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解説記事2020年06月15日 特別解説 監査上の主要な検討事項(KAM)(2020年6月15日号・№838) 主要な欧州企業の事例の調査②

特別解説
監査上の主要な検討事項(KAM)
主要な欧州企業の事例の調査②

はじめに

 前回は主要な欧州(英国及び欧州大陸)企業の2019年度の連結財務諸表に対する監査報告書に記載された監査上の主要な検討事項(KAM)について、記載件数や記載された内容の傾向など、全体的な調査分析を行った。本稿では、英国及び欧州大陸企業の監査報告書に記載されたKAMの実例をいくつか紹介することとしたい。
 個々の監査上の主要な検討事項の記載内容については、国際監査基準(ISA)701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な事項のコミュニケーション」に次のように定められている(第13項)。
 監査報告書の監査上の主要な検討事項区分における、各監査上の主要な検討事項(KAM)は、財務諸表に記載がある場合には財務諸表における関連する開示へ参照を付した上で、以下を記載しなければならない。

(a)当該事項が財務諸表監査における最も重要な事項の1つであると考えられ、そのため監査上の主要な検討事項であると決定された理由。
(b)当該事項が監査においてどのように対処されたか。

 本稿で紹介するKAMの事例は、各社のウェブサイトに掲載されている英文のアニュアル・レポートに含まれている監査報告書を、筆者が和訳したものである。

本稿で取り上げるKAMの事例

 本稿で取り上げるKAMの事例は、以下のとおりである。

・ロールス・ロイス・ホールディングス:繰延税金資産の認識
・インターナショナル・エアラインズ・グループ:仮定の適切性とIFRS第16号の会計処理の適切性
・ABNアムロ・グループ:反資金洗浄に関連する当局の調査
・WPP:継続企業

 さらに、KAMではないが、STマイクロエレクトロニクス社の監査報告書に、コロナウイルスに関する強調事項が記載されていたため、これを最後に紹介することとしたい。

ロールス・ロイス・ホールディングス社の監査報告書に記載されたKAM

 ロールス・ロイス・ホールディングス社は、独特の形の車で我が国にも多くの根強いファンを持つ英国の高級車メーカーであり、航空機のエンジン等でも高いシェアを持っている。
 また、ロールス・ロイス・ホールディングス社の監査報告書におけるKAMの記載は、その丁寧さと内容の分かりやすさによって投資家から非常に高く評価されており、表彰を受けるなど、KAM記載のお手本となる事例の一つとして、広く認知されている。
 このように華やかなロールス・ロイス・ホールディングス社ではあるが、残念ながら本業の業績は苦戦続きで、2019年12月末日現在では、3,354百万ポンド(約4,826億円)の債務超過という大変な苦境にある。そして、1,887百万ポンド(約2,715億円)の繰延税金資産が、連結貸借対照表上で認識されている。
・繰延税金資産の認識
 2019年12月期 会計監査人:PwC
(監査上の主要な検討事項)
 繰延税金資産の認識とその回収可能性は重要な判断の領域である。当グループは、関連する税管轄区域における将来の収益性のレベルに基づいて、金額的に重要性がある繰延税金資産を認識している。繰延税金資産の認識額が大きいため、長期間にわたる将来の収益性の水準を評価する際に、重要な判断が必要とされる。2019年度に英国で多額の損失が報告され、これは、繰延税金資産が不適切に認識されるリスクが高まることを示している。さらに、長期にわたる予測利益の水準については、本質的に不確実性のレベルがより高くなる。
(会計監査人がKAMに対応した方法)
・ビジネスモデルと税管轄区域の両方を考慮して、繰延税金資産の認識を裏付けるのに十分な課税所得の将来の利用可能性に関する経営者による査定を評価した。
・最大の繰延税金資産が認識されている英国で、将来の利益予測と特定の利益ストリームの経営者のリスク加重を含む基盤となる仮定を評価した。
・特定の繰延税金負債及び繰延税金資産の相殺権を評価した。
・該当する場合、繰延税金資産の認識を正当化するために使用された予測を、長期の工事契約に関する会計処理、減損の評価、または存続可能性及び継続企業の前提に関する経営者の説明など、事業の他の場所で使用された予測に調整した。
・この領域についての開示の妥当性、特に認識した繰延税金資産の主要な見積りの変更の影響を評価した。
・その結果、未修正の重要な例外的事項は識別されなかった。
 なお、監査報告書の「継続企業の前提に関する報告事項」の項には、次の通り記載されている。コロナウイルスの蔓延に伴う不確実性に関する記載はない(監査報告書は、2020年2月28日付で発行されている)。

