解説記事2024年11月11日 巻頭特集 東京高裁令和6年8月28日判決・仙台薬局事件(2024年11月11日号・№1050) ~M&Aや事業承継の実務に与える影響と課税リスクの視点から~
巻頭特集
東京高裁令和6年8月28日判決・仙台薬局事件
~M&Aや事業承継の実務に与える影響と課税リスクの視点から~
弁護士法人北浜法律事務所 弁護士・税理士 安田雄飛(元国税審判官)
Ⅰ はじめに
本件は、非上場企業のM&Aの準備過程で、株式の譲渡予定価格について法的拘束力のない基本合意が成立した直後にオーナーが死亡し、その約1か月後、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)の定める方法により評価した価額(以下「通達評価額」という。)を上回る価額で譲渡した場合に、課税庁が、当該株式の相続税評価について、評価通達6(以下「総則6項」という。)を適用し、通達評価額を上回る鑑定評価額により更正処分等を行った事案である。
相続等により取得した財産の「時価」(相続税法22条)については、課税実務上、評価通達の定める方法による画一的な評価が行われているが、総則6項は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定めている。
不動産の評価について、課税庁が総則6項を適用して通達評価額を上回る鑑定評価額により行った更正処分等の適否について判断を示した重要判例として、最判令和4年4月19日民集76巻4号411頁(脚注1)(以下「令和4年最判」という。)がある。令和4年最判は、多額の借入れを伴う不動産の購入により相続税の負担が著しく軽減され、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったといえることから、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるとし、更正処分等を適法と判断した。
他方、本件は、不動産ではなく、取引相場のない株式の評価が問題となった点、及び、相続開始前に相続税負担を軽減させるような行為が見当たらない(そもそも国が主張していない)点において、令和4年最判と事案が異なる。
本件の第一審判決(東京地判令和6年1月18日LEX/DB25598705(脚注2)、以下「第一審判決」という。)及び控訴審判決(東京高判令和6年8月28日LEX/DB25620971(脚注3)、以下「本判決」という。国が上告をしなかったため確定。)は、課税庁が総則6項を適用して行った更正処分を令和4年最判後初めて取り消した事例として注目を集めている。本判決は、令和4年最判との上記の事案の違いに着目し、取引相場のない株式について、M&Aなどにおける取引価格が時価を反映しているとは限らないという考え方に基づいて判断を示した点が最大の特徴であるといえる。この判断に対しては異論もあるかもしれないが、これまでの課税実務や下級審裁判例の考え方に従ったものであり、本判決は、総則6項事案で取引相場のない株式の特徴に着目した判断を示した点で、むしろ実務的には非常に意義のある判断事例だといえよう。
以下、第一審に至る経緯(下記Ⅱ)と本判決の概要(下記Ⅲ)を紹介した上で、令和4年最判の判断枠組みを踏まえ、本判決の判断のポイントについて令和4年最判や第一審判決とも対比しつつ解説するとともに、本判決の意義と残された課題について、M&Aや事業承継の実務に与える影響も含め考察する(下記Ⅳ)。
Ⅱ 本件の事実経過
1 X社は、薬局の経営、医薬品の製造及び販売を目的とする非上場会社である。
A(以下「本件被相続人」という。)は、X社の代表取締役であり、「カリスマ的なオーナー」であった。
X社の発行済み株式は、本件被相続人のほか、本件被相続人の妻であるB、子であるC及びD並びに非同族の取締役らが保有していた。
2 平成26年1月以降、本件被相続人と医薬品卸売を主な事業内容とするY社との間でX社株式の売却等に関する協議が進められ、同年2月28日、両者の間で譲渡予定価格等について基本合意が成立したが、最終契約に至る前に、本件被相続人は、同年6月11日に死亡した。その後、その相続人がY社との間で株式譲渡契約(最終契約)を締結し、X社株式の全部がY社に対して譲渡された。その経緯の概要は前頁表のとおりである。

3 本件相続株式は評価通達においては大会社の株式に該当するところ、本件相続人らは、本件相続株式の価額につき、評価通達179(1)、180の定めに依拠して類似業種比準価額によって1株当たり8186円(以下「本件通達評価額」という。)と評価して相続税の申告を行った。
これに対し、課税庁は、大手アドバイザリーZ社から取得した株式価値算定報告書に基づき本件相続株式の価額を1株当たり8万0373円(以下「本件算定報告額」という。)と評価することが適当であるとして総則6項を適用し、C及びDに対し、更正処分等(以下「本件各更正処分等」という。)をした。
C及びDは本件各更正処分等を不服として、再調査請求及び審査請求を経て本件訴訟を提起した。
第一審判決は、令和4年最判の判断枠組みに依拠し、本件において実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(脚注4)はないとして原告らの請求を認容して本件更正処分等を取り消したため、国が控訴した。
Ⅲ 本判決の判示
