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労働基準2024年04月02日 残業規制4業種でスタート 物流、建設、医療に影響 過労抑止へ実効性焦点 2024年問題 提供:共同通信社

 働き方改革関連法に基づく時間外労働(残業)の上限規制が1日、自動車運転業、建設業、医師、鹿児島・沖縄両県の製糖業の4業種に導入された。2019年から始まった上限規制は全業種で雇用されている人が対象となった。過労死まで招いた長時間労働の反省から始まった制度改革の節目で、抑止の実効性が問われる。一方で対象業種の人手不足は深刻で、利用者への影響は避けられない。物流停滞など「24年問題」も懸念され、社会全体で働き方を問い直す契機となりそうだ。
 規制は19年4月から多くの業種で導入されていた。4業種は業務の特殊性から長時間労働が常態化し、早期導入が難しいと判断。5年間猶予して改善を図った。だが発注者側の意向が強く反映される物流や建設業界の慣行もあり、総じて大きな改善はできなかった。
 新たに、自動車運転業(トラック、バス、タクシー)に「年960時間以下」などとする上限を導入する。ただ過労死ラインとされる月80時間と同水準であるほか、労働時間を正しく記録しない「闇残業」が横行する懸念も指摘される。
 政府によると、物流分野で十分な対策が講じられない場合、24年度に輸送能力が14%、30年度には34%不足すると推計される。実際の不足分は社会の動向次第となるが、宅配の遅れや過疎地域に向けた流通の支障が一定程度、想定される。
 運転手関連では上限規制とは別に、厚生労働省の「改善基準告示」も1日から変更。拘束時間を短く、休息は長くする内容だ。日本バス協会は規制や告示改正などにより運転手不足が2万1千人分に拡大すると試算。横浜市営バスなど減便の動きは各地で相次ぐ。
 トラック運転手の残業規制強化を受け、輸送効率の向上のため、高速道路の速度規制を緩和する改正道交法施行令が1日に施行された。総重量8トン以上の中大型トラックの最高速度は、従来の時速80キロが90キロになる。
 建設関連では、遅れが指摘される25年大阪・関西万博の会場整備に、さらなる重しとなる。災害復旧工事は緊急性を勘案し、上限規制を適用しない仕組みを設けた。ただ復興段階では一部規制が適用される可能性があり、長期に及ぶ場合は人員確保に影響しかねない。

全職場で働き方改革を 残業規制に4業種追加

 【解説】時間外労働の上限規制に建設や自動車運転、医師など4業種が加わり全業種がカバーされた。ただ、長時間労働の風土が根強い業界もあり、闇残業や、個人事業主(フリーランス)に負担を強いるなどルール形骸化の懸念も消えない。全職場で「働き方改革」を実現し過労死を根絶するため、手厚いサービスに慣れた消費者も意識を変える必要がある。
 国の働き方改革は2015年ごろ提唱され、同年末に起きた電通新入社員の過労自殺をきっかけに加速。19年度から始まった残業規制が今回、長時間労働が著しい4業種にも及ぶことで、制度上は完成にこぎ着けた。
 一方、救急医療を担う医師らの残業上限は、過労死ラインを大きく超える年1860時間まで認める特例措置が残った。社員の労働時間を削ろうと、建設業界では個人で働く「一人親方」に業務委託して酷使し、運輸業界でもフリーランスの宅配ドライバーを長時間、安価な報酬で従事させる動きがある。
 誰もが尊厳を持って働く社会を実現するには、国による職場の実態把握や違反の取り締まり強化に加え、消費者の理解が欠かせない。頻繁な荷物の再配達依頼、緊急性の低い夜間受診といった行動を見直し、働き手の負担を減らすよう心がけることが大切だ。

働き手、裾野拡大が急務 40年に不足1千万人超試算

 時間外労働(残業)の上限規制による労働環境の改善とサービス維持を両立するには、働き手の裾野を広げることが急務となる。生産年齢人口は急減に向かっており、民間試算では「2040年に約1100万人分の労働力が不足」と深刻な未来予想図が描かれる。
 過労死などの労災補償状況(脳・心臓疾患)をみると、業種別支給決定件数(22年度)の最多は道路貨物運送業、次いで総合工事業だった。上限規制で守る必要性が高い職業だと言える。
 生産年齢人口は戦後一貫して増え1995年に8726万人でピークに達した。だが将来推計人口によると、70年に4535万人まで減る。リクルートワークス研究所は昨年、40年に約1100万人分の労働力が足りなくなる―と試算した。
 残業上限規制を導入すれば1人が働く時間は減る。一方、厚生労働省は「あらゆる人が活躍できるよう、長時間労働などの制約要因をなくすことが必要」と主張。短時間ならば働けるという人たちの就労など長期的な視点で裾野拡大を目指す。
 ただ現状では、建設や流通など労働集約型の産業ほど働き手から敬遠されがちで、就労条件アップなど課題は山積。ロボット・デジタル技術、外国人材の活用まで「まさにあの手、この手の対策」(政府関係者)を講じる必要がある。