 追加したり、注意を向けたりする必要があるような重要性がある事項は特にない。ただし、将来のすべての事象や状況を予測できるわけではないため、この記述は、グループ及び会社が継続企業として存続する能力を保証するものではない。例えば、英国のEUからの離脱の条件が明確ではなく、グループと会社の取引、顧客、サプライヤー、そしてより幅広い経済への潜在的な影響すべてを評価することは困難である。

 前記のとおり、ロールス・ロイス・ホールディングス社は、2018年度や2019年度は英国によるEU離脱(Brexit)により大きな影響を受けたが、2020年度は、コロナウイルスにより、それらをはるかに上回る甚大な悪影響を受ける可能性が高い。経営破綻を回避するために、今後、英国政府による救済措置等が打ち出される可能性も否定できないであろう。

インターナショナル・エアラインズ・グループ社の監査報告書に記載されたKAM

 航空会社等の空運業や小売業は、オペレーティング・リースによって航空機材や店舗、店内の器具等を多く調達していることから、IFRS第16号「リース」が適用されることによって、会計上大きな影響が出ると言われてきたが、英国航空やイベリア航空を傘下に持つ、英国のインターナショナル・エアラインズ・グループ(IAG)の監査報告書には、「仮定の適切性及びIFRS第16号に関する会計処理の適切性」というKAMが記載された。
(2019年12月期 会計監査人:E&Y)
・仮定の適切性及びIFRS第16号に関する会計処理の適切性
 当社グループは、2019年1月1日より、IFRS第16号「リース」を適用した。リースの当初の会計処理及び再評価に当たっては、会計上の判断や見積りが介在し、様々な仮定が財務諸表上で認識される使用権資産やリース負債、返品引当金等の金額に影響を与える。これらの仮定には、見積りリース期間や延長オプション、リース負債を決定するために利用される割引率、解約及び契約の修正条項の適用や返品に係る債務の見積り等が含まれる。
 そのため、不適切な仮定が適用されるリスクがあり、それによって貸借対照表上に計上される金額に重要な影響を与える可能性がある。
(会計監査人の対応)
 我々は、以下のような監査手続を実施した。
・航空機材の取得に関する契約やリース契約の変更等を含む、当社グループが保有するリースについての理解をアップデートした。
・抽出したリースのサンプルに対して監査手続を実施することにより、使用権資産とリース負債の当初認識額に関する計算の正確性を検証した。
・リース期間や当初直接コスト、固定/変動額の支払い、残価保証及び契約終了コストをリース契約書と照合し、期首の調整について再計算を実施した。
・当期中に契約したリースのサンプルに対して監査手続を実施することにより、新規のリースによる会計上の影響を評価した。すなわち、主要な条項についてリース契約書と照合した。我々はまた、適用した割引率(借手の追加借入利子率又は黙示的な利率)の妥当性を評価した。
・リース負債に関して発生した利息費用及び使用権資産の償却費の合理性を検討した。
・期中に行われたセール・アンド・リースバック取引について、認識された利得または損失の適切性及び会計処理の適切性を検証した。
・経過的な開示の網羅性を含む、すべての重要な開示が適切に行われていることを評価した。

ABNアムロ・グループの監査報告書に記載されたKAM

 マネー・ロンダリング(資金洗浄)関連の規定に抵触した疑いにより、2019年度に複数の欧州の銀行が規制当局の調査を受けたが、オランダの大手金融機関グループであるABNアムロ・グループの監査報告書には、以下のようなKAMが記載された。
(2019年12月期 会計監査人:E&Y)
反資金洗浄及び資金的なテロリズム防止に関連するオランダ法への準拠に係る当局の調査
(リスク)

