検討するかもしれない。一方、5年辞任規定が適用されかねないような中小規模監査法人は、強制的な辞任を回避するために、少々無理をしてでも売上高の上積みや、他の監査法人との合併等を検討する可能性がある。あるいは、被監査会社に提示する監査報酬額を引き下げて、規定に抵触することを回避しようとする可能性もないとは言えない。いずれにしても、これらの現象は、監査の品質の劣化を通じて会計監査に対する利害関係者の信頼を大きく毀損する可能性があり、決して望ましいこととは言えないであろう。
 しかしながら、ここ数年のうちに、上場企業の監査を担いきれなくなった中小規模監査事務所の統合や淘汰が一気に進む可能性も否定できない。「5年辞任規定」は会計監査業界再編のきっかけの一つとなる可能性を秘めていると思われる。

参考文献
倫理規則(2022年7月25日最終改正。日本公認会計士協会)
「倫理規則改正及び倫理規則実務ガイダンスについて」 研修資料(2022年10月14日 日本公認会計士協会)
倫理規則の改正概要 研修資料(2022年10月31日 日本公認会計士協会)
倫理規則の改正とこれからの公認会計士の職業倫理のあり方について 第43回研究大会(2022年9月15日 日本公認会計士協会)
監査実施状況調査(2020年度) 日本公認会計士協会(2021年12月10日)

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