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訴訟・登記2024年04月21日 「検証 裁判員裁判15年」審理・評議 提供:共同通信社

「裁判官が誘導」指摘も 実審理期間、当初の4倍に

 裁判員裁判の第1回公判から判決までの実審理期間は、この15年で4倍に延びた。評議に時間がかかり、判決後のアンケートで「裁判官が誘導」と指摘する裁判員もいる。書面の証拠(書証)に頼る審理は相変わらずで、遺体写真などの「刺激証拠」を排除する裁判所に検察官などの不満は募る一方だ。有罪かどうかの審理と量刑の審理を二分する試みもうまくいかず、審理と評議の課題は多い。(共同通信編集委員 竹田昌弘)

在任15日、評議は14時間 説得か「既定路線で進行」 京アニ「二分は不十分」

 最高裁の集計では、裁判員の在任期間でもある実審理期間は裁判員裁判が始まった2009年の3・7日から毎年延びて12年に7日を、17年には10日を超えた。20年以降は新型コロナウイルスの感染拡大で審理日程の変更などが相次いだため、さらに長期化し、22年に最長の17・5日を記録。感染が落ち着いた23年は14・9日に短縮した。
 審理のうち公判は09~23年の平均回数が3・3~5・4回で推移しているが、評議の平均時間は09年の6時間37分からほぼ毎年長くなり、22年に最長の14時間54分に達した。23年は14時間17分となったものの、被告が起訴内容を全て認めた自白事件の量刑だけの評議で平均10時間を超え、一部でも起訴内容を争った否認事件の平均は17時間37分に上っている。
 評議時間が長くなったのは、裁判員のアンケートで評議が「短かった」との意見が多く、裁判官が長めに設定していることが要因の一つ(最高裁「裁判員制度10年の総括報告書」)という。
 ただそれよりも、11~13年に求刑を超える判決が年2桁となり、最高裁が14年7月の判決で、公平性を保持するため、評議では、同種事件の量刑傾向を共通認識とするよう求めたことの方が大きな要因とみられる。
 また刑事責任能力などの難解な法律問題について、裁判員裁判を担当する裁判官は「裁判員が理解して判断できるよう、相当な時間をかけて説明している」と明かす。
 量刑や難解な法律問題を巡り、評議で説得されたのか、20年以降の裁判員アンケートでは▽ある一定、裁判官の意向があり、既定路線での評議進行(20年)▽裁判官が想定している「落としどころ」に導かれている(21年)▽最終的に裁判官の意見が優先された(22年)▽「裁判官がそう言うなら、それで良いか」というような感じ(23年)―といった、裁判官による誘導を指摘する回答が年に13~18件あった。
 一方、公判で調べた平均証拠数は供述調書などの書証が次第に増え、11年は最多の32・5個(うち証人尋問は2・3人)に。しかし、書証の読み上げが多くなったので、09年は70・9%だった裁判員アンケートの「審理が分かりやすかった」が50%台にダウンした。
 裁判所は証人尋問を増やし、書証は当事者の同意を得て集約した統合捜査報告書を採用。18~22年の平均証拠数は20・9~23・4個、うち証人尋問は2・7~3・1人で「分かりやすかった」は68・8~72・8%となったが、22年の補充裁判員のアンケートでも「供述調書の朗読を聞いているだけなので眠気に襲われた」という回答がある。
 36人が亡くなった京都アニメーション放火殺人事件の公判(23年9月~24年1月、京都地裁)では、有罪かどうか、責任能力の有無・程度を事実として認定する審理と量刑の審理とを分けた。
 被害者・遺族の処罰感情が事実認定に影響しないようにする配慮だが、責任能力の審理前に被害者の遺族が被告に直接質問し、責任能力の結論を中間判決で確定させることもなく、甲南大の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は共同通信の取材に「手続きの二分は不十分だった」と評した。

