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解説記事2019年06月17日 【論考】 上場子会社におけるガバナンスの課題(2019年6月17日号・№791)

論考
上場子会社におけるガバナンスの課題
 神奈川大学法学部教授 葭田英人

1 はじめに
 親子上場は、コーポレートガバナンスの観点から問題が多く、海外の投資家ばかりでなく国内の投資家からも批判が相次いでいる。欧米ではほとんど見られない日本特有の資本政策である。特に、親会社の利益を優先し、子会社の少数株主の権利が十分保護されないなどの問題が指摘され、減少傾向が続いていた。
 こうした中、政府の未来投資会議において、株式市場に上場している「上場子会社」の企業統治を高めるルール作りが検討され、親会社から独立した社外取締役の比率を高めるなど、親会社の意向が優先され子会社の少数株主の利益が損なわれる事態を防ぐ具体策を成長戦略に盛り込む方針である。
 昨年12月、ソフトバンクが東証1部に上場した。親会社のソフトバンクグループとの親子上場である。投資家からは、少数株主の利益が損なわれるとの懸念も根強いことから減少が続いていた親子上場が、最近になって再び注目され始めた。これは、株高により子会社上場による資金調達のメリットが大きくなったことが要因である。しかし、過去には親子上場がトヨタ自動車やKDDIなどの成長企業を生み出した成功事例もあり、親子上場の成否は評価が分かれるところである。
 そこで、本稿において、親子上場のメリットとデメリットを明らかにし、親子上場の問題点と規制について検討し、上場子会社におけるガバナンスの実効性を確保するための課題について考察する。

2 親子上場とは  親子上場とは、親会社と子会社がともに上場会社として株式を公開している状況をいう。子会社とは、親会社がその総株主の議決権の過半数を有し、経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう(会社法2条3号)。つまり、親子会社関係は、議決権の過半数基準と経営の支配という実質的基準により規定され、子会社の経営には、親会社からの一定の支配権が及ぶことが一般的である。
 日本においては、株式の持ち合いにより安定株主を作る経営を長く続けてきた。親子上場は子会社にとって最も重要な安定株主対策といえる。日本に親子上場が多いのは、資本の論理により経営の安定を図ってきた結果である。
 また、親子上場により子会社の知名度や格が上がって有利な条件で事業活動ができるようになる。さらに、子会社が必要な資金を機動的に調達できるメリットがある反面、親会社の利益を優先して子会社の他の少数株主の利益が阻害されるデメリットが存在する。また、子会社の利益が親会社以外の少数株主に流出することで企業グループとしての収益力が低下することや、内部統制システムの設置など上場維持コストも増加すること、重要事項の決定のために株主総会の招集が必要であり、迅速な意思決定ができないことなどにより、資本関係の解消または完全子会社化による親子上場解消の動きもみられる。

3 親子上場のメリット
(1)経営の信用力・効率性の向上
 親子上場は、企業グループ全体の利益を図る仕組みである。親会社ばかりでなく子会社が上場することにより、子会社自体の信用力が増進し、企業グループ全体のブランド価値が向上する。そして、子会社自体の信用力は、会社債権者にとって、取引の安全の目安になる。   
 また、上場子会社は親会社と垂直的な位置関係に属する場合が多いが、企業グループ各社の活動は、グループ会社を一体として決定できるので、全体としての効率性を高めることができる。さらに、親子間取引により子会社の経営が安定し、高い信用力を持つ親会社が存在すれば、他社に比して有利な営業活動ができる。
(2)有能な人材確保  親子上場することで知名度が高まり、有能な人材を確保することができる。親子上場会社であるという社会からの信頼性の観点から、優秀な人材を確保しやすい。株式を上場しているということは、会社情報が開示され、株主から監視され、コーポレートガバナンスが機能している信頼できる会社として評価されることであり、子会社単独でも優れた人材を採用することができる。
(3)二重のモニタリング効果  上場子会社のコーポレートガバナンスの観点からは、親会社によるモニタリングと株式市場のモニタリングの二重のモニタリング効果が期待でき、シナジー効果によりモニタリングの信頼性が向上する。また、投資家にとっては、上場親会社が上場子会社の信用補完の役割を果たすことになる。
(4)資金調達手段の多様化  子会社が上場しているということは、資金調達を自由に行うことができることを意味する。子会社自身の判断で市場から調達するのか、上場親会社の保証や資金面の支援を受けた方が有利なのか、比較検討することができ、資金調達手段の多様化を図ることができる。

