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訴訟手続2024年04月14日 「捜査の現場から―警察はいま」 「匿名・流動型犯罪グループ(匿流)」 提供:共同通信社

 近年、組織犯罪はその形を大きく変えつつある。交流サイト(SNS)などを通じた結びつきの緩やかさ。繰り返されるメンバーの入れ替わり…。その特徴から「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(とくりゅう))」と名付けられた反社会的勢力による犯罪が急増している。高額被害が相次ぐ特殊詐欺事件や死者も出た強盗事件。強固な統制を持たず、実態を把握しにくい犯罪集団に警察はいかに挑むのか。捜査の実情を探る。

匿名・流動で被害膨張 ルフィ摘発、情報と総合力

 〝総力戦〟だった。2021年夏以降、窃盗などを含め、14都府県で関連が疑われる五十数件が相次いだ「広域強盗事件」。東京・狛江の住宅では23年1月19日、90歳の女性が暴行され死亡した。警視庁刑事部は捜査1課、2課、3課を投入し全容解明に挑んだ。
 狛江事件の翌日、捜査本部ができた調布署の捜査会議。フィリピンの首都マニラの入管施設にいた渡辺優樹(わたなべ・ゆうき)被告(39)ら4人が、日本の実行役に事件を指示しているとの情報が入っていた。
 渡辺被告らは19年にマニラで一斉拘束された特殊詐欺グループの指示役とされ、特殊詐欺に絡む窃盗容疑で4人の逮捕状を取って捜査していた捜査2課は、フィリピンから帰国したある男を協力者として情報を得た。
 男は狛江事件の約3カ月前の22年10月に東京・稲城の住宅で強盗事件が発生した際、マニラの入管施設にいた。今村磨人(いまむら・きよと)被告(39)らが日本の実行役に指示するのを近くで聞いていたという。
 稲城事件を捜査していた捜査1課の強盗犯捜査係は23年1月、実行役約10人を逮捕。スマートフォンを解析し、「ルフィ」「ミツハシ」などと名乗る人物が通信アプリ「テレグラム」でフィリピンから事件を指示していたことを突き止めた。
 同じころ2課の協力者の情報ももたらされ、広域強盗は渡辺被告らがマニラから主導している疑いが濃厚となっていた。
 そうした中で起きたのが、唯一死者が出る事態となった狛江事件。調布署の捜査会議から数日後、警視庁本庁舎6階の一室。捜査1課、2課、3課の課長らがそろう席で刑事部の幹部は「この事件は合同でやる」。異例の態勢が組まれた。
  ×  ×  ×  
 変容する組織犯罪。暴力団の勢力が05年の8万6千人から23年に2万人まで減少した一方、13年ごろから「チャイニーズドラゴン」などの準暴力団が凶悪事件や資金獲得の詐欺などで台頭。近年は交流サイト(SNS)などで緩やかにつながり、離合集散しながら犯罪に関わる反社会的勢力がはびこっている。
 警察庁は23年7月、準暴力団も含め「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(とくりゅう))」と規定。実態解明と摘発強化を掲げる。露木康浩(つゆき・やすひろ)長官は「従来の組織犯罪対策を変えないといけない。摘発の目的意識を明確にするためターゲットを概念づけた」。
 SNSの闇バイトで犯罪の実行役を募集し、匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」で特殊詐欺や強盗の指示を出すのが匿流の手口だ。末端の実行役が指示役の個人情報を知らない「匿名性」と、実行役が入れ替わる「流動性」が強みという。
 「指示役はリアルな現実に現れず、SNSでも足が付かない」(警察庁幹部)ため、膨張する被害に摘発が追いつかない。23年の特殊詐欺被害は441億円。別類型の「SNS型投資詐欺」「同ロマンス詐欺」も計455億円と急増した。
 巨額の犯罪収益は、風俗など歓楽街での多角経営に流れているとの指摘がある。ただ警視庁幹部は「それは一部で、自己消費がほとんどだろう。連中の行動原理は『カネ、カネ、カネ』に尽きる」との見方を示す。
  ×  ×  ×  
 典型的な匿流である広域強盗のルフィグループの捜査は1年に及んだ。
 23年2月に強制送還された渡辺被告ら4人。警視庁刑事部は同月下旬、捜査1課、2課、3課からなる総合捜査本部を設置した。特殊詐欺で4人の逮捕を繰り返す間、広域強盗への関与立証に向け、それぞれの捜査手法を駆使し証拠を集めた。
 強盗の実行役は各地で60人以上が逮捕され、各府県警の供述調書や捜査報告書など事件資料のコピーや容疑者のスマホ約70台を分析。資料は分厚いファイル600冊以上となったが、全て読み込んだ。
 捜査1課のハイテク犯罪捜査班は渡辺被告らのiPhone(アイフォーン)のロック機能の解除に成功。データから狛江事件の被害者の写真を発見した。
 当初、人工知能(AI)を使ってパスコードの数字を打ち込むがうまくいかず、膨大な資料から渡辺被告に関係する数字を集め、自分たちで6桁の数字を割り出した。
 取り調べは捜査2課が渡辺被告ら4人のうち3人を担当。特殊詐欺事件だけではなく、強盗事件の立件に入っても取り調べを続けた。1人を全面自供させ4人の役割の詳細を解明できたという。
 強行犯である強盗の取り調べは本来1課の領域だが、原則にとらわれず2課の捜査員を続投し決定的な成果を得た。
 23年12月までに、広域強盗のうち、警視庁などの合同捜査本部が重点対象とした狛江事件など全8事件で指示役を逮捕、起訴。一連の捜査は峠を越え、裁判が控える。
 強力な態勢を敷き、捜査を推進した刑事部の幹部は「簡単ではなかったが、総合力が発揮できた」と指摘。一方で「協力者の情報で最初から連中の姿は見えていた。できると思った」とも。匿名性を切り崩す情報をいかに得られるか―。摘発の鍵を握る大きなポイントとなる。(共同通信編集委員=甲斐竜一朗)