遅配や欠品、甘受も必要 流通経済大・矢野裕児教授 識者談話

 地方都市の卸売市場で野菜などの生鮮食品が以前に比べ送られてこない状況が目立ち始めた。配送のトラックは4、5カ所の市場を回るのが普通だったが、今は2カ所くらいが多い。三大都市圏の大きな市場が中心。2024年問題というが、既に起きていることだ。ドライバー不足、物流のコスト高が影響している。
 例えば冬場、東京の市場ではリンゴはたくさんの種類がそろう。いろんな地域からいろんな品種、いろんな大きさのリンゴが。食文化として考えれば良いことだが物流分野には負荷が大きいとも言える。効率化しようとすれば、もう少し品種を絞るといった見直しが迫られるかもしれない。
 24年問題はまだ入り口に過ぎず、運転手不足はこれから深刻化する。再配達を減らすなど身近な点で消費者の意識は変わってきた。ただ商品の種類が少なくなることや欠品を甘受することに対しては、まだそうとは言えない。
 誰かが物を運ぶことで経済、生活が支えられている。何げない行動が物流に負荷を与えている。そうした意識を消費者に持ってもらいたい。配達の遅れや欠品に対し、もう少し寛容になるなど、今こそ社会全体で理解を深める必要がある。
   ×   ×
 やの・ゆうじ 1957年生まれ、東京都出身。日本物流学会会長。日大大学院博士後期課程修了。工学博士。

トラック偏重改めよ 川崎陸送の樋口社長 インタビュー

 残業規制が強化される「2024年問題」の中でも、大きく影響を受けそうなのがトラック輸送だ。国内物流の9割を担うが、大手メーカーの飲料や菓子を運ぶ川崎陸送(東京)の樋口恵一(ひぐち・けいいち)社長(66)は、安い労働力を前提とした「トラック偏重」を改めるべきだと訴える。
 ―「2024年問題」の背景は何か。
 「参入障壁が下がって運送業者が増える一方、経済の低迷で人件費は上がらなかった。ドライバーは低賃金のまま、消費者や荷主の都合だけに合わせて荷物を動かしている」
 ―運転手の時間外労働が制限される。
 「『産直』と称した生鮮食品のスピード輸送は難しくなる。残業度外視の長距離輸送が前提になっているからだ。荷物を扱う人が配置されず、工場での積み降ろしはドライバーの仕事だという大手メーカーも多い」
 ―物流危機をどう乗り越えるか。
 「消費者や荷主が協力して荷物の到着時間にゆとりを持たせられれば、少ない台数で輸送できて人手不足の問題は少なくなる」
 「政府は船や鉄道といった代替手段をてこ入れしてほしい。物流を学ぶ教育環境も整備すべきだ。物流を軽視するような荷主企業の姿勢も問題だと感じる」
   ×   ×
 1958年生まれ。米ミシガン州立大で物流を学び、2001年に川崎陸送社長に就任。国の物流関連委員会の委員などを歴任。

残業規制を巡る経過

 2014年11月 過労死や過労自殺を防ぐ対策を国の責務とする対策推進法施行
 15年12月 電通の新入社員だった高橋(たかはし)まつりさん=当時(24)=が自殺。後に長時間労働が原因の労災と認定
 18年6月 働き方改革関連法成立。時間外労働の上限規制のほか、「高度プロフェッショナル制度」創設、「同一労働同一賃金」導入の3本柱
 19年4月 一般業種で時間外労働の上限規制が大企業に適用される。中小企業は20年4月
 21年5月 医師への健康確保措置の義務付けなどを定めた医療法などの改正法成立
 23年6月 政府が物流危機に対応する政策パッケージ決定
 24年2月 トラック運転手の多重下請け是正を目指す関連法改正案を閣議決定
 4月1日 上限規制を建設業、自動車運転業、医師、鹿児島・沖縄両県の製糖業に導入

働き方改革関連法

 労働基準法、労働安全衛生法など8本の改正法で構成、2019年に施行された。罰則付きの時間外労働(残業)の上限規制を初めて導入。「一般業種」の上限は原則、月45時間、年360時間とした。特別な事情がある場合でも月100時間未満(休日労働を含む)、2~6カ月の平均で80時間(同)、年720時間。違反すると罰金や懲役が科され、長時間労働抑制に効果が見込まれる。建設業、自動車運転業、医師は適用を5年間猶予し、時間数なども別々に設定した。

(2024/04/02)

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