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税務・会計2011年03月02日 中小企業の課題と対応策 執筆者:日比大介、岸剛史

【会計の存在意義】

 会計の歴史は、古くおよそ7000年前のオリエント地域において、既に貨幣などの管理手段として用いられていたといわれる。また、13世紀末から14世紀初頭のイタリアにおいて、現在一般的に用いられている複式簿記の基礎が形成されたといわれる。これが現在の世界や日本で用いられている会計のベースである。
 これだけの歴史を持つ会計を一言で論じてしまうことは少々乱暴かもしれないが、会計は、日々の会社の活動を貨幣単位で記録・計算・表示し、会社の現状を映す「鏡」といわれる「決算書」を作成することが一義的な目的である。
 一方で、会計は、会社経営において常に日陰の存在であり、一般になじみの薄い分野である。つまり、大多数を占める中小企業においては、本来、会計の延長線上にあるはずの納税を主目的とした単なる記録に終わってしまっているのが実情である。 
 右肩上がりの経営環境の中では、間違いのない納税を行っていればよかったのだろう。いわゆる「どんぶり勘定」の経営を行っていれば問題が生じなかった。しかし、現在の厳しい経営環境の中では、家を出かける前に「鏡」の前に立ち、身だしなみを整えるように、決算書を用いて自らの会社を見直し、経営に役立てることが必要になってくる。

【決算書の利用方法】

 では、決算書はどのように利用すればよいのだろうか。
 会社の現状を映しだす「鏡」である決算書には、貸借対照表、損益計算書、そしてキャッシュ・フロー計算書などが含まれる。このうち、貸借対照表は、財政状態すなわち資産や負債がどれだけあり、その結果、会社に正味どれだけの財産があるのかを示している。これにより、売掛金の回収が遅れていることを発見できたり、貸倒れによる影響を小さく収めたりできる。次に、損益計算書は、経営成績すなわち今年いくら売上をあげ、利益または損失をいくら計上したのかを示すものである。これは、単に黒字や赤字が分かるだけでなく、原価率や経費率の上昇を把握したり、無駄遣いを見つけたりできる。また、キャッシュ・フロー計算書は、会社の資金繰りを把握することができる。
 そして、決算書ではないが、月次で作成された決算書ともいえる「試算表」というものもあり、これを利用することで、迅速に会社の状態を把握することができる。
 このように、決算書や試算表は、会社の現状を知り、問題点の発見や対応を可能にし、さらには、経営の意思決定を適正に導き、会社の存続・成長に役立つものである。

【我が国の中小企業の課題】

 しかし、中小企業においては、納税を行うためだけの決算書作成をしており、課題は多い。例えば、①経営者が直観的な経営を重視するあまり、決算書や試算表を読み解こうとせず、せっかく経費をかけて作成した決算書や試算表が経営に生かされない。②経理部や管理部は直接売上や利益を生み出さないため、経営者が経理部や管理部の担当者への教育を行っておらず、担当者に必要最低限の知識すら備わっていない。そのため、信用できる決算書や試算表が迅速に出てこない。③会計を税理士に丸投げしていたり、税理士が何のコメントもしないため、かえって誤った経営判断を導いてしまっている、などの課題が挙げられるだろう。
 決算書や試算表をより良い経営のために利用することが望ましいのはいうまでもないだろう。決算書や試算表を経営に役立てていれば、倒産の憂き目を見なかった可能性が高い会社も多くあるといわれる。せっかく決算書や試算表を作成している以上、納税だけを目的とすることは非常に残念である。

【中小企業に求められる対応策】

 これらの課題への対応策として考えられることは、第一に、経営者が会計の必要性を認識し、決算書や試算表の大枠を理解することである。このためには、日々の研鑽が不可欠だろう。何も専門家のような高いレベルの知識が必要なわけではないため、少しの意識を持ってもらえれば最低限のレベルに達することは容易にできるのではないだろうか。
 第二に、会社の現状を適切に表現する決算書や試算表を自社で作成することである。これにより、月末締日から早いタイミングで試算表を確認することができ、詳細に現状を把握することもできる。もちろん、自社での決算書や試算表の作成には、導入時に専門家の助けが必要となるだろう。しかし、これは、経理部や管理部の担当者を積極的に教育することにより超えられるハードルである。そのためには、少なくとも経理部や管理部の担当者は、日商簿記の2級程度の知識を習得することが必要になるだろう。この知識は、日々経理業務に携わる担当者が勉強をすれば、さほど困難なものではない。是非、経営者には、担当者の教育にも力を注いでもらいたい。
 第三に、税理士にコメントを求めるようにすることである。経営者自らが決算書や試算表で会社の現状を読み取ったとしても、読み取った判断が正しいのか、他の判断はないのかなど、税理士のコメントには耳を傾けておいた方がよいだろう。
 磨き上げた「鏡」を利用して自らの会社を見直し、さらなる飛躍への一歩を踏み出されることを切に願っている。

(2011年2月執筆)

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