解説記事2009年08月31日 【実務解説】 未曾有の景気悪化に対応する法人税実務 第1回 役員報酬の減額改定(2009年8月31日号・№320)
実務解説
未曾有の景気悪化に対応する法人税実務
第1回 役員報酬の減額改定
アクタスマネジメントサービス/アクタス税理士法人 加藤幸人
Ⅰ.はじめに
未曾有の経済不況といわれるなか、多くの企業の業績が悪化し、資金繰りに苦慮している状況となっている。そのようななか、企業に求められるのは事業構造の建直しと、足元を固める財務体質の強化にあるといえる。
この稿では、不況期のなか、企業が行うことが想定される策に対して税務特有のポイントを解説し、さらに財務体質強化に有効となる税コスト削減の実務を今後数回にわたって解説する。
Ⅱ.景気悪化時に起こる特有の税務ポイント
1.役員報酬の減額改定
(1)概 要 経営環境の悪化により、役員報酬の減額を行う企業が増加している。コスト削減として行われるものであるが、基本的に、税務の取扱いにおいては、定期同額であることが役員報酬の原則となる。
定期同額給与として認められる改定は、業績悪化を事由とする場合等、一定の場合に限定されている。そのため、不用意な減額を行うと損金不算入扱いとなることもあり、注意が必要である。
(2)定期同額給与について 定期同額給与は、法人税法34条において支給時期が1月以下の一定の期間ごとで、かつ、各支給時期における支給額が同額である給与と規定され、法人税法施行令69条において改定された場合の取扱いが規定されている(図表1参照)。
具体的に施行令では、事業年度開始の日から3か月以内に改定されたものを始め、定期同額給与に該当する改定事由の大枠が示されている。その1つに業績悪化改定事由として、経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による改定も定期同額給与に該当するとある。
経営環境が悪化したことにより役員報酬の減額を検討する企業においては、会計期間開始の日から3か月以内であるかが、最初のポイントとなる。すなわち3か月以内であれば、業績悪化であることとは関係なく、減額改定を行うことが可能である。前年の業績悪化を受けて、減額を検討する場合等においては、3か月以内の改定を行い、その後同額で支給を続ければ原則として損金算入が認められる。
一方で、3か月を経過した後に減額を検討する場合には、業績悪化改定事由に該当するか否かの確認が必要となる。これに該当する場合の減額改定は、定期同額給与として認められるが、該当しない場合においては、定期同額給与とはならず、損金不算入額が生じることになるので検討は慎重に行う必要がある。
(3)業績悪化改定事由について 定期同額給与の1要件である業績悪化による改定事由は、施行令を受けて、法人税基本通達9?2?13(経営の状況の著しい悪化に類する
理由)においてさらに言及されていたが、実際は、やむを得ない事情がある場合に該当すると述べるだけで、具体性がなかったところであった。そのようななか、平成20年12月に国税庁から判断の参考となる事例形式の「役員給与に関するQ&A」(以下「Q&A」という)が示されることになった。
通達においては、業績悪化改定事由の具体的なところについて、一時的な資金繰りの都合や業績目標に達しないことは含まないとする程度に留まっていたが、発表されたQ&Aでは、どのような場合に業績悪化改定事由になるかまで踏み込んだ形で示されている。
このQ&Aにおいて、経営の状況が著しく悪化したこととは、財務諸表の数値が相当悪化したことや、倒産の危機に瀕したことだけでなく、経営状況の悪化に伴い、株主や債権者や取引先等の第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情も含まれることになる。
Q&Aで示された内容を踏まえ、業績悪化改定事由に該当するか否かをまとめると、図表2のようになる。
(4)適用にあたっての注意点
役員報酬の減額が損金算入されるか否かは、最終的には個々の事情に照らし、取扱いが判断されることになる。減額するにあたっては、恣意性がなく、減額せざるを得ない客観的な事情を具体的に説明できるよう文書等で保存しておくことが重要といえる。
(5)損金算入・損金不算入の具体的計算
(前提)3月決算で、定時株主総会が6月に開かれる法人を想定 ① 定時株主総会後、業績悪化改定事由により改定があった場合
期首から3か月を経過した後の改定であるが、業績悪化の改定事由に該当するため、全額が損金算入可能となる。
② 定時株主総会後、業績悪化改定事由に該当しない改定があった場合
単に売上予算を達成できる見込みがなくなったことによる役員報酬の減額は、業績悪化の改定事由には該当しない。
この場合には、10月に改定した月額60万円が定期同額給与になるため、7月~9月における月額80万円の支給額のうち、月額60万円を超過する20万円部分が定期同額給与の超過金額となり損金不算入となる。
③ 定時株主総会後、業績悪化改定事由に該当しない改定、その後業績悪化改定事由に該当する改定があった場合
一時的な資金繰りの悪化に伴う役員報酬の減額は、業績悪化による改定事由には該当しない。
この場合には、10月に改定した月額60万円が定期同額給与になるため、7月~9月における月額80万円の支給額のうち、月額60万円を超過する20万円部分が定期同額給与の超過金額となり損金不算入となる。
なお、1月からの減額に関しては業績悪化の改定事由に該当するため、1月からの役員報酬30万円が定期同額給与となり、1月の改定による損金不算入は生じない。
④ 定時株主総会後、業績悪化改定事由に該当する改定があり、その後業績悪化改定事由に該当しない改定があった場合
10月の改定は業績悪化改定事由に該当するため、月額80万円から月額60万円への改定は、定期同額給与となる。
しかし、1月にさらに月額40万円に減額改定を行っている。この改定が業績悪化改定事由に該当するものであれば特段問題はないが、今期の営業利益目標を確保するための改定であり、業績悪化改定事由には該当しない。
この場合には、改定した月額40万円が定期同額給与となるため、10月?12月における月額60万円の支給額のうち、月額40万円を超過する20万円部分が損金不算入となる。
(かとう・ゆきと)
未曾有の景気悪化に対応する法人税実務
第1回 役員報酬の減額改定
アクタスマネジメントサービス/アクタス税理士法人 加藤幸人
Ⅰ.はじめに
未曾有の経済不況といわれるなか、多くの企業の業績が悪化し、資金繰りに苦慮している状況となっている。そのようななか、企業に求められるのは事業構造の建直しと、足元を固める財務体質の強化にあるといえる。
この稿では、不況期のなか、企業が行うことが想定される策に対して税務特有のポイントを解説し、さらに財務体質強化に有効となる税コスト削減の実務を今後数回にわたって解説する。
Ⅱ.景気悪化時に起こる特有の税務ポイント
1.役員報酬の減額改定
(1)概 要 経営環境の悪化により、役員報酬の減額を行う企業が増加している。コスト削減として行われるものであるが、基本的に、税務の取扱いにおいては、定期同額であることが役員報酬の原則となる。
定期同額給与として認められる改定は、業績悪化を事由とする場合等、一定の場合に限定されている。そのため、不用意な減額を行うと損金不算入扱いとなることもあり、注意が必要である。
(2)定期同額給与について 定期同額給与は、法人税法34条において支給時期が1月以下の一定の期間ごとで、かつ、各支給時期における支給額が同額である給与と規定され、法人税法施行令69条において改定された場合の取扱いが規定されている(図表1参照)。

