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契約2020年03月25日 スポーツイベント中止に伴うスポンサー料の法的問題 執筆者:安藤尚徳

 2020年1月より世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルスは、スポーツ界にも甚大な影響を及ぼしています。本稿執筆の2020年3月10日現在において、日本政府はイベント主催者に対して、イベント規模の大小にかかわらず、開催の必要性を検討するようにも呼びかけています。このような政府の要請を受け、各種のスポーツイベントが中止になったり、中止をしないまでも無観客試合を行ったりしています。

 スポーツイベントを開催するには、当然、お金がかかります。スポーツイベントを主催する者(イベント主催者)は、会場を借りるに当たって会場使用料を支払ったり、当該スポーツイベントの広告をするために各種メディアに広告料を支払ったり、会場設営のために美術装飾会社に対して請負代金を支払ったり、当日の運営・警備にあたる者への人件費を支払ったり、出場する選手に対して出場料を支払ったりします。そして、これに対応する収入もあるわけで、観客からの入場料収入、テレビ局からの放映権料収入、スポンサーからのスポンサー料(協賛金)収入、チームのロゴや選手の肖像を使ったTシャツなどのグッズ販売収入などがあります。このうち、本稿で取り上げるのは、上記スポンサーからのスポンサー料(協賛金)に関する法的問題です。

 スポンサー料(協賛金)は、イベント主催者とスポンサー企業との間で締結されるスポンサー(協賛)契約に基づき、スポンサー企業からイベント主催者に対して、スポンサー企業が当該スポーツイベントのスポンサーとなり、スポンサーメリットを享受する権利(スポンサー権)に対する対価として支払われるものです。ここにいうスポンサーメリットには、いくつかの態様があります。

  • ①スポンサー企業の名称や商品・サービス名の露出に関するもの
  •  イベントの名称に、スポンサー企業の名称や商品・サービス名(以下「スポンサー名称」といいます。)を付与したり、イベント会場内にスポンサー名称を掲示したり、スポーツイベントのWEBサイトにおいてスポンサー名称のバナー広告の掲示をしたりして、スポンサー名称を露出させるもの
  • ②販売促進活動に関するもの
  •  スポンサー企業の商品やサービスの販売促進活動に関して、イベントの名称やシンボルマーク、選手の肖像などを使用させたり、会場内で販売ブースの場所を提供するもの
  • ③ホスピタリティに関するもの
  •  スポーツイベント会場のVIP席や優先席の利用、招待券の提供、選手との懇談会への招待など、スポンサーへの特別待遇を提供するもの

 スポンサー契約では、これらのスポンサーメリットのうちどのメリットが受けられるか特定し、具体的なスポンサー権を付与する場合が多いと思われます。

 さて、新型コロナウイルスの影響で、スポーツイベント開催が中止になったり、無観客試合となった場合、上記スポンサーメリットが受けられなくなる場合があります。例えば、会場内にスポンサー名称を掲示している場合、当該スポーツイベントが中止になれば、スポンサー名称を来場者が目にする場面がなくなり、また、テレビ中継により視聴者が目にする場面もなくなり、スポンサー企業の宣伝広告効果はなくなってしまいます。また、同じく会場内にスポンサー名称を掲示している場合で、当該スポーツイベントが無観客試合で行われるときは、テレビ中継が維持されれば、視聴者がスポンサー名称を目にする場面は確保されますが、それでも来場者がスポンサー名称を目にする場面はなくなり、スポンサー企業の宣伝効果は小さくなってしまうでしょう。
 このように考えると、スポンサー企業としては、スポンサー契約に基づくスポンサー権の履行が、履行不能または不完全履行である、ということで、債務不履行だ、スポンサー料を返せ、と主張したくなりそうです。そこで、このような場合に備えて、スポーツイベント中止に伴い、スポンサー権の履行ができなくなった場合の対応を定めていることが多いと思われます。おそらくは「天災その他不可抗力によるイベント中止の取扱い」を定めていることが多いのではないでしょうか。そうすると、今回の新型コロナウイルス感染拡大の防止によるイベントの中止が、天災その他不可抗力によるイベントの中止に当たるかどうか、解釈が問題になりそうです。また、新型コロナウイルス感染拡大の防止によるイベントの中止が天災その他不可抗力に含まれると解釈されても、必ず免責になるかどうかもさらに検討しなければならないと思われます。多くのスポーツイベントの場合、中止を避けるための代替手段(例えば無観客試合や、日程の変更、延期など)を検討したのかも含めて免責されるかどうか判断されると思われます。この点、解釈が問題とならないよう、法律に基づいたイベントの中止を可能とする法整備が求められるところです(2020年3月10日現在において、新型コロナウイルスを新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象に加える閣議決定がなされたようです。)。
 また、プロ野球やJリーグのように、数ヶ月かけて行われるリーグ戦では、1シーズンに渡って、スポンサー契約を締結していることが多いでしょう。そうすると、1試合だけ試合が中止になり、残りの試合が行われる、というのであれば、上記のようなスポンサー企業が問題視するスポンサーメリットの不履行、という問題は比較的小さな問題として処理される場合も多いかと思われます。

 イベント主催者にとって、イベントが開催できないことに伴う入場料の減少、放映料の減少があるなか、さらにスポンサー料の返金というのは避けたいところでしょう。そのようなイベント主催者の事情も踏まえながら、スポンサー企業においては、イベント主催者と対話をしながら、冷静な対応が求められているともいえるでしょう。

(2020年3月執筆)

執筆者

安藤 尚徳あんどう なおのり

弁護士(東京フィールド法律事務所)

略歴・経歴

スポーツに関する案件(スポーツ団体のガバナンス・コンプライアンス、スポーツ事故、スポーツ仲裁、マーケティング等)を専門に扱う。
日本スポーツ法学会事務局、共栄大学国際経営学部非常勤講師 (スポーツ法学)、公益財団法人 日本スポーツ仲裁機構 仲裁調停専門員。
著書に「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務-スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」(共著 2013 清文社)、「標準テキスト スポーツ法学 第2版」(共著 2017 エイデル研究所)、「スポーツの法律相談」 (共著 2017 青林書院)など。
その他の略歴等は、事務所サイト(http://tokyofield.jp/)を参照。

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