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厚生・労働2024年04月19日 勤務医の過労死問題を考える-医師等の労働時間について新たに出された通達に関連して- 執筆者:末吉宜子

1 勤務医の過労死問題
 クリニック・病院で雇用されて働く医師を「勤務医」、自らクリニック・病院を開業している医師を開業医という。以前から、勤務医の過労死は報道されており、最近では2022年5月に26歳の男性専攻医(旧後期研修医)が自殺したことについて、6月に労災認定がされたとの報道が記憶に新しい。
 医師は高い専門性を有する職業であり、一般業種での長時間労働、その結果の過労死、とは異なるのではないか、自らの選択によって長時間勤務をしているのではないか、と思われているかもしれない。
 しかし、医師であることにより、ある行為が労働時間としてカウントされるのか、そうでないのか、労働時間の捉え方自体が曖昧な部分があることは、あまり知られていない。
 令和元年7月1日付の通達で、「医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方」について、基本的な考え方が示されている。
 この度、令和6年1月15日付通達で、「医師の研鑽に係る労働時間の考え方」について、令和元年の通達に付加する形で改正がなされた。これらの通達をもとに、宿日直が労働時間となるかどうかの考え方、医師としての研鑽が労働時間となるかどうかの考え方、について検討する。

2 宿日直は、どのように位置づけられているのか。
 医療法16条には、「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない」と規定されている。一方、労働基準法施行規則23条の許可を得ることにより、宿日直は勤務時間に含まれず、いわゆる36協定の限度時間に含まれない。
 その要件は、①ほとんど労働をする必要がないこと。②宿日直手当を支給すること。③宿直の回数は週1回、日直の回数は月1回であること。④睡眠設備があること。などである。
 「ほとんど労働をする必要がない」とは、 通常の勤務時間の拘束から完全に開放されたのちのものであり、特殊な措置を必要としないもの、といわれている。夜間に入院患者が急変し、呼吸管理などの救急処置をしなければならないような場合は、勤務時間としてカウントしなければならない。
 しかし、業務の実態としては、入院患者に医療措置を行うことはよくあるのではないだろうか。その場合には、単なる宿日直ではなく、勤務時間として月の労働時間にカウントすべきであり、過重勤務に繋がることにもなる。
 その意味で、実態がどうであるか、調査・検討が必要であると思われる。

3 医師の研鑽は労働時間に含まれるのか。
 医療は日々進歩するものであり、知識・技術の習得のための研鑽は不可欠である。これらの研鑽が業務時間外に行われることも多い。それを労働時間として扱うのか、労働時間から外れるのか。令和元年7月1日付の通達では、基本的な考え方としては、医師の自由意思に基づいて行われる場合は、労働時間には入らない、上司の明示・黙示の指示のある場合には、労働時間となる、といった考え方が示されている。
 しかし、具体的なケ-スでは、自由意思に基づくものなのか、上司の黙示の指示によるものなのか、やはり判別は難しいと思われる。ここでも労働時間と扱われる場合は、過重労働となっていないかどうか、留意する必要がある。
 令和6年1月15日付の通達では、大学の付属病院等に勤務する医師の研鑽と労働時間について、教育・研究を本来業務としている医師は、それらも労働時間に含まれることを明記している。また、大学医学部の学生への講義、試験問題の作成・採点、学生の作成する論文の作成・発表への指導などについても、当然に労働時間となる、と明記した。
 今後も、具体的な業務について労働時間となるかどうか、積み重ねていくことが必要ではないだろうか。

4 医師の労働時間を適正なものとすることの必要性
 長時間勤務を続けることは、生身の人間にとって心身に大きな負荷をかけることになることは、医師でも一般業種でも同じである。医師が過労状態であることは、医療安全上でも問題が生じる可能性があり、医療を受ける患者(国民)にとってもよいことではない。
 医師の労働時間について、今後も通達の改正、法改正などに注視していきたい。

(2024年3月執筆)

執筆者

末吉 宜子すえよし たかこ

弁護士

略歴・経歴

資格 弁護士
   1983年弁護士登録(東京弁護士会)

役職 東京弁護士会消費者問題特別委員会 委員
   日弁連消費者問題対策委員会 幹事
   医療問題弁護団 副幹事長

著書(共著) 医療紛争の法律相談(青林書院 2003)
       医療事故の法律相談(学陽書房 2009)
       美容医療トラブル解決への実務マニュアル(日本加除出版 2018)

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