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解説記事2006年10月30日 【連載】 企業承継法の現代的課題 第1回 企業承継法の学術的意義(2006年10月30日号・№185)

連載
企業承継法の現代的課題
第1回 企業承継法の学術的意義
 
 筑波大学大学院教授  大野正道

1 企業承継をめぐる紛争の認識

 企業承継とは、簡潔に述べると、非公開会社における会社の経営権の移転を意味するが、とりわけ相続を契機とする会社の経営権の争奪をめぐる共同相続人間の争いを法律的に研究することが重要視される。非公開会社が同族株主のみで構成されている場合には、企業承継をめぐる争いは、俗に「お家騒動」と称されることが多い。
 このような企業承継をめぐる紛争は、後述するように、わが国においては昭和40年代中葉において下級審判決に明瞭に現れてくる。しかし、企業承継をめぐる争いは、それ以前にも発生していたことは、決して否定することができないであろう。では何故昭和40年代中葉が問題視されるのであろうか。企業承継の研究は、わが国の戦後史を紐解くことによって明瞭になる。
 第二次世界大戦の敗北によって、わが国は焦土と化し、あらゆる産業分野において企業は壊滅的打撃を被った。この廃墟の中から逞しく立ち上がったのは、既に企業の中心として経営に携わっていて、もはや気力を失ってしまった世代の人々ではなく、まだ若く将来における成功に夢を託すことができる青壮年の人々であった。彼らは十分な資金力に欠けていたとしても、有り余る肉体的エネルギーと精神的な強さを備えていた。しかも、連合国軍総司令部(GHQ)の指令による経済民主化措置の恩恵により、経済部門における従来の戦時統制が解除され、自由な企業活動が許されたのである。今日(2006年)まで戦後60年が経過し、これらの若き世代はもはや経営の第一線を退き、その生涯を終えようとしているのである。ここに「企業承継」という課題が近時つとにクローズアップされる時代的背景が存在しているのである。

2 企業承継に関する判例の嚆矢
 会社法(旧商法会社編)の領域における企業承継をめぐる紛争の認識は、昭和45年に東京地方裁判所で下された「星製薬株式会社事件」と昭和46年に徳島地方裁判所で下された「平和林業有限会社事件」でなされたといってよいであろう。いずれも旧商法203条2項(旧有限会社法22条で準用されていた。)が定める株式・持分の相続準共有に関する規定の法律解釈にかかる判決であった。
 その後、旧商法203条2項の解釈をめぐって、最高裁判所第三小法廷は、きわめて重要と考えられる判決として、平成2年、平成3年、平成9年および平成11年と4つの判決を下している。そして、この旧商法203条2項と「権利行使者」の選定・通知に関する規定は、平成11年判決の判旨をも取り入れて、平成17年に制定され、平成18年5月1日から施行された「会社法」では第106条として単一の条項にまとめられた。すなわち、会社法第106条は、「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」と定めている。

3 会社法174条の創設
 もっとも、企業承継をめぐる会社法上の問題は、会社法106条(旧商法203条2項)に関する法律解釈に限定されないのであり、今後ますます多様な問題が生ずるだろうと予想される。たとえば、中小企業団体の長年の要望であった株式(非公開株式会社)および持分(特例有限会社)の相続制限が、このたび会社法174条で認められることとなった。
 すなわち、会社法174条は、相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定めを認容し、「株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。」、と規定している。
 今後は、この条文が許容する定款を利用することによって、創業者の持株を二代目(企業承継者)だけが引き継ぐことができ、他の共同相続人(これを学術的には譲歩相続人という。)がいったん相続した株式・持分については当該会社が売渡請求することにより、企業承継をスムーズに実現することができる。この規定が認める定款の条項による対策により、企業承継に関する法律実務は短期間のうちに飛躍的に発展することが予測される。

4 企業承継対策の三命題
 企業承継対策の要諦は、先代(創業者または二代目等)が築き、あるいは受け継がれてきた事業をできる限りスムーズに企業承継者に引き継ぐことにある、と言ってよいであろう。
 その際における法務対策の指針としては、以下の三命題が重要である。
① 株式・持分の企業承継者への集中
② 譲歩相続人に対する配慮
③ 特別受益の持ち戻し
 この三命題は、ドイツにおける企業承継の権威者であるハインリッヒ・ズドホフが法定相続における承継の命題として定立したものであるが、私がわが国でも折に触れて紹介したので、現在では企業承継対策において確立した原則となっている。
 今回の連載は、全10回という比較的に短いものであるが、会社法の制定・施行という機会を得て、満35年の研究歴(1972年4月~2007年3月)において会得した企業承継対策のエッセンスをできる限り披露したいと思っている。


大野正道(おおの・まさみち)
東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得満期退学、富山大学教授などを経て、筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授(現職)、弁護士(第二東京弁護士会)
【研究分野】
商法全般(中小会社法、企業承継法、手形・小切手法)、経済法
【主要著書】
『入門企業承継の法務と税務』(共著)システムファイブ、『入門手形法・小切手法』(共著)システムファイブ、『会社法』(編著)北樹出版、『商法総則・商行為法』(共著)北樹出版、加除式『非公開会社の法務と税務』(監修)第一法規

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