裁判官に量刑任せては

 【解説】昨年の裁判員裁判は実審理期間の平均が14・9日に及び、平均評議時間は14時間17分に上った。これだけの時間が必要だとすれば、裁判員候補者のうち辞退したり、選任手続きを欠席したりした人が計78%もいたのがうなずける。
 被告が起訴内容を全て認め、量刑だけが争点でも評議は平均で10時間19分。なぜこんなに時間がかかるのか。
 量刑は最高裁判決で裁判員裁判といえども公平性保持が必要とされ、評議では犯罪行為にふさわしい刑事責任の分量を示す「行為責任の原則」が説かれる。具体的には、同種事件の量刑傾向を共通認識として刑の大枠を定め、個別の被害感情や被告の反省などはその後の調整要素とされている。
 ある裁判官によると、量刑傾向より重い刑、あるいは軽い刑を主張する裁判員がいると、量刑傾向が形成された事情なども含めて全員で意見を繰り返し述べ合うという。
 裁判員の意見を巡って長時間議論するより、裁判官に任せた方がいいのではないか。裁判員裁判は被告が有罪かどうかを判断するだけにすれば、量刑の審理・評議がなくなり、実審理期間も短くなるので辞退・欠席者が少しは減るとみられる。
 別の理由もある。京都アニメーション放火殺人事件の裁判員が判決後の記者会見で「今回はそうではなかったが、責任能力が欠けていると思いながら、被害者の意見を聞くことになったら、相当つらかったろう」と述べた。裁判員は有罪かどうかの判断に専念すれば、有罪を前提とする被害者の処罰感情には触れないので、こうしたつらさもなくなる。

承服しがたい検察官 遺体写真、イラストで代用

 裁判所が刺激の強い証拠(刺激証拠)として検察官に配慮を求め、遺体の写真をイラストで代用するなどの運用は、2013年から始まった。定着したようだが、検察官や被害者・遺族の承服しがたい思いは根強い。
 刺激証拠の問題は、同年3月に福島地裁郡山支部が被告に死刑を言い渡した強盗殺人事件の裁判員を務めた女性が同年5月、現場写真を見せられるなどしたため、急性ストレス障害になったとして、国に損害賠償を求めて提訴したのがきっかけ(女性敗訴が確定)。
 東京地裁が13年7月に「(刺激証拠が)裁判員に過度の精神的負担を与え、適正な判断ができなくなることがないか、代替手段の有無等も考慮しつつ採否を慎重に吟味する」などと申し合わせるなど、裁判所は速やかに再発防止へ動いた。
 検察関係者によると、当初はパソコンのアプリで遺体写真の血痕の色を変えるなどしていたが、次第にイラストで代用するようになったという。
 検察幹部は「遺体写真を見なくても判断できると言う裁判官もいるが、亡くなった方は証言できないので、遺体で語るしかない。正当防衛かどうかが争われている事件で血痕の場所は重要な証拠となるのに、写真で示せないケースなどは明らかな弊害だ」と指摘する。
 岐阜県で幼稚園教諭の妹を殺害された男性は、裁判員裁判で遺体の写真が示されず「法廷で遺体の写真を見ていれば(被告は)反省の気持ちを抱いたかもしれない」などと無念の思いを語る。

コントロールされる裁判員 識者談話

 刑事弁護を数多く手がけ、法廷技術の指導者でもある弁護士、高野隆さん(第二東京弁護士会所属)の話 米国の陪審と違い、裁判員裁判の判決には上訴できるので、裁判官は事実認定の詳細な経過を判決に書く必要があると考えている。公判前に争点を整理し、調べる証拠を決めるのも、全て証人尋問ではなく、統合捜査報告書などの書証の立証を許すのも判決を書きやすくするためだ。しかし、裁判員は自由な心証を制限され、見たいと思った証拠は調べてもらえず、書証の朗読で意欲も低下する。刑を決めるときは、証拠でもない同種事件の量刑グラフに事実上拘束し、裁判員は裁判官にコントロールされている。量刑は裁判官に任せ、裁判員裁判は対象事件を限定せず、有罪かどうかの事実認定だけを担当すべきだ。

実審理11~20日が35% 最長、浜松支部の575日

 新型コロナウイルスの感染拡大で日程変更を余儀なくされるなどして、裁判員裁判の平均実審理期間が過去最長の17・5日となった2022年。738人に判決が言い渡され、実審理期間別では①11~20日264人(35・8%)②6~10日233人(31・6%)③21~30日67人(9・1%)④40日を超える53人(7・2%)⑤5日38人(5・1%)―の順となった。
 これまでの裁判員裁判で実審理期間の最長は575日。殺人罪などに問われた静岡地裁浜松支部の被告で、19年5月に第1回公判があり、判決の宣告は20年12月だった。(データは最高裁調べ)

(2024/04/21)

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