本判決も、令和4年最判の判断枠組みに依拠し、本件において実質的な租税負担の公平に反するというべき事情はないとして控訴を棄却した。ただし、本判決は、第一審判決のうち、令和4年最判の射程や法令解釈に関する一般論、本件への当てはめについて説示した部分は全面的に補正した。補正後の内容は以下のとおりである。
① 「控訴人は、本件において評価通達6を適用すべき根拠として、本件相続株式につき、本件通達評価額と本件相続開始日における交換価値との間に著しいかい離があり、被控訴人らがそのことを十分に認識することは可能であった旨主張する。
しかし、取引相場のない株式の交換価値は、本来、専門的評価を経ない限り判明し得ないものであって、(現に、控訴人は、Z社に評価を委託している。)、外形的事実によって取引相場のない株式の交換価値を合理的に推測することが可能であるとは必ずしもいえない。とりわけ、M&Aが行われる場合においては、高度な経営判断や双方の交渉の結果等により株式の売買代金が決定されるのであって、売買代金が交換価値を反映しているとは限らないというべきである。
このことは、結果的に、専門的評価により交換価値と評価通達180に定める類似業種比準価額とのかい離の程度が著しいと判定された場合においても変わらないのであって、本件相続株式について、譲渡予定価格(10万5068円)と本件算定報告額(8万0373円)が比較的近く、これらが本件通達評価額(8186円)と大きくかい離しているからといって、更正処分の時点にさかのぼって、譲渡予定価格が交換価値を反映したものであるとして、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(特段の事情)が存在していたということにはならない。
そして、評価通達6の適用に当たり、上記かい離の有無を公平に判断するためには、他の相続案件も含め、取引相場のない株式その他市場性のない相続財産の全てについて、専門的評価を行うべきであって、合理的な理由がないのに、特定の相続財産のみについて専門的評価を行い、これを基にして課税処分を行うことは、平等原則に反するものというべきである。」
② 「控訴人は、取引相場のない株式について、売買契約が成立し、その所有権が買主に移転する前に、当該株式の所有者である売主が死亡した場合、売主の相続財産は売買代金債権になり、その価額は原則として売買相金額〔原文ママ〕で評価される(最高裁昭和56年(行ツ)第89号同61年12月5日第二小法廷判決・訟務月報33巻8号2149頁参照)とした上で、相続開始時に売買契約成立に至っていなかったとしても、近い将来売買契約が成立し、売買代金債権に転化する蓋然性が高い場合には、当該株式の価値が現実的に実現する蓋然性が高いものとして、当該株式の価値としては、その売買代金相当額が一つの基準になり得るところであるとも主張する。
しかし、上記最高裁判決は、農地の売買契約が成立し、代金の相当部分の履行があったという場合において、農地法所定の要件が具備される前であっても、相続財産は売買残代金債権である旨判断したものであって、本件のように、売買契約が未だ成立していない場合とは明らかに状況を異にするというべきである。すなわち、売買契約が成立していない状況において上記のような蓋然性を判断するためには、中間合意の存在・内容、想定される売買契約の内容、契約を締結しようとした動機・目的、交渉経過、当事者の関係、契約締結前の仮の履行行為の有無・内容等、種々の事情を考慮する必要があり、信義則や権利濫用のような一般条項以外の場面でこのような不明確な基準によることは不適切であるといわざるを得ない。さらには、控訴人は、当該株式の価値は売買代金相当額に反映されていると主張するもののようであるが、そのこと自体、専門家による判定を経ない限り明らかであるとはいえないし、とりわけ、非上場会社の買収においては、上場会社と比較して個別性が強いため、買収価格が交換価値を反映しているという経験則が存すると直ちにいうこともできない。
したがって、控訴人の主張するような、近い将来における売買契約の成立及び売買代金債権への転化の蓋然性の程度を基準にすることは適切でない。
なお、仮に、上記蓋然性の程度を基準とすることが許容されると解したとしても、本件相続開始日において、被控訴人らとY社との間で本件相続株式の売買契約が成立し、譲渡予定価格による売買代金債権に転化する蓋然性が高かったと認めることはできない。……」
③ 「最高裁令和4年判決は、評価通達6の適用の有無に当たり、被相続人が、相続税の負担を減じ又は免れさせる行為をしたことを考慮しているところ、本件被相続人及び被控訴人らによるこれに類する行為があったとは認め難い。……
そして、譲渡予定価格が、その時点で相続が発生した場合における評価通達180による評価額を大きく上回るものであったことは、本件の経過に照らし明らかであるから、本件基本合意は、本件被相続人の生存中に売買契約が成立した場合、代金債権に転化し、又は代金が支払われることによって、相続税の負担を増大させる可能性を有するものであり、相続税の負担を減じ、又は免れさせるという効果は存しない。
本件被相続人又は被控訴人らが、相続税の負担を減じ、又は免れさせる行為をしたと認めることができない以上、本件被相続人又は被控訴人らの行為に着目した場合に、他の納税者との関係で不公平であると判断する余地はない。……」