具体的に施行令では、事業年度開始の日から3か月以内に改定されたものを始め、定期同額給与に該当する改定事由の大枠が示されている。その1つに業績悪化改定事由として、経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による改定も定期同額給与に該当するとある。
経営環境が悪化したことにより役員報酬の減額を検討する企業においては、会計期間開始の日から3か月以内であるかが、最初のポイントとなる。すなわち3か月以内であれば、業績悪化であることとは関係なく、減額改定を行うことが可能である。前年の業績悪化を受けて、減額を検討する場合等においては、3か月以内の改定を行い、その後同額で支給を続ければ原則として損金算入が認められる。
一方で、3か月を経過した後に減額を検討する場合には、業績悪化改定事由に該当するか否かの確認が必要となる。これに該当する場合の減額改定は、定期同額給与として認められるが、該当しない場合においては、定期同額給与とはならず、損金不算入額が生じることになるので検討は慎重に行う必要がある。

(3)業績悪化改定事由について 定期同額給与の1要件である業績悪化による改定事由は、施行令を受けて、法人税基本通達9?2?13(経営の状況の著しい悪化に類する
理由)においてさらに言及されていたが、実際は、やむを得ない事情がある場合に該当すると述べるだけで、具体性がなかったところであった。そのようななか、平成20年12月に国税庁から判断の参考となる事例形式の「役員給与に関するQ&A」(以下「Q&A」という)が示されることになった。
通達においては、業績悪化改定事由の具体的なところについて、一時的な資金繰りの都合や業績目標に達しないことは含まないとする程度に留まっていたが、発表されたQ&Aでは、どのような場合に業績悪化改定事由になるかまで踏み込んだ形で示されている。
このQ&Aにおいて、経営の状況が著しく悪化したこととは、財務諸表の数値が相当悪化したことや、倒産の危機に瀕したことだけでなく、経営状況の悪化に伴い、株主や債権者や取引先等の第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情も含まれることになる。
Q&Aで示された内容を踏まえ、業績悪化改定事由に該当するか否かをまとめると、図表2のようになる。


(5)損金算入・損金不算入の具体的計算
(前提)3月決算で、定時株主総会が6月に開かれる法人を想定 ① 定時株主総会後、業績悪化改定事由により改定があった場合

期首から3か月を経過した後の改定であるが、業績悪化の改定事由に該当するため、全額が損金算入可能となる。

② 定時株主総会後、業績悪化改定事由に該当しない改定があった場合

この場合には、10月に改定した月額60万円が定期同額給与になるため、7月~9月における月額80万円の支給額のうち、月額60万円を超過する20万円部分が定期同額給与の超過金額となり損金不算入となる。
③ 定時株主総会後、業績悪化改定事由に該当しない改定、その後業績悪化改定事由に該当する改定があった場合

一時的な資金繰りの悪化に伴う役員報酬の減額は、業績悪化による改定事由には該当しない。
この場合には、10月に改定した月額60万円が定期同額給与になるため、7月~9月における月額80万円の支給額のうち、月額60万円を超過する20万円部分が定期同額給与の超過金額となり損金不算入となる。
なお、1月からの減額に関しては業績悪化の改定事由に該当するため、1月からの役員報酬30万円が定期同額給与となり、1月の改定による損金不算入は生じない。
④ 定時株主総会後、業績悪化改定事由に該当する改定があり、その後業績悪化改定事由に該当しない改定があった場合


10月の改定は業績悪化改定事由に該当するため、月額80万円から月額60万円への改定は、定期同額給与となる。
しかし、1月にさらに月額40万円に減額改定を行っている。この改定が業績悪化改定事由に該当するものであれば特段問題はないが、今期の営業利益目標を確保するための改定であり、業績悪化改定事由には該当しない。
この場合には、改定した月額40万円が定期同額給与となるため、10月?12月における月額60万円の支給額のうち、月額40万円を超過する20万円部分が損金不算入となる。
(かとう・ゆきと)
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