4 親子上場のデメリット
(1)経営上の課題
 企業グループ経営の効率化を図るために、親子上場を解消する動きも目立っている。親子会社が上場することにより、親会社の影響力や支配力が低下する。一方、子会社にとっても、親会社から独立して事業を行うことによる営業力の低下や管理コストの増加、詳細な情報開示が必要になってくる。
 また、親子上場は、子会社利益の一部が少数株主に対して分配され、外部に流出することになる。さらに、場合によっては、子会社にとって不利益となる判断が、企業グループ全体として効率的となる場合、子会社の上場を廃止し企業グループ全体としての効率性を向上させ、子会社の少数株主への利益の流出を止めることもあり得る。
(2)利益相反問題  わが国においては、親会社による子会社支配は当然であり、上場子会社の少数株主の保護を優先すべきだとする考え方は通常とられていない。親会社が自らの利益を優先して子会社の少数株主の利益を侵害する利益相反問題(一般株主利益の収奪)が構造的に存在する。親会社の都合により自由な事業活動が阻害され、第三者との取引に比べて親子会社間の取引は、取引条件が恣意的に決定されるおそれがある。
 親会社により不利な条件による取引を強いられたり、企業グループ全体の利益のために不利な事業調整をされたりするおそれがある。さらに、上場子会社を完全子会社化し、非公開化することにより、子会社の少数株主を締め出すこともあり得る。子会社の少数株主の権利や利益が損なわれ、不特定の少数株主が存在する上場企業として相応しくない企業行動がとられるおそれがある。
 企業グループを形成する目的は、親子会社間の相互の協力により、企業グループ全体の利益の最大化を図ることである。しかし、企業グループ全体の利益の最大化は、子会社の利益の最大化と結びつくとは限らない。企業グループの中での親会社の役割と親会社と別法人としての子会社の独立性の双方のバランスが求められることになる(注1)。
(3)資金の二重取り  投資家の間では、親会社が上場時に市場から資金を集め、さらに子会社上場で再び資金を得るのは、同じ企業が2回上場しているのと同じだとして、新規公開による資金の二重取りではないかという問題が指摘されている。
 東京証券取引所では、「企業グループにおける子会社の事業の特性、事業規模、過去の業績の状況、将来の収益見通し、親会社からの独立性、内部管理体制等を総合的に勘案しながら慎重に審査する(注2)」と表明している。経営の自由度を高めるために親子上場には意味があるのであり、投資機会の提供の観点から子会社の上場は禁止すべきではないものと考える。

5 親子上場の問題点と規制
(1)親子上場禁止
 親子上場において、子会社の株主総会の場で少数株主が影響力を発揮できないことが問題であり、親子上場そのものが問われている。親会社の専横に対する防止策として親子上場禁止は有効となるのだろうか。
 親子上場は、親会社が上場子会社の株式を取得し、子会社を上場廃止することで解消される。子会社の株式を取得する方法として、親会社が子会社の株式を買い集める「株式公開買付(TOB)」と、子会社の株主に親会社の株式を割り当てる「株式交換(完全親子会社化)」などがある。
 親子上場規制の選択肢としては、親子上場を禁止することは最も厳格な規制である。わが国で親子上場を禁止することは、実証研究の結果からも十分な根拠がなく、経済効率性を著しく阻害する可能性が高い(注3)。過去には親子上場が成長企業を生み出した成功事例もあり、親子上場禁止により発展過程を遮断してはならないものと考える。
(2)情報開示規制  親子上場の場合、親会社の支配権が強く働くことにより子会社の少数株主が不利益を被る利益相反については、親会社がその内容について積極的に説明を行うことを義務付けるべきである。しかし、過度の情報開示は混乱を招くおそれがあり、重要性があるものに限るべきであろう。
 未来投資会議においても、支配株主である親会社に対し、上場子会社を維持する合理的理由とともに、支配株主として上場子会社の取締役の選解任権限についての上場子会社のガバナンス体制の実効性の確保と適切性について、投資家に対して説明責任を果たすことを求めている。また、上場子会社に対しても、少数株主の利益を確保するためにどのようなガバナンス体制を構築しているかについて、投資家に対して情報開示を行うことを求めている。
(3)支配株主の忠実義務  欧米等の主要国では、判例法により、支配株主は少数株主が不利益を被ることがないよう配慮する忠実義務が存在する。したがって、少数株主は支配株主に対して忠実義務違反に基づく損害賠償請求をすることができることから、支配株主でいること自体、法的リスクが伴うことになる。一方、日本では、会社法上も判例上も、支配株主の少数株主に対する忠実義務は認められていない。
 親子上場問題の本質は、支配株主(親会社)と上場子会社の少数株主の利害対立にある。支配株主の忠実義務は、少数株主保護を強化し、支配株主と少数株主の権利関係を均衡化するための方策である。利益相反行為が行われた場合に、少数株主が訴訟において争う余地が存在することは法的インフラとして重要であり、わが国の証券市場の評判維持のためにも必要である(注4)。
(4)少数株主保護規制  親子上場会社において、子会社が不利益を被り、子会社の少数株主の配当の減少や株価の下落などの不利益が生ずることがある。子会社の不利益が一時的に存在しても、企業グループ全体として利益が増加し、将来的には子会社の利益につながることもある。
 しかし、親子会社間の利益相反取引により、子会社の少数株主に不利益が生じることを懸念する国内外の投資家は多い。子会社の少数株主保護について、親会社の役割を踏まえて、支配株主による少数株主保護義務を法制化することにより、親会社である支配株主の利益相反行為を抑制することができ、子会社の少数株主からの訴訟リスクを減らすことも可能である。
(5)上場子会社の社外取締役基準  上場子会社におけるガバナンスの実効性を確保するためには、支配株主からの独立性が重要であることから、未来投資会議において、上場子会社の取締役会の独立社外取締役比率を3分の1以上や過半数を目指し、支配株主の親会社出身者(10年以内に支配株主に所属していた者)を含まない「独立社外取締役」とすることが提案された。また、親子会社間の利益が相反する場合は、上場子会社において独立社外取締役(または独立社外監査役)のみまたは過半数を占める委員会で検討すべきだとした。
 しかし、独立性をもった社外取締役をどのように選任するのかがポイントであり、親会社や社長を中心とした取締役会が選任する従来のやり方では、会社にとって都合のいい社外取締役を選任する可能性が高く、適正な客観的な監督の確保ができるのか疑わしい。国や地方自治体が中心となり、社外取締役の選任権や報酬決定権を有する外部の公的な第三者機関を設置し、そこで一定の資格基準により選任される社外取締役制度を創設することを検討する必要がある。会社は社外取締役を直接選任し個別契約するのではなく、第三者機関と契約し報酬も第三者機関に支払い、社外取締役は第三者機関から報酬を受け取る制度とする必要がある。どの会社の社外取締役となるかは、第三者機関が割り当てることになる。この場合、日弁連などの協力が必要となるであろう。この制度により社外取締役の独立性が確保される。さらに、会社が社内情報を社外取締役に対して分け隔てなく提供し、明確に説明できるかどうかは、社外取締役制度が機能するかどうかの根幹となる部分であり、重要な社内情報が社外取締役に提供されるシステムを構築し、その義務化が鍵となる。