④ 「控訴人は、本件売却価格が本件相続株式の客観的交換価値を反映したものであるとも主張するが、そのようなことは、相続開始時における交換価値について専門家による判定を行わない限り認定し得ないものであることは、前記説示のとおりであり、評価通達6を適用すべき特段の事情に該当するとはいえない。」
⑤ 「当審における控訴人の主張のうち、評価通達6の適用に当たり、租税回避行為があることは要件とならないとする点については、当裁判所はそのような要件が存するものと説示しているものではないから、同主張に対する判断の必要はない。」
⑥ 「以上のとおり、本件相続において、本件被相続人及び被控訴人らについて、評価通達の定める方法と異なる方法によって本件相続株式を評価すべき特段の事情は見当たらないから、本件相続株式の価額については、本件通達評価額によって定められるべきである。」
Ⅳ 解 説
1 令和4年最判の判断枠組みと「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の位置付け
本判決は、取引相場のない株式についても、第一審判決と同じく、令和4年最判の判断枠組みに依拠して判断をした。不動産以外の財産についても令和4年最判の判断枠組みが妥当することはもともと想定されていたことである(脚注5)が、最初に、令和4年最判の判断枠組みと「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の位置付けについて改めて確認しておきたい。
令和4年最判は、課税庁が特定の者の相続財産の価額についてのみ通達評価額を上回る価額によることの適否について、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、平等原則に違反するものとして違法となるとしつつ、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合は通達評価額を上回る価額による合理的な理由があると認められ、平等原則違反とならないとした。その上で、当該事案においては、相続開始前に行われた多額の借入れによる不動産の購入により相続税の負担が著しく軽減されることになり、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったといえることから、上記事情があるとした。このように令和4年最判が税負担軽減行為(脚注6)に着目して平等原則違反の例外について判断したのは、そのような行為をした者が同様の行為によらずに類似の不動産を相続する他の納税者と別異に取り扱われることには合理的な理由があり、また、租税負担の軽減の意図を考慮要素とすることで予測可能性も確保されるためであると解される(脚注7)。
他方、令和4年最判が、相続開始前の税負担軽減行為が上記事情に当たるとした判示は、本件事案に即した事例判断であって(脚注8)、税負担軽減行為がない限り上記事情が認められないとしたものではない。
税負担軽減行為以外にどのような事情が「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たるのかについては、その表現やこれが平等原則の例外として位置付けられるものであることからすると、通達評価額によることが他の納税者との間の租税負担の均衡を害することになる事情に限られると考えられる(脚注9)。例えば、令和4年最判は、当該事案における不動産の評価について通達評価額と(原審において時価であると認められた)鑑定評価額との間に大きなかい離があるということをもって上記事情があるということはできないとしたところ、その理由は、客観的な交換価値としての時価は一義的なものではなく、その評価方法も複数あり得るところ、評価方法が異なれば、それぞれの方法が合理的であっても評価額に違いが生ずるのは当然であり、同様のかい離は類似の不動産にも広く存在し得るため、これを相続する潜在的な他の納税者と同じく通達評価額によったとしても租税負担の均衡を害することにはならないというところにあると考えられる(脚注10)。これと同様に、潜在的な他の納税者が相続する財産にも広く存在し得る事情は「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たらないということになろう。
また、令和4年最判が租税負担の軽減の意図を要求した理由が納税者の予測可能性の確保にあると解される(脚注11)ことも踏まえると、上記事情の有無の判断に当たっては、納税者の予測可能性をも考慮する必要があると考えられる。
以上を踏まえ、本件における上記事情の有無に関する本判決の判示とその意義について検討する。
2 本件における「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の有無
(1)取引相場のない株式の通達評価額と鑑定評価額・売却価格とのかい離について
本判決は、本件相続株式の通達評価額と客観的な交換価値との間に著しいかい離を前提として相続開始時に客観的な交換価値を反映した譲渡予定価格(=本件売却価格)が明らかになっていた旨をいう国の主張に対し、結果的に専門的評価(鑑定評価額)により交換価値と通達評価額とのかい離の程度が大きく、譲渡予定価格(=本件売却価格)が交換価値を反映したものであったとしても、これらのことは専門的評価を経ない限り判明し得ないものであり、合理的な理由がないのに、特定の相続財産のみについて専門的評価を基にして課税を行うことは、平等原則に反するものというべき旨を判示した(上記Ⅲ①)。
