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紛争・賠償2020年12月07日 アスリートを盗撮やSNSへの写真・動画投稿によるハラスメントから守れ 執筆者:安藤尚徳

1 JOC他国内スポーツ競技団体の共同声明

 2020年11月13日、JOC他6つの国内スポーツ統括団体は、アスリートの盗撮や、写真・動画の悪用、悪質なSNS投稿に抗議する声明を共同で発表しました1。かねてから、試合会場での「スポーツ観戦や報道とは異なる目的」で撮影されたアスリートの写真や動画が、週刊誌やSNSに掲載されることについて問題となっていました。この問題に対しては、大会会場での撮影について許可制にしたり、報道機関以外の撮影を一切禁止したり、個々の競技団体で対応が異なっておりました。しかし、それでも「スポーツ観戦や報道とは異なる目的」で撮影されたアスリートの写真や動画の流出はなくならず、アスリートらが被害を訴えてきました。そうした経緯もあり、今回のJOC他国内スポーツ統括団体の共同声明となりました。
 今回の共同声明では、アスリートの盗撮や、写真・動画の悪質なSNSへの投稿に対して「卑劣な行為です」と非難するとともに、これまで個々の競技団体に委ねられていたアスリートの盗撮や写真・動画の悪質なSNS投稿への対応について共有し、スポーツ界全体で取り組むことや、研修等を通じてアスリート自身がSNS等で身を守る必要性の啓発、SNS投稿等の実態を把握する一環で、不適切なSNS等の情報提供を報告できるフォームが設けられています。このようなスポーツ界を挙げての取り組みは、アスリートの盗撮や、写真・動画の不適切なSNS投稿等を撲滅するために大変意義のあることだと思います。

2 アスリートの肖像権

 今回のJOC等の取り組みは意義のある取り組みとはいえ、アスリートの盗撮行為を撲滅することは容易ではないと考えます。スポーツが新聞、雑誌だけでなく、テレビやインターネットに取り上げられ、社会の関心事となっている現在のスポーツを取り巻く環境を考えると、アスリートだけではスポーツは成立せず、観客やファン、スポンサーがいて成り立っています。そうするとアスリートが、写真や動画によりメディアに露出することは避けて通れないことだと思います。しかし、アスリートも一人の人間であり、「肖像権」があります。肖像権は判例上認められた権利であって、「その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由」を指します2。そして、「ある者の容ぼう、姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」とされています3。したがって、アスリートの写真撮影や動画撮影は、その本人の承諾がなければすることができないところが出発点になります。そして、大会会場は公開されているものであり、競技中のアスリートの容姿については、スポーツ観戦やその報道の限度で、メディアに露出されることがアスリートにも認識されているので、「スポーツ観戦や報道の目的」であれば、アスリートはその撮影について黙示の同意があり、大会会場での撮影も許容される、ということになります。
 そうすると、およそ「スポーツ観戦や報道目的」以外の写真撮影や動画撮影は、アスリートの肖像権を侵害するものとして、違法な行為となるといえます。

3 大会会場での撮影禁止の具体的方法

 以上を前提にすると、大会会場での撮影禁止は比較的容易に思うかもしれません。しかし、現実問題として、客観的に「スポーツ観戦や報道の目的」ではない写真撮影行為や動画撮影行為を見分けることは不可能に近いと思われます。現実的な対処としては、既に多くの競技団体が行っているように、撮影を許可制とするか、一般観覧者の撮影を一律禁止とするかの方法を取らざるを得ないと思われます。

4 性的目的でのアスリートの写真・動画のSNSへの投稿について

 大会会場での撮影の取り締まりと同じく重要なのが、アスリートの写真や動画が性的目的でSNSに投稿される問題です。最近、芸能人に対するSNS上での誹謗中傷の問題が大きく取り上げられ、インターネット上の誹謗中傷行為に対して、速やかに投稿者の情報開示(発信者情報開示)を行い、当該記事の削除を迅速に行うことができるよう、総務省が検討をしており4、このほどとりまとめの最終案が出されました。最終案では、インターネット上の違法な誹謗中傷投稿に対して、裁判所による訴訟手続ではなく、非訟手続で迅速に投稿者の開示や、ログの消去禁止を行えるようにできるような手続が検討されています5
 性的目的でのアスリートの写真・動画のSNSへの投稿に対しても、積極的に、投稿者に対して、削除要求や損害賠償請求を求め、違法行為を許さない毅然とした対応をすることが、性的目的でのアスリートの写真・動画投稿を撲滅させることに繋がると思われます。

1 「アスリートへの写真・動画による性的ハラスメント防止の取り組みについて」
 https://www.joc.or.jp/about/savesport/
2 最判昭和44年12月24日刑集第23巻12号1625頁参照
3 最判平成17年11月10日民集第59巻9号2428頁参照
4 発信者情報開示の在り方に関する研究会
 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/index.html
5 「発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ(案)」
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000716827.pdf

(2020年11月執筆)

執筆者

安藤 尚徳あんどう なおのり

弁護士(東京フィールド法律事務所)

略歴・経歴

スポーツに関する案件(スポーツ団体のガバナンス・コンプライアンス、スポーツ事故、スポーツ仲裁、マーケティング等)を専門に扱う。
日本スポーツ法学会事務局、共栄大学国際経営学部非常勤講師 (スポーツ法学)、公益財団法人 日本スポーツ仲裁機構 仲裁調停専門員。
著書に「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務-スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」(共著 2013 清文社)、「標準テキスト スポーツ法学 第2版」(共著 2017 エイデル研究所)、「スポーツの法律相談」 (共著 2017 青林書院)など。
その他の略歴等は、事務所サイト(http://tokyofield.jp/)を参照。

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