 ABNアムロは、マネー・ロンダリングの防止とテロ資金の調達に関するオランダ法に基づく要求事項に関して、オランダの検査官による調査の対象となる。調査の範囲には、銀行がクライアントのデューデリジェンスに関連する適用法を遵守しているかどうか、適時に異常な取引を報告し、適時にクライアントとの関係を打ち切るかどうかが含まれる。
 調査完了の時期と結果が不明であるため、偶発債務が開示されている。偶発債務は、不確実な将来の事象によってのみ存在が確認される可能性のある債務であり、経済的資源の移転が不確実であるか、または信頼性をもって測定できない現在の義務である。偶発債務は貸借対照表では認識されないが、経済的資源が流出する可能性が極めて低くない限りは開示される。調査の重要性が高いため、我々はこれを監査上の主要な検討事項と考えている。
(監査上のアプローチ)
・定期的に取締役会メンバーと面談し、潜在的な義務と検査官の捜査の進捗状況を理解した。
・執行委員会と監督委員会の議事録を通読し、リスクと資本委員会の会議に通年で参加した。
・監査委員会、リスクおよび資本委員会の委員長との二者間の会議を定期的に開催した。
・定期的に、銀行の法務部門とコンプライアンス部門に問い合わせ、検査官の調査に引き続いて、既存の及び潜在的な新規の推定的債務及び法的義務を理解して協議した。
・ABNアムログループのリーガルレポート及びコンプライアンスレポートを閲覧した。
・潜在的な義務を理解するために、外部の弁護士から法的書簡を入手した。
・最後に、偶発債務に関連する開示の完全性と正確性、及びこれらの開示がEU−IFRSの要求事項に準拠しているかどうかを評価した。
(主要な所見)
 調査は現在も進行中であり、結果も不確実であるため、2019年12月31日現在、引当金は認識されていない。調査に関連する偶発債務の開示は適切であり、EU.IFRSに基づく要求事項を充足していると考えられる。

WPPの監査報告書に記載されたKAM

 WPPはロンドンに本拠地を置く世界最大手の広告代理店である。WPPの2019年度の連結財務諸表に対する監査報告書には、コロナウイルスに言及したKAMが次のように記載された(会計監査人はDeloitte)。
(識別したリスク)
 取締役会は、財務諸表の承認日から少なくとも12か月間について、継続企業としてグループが存続する能力に重要な疑義を生じさせる重要な不確実性はないと結論付けた。
 COVID-19に関連する固有の不確実性を考慮すると、最悪のシナリオを合理的に決定することは現時点では困難である。したがって、経営者はさまざまなシナリオをモデル化した。これらには、(注2)セグメント情報で定義されているとおり、パススルーコストを差し引いた収益が前年比35%以上減少したと仮定したシナリオが含まれていた。必要なパススルーコストを差し引いた収益の減少や、自社株買いの停止、配当の支払い停止といった、経営者が利用可能な緩和措置等を考慮すると、2020年12月31日の時点でグループが金融機関の財務制限条項に違反し、財務諸表の承認日から少なくとも12か月間について十分な流動性を利用できなくなる可能性はほとんどないと経営者は判断した。COVID-19のグループへの影響に関する不確実性の結果、とりわけ、継続企業の前提に重要な疑義がないと結論するためには、グループが経験している、パススルーコストを差し引いた収益の減少があったとしても、2020年12月31日時点で財務制限条項に抵触する可能性がほとんどないという判断をしなければならない。この判断の重要性に鑑みて、継続企業の論点を我々は監査上の主要な検討事項として特定した。
(監査上の対応)
 我々は、COVID-19パンデミックの不確実性の影響を考慮した次の監査手続を実施した。
−経営者の継続企業モデルに対する内部統制の有効性をテストした。これには、当該モデルで利用されたインプットと仮定の検討や関連する開示の検討が含まれる。
−社内のトランザクションスペシャリストを活用し、予測の前提の適切性を次のように評価した。
 ・アナリストの報告書、業界データ、及びその他の外部情報を通読し、経営者の前提に関連する裏付けまたは矛盾する証拠が提供されたかどうかを判断した。
 ・予測売上高を最近の過去の財務情報と比較した。
 ・コストを削減し、キャッシュフローを管理するための緩和策に関して経営者に質問し、緩和策が会社の管理下にあるかどうかを評価した。
−予測シナリオを作成するために利用された基礎データをテストし、予測の基礎となる仮定に十分な裏付けがあるかどうかを判断した。
−財務制限条項について理解するために、信用枠の条件を通読した。
−IAS第1号「財務諸表の表示」及びISA570「継続企業」の要求事項に照らして、継続企業に関するグループの開示を評価した。
(所見)
 当法人の手続に基づき、グループと親会社が継続企業として存続する能力に重要な疑義を生じさせる重要な不確実性はないという取締役会の結論は、適切であると判断した。