この本判決の判示は、結論において通達評価額と鑑定評価額のかい離をもって専門的評価(鑑定評価額)に基づく課税を行うことが許されないとする点で令和4年最判と共通するが、その理由として、評価方法の差異によるかい離が広く存在し得ること(上記1)ではなく、取引相場のない株式については専門的評価によらずに外形的事実により客観的な交換価値を把握することが困難であることを挙げた点で令和4年最判と異なっている。本判決があえて令和4年最判と異なる理由を挙げたのは、令和4年最判で問題となった評価の対象が、一定の市場が形成される不動産であり、客観的な交換価値が把握しやすいものであったのに対し、本件で問題となった評価の対象が、取引相場のない株式であり、専門的評価を経ない限り、取引事例等の外形的事実により客観的な交換価値を把握することが困難なものであるという違いに着目したものであろう。取引相場のない株式についても、通達評価額と(時価と認められる)鑑定評価額との間に評価方法の差異による大きなかい離が広く存在し得る点は不動産と同様に当てはまるから、あえて異なる理由を持ち出さなくとも上記と同じ結論を導くことができたと考えられるが、取引相場のない株式について、取引事例における取引価格とのかい離をもって専門的評価に基づく課税を行うことが許されないことをより強調する意味があると思われる。
この点に関し、第一審判決は、売却対象物が(非上場の)同族会社の発行済み株式全部であり売買されにくい性質の財産であったこと、本件売却価格が長年の取引先との間でシナジーを考慮して算定・提示された価格であり、他に同額程度の購入価格を提示した候補者もいなかったこと等、本件における個別事情を考慮して、本件売却価格(及び本件算定報告額)が客観的な交換価値を反映したものとはいえないとしていた。また、過去には、取引相場のない株式が取引先に通達評価額に近い価額で譲渡された場合に、前年中に銀行3行などに通達評価額の10倍以上の価額で売却されていたことから、課税庁がそれらの売却価額の平均額によりみなし贈与課税を行った事案で、「仮に他の取引事例が存在することを理由に、評価通達の定めとは異なる評価をすることが許される場合があり得るとしても、それは、当該取引事例が、取引相場による取引に匹敵する程度の客観性を備えたものである場合等例外的な場合に限られる」とした上で、上記の銀行等への取引事例はその程度の客観性を備えたものではないから通達評価額を上回る価額によることはできないとした裁判例(東京地判平成17年10月12日税資255号順号10156(脚注12))がある。これらの裁判例は、相続開始前に判明していた通達評価額とかい離する売却価格が結果的に客観的な交換価値を反映したものであると認められた場合には、通達評価額を上回る価額により課税することが許される余地があるかのようにも読めるものであった。しかし、令和4年最判の考え方によれば、取引相場のない株式の通達評価額と実際の売買価格とのかい離は、他の潜在的な納税者の相続においても広く存在し得るから、そのかい離をもって特定の相続財産についてのみ通達評価額を上回る価額によることは、たとえ当該売買価格が客観的な交換価値を反映したものであったとしても許されないと考えられる(脚注13)。本判決も、仮に結果的に専門的評価(本件算定報告額)により譲渡予定価格(=本件売却価格)が客観的な交換価値を反映したものであると認められ、通達評価額がこれと大きくかい離するとしても、そのことをもって上記事情があるとはいえないことを示したものと考えられる(上記Ⅲ①第三段落参照)。
(2)売買契約の成立・売買代金債権への転化の蓋然性について
本判決は、取引相場のない株式につき相続開始時に売買契約の成立及び売買代金債権への転化の蓋然性が高い場合にはその売買代金相当額が当該株式の価値の基準になり得るとの国の主張(土地の売買契約締結後・所有権移転前に売主が死亡した場合の相続財産は売買残代金債権であるとした最判昭和61年12月5日訟月33巻8号2149頁に依拠したもの)に対し、売買契約が成立していた上記最高裁判決の場合とは異なり、本件のように売買契約が成立していない状況において上記のような蓋然性を判断するためには、種々の事情を考慮する必要があり、信義則や権利濫用のような一般条項以外の場面でこのような不明確な基準によることは不適切である旨判示した(上記Ⅲ②)。
この点、第一審判決は、譲渡予定価格について基本合意がなされていたことが「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たらないと判断するに当たって、本件被相続人が「カリスマ的なオーナー」であったこと等から、その死亡により買主が株式の買取りを取り止める可能性もあり、本件基本合意が相続開始後にそのまま存続するか否か不透明な状況であったということを挙げており、上記蓋然性の程度次第では上記事情があるという余地を完全には否定していないようにも読めるものであった。
