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倒産2020年12月28日 特別企画:旅行業者の経営実態・倒産動向調査 出典:帝国データバンク

旅行業者の倒産、3年ぶりの増加に転じる
~新型コロナウイルスの流行以前から業績は悪化の傾向~

はじめに
 先月24日、政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「GoToトラベル」の対象地域から大阪、札幌の両市を除外した。これまでの利用者数は約4000万人、観光産業の苦境を緩和するのに一定の効果を発揮したと思われる「GoToトラベル」事業だが、足元では感染者数が再拡大しており、今後も実効性が維持されるかどうか判断の難しい局面に差し掛かっている。ようやくひと息ついた観光産業従事者にとっては、あまりに辛過ぎる状況だろう。
 帝国データバンクでは、旅行業者(※)の経営実態調査と倒産動向調査(法的整理のみ、負債1000万円以上)を実施した。国内に約1万社存在するとされる旅行業者のうち、2020年11月時点の企業概要ファイル「COSMOS2」(147万社収録)の中から、経営実態が判明している2924社の売上動向や地域別、業歴別などのほか、2000年1月から2020年11月までに746件発生した旅行業者の倒産について、分析を行った。
※旅行業者と旅行業代理店業者。
調査結果
1.「売上規模別」では、10億円に満たない企業が全体の88.2%を占めた。「売上高動向」では「増収」が2017年度と2019年度の比較で9.8ポイント減少し、「減収」が6.8ポイント増加した
2.「地域別」では、「南関東」が961社(構成比32.9%)と最多。「業歴別」では、10~50年未満が全体の72.9%を占めた。「資本金別」では1億円に満たない企業が全体の96.7%に達した。「従業員別」では10人未満が80.1%を占めた
3.2020年1-11月の倒産件数は24件、既に2019年の20件を上回って推移している。通年では3年ぶりの増加に転じた。特に10月は6件、11月も3件と、足元で増加傾向にある
4.倒産の「地域別」では、「関東」「近畿」「中部」に全体のおよそ8割が集中、「負債額」では5億円に満たない小規模事業者が全体の9割強を占めた
5.倒産の「資本金別」では、5000万円に満たない企業が全体の8割強を占め、「従業員別」では、50人未満が98.5%とほとんどを占めた
6.倒産の「業歴別」では、「20~30年未満」が189件(構成比25.3%)と最多
1.売上規模別と売上高動向~小規模事業者多く、コロナ流行以前から業績は悪化傾向
 最新期の業績が判明している旅行業者2924社の「売上規模別」をみると、「1億円未満」が1327社(構成比45.4%)、「1億-10億円未満」が1253社(同42.9%)で、売上高10億円に満たない企業が全体の88.2%を占めた。一方、売上高が10億円を超えるのは344社(同11.8%)に過ぎない。旅行業者には小規模事業者が多いことがわかる。
「売上高動向」については、2017年度から2019年度まで直近3年間の比較が可能な2607社を対象に、売上高動向を分析した。
 「横ばい」の構成比率はさほど変化がないが、「増収」は2017年度の629社(構成比24.1%)から2019年度の374社(同14.3%)へ9.8ポイントも減少した。一方で、「減収」は563社(同21.6%)から740社(同28.4%)へ6.8ポイント増加している。
 新型コロナウイルスの流行以前から旅行業者の業績は悪化の傾向にあることが判した。
2.地域別、業歴別と資本金別、従業員別~業歴は比較的長いが従業員10人未満が8割~
 旅行業者2924社の「地域別」をみると、「南関東」が961社(構成比32.9%)ともっとも多い。次いで「近畿」の474社(同16.2%)、「東海」の326社(同11.1%)となっている。
 「業歴別」では、「10~30年未満」が1221社(構成比41.8%)でもっとも多く、次いで「30~50年未満」の911社(同31.2%)、合わせて72.9%を占める。業歴は比較的長い企業が多い。業歴100年以上も、(株)日本旅行(東京都、1905年創業)、(株)JTB(東京都、1912年創業)など明治~大正時代に創業した企業が4社あった。
 「資本金別」では、「1000万円~1億円未満」が1875社(構成比64.1%)でもっとも多く、「1000万円未満(個人事業主含む)」の953社(同32.6%)と合わせると全体の96.7%に達した。1億円以上の資本金のある企業は、96社(同3.3%)に過ぎない。
 「従業員別」では、「0~10人未満」が2342社(構成比80.1%)を占めた。次いで「10~100人未満」の509社(同17.4%)。「100人以上」は73社(同2.5%)に過ぎず、このうち1000人以上の従業員がいるのは11社である。