STマイクロエレクトロニクス社の監査報告書に記載されたコロナウイルスに関する強調事項

 監査上の主要な検討事項(KAM)としての記載ではないが、コロナウイルスに関連する不確実性について、監査報告書に強調事項として記載して注意喚起をしていた事例があったため、参考として紹介したい。
 STマイクロエレクトロニクス社は、スイスのジュネーブに本拠を置く、半導体の製造・販売を行う多国籍企業である。STマイクロエレクトロニクス社の監査報告書には、監査上の主要な検討事項が3項目記載されているが(収益認識、繰延税金資産の回収可能性、及び資産化した開発費の実在性と評価)、このほかに、監査報告書に強調事項として、以下のような開示が行われていた。
(2019年12月期 会計監査人:E&Y)
コロナについての不確実性に関する強調事項(Emphasis of matter relating to uncertainty about Corona)

 コロナ(Covid-19)ウイルスを取り巻く進展は、人々の健康と我々の社会全体、並びに組織の運営と財務業績、及び組織の評価や継続企業として存続する能力に大きな影響を与える。財務諸表とその監査報告書は、一時点におけるスナップショットである。状況は日常的に変化しており、固有の不確実性が生じる。STMicroelectronics N.V.もこの不確実性に直面しており、それらの情報は経営委員会の報告書のセクション3.2.4および3.3.1.2に開示されているため留意されたい。この問題に関して、我々の監査意見が変更されることはない。

終わりに

 昨年末以降、中国の武漢から感染が始まったコロナウイルスは、3月以降、あっという間に欧米を含むその他の国々に拡散し、世界中で数百万人の感染者が出る大惨事となっている。本稿で調査の対象とした各社の連結財務諸表及びその監査報告書は、2019年度(2019年1月1日から12月31日まで)のものが大半であり、コロナウイルスによる影響が出る前の期間を対象としたものである。
 日米欧を問わず、多くの主要な企業の2020年度のアニュアル・レポートでは、コロナウイルスに関する注記が行われ、監査報告書において、KAMとして記載されることも多いであろう。2020年度の各社の連結財務諸表、及び監査報告書の様相は、2019年度までとは全く異なることが予想され、現時点で予想をすることは不可能である。今後不透明感がますます増す中で、コロナウイルスが蔓延する直前であった2019年度の連結財務諸表や監査報告書、KAMは、「あの頃はよい時代だった」として回顧されることになる可能性が高い。
 我が国においては、2020年3月期から監査報告書へのKAMの記載が本格的にスタートするが、スタートと同時にコロナウイルスの激流に巻き込まれ、翻弄されることとなった。企業業績に対してコロナウイルスが及ぼす影響は各社各様であり、コロナウイルスに対応する政策や支援策等も、国によっても大きな差がある。のれんや無形資産の評価、税務上のポジションに係る不確実性等に関するKAMの記載はある程度定型的なパターンがあるが、コロナウイルスに関する連結財務諸表における注記や監査報告書におけるKAMの記載については、必然的に、個別性が強いものにならざるを得ない。横並びの画一的な記載ではなく、連結財務諸表を作成する会社や監査報告書を発行する会計監査人の知恵と工夫が強く求められると思われる。
 コロナウイルスは、人としての生き方や働き方、仕事の在り方等を根本から問いかけており、在宅勤務等、これまで遅々として進まなかった働き方改革が、我が国においても劇的に進んできている。そして、在宅勤務が進めば、労務時間管理や我が国に長らく根付いてきた「ハンコ、書面の文化」等も否応なく変わっていかざるを得ないものと思われる。コロナウイルスがいつ終息するのか、終息後の世界がどうなっているか等は全く見通せないが、この困難な状況が一刻も早く終息し、各方面への打撃も最小限で収まることを心から祈念して筆を置きたい。

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