しかし、本件に限らず、M&Aにおいて基本合意を法的拘束力がない事実上の合意にとどめる場合には、その後の交渉の経過やデュー・デリジェンスの結果次第で、取引自体を取り止めたり、取引価格を変更したりする可能性が最終契約締結の直前まで一般的・抽象的に存在するといえるであろう。それ以上に個別具体的な事情を考慮し、上記の蓋然性の程度次第で通達評価額を上回る価額によることは、予測可能性の観点からも問題があり、許されないと考えられる(脚注14)。不明確な基準によることは不適切との本判決の説示も、このような予測可能性の観点からのものとみることができる。また、売買契約成立前の近接した時期に売主たる被相続人が死亡するということは、潜在的な他の納税者の相続においても広く存在し得る事情であると考えられるため、特定の相続財産についてのみ上記の蓋然性の程度に着目して通達評価額を上回る価額によることは実質的な租税負担の公平の観点からもやはり問題があると考えられる(脚注15)。
なお、第一審判決は、「本件基本合意が譲渡予定価格等について本件被相続人及びY社を法的に拘束するものではないとしていた点……などに鑑みれば、譲渡予定価格による本件相続株式の売買代金債権を相続財産と同視することも困難である」としており、相続開始前に譲渡予定価格について法的拘束力のある合意がなされた場合には、「売買代金債権を相続財産と同視する」余地を残すもののようにも読め、本判決も、その余地を明確には否定していない(脚注16)。
(3)税負担軽減行為について
本件において国は本件被相続人又は被控訴人が税負担軽減行為を行ったとは主張していないが、本判決はその他の事情に関する国の主張に沿って「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の有無を判断した(上記(1)及び(2))上で、被相続人及び相続人らに税負担軽減行為に類する行為があったとは認め難いと指摘している(上記Ⅲ③)。
この点、第一審判決は、令和4年最判について「最高裁令和4年判決が租税回避をしなかった他の納税者との不均衡、租税負担の公平に言及している点に鑑みると、租税回避行為をしたことによって納税者が不当ないし不公平な利得を得ている点を問題にしている」との理解を示すとともに、一般論として「相続税回避行為をしているような場合でない限り……他の納税者と比較してその租税負担に看過し難い不均衡があるとまでいうことは困難」としていた(脚注17)。これは、「困難」との表現にとどめていることからすると、令和4年最判が「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」を税負担軽減行為に限定する趣旨のものではない(上記1)と一応理解した上で、現実的には、税負担軽減行為以外に上記事情に当たるものが想定し難いことをいうものであろう。これに対し、本判決は、令和4年最判と同様、これに該当する事情を一般的に整理することは性質上困難であること(脚注18)を前提として、第一審判決のような一般論を示すことを避け、本件事案の解決に必要な範囲で判断を示したものと考えられる(脚注19)。
また、第一審判決は、上記事情の例として、令和4年最判の事案におけるような積極的・作為的な行為のほか、「被相続人の生前に実質的に売却の合意が整っており、かつ、売却手続を完了することができたにもかかわらず、相続税の負担を回避する目的をもって、他に合理的な理由もなく、殊更売却手続を相続開始後まで遅らせたり、売却時期を被相続人の死後に設定しておいたりした」場合もこれに当たるとした(脚注20)上、本件の結論としてはこれらの行為がなかったとしていた。一般論として、不作為による場合でも、租税負担軽減の意図をも意図してこれを行ったと評価することがより困難になると思われるものの、それでも租税負担の軽減をも意図して税負担を著しく軽減する行為であると評価できるならば、上記事情に当たると判断される余地もないとはいえないと考えられる(脚注21)。しかし、本判決は、本件被相続人及び被控訴人に税負担軽減行為がなかったとするに当たって、本件基本合意は、税負担を増大させる可能性を有するものであり、税負担を軽減する効果はないとだけ指摘し、本件基本合意後に売却手続を遅らせる不作為があったかどうかについて検討していない。これは、本件基本合意自体に税負担軽減効果がない以上、その後の不作為のみを切り離して税負担軽減行為と評価すべきでないと考えるものであろう。
3 課税庁の採用した鑑定評価額が時価であることの認定について(脚注22)
令和4年最判によれば、通達評価額を上回る価額によりなされた更正処分が違法であるというためには、(i)課税庁の主張額が時価を上回るものとして相続税法22条に違反するか、(ii)通達評価額によらないことが平等原則に違反するか、いずれか一方について判断すれば足りると考えられる(脚注23)ところ、本判決は、上記(ii)についてのみ判示し、上記(i)については、そもそも課税庁の採用した鑑定評価額が時価であるのかどうかを認定しなかった。
この点、令和4年最判の事案では、上記(i)について不動産の鑑定評価額が時価であると認定されており、その際、相続開始前後に行われた不動産の購入・売却における(鑑定評価額と近い又はこれを上回る)取引価格が、鑑定評価額の時価としての妥当性を支える補強材料として考慮されている。このことから、当該事案で鑑定評価額が時価であると認定された背景には、評価の対象が一定の市場が形成される不動産であり、相続開始前後の取引価格から客観的価値が把握しやすいものであったことが影響しているとみることができる。
