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解説記事2017年08月21日 【SCOPE】 海外当局への情報交換要請巡り国家賠償法上の違法を認めず(2017年8月21日号・№703)

地裁、租税条約上の要件等を満たすと判断
海外当局への情報交換要請巡り国家賠償法上の違法を認めず

 租税条約に基づく情報交換要請をめぐり、両親夫婦の所得税の調査対象に関連して、海外当局から情報提供を求められた原告A(両親夫婦の子・シンガポール居住者)及び原告法人B(原告Aが出資するシンガポール法人)が情報交換要請の取消し等やその要請が違法であるとして国家賠償法に基づく損害賠償を請求していた事件で、原告側が敗訴する判決が下された(東京地裁平成29年2月17日判決・平成25年(行ウ)第618号)。裁判所は、原告側による情報交換要請の取消し等を請求する部分に関する訴えは不適法として却下する一方で、情報交換要請の適否について国家賠償法上の違法が認められるか否かを検討。本件については、国税庁がシンガポールの税務当局に対して行った情報交換要請が必要性及び租税条約上の要件に沿って行われていることなどから、国家賠償法上の違法はないと判断している。

調査対象者の家族及び関係法人に対する情報交換要請が問題に
 租税条約等に基づく情報交換の1つである「要請に基づく情報交換」とは、税務調査において国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、条約等相手国・地域の税務当局に必要な情報の収集・提供を要請するもの。税務当局にとっては、国際事案に対する重要な情報収集手段の1つとなっている(近年の要請件数は参照)。

 本件は、シンガポールに居住する原告Aの両親夫婦(日本国内に居住)に対する所得税調査に関連して、税務当局が両親夫婦の家族(原告A)や関係会社である原告法人Bらに関する情報を海外当局に対して要請したことについて、原告Aらがその情報要請の取消等を求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求した事件である。
 事実関係をみると、原告Aの両親夫婦に対する税務調査で税務当局は、両親夫婦及び子である原告A及びその兄弟の外国投資信託に係る適正な所得を把握するためには、原告Aが設立した原告法人B(シンガポール法人)に関する信託内容を把握する必要があると判断し、シンガポール政府内国歳入庁(以下「IRAS」)に情報交換を要請した。具体的には、原告法人Bが投資運用会社となった投資信託、その内容(運用実績や分配など)、原告A及びその父並びに原告法人Bなどがシンガポールに保有している口座の取引明細書などに関する情報の提供を依頼した。これに対しIRASは、原告B法人に対しては投資信託の内容などの情報提供を求める一方で、原告Aに対してはシンガポール口座の取引明細書の提供を求めた。
 一方、原告Aらは、国税庁が両親夫婦の家族である原告A又は関係会社に関する情報交換を要請したことは租税条約に違反したものであり、これらにより自身ないし顧客のプライバシーその他の権利利益を侵害されたとして、その情報要請の取消し等を求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求する訴訟を東京地裁に提起した。
情報要請の取消し等を請求する部分は却下  これに対し裁判所は、情報要請について抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないことなどを理由に、情報要請の取消し等を請求する部分に関する原告Aらの訴えは不適法として却下する一方で、情報要請の適否について国賠法上の違法が認められるか否かを具体的に検討している。
 裁判所は、租税条約に基づく特定の事案に係る情報交換要請行為は国内であればいわゆる反面調査等に相当するものを外国に存在する情報について行うに類するものということができるから、国内において「必要があるとき」(通則法74の2①)の下でこれを行う必要があるものと解するのが相当であるとした。そして、税務職員は被要請国の居住者との関係でも上記の必要性及び租税条約上の要件のいずれにも沿って租税条約に基づく情報要請を行うべき職務上の法的義務を負っているというべきであると判断した。
 裁判所はまず、租税条約(日星租税協定26①)が非関連情報を要請してはならない旨が規定されている点を指摘。本件については、日本の租税法を適正に執行するためには原告Aの両親夫婦及び原告A、原告法人Bなどに関する資金及び株式の移動の全容などを解明する必要があったと認定。原告Aらが非関連情報に該当すると主張する原告法人Bの運用する投資信託及びシンガポールの原告Aの口座に係る情報などは非関連情報には該当しないとした。また、裁判所は、租税条約(日星租税協定26③b号)が日本の法令の下において又は行政の通常の運営において入手することができない情報(以下「国内入手不能情報」)を要請できない旨が規定されている点を指摘。本件については、シンガポール口座に関する情報要請が国内入手不能情報を要請するものとして違法であるとはいえないと判断している。さらに、裁判所は、要請の対象となる情報は要請国の国内における調査を補完するようなものに限定されると指摘。本件については、日本の租税法を適正に執行するためには原告Aの両親夫婦及び原告A並びに関係各社等の資金及び株式の移動の全容や関係会社等の設立の真の趣旨ないし目的を解明する必要があったものと認められることを踏まえると、情報要請の対象となった情報については租税条約に基づき情報を要請する客観的な必要性があったものということができ、情報要請に至った税務職員の判断が社会通念上相当な限度を逸脱していたとは認められないと判断した。以上を踏まえ裁判所は、本件における情報要請に国賠法上の違法があるとはいえないとしたうえで、原告Aらによる国賠請求を棄却している(なお、敗訴した原告側は控訴を提起している)。

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