一般2021年08月17日 日本スポーツ仲裁機構へ競技団体側の対抗措置 執筆者:菅原哲朗
1、現代スポーツ法の動向
2021年7月21日第二東京弁護士会スポーツ法政策研究会(注1)で開会の挨拶をした。その要旨は次の通りである。
「 ・・・昨年は中止でしたが、日本スポーツ法学会が共催する日本スポーツ少年団の今年6月13日(日)『第4回ジュニアスポーツフォーラム』がWebで開催されました。スポーツ法に関心の高い弁護士さんが多数参加され、私が座長を務める法律分科会のテーマは『スポーツ少年団活動における反倫理的行為発覚の際の対応』についてで、47都道府県へ約400名の参加者向けに『子どものスポーツ権』のさらなる普及と重要性を発信しました。
他方、日本スポーツ法学会理事会でも議論されていますが、ガバナンスコードを無視するが如く日本スポーツ仲裁機構の仲裁自動応諾条項を破棄するという言わば『実践スポーツ法』に逆流する動きも出ています。
皆様ご案内の通り、スポーツ仲裁機構によりますと、日本オリンピック委員会(JOC)加盟・準加盟の競技団体では、66団体中60団体(91%)がこの自動応諾条項を採択しています。(注2)もちろんスポーツ庁のガバナンスコードでも、各競技団体がこれを採択することを求めています。公益財団法人日本バドミントン協会は本年5月の理事会において協会内で仲裁の代わりに不服申し立てできる制度を作り、自動応諾条項をなくすことを決め6月10日日本スポーツ仲裁機構へ通知したということです。一度採択していた競技団体が離脱するのは異例で、仲裁機構に対して離脱した理由も明らかにしていません。事案の詳細は日本スポーツ仲裁機構のホームページから仲裁採決例をご覧ください・・・ 」
つまり、法律分科会では、全国各地のスポーツ少年団が「子どものスポーツ権」を旗印に推進することは、未来にむけた我が国のスポーツ振興の根幹であり、スポーツ基本法(注3)第2条は「スポーツは、これを通じて幸福で豊かな生活を営むことが人々の権利である」と定め、このスポーツ権を少年少女達が実感できる様に、セクハラ・体罰を追放する様々なスポーツ法の実践をする弁護士の活動が重要であると訴えた。まさに、スポーツ基本法前文の「スポーツは、次代を担う青少年の体力を向上させるとともに、他者を尊重しこれと協同する精神、公正さと規律を尊ぶ態度や克己心を培い、実践的な思考力や判断力を育む等人格の形成に大きな影響を及ぼすものである。」との規定を活かす実践が、いま法律家に求められている。
ところが、紛争解決のための「日本スポーツ仲裁機構の仲裁自動応諾条項」をスポーツ競技団体側から、いわば逃避する動きが生まれている。
2、自動応諾条項が争点となる
日本スポーツ仲裁機構のホームページに公表された公益財団法人日本バドミントン協会(以下、当該協会という)に関連するスポーツ仲裁案件は、2018年度008号、同年011号の二件があり、日本スポーツ仲裁機構は2019年3月29日、当該協会の各処分を取り消した。なお、熊本県バドミントン協会を相手とする2018年度007号仲裁案件は2018年9月28日熊本県側の仲裁拒否によって終了した。
また、2020年度005号仲裁案件について日本スポーツ仲裁機構は2021年4月28日、当該協会の「2020(令和2)年6月27日付S/Jリーグ加盟を認めない決定」の処分を取り消した。
そして、スポーツ仲裁の「自動応諾条項」が争点となった2021年001号仲裁案件は当該協会との仲裁合意が不存在として、仲裁パネルは本案前の抗弁を認め2021年6月30日、審理に入らず終了決定の判断をした。
3、昔・むかしの話
日本スポーツ仲裁機構は2003年4月7日設立された。生まれたての日本スポーツ仲裁機構専務理事としてスポーツ仲裁を普及すべくJOC加盟の競技団体に腰を低くして、スポーツに関する紛争は裁判所ではなく、是非日本スポーツ仲裁機構へ、スポーツ紛争を迅速かつ適切に解決する機能があるとスポーツ仲裁への理解をいただくべくお願いに行った。この会合で「仲裁の自動応諾条項」はそもそも不要と有力な競技団体の幹部が次々発言したことを思い出した。(注4)
伝統芸能の相撲は「法律はなじまない。自分の土俵で不祥事は始末する。」という封建的かつ特殊な「スポーツ自治制度」発言とともに、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)の仲裁に応じないのは、国際スポーツ仲裁裁判所(CAS)の仲裁には応じているからで日本では不要だ、確かに裁判には金がかかるが、外国なら良いよ、と公言するいわば富裕層としての世界スポーツの競技団体の弱小スポーツ団体に対する優越的な発言が記憶に残っている。
そして現在、スポーツ団体ガバナンスコード〈中央競技団体向け〉原則11(1)に関する遵守状況の自己説明を見ると「仲裁自動応諾条項」の実態が良く分かる。
すでに武道系の柔道・空手・剣道・なぎなた・銃剣道・相撲も日本スポーツ仲裁機構への仲裁申し立てを認め、「仲裁自動応諾条項」を採択しているが、なぜか公益財団法人全日本弓道連盟は、同連盟の係争には馴染まないとの記載で応じていない。(注5)
また、近代スポーツ競技のサッカーについては、公益財団法人日本サッカー協会(JFA)が内部組織に外部弁護士も入れた理事会から独立した中立的な司法機関(規律委員会・裁定委員会・不服申立委員会)を設置し、処分の上訴は国際的に確立しているスイス・ローザンヌのCASの仲裁だとして、なぜか「自己評価の対象外」と日本スポーツ仲裁機構への仲裁申し立てを忌避している。(注6)(注7)
(2021年7月執筆)
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執筆者
菅原 哲朗すがわら てつろう
弁護士
略歴・経歴
(出 身)1948年 東京都生まれ
(学 歴)1972年 東京都立大学法学部卒業
1975年 司法研修所卒業 (司法修習27期)
(職 歴)1975年 弁護士開業 (第二東京弁護士会)
2000年 中国大連市外国法弁護士事務所開設
(役 職)
元日本スポーツ法学会会長
公益財団法人日本スポーツ協会国民スポーツ大会委員会委員
公益財団法人日本スポーツ協会アンチ・ドーピング委員会委員長
第二東京弁護士会スポーツ法政策研究会代表幹事
一般財団法人モーレイ育英会理事
一般社団法人心身統一合氣道会理事
元独立行政法人国立国際医療研究センター理事
独立行政法人日本スポーツ振興センタースポーツ団体ガバナンス支援委員会委員長
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