これに対し、取引相場のない株式については、従前から、課税実務において、取引事例における取引価格を客観的な交換価値を反映したものとみて相続税評価額に採用することは適当でないとの考え方(脚注24)が示されてきたところであり(脚注25)、上記2(1)のとおり、本件の第一審判決や過去の裁判例(前掲東京地判平成17年10月12日)も、それぞれの事案で課税時期前後に行われた第三者への売却における売却価格について、客観的な交換価値を反映したものとはいえないと判断していた。
本判決の「外形的事実によって取引相場のない株式の交換価値を合理的に推測することが可能であるとは必ずしもいえない。とりわけ、M&Aが行われる場合においては、高度な経営判断や双方の交渉の結果等により株式の売買代金が決定されるのであって、売買代金が交換価値を反映しているとは限らない」との説示も、このような従前の課税実務及び裁判例における考え方に従ったものであると思われる(脚注26)。そして、本判決が、課税庁の採用した鑑定評価額について時価であるか否かを認定しなかったのは、本件においては、令和4年最判の事案と異なり、本件相続株式についての相続開始後の売却価格(本件売却価格)が客観的な交換価値を反映したものであるという前提鑑定評価額の時価としての妥当性を判断しにくかったことが影響していると思われる。
そして、令和4年最判によれば、通達評価額を上回る価額による更正処分が適法であると判断するためには、(i)時価の範囲内にあり、かつ、(ii)通達評価額によらないことが平等原則に違反しないことを要するところ、本件は、上記(i)について鑑定評価額(本件算定報告額)が時価であると直ちに認定しにくい事案であり、この点において、鑑定評価額による課税を適法と判断するハードルがもともと高い事案であったとみることもできよう(脚注27)。
4 本判決の意義
本判決の意義として、結論として本件の事案における通達評価額を上回る更正処分が平等原則に反し違法であるとした事例判断としての意義に加え、以下の点を挙げることができると思われる。
第一に、取引相場のない株式について、特定の納税者の相続についてのみ専門的評価を基に課税を行うことが平等原則違反となるとする理由として、取引相場のない株式について専門的評価を経ずに外形的事実によって客観的な交換価値を把握することが困難であることを指摘した点である。この点の説示は、本判決が課税庁の採用した鑑定評価額(本件算定報告額)が時価であるかの認定を避けたこととも関係していると思われ、取引相場のない株式について、専門的評価(鑑定評価額)に基づく課税を行うことが市場性のある不動産等に比べてより困難であることを示すものとして意義があると考えられる(上記2(1)、3)。
第二に、相続開始前に譲渡予定価格について法的拘束力のない基本合意がなされていた場合でも、譲渡予定価格により売買契約が成立する蓋然性の程度にかかわらず、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」があるということはできず、そもそも上記の蓋然性の程度を基準に通達評価額を上回る価額によることの適否を判断すること自体が適切でないとした点である(上記2(2))。この指摘は、実質的な租税負担の公平の観点からも、予測可能性の観点からも妥当であると考えられるところ、本件のように相続開始前に基本合意が成立している場合に限らず、相続開始前に売買契約に向けた交渉が開始されている場合など、相続開始後の通達評価額を上回る価額での売却の可能性が相続開始前に具体的に見込まれていた場合においても同じように当てはまると考えられる。さらにいえば、低廉譲渡・贈与に対する贈与税等の課税(脚注28)との関係でも、譲渡・贈与後の通達評価額を上回る価格での売却の可能性が譲渡・贈与前に具体的に見込まれていたといえるような場合も想定し得るところ、そのような場合でも、本判決の考え方によれば、譲渡・贈与後の売却の蓋然性の程度次第で通達評価額を上回る価額による課税を認めることは適切でないということになろう。
以上のとおり、本判決は、基本的には、令和4年判決の判断枠組みに従い、本件事案に即して本件相続株式の価額につき通達評価額を上回る価額によるべき事情がないとした事例判断ではあるものの、その判断過程において示された考え方は取引相場のない株式の評価が問題となる他の事案においても参考になるものと思われる。例えば、M&Aや事業承継に向けて大株主が少数株主から株式を買い集めるに当たって、その価格が通達評価額との比較では低いといえなくとも、M&Aや後継者への承継における売却価格よりも低くなることが見込まれる場合に、大株主が低額譲渡として贈与税や受贈益に係る法人税の課税を受けるリスクが指摘されることがあるが、そのような場面においても、そもそも将来の売却価格が客観的な交換価値としての時価であると直ちにはいえないことや、そのような売却価格による売買成立の蓋然性の程度を基準にすべきでないことから、通達評価額を上回る価額による課税が許されないと考えることは十分可能であろう。
5 残された課題