3.倒産件数と負債額の推移~2020年1-11月は24件、既に前年実績上回る~
 2020年1-11月の倒産件数は24件、既に2019年の20件を上回って推移している。特に10月は6件、11月も3件と増加傾向にある。
 旅行業者はリーマン・ショック前後に高水準の倒産が続いたが、近年の倒産は少なく、直近でも2018-2019年と2年連続で件数、負債額とも減少していた。しかし2020年は3年ぶりの増加に転じた。
 ちなみに2017年の負債額が大きいのは(株)てるみくらぶ(東京都、3月破産、負債約151億1300万円)によるもの。格安旅行会社で破たん寸前まで積極的な宣伝広告を行っていたことから、大きな社会問題となった。同様に、2020年は新型コロナウイルスの流行で需要が落ち込んだことに起因する(株)ホワイト・ベアーファミリー(大阪府、6月民事再生法、負債約278億円)の大型倒産が発生している。
4.地域別と負債額別~関東、近畿、中部に8割が集中、負債は5億円未満が9割強~
 旅行業者の倒産は、2000年1月から2020年11月までに746件発生した。もっとも倒産が多かった地域は「関東」。2000年以降の累計では356件(構成比47.7%)の倒産が発生しており、2020年においても9件(同37.5%)に達している。
 次いで「近畿」の161件(同21.6%)、2020年においても7件(同29.2%)を占めた。「関東」「近畿」「中部」に全体のおよそ8割が集中している。
 「北海道」は2016年以降、旅行業者の倒産が1件も発生していない。
 「負債額別」でもっとも多いのは「1000万-5000万円未満」。これまでに384件(構成比51.5%)の倒産があり、2020年も12件(同50.0%)と全体の半数を占めた。
 次いで「1億-5億円未満」の164件(同22.0%)、「5000万-1億円未満」の159件(同21.3%)と続く。
 負債5億円に満たない小規模事業者が全体の9割強を占め、傾向として大型倒産は少ない。
5.資本金別と従業員別~資本金100万-5000万円未満で全体の8割強、従業員数はほとんどが50人未満~
 「資本金別」でもっとも多かったのは「1000万-5000万円未満」で、累計476件(構成比63.8%)に達した。次いで「100万-1000万円未満」の144件(同19.3%)。2000年以降、この両者で全体の8割強を占め、小規模事業者が多いことを裏付けている。
 2020年においても「1000万-5000万円未満」が14件(同58.3%)、「100万-1000万円未満」の7件(同29.2%)と合わせると87.5%に達しており、こうした傾向は変わらない。
 「従業員別」では、「10人未満」が631件(構成比84.6%)と圧倒的多数を占めた。次いで「10-50人未満」が104件(同13.9%)、両者合わせて全体の98.5%とほとんどを占めている。
6.業歴別~業歴10年以上の企業がおよそ8割、5年未満は僅少~
 「業歴別」では、「20~30年未満」がもっとも多く、189件(構成比25.3%)を占めた。次いで、「30年以上」の144件(同19.3%)、「10~15年未満」の137件(同18.4%)と続く。
 ここまでの負債額、資本金、従業員数などをみる限り、業歴も若い企業が多いと思われたが、実際にはそうではない。業歴10年以上が全体のおよそ8割、一方で5年に満たない企業の占める割合は非常に小さなものとなっている。
 これは従来型の旅行業者と、ネットを活用したビジネスモデルなど、新業態の旅行業者の新陳代謝を映し出したものかもしれない。
7.まとめ
 旅行業者には小規模事業者が多い。
 今回、経営実態を分析した結果、旅行業者の業歴は比較的長く、資本金は相応だが売上規模は小さく、従業員数も少ない企業が多いことがわかった。新型コロナウイルスの流行以前から旅行業者の業績は悪化の傾向にあり、2020年度の決算はもっとも厳しいものになると思われる。政府は「GoToトラベル」事業を来年6月まで延長する方針だが、2021年度にどこまで業績を回復できるか、予断を許さない状況となっている。
 倒産件数は既に11月までで前年実績を上回っており、通年で3年ぶりの増加に転じることになる。やはり業歴こそ長いが、負債額では5億円未満、過小資本で従業員数も10人に満たない小規模事業者が多く、業界の下位グループから淘汰が始まっているとみてよいだろう。ただ、業歴の若い企業は倒産が少ないのが特徴で、旅行業の在り方や消費者のニーズが変化していくなか、よりよく柔軟に対応出来ている可能性はある。
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