内偵と連合捜査で摘発強化 全国の発生に警視庁関与

 内偵型捜査と管轄を超えた発生対応で局面打開を図る―。「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(とくりゅう))」の実態解明と、資金獲得手段である特殊詐欺の摘発を進めるため、警察は4月までに体制を大幅に強化した。
 全国の警察本部で、組織犯罪対策部門の匿流を専門とする捜査員を約700人増員。大規模繁華街がある12都道府県警では、組織犯罪対策や生活安全の担当者らによる専従チームが設置された。
 匿流対策では第一線が重要となる。各警察署が把握している、管内の治安上看過できないグループに関する情報を本部に集約。地域や生安、交通部門とも情報共有し、重点的な取り締まりを進めるという。
 警察庁組織犯罪対策部の幹部は「組対部門だけではなく警察全体で取り組む」と明言。内偵捜査で悪質性の高いグループを絞り込み、優先的に摘発を目指す。
 また特殊詐欺を集中捜査する「連合捜査班(TAIT)」が、7都府県警の計約500人体制を中心として全国で発足。従来の捜査権限の枠組みを超え、他の管内で発生した事件でも捜査嘱託を受けて初動から容疑者摘発までを担う。高い捜査力を備える警視庁が全国で発生する特殊詐欺に主体的に関与できるようになるのが最大の利点だ。
 2023年中に被害が急増し、年間の被害額が計455億円で特殊詐欺を上回った「SNS型投資詐欺」と「同ロマンス詐欺」もTAITが捜査する。
 組対部幹部は「発生県と特殊詐欺の拠点が集まる首都圏で捜査が同時進行するので、かなり効率化できる」と話す。国民の財産流出を食いとめられるか、具体的な成果が求められている。

新技術使った必然の犯罪 神戸大名誉教授の森井昌克さん インタビュー

 反社会的勢力は、暴力団対策法や社会情勢の変化、コロナ禍の影響などで従来のしのぎ(資金獲得)が難しくなった。そうした中で近年、警察庁が規定する「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(とくりゅう))」のような人たちによってカネを稼ぐ手口が広がってきた。
 パソコン、スマートフォンなどの電子機器や、電子マネー、コード決済といったシステムをうまく使って稼げる方法はないか、との考えによって特殊詐欺などの犯罪の仕組みが開発されている。
 電話が普及すれば電話を使った犯罪が増え、ネットが出てきたらネットの犯罪が現れる―。新しい技術を利用した犯罪が起きるのは必然だ。
 「情報革命」と言われる事象のまっただ中で、そこに一番うまく乗っているのが犯罪者だ。稼ぐことに執着し、必死でやっているから防ぐのが難しい。最近は知恵を付け、さらに頭のいい人も加わっているから、一般の人は負けてしまう。
 匿流のように拠点を海外に移すと摘発の可能性は低くなる。反社会的勢力にとって主流のビジネスになっている。
 だまされる多くは高齢者。SNS型の投資詐欺やロマンス詐欺が問題になっているが、テレビで注意喚起しているわけではない。高齢者はインターネットをあまり見ないのでテレビや新聞でもっと告知をするべきだ。
 投資詐欺、ロマンス詐欺は手口が高度化している。ターゲットを絞って近づき、最低でも半年ぐらいかけて信用を得てから、だます。何回もだまされ被害が億単位に上る人もいる。
 警察の使命として摘発は大事だと思うが、地道な啓発活動も繰り広げてもらいたい。駐在など地域に密着した警察官であれば高齢者の一人一人に話をしに行くのは不可能ではないはずだ。自分は大丈夫と思っている高齢者に危険性を意識してもらうことが重要だ。
  ×  ×  ×
 もりい・まさかつ 1958年生まれ、堺市出身。徳島大教授などを経て2005年4月~24年3月神戸大教授。情報通信工学が専門。

広域強盗事件

 2021年夏以降、住宅や店舗が襲われ金品が奪われる事件が相次ぎ、23年1月には東京都狛江市の住宅で住人女性が暴行を受け死亡した。指示役は「ルフィ」「キム」などと名乗り、関連が疑われる事件は窃盗などを含め14都府県で五十数件に上ることが同年2月に判明した。警視庁などが8事件を重点捜査。多くの実行役に加えて、指示役としてフィリピンを拠点とする特殊詐欺グループ幹部だった今村磨人(いまむら・きよと)、渡辺優樹(わたなべ・ゆうき)ら4被告が起訴された。

(2024/04/14)

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