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解説記事2022年04月04日 SCOPE 仕入税額控除の適用がない点で“処分理由の差し替え”にならず(2022年4月4日号・№925)

更正処分の理由と審査請求での主張が異なるも
仕入税額控除の適用がない点で“処分理由の差し替え”にならず


 更正処分に係る通知書の理由とその後の審査請求での原処分庁の理由が異なる場合、理由提示の不備となるかが1つの争点となった裁決で、国税不服審判所は、原処分庁の審査請求段階の主張は、仕入税額控除が適用されないとする点において通知書に記載された理由と変更がないとし、理由の差し替えとはいえないとの判断を示した。審判所は、課税処分の取消請求における審判の対象は専ら原処分庁の行った課税処分の客観的な適否であり、当該課税処分において認定された課税標準額及び税額がその総額において租税実体法規に定められたところを上回っていなければ、その処分は適法とされるとの見解を示した。

税額等の総額が上回らなければ処分理由の差し替えは適法

 本件は、請求人が楽器の仕入金額を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて消費税等の確定申告をしたところ、原処分庁が楽器の仕入れは国外で行われたものであり、仕入金額は課税仕入れに係る支払対価の額に当たらないとして消費税等の更正処分等を行ったもの。請求人は、各楽器は請求人以外の者によって国内に持ち込まれたものであり、各取引が行われた時には国内に所在していたなどとして、原処分の全部の取消しを求めた。また、請求人は、原処分庁の帳簿等の保存に関する主張は更正処分の各通知書に記載されていない事項に関するものであるとし、理由の差し替えは認められないと主張した(参照)。

【表】当事者の主な主張

原処分庁 請求人

 更正処分の理由書に記載されていない事項を審査請求の段階において主張することの可否は、必ずしも基本的課税要件事実の同一性の有無等によって決せられるわけではないが、仮にそうであるとしても、原処分庁の消費税法30条7項に係る主張は、以下のとおり、基本的課税要件事実の同一性が失われない範囲内の主張であり、許されるべきものである。
 すなわち、本件において仕入税額控除をするためには、①各楽器の購入が国内に行われていること、②各楽器の購入に係る帳簿等を保存していることが消費税法上当然に要求されるところ、各更正処分においては、各楽器の購入が国外における取引に該当すると判断したことから、帳簿等の保存の有無について判断することなく、仕入税額控除を否定し、そして、審査請求の段階に至って、請求人の主張を踏まえ、各楽器の購入に係る帳簿等の保存の有無を改めて検討した上で、各楽器の購入が国内において行われた場合であっても、各楽器の購入に係る帳簿等の保存のないことを予備的に主張したものである。

 帳簿等の保存に関する原処分庁の主張は、各通知書に記載されていない事項に関するものであるから、理由の差し替えに当たる。そして、理由の差し替えは、手続的保障原則との関係で基本的課税要件事実の同一性が失われない範囲内に限り認められているところ、帳簿等の保存に関する事項は、譲り受けた資産の所在場所の判定事項とは、全く異質なものであるといえ、明らかに、両者の対象としている事実の間に、基本的課税要件事実の同一性はない。
 また、処分理由の差し替えは、これを認めたのでは、行政手続法が規定する理由の提示制度を全く無意義ならしめるような場合、又はこれを認めることが納税者の正当な利益を害するような特段の事業がある場合以外は認められるところであるが、認定事実や判断過程が全く不明な理由付記を全く別の新たな課税要件の主張によって差し替え可能とするのであれば、どのような理由の記載であっても違法となることはなく、「理由の提示制度」を全く無意義ならしめるものになる。

処分理由の提示に不備はなし
 審判所は、各通知書の更正処分の理由には①請求人が各楽器を譲り受けた時に各楽器の所在していた場所は明らかではないこと、②各楽器を請求人に対して譲渡した者の事務所等が国外に所在していること、③①及び②の事実から、各取引は、消費税法上、国外で行われた取引となり、各楽器に係る仕入金額の合計額は課税仕入れに係る支払対価の額に該当せず、控除対象仕入税額が減少する旨が記載されているとし、行政手続法14条1項の要求する理由の提示として不備はないとした。
 その上で審判所は、処分理由の差し替えについては、課税処分の取消請求における審判の対象は専ら原処分庁の行った課税処分の客観的な適否であり、当該課税処分において認定された課税標準額及び税額がその総額において租税実体法規に定められたところを上回っていなければ、その処分は適法とされることに加え、行政手続法14条1項の趣旨からすれば、処分理由の差し替えは、これを認めたのでは、同法が規定する理由の提示制度を全く無意義ならしめるような場合、又は、これを認めることが納税者の正当な利益を害するような特段の事情がある場合以外は認められると解するのが相当であるとした。
 原処分庁は、通知書において各取引が国外で行われた取引と認められることを理由として、各取引に係る仕入金額の合計額が課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとして控除対象仕入税額を減少させる旨を記載し、審査請求では、各取引において帳簿等の保存がないことを理由として、仕入税額控除が認められないと主張しており、審判所は、帳簿等の保存に関する原処分庁の主張は仕入税額控除が適用されない点において変更はないとの見解を示し、請求人の主張を斥けている。
楽器が国内に持ち込まれた時期が不明なだけ
 もう1つの争点である楽器の仕入取引の国内外判定に関しては、請求人の主張が一部認められ、原処分の一部を取り消している。
 審判所は、請求人の提出した証拠によれば、各楽器については各仕入先から販売依頼を受け、各仕入先によって国内に持ち込まれたものを請求人が一定期間預かった上で、展示会への出店、演奏家や同業者への貸出しを行いながら販売したものなどであり、請求人が譲り受けた時には国内に所在したと解するのが相当であるとし、いずれも国内において行った課税仕入れに該当するとの判断を示した(ただし、帳簿等の保存がない課税仕入れに関しては除く)。
 原処分庁は、各仕入先は請求人に対して各楽器に係る輸入申告をしたか否かについて明確な回答を拒否しており、各取引が行われた時において場所が国内であったとは認められないと主張するが、審判所は、各楽器に係る輸入申告の存否が明らかでないとしても、その事実からは各楽器を国内に持ち込んだ者及び各楽器が国内に持ち込まれた時期が明らかとならないだけであって、当該事実のみをもって各楽器が所在していた場所が国内ではないとまで認めることはできないとの判断を示した。

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