他方、本判決は、税負担軽減行為以外のいかなる事情が平等原則の例外としての「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たるのかについて、これが想定し難い旨の第一審判決の説示を削除しており、一般論としては何も述べていない(上記2(3))。この点、本件で、国は、通達評価額を上回る価額による課税が認められるべき場合について、租税負担の軽減をも意図して相続税の負担が著しく軽減させる行為がある場合(濫用型)のほかに、評価通達の趣旨に当てはまらない事情があることから、評価通達の定める方法により画一的に評価することが実質的な租税負担の公平に反するといえる場合(趣旨逸脱型)がある旨主張していた。これは、従前の裁判例の中に、取引相場のない株式の評価について評価通達によらないことが認められる「特別の事情」として、問題となる評価通達の個別の定めの趣旨からの逸脱を挙げるものがあった(脚注29)ことを踏まえたものと考えられる。もっとも、令和4年最判の考え方によれば、評価通達の趣旨の逸脱といえる同様の事情が潜在的な他の納税者が相続する財産にも広く存在し得る場合には「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たらないと解される(脚注30)ところ、実際には、課税庁は、評価通達の趣旨から逸脱するといえる同様の事情が存在しても、ほとんどの場合、評価通達の趣旨が当てはまるか否かを個別に検討することなく画一的な評価を行っているのではないだろうか。そのような場合、税負担軽減行為がないのに、特定の納税者についてのみ評価通達の趣旨が当てはまらないことを理由として通達評価額を上回る価額によることは、やはり平等原則に反すると判断されるであろう(脚注31)。結局のところ、評価通達の定める方法による画一的な評価が行われている中で、他の潜在的な納税者が相続する財産にも広く存在し得る事情は「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たらないと考えられ、さらに納税者の予測可能性の確保も考慮される(上記1)ことからすると、税負担軽減行為がなくとも上記事情があるとされるケースは、あるとしてもかなり限定されるのではないだろうか。この点については、今後の事例の蓄積が待たれるところである。
脚注
1 評釈等は多数に上るが、最高裁判所調査官による解説として山本拓・法曹時報75巻12号178頁。
2 主な評釈等として、平川雄士・NO&T Tax Law Update税務ニュースレター2024年2月号、香取稔・本誌1017号4頁、迫野馨恵・本誌1020号14頁、品川芳宣・本誌1024号15頁、渡辺充・税理67巻6号118頁、笹岡宏保・税理67巻6号219頁、同・税理67巻7号155頁、首藤重幸・税研235号93頁、山下清兵衛・税務弘報72巻5号67頁、安田雄飛・NBL1267号35頁、橋本浩史・税経通信79巻5号143頁、安部慶彦・税経通信79巻10号53頁。
3 評釈等として、平川雄士・NO&T Tax Law Update税務ニュースレター2024年10月号、香取稔・本誌1046号4頁。
4 第一審判決及び本判決は「特段の事情」と定義しているが、令和4年最判が従来の裁判例で用いられていた「特別の事情」という概念を用いず「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」としたのは、位置付けや内包・外延が明確でない概念を避けて、平等原則の例外という事柄の性質に応じた表現としたものであると考えられる(山本・前掲注(1)188頁)ことを踏まえ、本稿では本判決からの引用部分を除いて上記の定義を用いない。
5 山本・前掲注(1)192頁は、本判決の判断枠組みや通達評価額を上回る価額による更正処分が平等原則に違反しない場合についての判示はそのような更正処分の適否が問題となる事案一般に妥当するとする。
6 第一審判決は、令和4年最判について「租税回避行為」を問題にするものとの理解を示しているが、令和4年最判は、あくまで実質的な租税負担の公平と納税者の予測可能性の確保の観点から「租税負担の軽減をも意図」したことを要求したものであって、いわゆる租税回避行為の否認を問題とするものではないと考えられるため(山本・前掲注(1)190~191頁)、本稿では「税負担軽減行為」という表現を用いる。
7 山本・前掲注(1)189~190頁。
8 山本・前掲注(1)192頁。
9 山本・前掲注(1)188頁。
10 山本・前掲注(1)189頁。
11 山本・前掲注(1)190頁。
12 同判決は、その後国が控訴しなかったため確定している。
13 山本・前掲注(1)199頁(注35)は、令和4年最判の考え方によれば、実勢価格等が通達評価額の何倍であるといった主張立証には意味がない(主張自体失当である)ことになるとする。
14 安田・前掲注(2)41頁。
15 この点に関し、第一審判決は、「売却に向けた交渉が相続の前後にまたがっている納税者に対して課税しなければ、相続開始後に売却に向けた交渉を開始した納税者との間に租税負担の点で看過し難い不均衡があるともいえない(むしろ、前者に対してのみ高額の課税をすることの方が不公平とも考えられる。)」と判示していたが、妥当な指摘であろう。
16 本判決は、譲渡予定価格による売買代金債権に転化する蓋然性が高かったと認めることはできないとする理由として、譲渡予定価格に法的な拘束力がなかったことを挙げるにとどめている(上記Ⅲ②なお書)。
17 この第一審判決の説示について、令和4年最判の射程を誤って租税回避的な事案に限定しようとするものであると批判するものとして品川・前掲注(2)23頁。また、本判決は総則6項を納税者の不利に適用するに当たって租税回避行為が必要と判断した点に意義があるとしつつ、令和4年最判のいう「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」は租税回避行為に限定されないことを指摘するものとして迫野・前掲注(2)21頁。
