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一般2022年07月22日 スポーツ団体ガバナンス支援委員会が動きだした 執筆者:菅原哲朗

1、スポーツ団体ガバナンス支援委員会の役割について
 独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「JSC」と言う)は、国立競技場の管理・運営、国際競技力向上のための研究・支援、スポーツくじ(toto・BIG)の販売等を行っている。その業務の一つに「スポーツ・インテグリティの保護・強化に関する業務」がある。本コラムではスポーツ団体に生じた不祥事を第三者の視点で問題点を洗い出し、改善策を提供して組織の自浄能力を高めるシステムである「スポーツ団体ガバナンス支援委員会」について紹介したい。
 スポーツ法でのガバナンス改革の嚆矢は、2010年日本相撲協会が発足させた「ガバナンス(統治能力)の整備に関する独立委員会」(座長=奥島孝康・元早大総長)が放駒理事長(元大関魁傑)に手渡した答申である。プロ組織である大相撲は、暴力団交際・野球賭博・弟子への暴行死・大麻所持・八百長相撲・封建的な相撲部屋維持の年寄名跡(高額な親方株の売買)など様々な不祥事を孕み公益財団法人化に向けて協会の制度や組織の抜本的な対策が示された。
 JSCのスポーツ・インテグリティ・ユニットでは、スポーツにおけるガバナンス・コンプライアンスの欠如、暴力、ハラスメント、ドーピング等の様々な脅威から、スポーツ・インテグリティ(スポーツの誠実性・健全性・高潔性)を守る取組を実施しており、その中に「スポーツ団体ガバナンス支援委員会」が位置づけられている(注1)。
 2020(令和2)年4月1日施行の「独立行政法人日本スポーツ振興センタースポーツ団体ガバナンス支援委員会設置要綱」(以下、「設置要綱」と言う)と「独立行政法人日本スポーツ振興センタースポーツ団体ガバナンス支援委員会実施要領」(以下、「実施要領」と言う)に基づき、スポーツ団体ガバナンス支援委員会の活動内容は、中央競技団体(以下、「NF」と言う)において、ガバナンスの機能不全等による不祥事事案が発生し、第三者による調査等が必要となる事態が生じた際、当該NFからの求めに応じ、必要な支援(助言)等を行うことを役割としている。
 スポーツ団体ガバナンス支援委員会の活動内容はNFが設置する不祥事に関する第三者調査の支援を行うことであるが、具体的には第三者調査委員の選定と調査の進め方等についての助言である(設置要綱第2条)。
 スポーツ団体ガバナンス支援委員会は、独立して職務を行えるように、外部有識者で構成される(設置要綱第3、4条及び実施要領第3、4条)が、現在、弁護士、公認会計士、学識経験者を委員として委嘱し、中立性・公平性及び専門性が確保された委員会を形成している。
 つまりスポーツ・インテグリティの保護・強化に関する適切な支援(助言)を行うことにより、我が国におけるクリーンでフェアなスポーツの推進を図り、スポーツの価値の向上に寄与することを目指している。
 もとよりNF内部には顧問弁護士を委嘱している組織もあれば、委嘱していない組織もある。例えば、資金力豊富な公益財団法人日本サッカー協会(JFA)の「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>遵守状況の自己説明」記載によると、「JFAでは、FIFA規則に則り、司法機関が理事会から独立し、かつ不服申立委員会を有しており、本原則が求める『迅速かつ適正な紛争の解決』に十分に取り組んでいる」と述べ弁護士などの法律家を擁して司法機関類似の委員会を有しているNFも存在する。しかし、多くのNFでは多数の弁護士を依頼できる資金力は無い。多数の専門家からの助言を得られなくてもスポーツ団体ガバナンス支援委員会が無料でNFへ提供しようとの試みだ。
 したがって、JSCの基本的役割から無料で助言を受けられる対象となる団体は次の通り限定されている。
<対象団体>
① 公益財団法人日本スポーツ協会の加盟競技団体(準加盟競技団体を含む。)
② 公益財団法人日本オリンピック委員会の加盟競技団体(準加盟団体及び承認団体を含む。)
③ 公益財団法人日本パラスポーツ協会の登録団体のうち、日本パラリンピック委員会加盟競技団体
