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経営・総務2026年09月04日 AI時代の税理士事務所経営③ AIを「第二の査閲者」にする―品質管理と人材育成はどう変わるか 執筆者:大石佳明

税理士事務所では、正確性を担保するため、担当者が資料を作成し、自ら確認したうえで、上司が再度チェックするという流れが一般的である。いわば「作成、セルフチェック、上司チェック」という三段階の体制である。

この体制は業務品質を守るうえで欠かせない。一方で、上司の査閲時間の多くが、転記漏れ、数値の不一致、前月との比較で明らかに不自然な変動といった、比較的定型的な確認作業に費やされることも少なくない。特に経験の浅い職員の場合、セルフチェックの方法自体が十分に身についておらず、上司が確認項目を一つずつ教える必要があった。

そこで弊所では、AIを「第二の査閲者」として活用している。

例えば給与計算では、当月と前月の計算結果をAIに比較させ、支給額、控除額、社会保険料、源泉所得税などに大きな変動がないかを確認している。給与計算は、計算式そのものが正しくても、勤怠情報や手当、入退社情報などの入力を誤れば結果も誤る。単月の結果だけを見るのではなく、前月と比較して異常値を抽出することは、誤りの早期発見に有効である。

決算業務でも、決算書と勘定科目内訳明細書、決算書と法人税申告書、決算書と法人事業概況説明書との整合性をAIに確認させている。残高の転記漏れ、科目区分の不一致、申告書への反映漏れなど、複数の資料を横断して確認する作業は、人が行うと相応の時間と集中力を要する。AIに一次確認をさせることで、担当者は上司へ提出する前に不一致を把握し、自ら修正できるようになった。

業務の流れは、「作成、セルフチェック、上司チェック」から、「作成、セルフチェック、AIチェック、上司による重要事項の確認」へと変わった。AIが上司に代わるわけではない。AIが得意とする定型的な不一致確認を先に行うことで、上司は取引の実態、税務上の論点、金額的重要性、顧問先への確認事項など、人でなければ判断できない部分に時間を使えるようになったのである。

また、AIチェックを事務所の仕組みにするためには、担当者ごとに使い方が異ならないよう、確認対象、比較資料、出力形式を一定にする必要がある。弊所でも、単に「間違いがないか」と尋ねるのではなく、確認すべき項目をあらかじめ整理し、指摘事項とその根拠を一覧で出力させるようにしている。AIの回答をそのまま正しいものとして扱わず、指摘を人が検証する工程も欠かせない。

この仕組みは、繁忙期の負担軽減にもつながる。限られた人員で一定の品質を保つには、個人の経験や注意力だけに依存しない確認体制が必要である。AIによる一次査閲は、そのための標準化の一つと位置付けられる。

この変化は、新しく入所した職員の教育にも効果をもたらしている。新人職員にとって難しいのは、正解を知ることだけではなく、「どこを確認すべきか」を理解することである。AIが不一致や確認事項を具体的に示すことで、職員自身が確認の視点を学びやすくなる。上司が同じ種類の転記ミスや確認漏れを繰り返し指摘する時間も減少した。

もっとも、これは教育を省略できるという意味ではない。むしろ、単純な誤りの指摘に使っていた時間を、なぜその処理を行うのか、どのような事実関係を確認すべきか、税務判断の根拠は何かといった、より高度な指導に振り向けられるようになったと考えている。

AI時代においても、税理士事務所の最終的な判断と責任は人にある。しかし、すべての確認を人だけで行う必要はない。AIに任せる確認と、人が担う判断を明確に分けることで、業務品質を維持しながら、査閲時間と教育コストを見直すことができる。

AIの導入によって上司の査閲がなくなるのではない。上司の役割が、「間違いを探すこと」から「判断の考え方を教えること」へ変わっていくのである。

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(2026年8月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

大石 佳明おおいし よしあき

税理士

略歴・経歴

税理士・スタートアップサポート税理士法人代表・AI業務改善コンサル

中小企業・個人事業主の税務顧問、法人決算、所得税確定申告、相続税申告、創業支援、融資支援、経営改善支援などに従事。税務申告業務に加え、月次決算を活用した経営数値の把握、資金繰り改善、金融機関対応など、経営者の意思決定を支える支援を行っている。
また、税理士事務所におけるAI活用や業務効率化にも取り組み、複数のAI研究会に所属。生成AIを活用した所内業務の改善、顧問先対応文書の作成支援、業務マニュアル整備、情報発信業務の効率化などを実践している。
難しい税務・会計の内容を、中小企業の経営者に分かりやすく伝えることを重視している。

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