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相続・遺言2023年05月30日 相続土地国庫帰属制度 執筆者:矢吹保博

1 はじめに
 遺産分割の手続きで頻繁に問題になるのが、相続人の誰もが取得を希望しない不動産の取扱いです。都市部の不動産や、相続人の一部が居住している不動産であれば、取得希望者がいないという事態が起こることはほとんどありません。他方、山奥にあって長年誰も管理しておらず、正確な位置や境界も判然としない土地など、誰も取得を希望せず、かといって買手も付かないので売却することも困難な不動産が遺産に含まれているケースも少なくありません。
 このような事態を解消するため、相続または遺贈によって上記のような取得希望者のいない土地の所有権を取得した人が一定の要件のもと土地を手放して国庫に帰属させることができる「相続土地国庫帰属制度」が、令和5年4月27日からスタートしています。
2 国庫帰属が認められない土地
 ただし、どのような土地でも国庫帰属が認められるわけではありません。
 相続土地国庫帰属制度を定めている「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(以下「相続土地国庫帰属法」といいます。)第2条3項で却下事由、第5条1項では不承認事由が定められており、当該事由に該当する場合は国庫帰属が認められないことになります。
3 却下事由
 まず、相続土地国庫帰属法第2条3項では、次のとおり申請が却下される場合が定められています。
①建物の存する土地
②担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
④土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
⑤境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
 これらの事由に該当する場合、当該土地の管理や処分に相当な費用がかかることが見込まれるため、国庫帰属が認められないこととされました。
4 不承認事由
 次に、相続土地国庫帰属法第5条では、次のとおり不承認とされる場合が定められています。
①崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
②土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
③除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
④隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
⑤前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
 これらの場合も、当該土地の管理や処分に過分な費用が必要となることが見込まれるため、国庫帰属が認められません。
 前述の却下事由との違いは、該当とするかどうかが外形的に判断し易いかどうかという点にあります。却下事由は、不動産の全部事項証明書などによってその有無を判断することが可能です。他方、不承認事由は、調査を行うなど個別の判断が必要であり、申請時点では必ずしもが明らかではありません。このため、申請自体は却下されないということになります。
 相続土地国庫帰属法第6条1項では、審査のため必要があるときには事実の調査を行うことができると定められており、同条2項では、申請者に対して、事実の聴取または資料の提出等を求めることができることとされています。なお、申請者がこの要求に応じないときも、申請が却下されることになります(第4条1項3号)。不承認事由の有無は、この調査に基づいて判断されます。
5 費用
⑴ 審査手数料
申請をするにあたってまず、1筆の土地あたり1万4000円の審査手数料が必要です。
⑵ 負担金
 さらに、申請者は、国庫帰属の承認があったときは、負担金を納付しなければなりません。その金額は、「同項の承認に係る土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する十年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭」とされています(相続土地国庫帰属法第10条1項)。
具体的には、
①宅地 面積にかかわらず、20万円
②田・畑 面積にかかわらず、20万円
③森林 面積に応じ算定
④その他(※雑種地、原野等)免責にかかわらず、20万円
を納付する必要があります。ただし、①宅地及び②田・畑に関しましては、一部の市街地などについては面積に応じて算定されることとなっています。
この負担金を納付することにより、国庫帰属という効果が発生します。
6 最後に
 取得を希望していなかったといえども、一旦、相続によって取得してしまった土地について、管理が行き届かず第三者の生命・身体・財産を侵害するようなことになれば、損害賠償責任を負うリスクがあります。
 今後は、そういった危険な土地の放置事案が少しでも減少することが期待されます。
(2023年5月執筆)

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