2、スポーツ団体ガバナンス支援委員会の支援(助言)の流れ
 次に、NFのガバナンス機能不全による不祥事事案が発生し、第三者による調査等が必要となる事態が生じたときの支援(助言)の流れについて紹介する(詳細は実施要領3章第7条から第15条に定めてある)。
(1)対象の中央競技団体(NF)において不祥事事案が発生し、第三者による調査等が必要となる事態が生じた際に、NFからJSCに相談申請を行う。
(2)JSCから独立した委員会として設置したスポーツ団体ガバナンス支援委員会において、委員長及び副委員長が事案内容を概要検討して、担当するアドバイザーを指名する。通常は弁護士、公認会計士、学識経験者から複数名を指名している。
(3)委員会審議及びアドバイザーの支援(助言)は秘密確保のため非公開である。手続き的にはアドバイザーがNFからヒアリングを行い、調査委員会の立上げノウハウ、人材選定、調査方針についての支援(助言)を実施する。事実を確定するため、多数の人物からヒアリングするので多くの時間を費やすのはやむを得ない。
(4)NFに対し、スポーツ団体ガバナンス支援委員会が助言内容を書面で通知する。スポーツ団体ガバナンス支援委員会として秘密確保のため当該書面は公表しない。但し、十分理解いただけるようにNFへは文書で要点・骨子を助言し、面接あるいはWEB方式により口頭で詳細かつ平易に助言内容を伝えている。ここまでがスポーツ団体ガバナンス支援委員会の基本的役割である。
(5)助言を受けたNFが調査委員会を設置する等、対応する。その場合、弁護士、公認会計士、学識経験者の推薦を得たいとの要望がNFからあれば助言をする場合もある。(後記でニュース記事を引用している)
 但し、スポーツ団体ガバナンス支援委員会はあくまでもNFの利便を考えた新しい発想のシステムで「助言」をなすことが中核なので、以下に該当する場合は、適用外として取り扱わない(実施要領第10条)。
① 相談事案と関連する訴訟等が裁判所に係属している場合、仲裁が仲裁機関に係属している場合及び調停がADR(裁判外紛争解決手続)機関に係属している場合
② JSCが行う運営費交付金、スポーツ振興基金又はスポーツ振興投票による助成金に係る不正会計等に関する場合
3、公益財団法人日本バドミントン協会(NBA)に関する二つのマスコミ報道
 2022年5、6月にスポーツ法にとって目につく二つのマスコミ報道がだされた。
 一つ目は、日刊スポーツが「バドミントン第三者委員会に公認会計士加わる 元職員による公金私的流用問題化」(2022年5月12日:注2)と報道したものだ。当初、NBAは第三者委員会のメンバーは外部弁護士3名に依頼していたが、公金流用が問題となるので、公認会計士を追加した。
 その経過として「・・・日本オリンピック委員会(JOC)に会計の専門家を含めるよう再検討を求められていた。今回の追加メンバーは、日本スポーツ振興センターのスポーツ団体ガバナンス支援委員会より推薦された候補者を対象に、9日の緊急理事会で審議、協議して決まった。・・・」(注2)とのことである。今後の動向は第三者委員会から提出されるであろう事実調査報告書を待つことになる。
 二つ目は、日本経済新聞が「世界バド、観客制限なしの見通し 東京で8月開催」(2022年6月12日:注3)との見出しで「・・・評議員会では、弁護士らで構成する規律・裁定委員会と不服申し立て委員会の設置を承認した。競技者らが日本スポーツ仲裁機構に仲裁を申し立てた場合に自動的に応じる「自動応諾条項」から離脱した状態が昨年5月から続いており、代替措置として設置した。・・・」と報道したものだ。
 2021年8月17日付け当コラム「日本スポーツ仲裁機構へ競技団体側の対抗措置」で指摘した点の続報といえる。
 そのコラムで「・・・公益財団法人日本バドミントン協会は本年5月の理事会において協会内で仲裁の代わりに不服申し立てできる制度を作り、自動応諾条項をなくすことを決め、6月10日日本スポーツ仲裁機構へ通知したということです。一度採択していた競技団体が離脱するのは異例で、仲裁機構に対して離脱した理由も明らかにしていません。・・・」と指摘したが、ガバナンスコードの2021年自己説明で述べた「2022年3月目標」には3ヶ月遅れたが、自動応諾条項を離脱して一年後に組織内部に準司法機関を制度化して運営するルールを実現したのである(注4)。