18 山本・前掲注(1)188頁。
19 平川・前掲注(3)4頁は、本判決が令和4年最判の射程や解釈に関する第一審判決の説示を削除した理由について「説示を個別の事実認定の問題にできるだけ絞ることで、本判決は「法令の解釈に関する重要な事項」(民訴法318条1項)を含むものではない(事実認定の問題にすぎない)との体裁をつくり、もって、国側に上告受理申立ての理由を与えないようにしたい」という考慮があったのではないかとする。
20 この第一審判決の判示に対し、租税回避目的で売却時期を被相続人の死後に設定したかの認定が容易でないと批判するものとして首藤・前掲注(2)98頁。
21 安田・前掲注(2)39−40頁。
22 安田・前掲注(2)42−43頁。
23 山本・前掲注(1)185頁。
24 これは、取引相場のない株式の取引価格は、客観的な交換価値を反映したものか否かの判断が困難であり、これをもって客観的な交換価値としての時価を立証するハードルが高いということであって、課税庁が第三者との間でなされた取引事例における取引価格について客観的な交換価値としての時価でないとして否認することもまた困難であると考えられる。
25 国税庁資産評価企画官編『財産評価の実務−相続税・贈与税・地価税における財産評価法(第8次改訂)』(ぎょうせい・1994)237頁は、取引相場のない株式について「仮に取引事例が見られる場合でも、それは特定の当事者間あるいは特別の事情で取引されるのが通常であるので、ただちにその取引価格を客観的な交換価値すなわち相続税評価額として、会社の所有者ともいうべき株主の取得した株式に採用するのは適当ではない」とする。松田貴司編『令和5年版 財産評価基本通達逐条解説』(大蔵財務協会・2023)611頁も同旨。本件において国も一般論としては同旨を主張している。
26 ただし、このような考え方に対し、平川・前掲注(3)3−4頁は、「本判決は、譲渡予定価格である1株10万5068円が交換価値(つまり時価)を反映したものとはいえない云々という、当職の感覚ではそこは問題の本質ではないのではないかと思われる説示をしています(この説示自体、租税法上の時価の定義(大要、非関連の独立の第三者が各々の経済的利害を踏まえて相互に対等に交渉した結果としての価格)からすれば、違和感が拭えないところです。)」とする。
27 安田・前掲注(2)43頁。
28 個人間の低廉譲渡・贈与の場合は受贈者に対する贈与税の課税(相続税法7条、21条)、法人への低廉譲渡・贈与の場合は当該法人に対する受贈益の課税(法人税法22条2項)のほか、個人から法人に対する低廉譲渡・贈与の場合は、法人側への受贈益課税に加え、譲渡した個人に対するみなし譲渡所得課税(所得税法59条1項)が問題となる。
29 例えば、いわゆるA社B社方式について、清算所得に対する課税が予定されていない場面で純資産価額方式による評価に当たって法人税等相当額を控除することはこれを定める通達の趣旨に沿わないとして法人税等相当額の控除を否定した事例(東京地判平成10・9・29判タ1025号142頁等)、純資産価額での買取保証付きでの出資がなされた場合(東京地判平成11・3・25訟月47巻5号1163頁等)や50%以上の出資割合を有していなくてもなお会社を実効的に支配し得る地位にあると認められる場合(東京地判平成16・3・2税資254号順号9583)に配当還元方式の趣旨(通常、支配力のない少数株主は配当金のみを期待する)が当てはまらないとして配当還元方式の適用を否定した事例などがある。
30 山本・前掲注(1)198頁(注33)は、令和4年最判のいう「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」は、その原審のいう「……評価通達の趣旨に反することになるなど、評価通達に定められた方法によることが不当な結果を将来すると認められるような特別の事情」と比べてより限定された概念であるとする。
31 安田・前掲注(2)41−42頁。
安田雄飛 (やすだ ゆうと)
2008年 京都大学法学部卒業、2010年 京都大学法科大学院修了、2011年 弁護士登録。2012年~16年 三宅坂総合法律事務所、2016年~19年 東京国税不服審判所(国税審判官)を経て、2019年 北浜法律事務所に入所し、現在、同事務所パートナー弁護士。
著作に、「デット・エクイティ・スワップにおける債権の「時価」」(月刊税理62巻15号149頁)、「ヤフー事件最高裁判決後初の法人税法132条の2に関する判断事例 “TPR事件判決”の問題点」(週刊税務通信3584号18頁)、「転売目的でなされた居住用賃貸建物取得の仕入税額控除を巡って」(税経通信78巻7号83頁)、「対談 消費税争訟事案の現状と展望」(週刊T&Amaster1010号4頁)、『対話でわかる租税「法律家」入門』(共著、中央経済社、2024)、「M&A準備中の非上場株式の相続税評価(東京地判令和6・1・18)」(NBL1267号35頁)、「対談 ~裁判所の判断における新たな傾向を探る~ 過大役員給与に関する裁判例の通時的分析」(週刊T&Amaster1031号4頁)など。
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