6 むすび  国内外の親子上場問題への関心が高まる中、上場子会社のガバナンスについては特段の定めもないのが現状である。国内外の投資家からも市場機能の濫用になっているとの批判があり、日本市場の信頼が損なわれるとの危機感から、政府が中心となり上場子会社のガバナンスのルールを明確化することとなった。
 金融庁と東京証券取引所においても、現行のコーポレートガバナンス・コードに「グループ・ガバナンス」条項を盛り込み、親会社による子会社のガバナンス体制を求める方針である。しかし、社外取締役さえ増やせば、親会社と子会社の兼任を認める方向で進みつつある。
 株式市場の原理・原則からすれば、親子上場には問題がある。しかし、子会社上場は、子会社が資本市場から独自に資金を調達する手段を得ることで成長を加速させ、事業価値を向上させることを目的としている。上場子会社において、市場に株式を公開し、一般投資家が自由に株式を売買できる以上、一般株主の利益を配慮することが上場の前提となるのは当然のことである。また、過去の成功事例も多いことから、子会社上場を廃止するのではなく、支配株主による少数株主保護義務の法制化を進めるべきである。
 特に、独立社外取締役の充実がコーポレートガバナンスの改革の大きな柱であり、わが国のコーポレートガバナンス強化の中で独立社外取締役の存在意義が格段に高まっている。上場子会社の少数株主の保護および独立した意思決定の確保のためには、独立社外取締役の役割が重要となる。しかし、親会社ですら独立性をもった社外取締役の選任が課題となっている状況で、上場子会社が、社外取締役の人選(特に人数や独立性の確保)をどのように進めるのか注視する必要がある。
(注1)高橋 均「親子上場会社と子会社少数株主保護」『コーポレート・ガバナンスにおけるソフトローの役割』(中央経済社・2013)69頁。
(注2)東京証券取引所「2018新規上場ガイドブック(市場第1部・第2部編)」(2018)49頁~104頁参照。
(注3)宍戸善一・新田敬祐・宮島英昭「親子上場をめぐる議論に対する問題提起〔下〕―法と経済学の観点から―」商事法務1900号(2010)42頁。
(注4)宍戸善一・新田敬祐・宮島英昭、前掲(注3)、43頁。

葭田英人 よしだ ひでと
筑波大学大学院修了。専門分野は、会社法・税法・信託法。近著は、『基本がわかる会社法』(三省堂・2017)、『信託の法制度と税制』(税務経理協会・2017)、『合同会社の法制度と税制(第三版)』編著(税務経理協会・2019)など。

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