(注1)JSCホームページのスポーツ団体ガバナンス支援委員会設置要綱および実施要領

https://www.jpnsport.go.jp/corp/gyoumu/tabid/984/Default.aspx

(注2)日刊スポーツ[2022年5月12日]
「バドミントン第三者委員会に公認会計士加わる 元職員による公金私的流用問題化」
元職員による公金私的流用が問題化している日本バドミントン協会は12日、第三者委員会の追加委員として公認会計士の土屋光輝氏が加わると発表した。公認会計士の栗村達氏もサポートメンバーとして新たに入る。
日本協会は先月、名取俊也氏を委員長とする第三者委員会のメンバー3人を公表。しかし、いずれも弁護士であることから、日本オリンピック委員会(JOC)に会計の専門家を含めるよう再検討を求められていた。今回の追加メンバーは、日本スポーツ振興センターのスポーツ団体ガバナンス支援委員会より推薦された候補者を対象に、9日の緊急理事会で審議、協議して決まった。
日本協会は3月下旬、会計担当の元職員による約680万円の私的流用や補助金の不正申請があったことを公表。その調査結果をJOCに提出したが、中立性や説明が不十分と見なされ、第三者委員会の設置と再調査を求められた。
その後、元職員がさらに約420万円を流用した疑惑があるとの告発もJOCに寄せられたとされる。
(注3)日本経済新聞(2022年6月12日)
「世界バド、観客制限なしの見通し 東京で8月開催」
日本バドミントン協会の銭谷欽治専務理事は12日、東京都内での評議員会後に取材に応じ、8月に東京体育館で行われる世界選手権は「観客をフルで入れるつもり」と話し、入場者数を制限しない見通しを示した。その後に大阪で開催されるジャパン・オープンも同様の対応を取るという。
評議員会では、弁護士らで構成する規律・裁定委員会と不服申し立て委員会の設置を承認した。競技者らが日本スポーツ仲裁機構に仲裁を申し立てた場合に自動的に応じる「自動応諾条項」から離脱した状態が昨年5月から続いており、代替措置として設置した。〔共同〕
(注4)公益財団法人日本バドミントン協会(NBA):スポーツ団体ガバナンスコード
37項目<原則>[原則11]選手、指導者等との間の紛争の迅速かつ適正な解決に取り組むべきである。
<審査項目>
(1)NFにおける懲罰や紛争について、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構によるスポーツ仲裁を利用できるよう自動応諾条項を定めること
<自己説明>
本会における懲罰や紛争に対しては、中立的かつ専門的に行う二審制の組織を設け、客観的かつ速やかに紛争解決手続きを行う。(目標:2022/3)
<証憑書類>
司法機関運営規程
38項目<原則>[原則11]選手、指導者等との間の紛争の迅速かつ適正な解決に取り組むべきである。
(2)スポーツ仲裁の利用が可能であることを処分対象者に通知すること
<自己説明>
処分対象者には、二審制の制度と利用方法を通知する。(目標:2022/3)

(2022年7月執筆)

執筆者

菅原 哲朗すがわら てつろう

弁護士

略歴・経歴

(出 身)1948年 東京都生まれ

(学 歴)1972年 東京都立大学法学部卒業
     1975年 司法研修所卒業 (司法修習27期)

(職 歴)1975年 弁護士開業 (第二東京弁護士会)
     2000年 中国大連市外国法弁護士事務所開設

(役 職)

 元日本スポーツ法学会会長
 公益財団法人日本スポーツ協会国民体育大会委員会委員
 公益財団法人日本スポーツ協会アンチ・ドーピング委員会委員長
 第二東京弁護士会スポーツ法政策研究会代表幹事
 一般財団法人モーレイ育英会理事
 一般社団法人心身統一合氣道会理事
 元独立行政法人国立国際医療研究センター理事
 独立行政法人日本スポーツ振興センタースポーツ団体ガバナンス支援委員会委員長

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