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一般2022年01月14日 学校におけるスポーツ事故の調査 執筆者:安藤尚徳

1 スポーツ事故における原因究明、再発防止の在り方
 スポーツ中に事故が起こった場合、多くの場合は「スポーツ中の事故だからしょうがない」ということで片付けられると思います。一般的には、スポーツには危険が内在しており、スポーツ中の事故は、スポーツに内在している危険が発現しただけであって、そもそも、そのようなスポーツを選択し、自らスポーツを実施した結果、事故が生じても自己責任である、という考えがあるからです。例えば、ボクシングの競技中や練習中に、相手が怪我を負ってしまうことは、ボクシングという競技の特性上当然のことであり、いちいち問題にはしないと思われます。
 しかし、死亡に至ったり後遺症が残るなど被害が重篤な場合や、ルール違反行為があり故意に怪我をさせられた場合、スポーツの特性とは無関係な原因により怪我を負ってしまった場合には、被害者(側)において、いったい何があったのか知りたいとか、当該事故原因を明らかにし、再発防止を求めたいと希望するでしょう。そのような相談があったとき、弁護士としては、民事上・刑事上の責任追及の過程で事実を明らかにすることを念頭に置くことが多いと思われます。もっとも、民事上・刑事上の責任追及では、必ずしも被害者(側)の気持ちに応えられるものであるとは限りません。スポーツ事故における原因究明や再発防止のための調査が必要です。以下では、学校におけるスポーツ事故の原因究明や再発防止に向けた取り組みについて述べます。
2 学校事故における体育活動が占める割合
 授業中や部活動中の事故に関しては、いわゆる学校管理下の災害に該当します。この学校管理下における災害に対し、独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「JSC」といいます。)が災害共済給付を行っています1。令和元年度に、JSCが医療費給付を行った災害件数は、小学校・中学校・高等学校合計で886,428件(小学校333,137件、中学校303,550件、高等学校249,741件)あり、そのうち、体育活動中(体育の授業及び部活動)に起こった災害は513,166件(小学校87,308件、中学校223,527件、高等学校202,331件)に上ります2。また、学年別の体育活動中の災害の割合は、小学校では26.2%ですが、中学校では73.6%、高等学校では81.0%となっており、年齢を重ねるほど、体育活動中における事故、つまり、スポーツ事故の割合が大きくなっています。
3 学校におけるスポーツ事故の調査の実情
 学校においてスポーツ事故を含め児童生徒の心身が脅かされる事故が発生した場合、どのような調査を行うのかを定めた指針として、平成28年3月に文部科学省が策定した「学校事故対応に関する指針」3(以下「事故対応指針」といいます。)があります。事故対応指針では、調査の類型として「基本調査」と「詳細調査」とが定められています。基本調査は、事案発生後、速やかに着手する調査であり、当該事案の公表・非公表に関わらず、学校がその時点で持っている情報及び基本調査の期間中に得られた情報を迅速に整理するものとされ、調査対象は死亡事故(死亡以外の事故については、事故報告の対象となる事故のうち、被害児童生徒等の保護者の意向も踏まえ、設置者が必要と判断したとき)に限られ、調査の実施主体は原則学校とされています。
 詳細調査は、基本調査を踏まえ必要な場合に、外部専門家が参画した調査委員会において行われる、より詳細な調査とされ、調査委員会は中立的な立場の外部専門家(学識経験者や医師、弁護士、学校事故対応の専門家等の専門的知識及び経験を有する者であって、調査対象となる事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者で、職能団体や大学、学会からの推薦等により参加を図る)によって構成することが求められています。なお、教育活動自体に事故の要因があると考えられる場合や、被害児童生徒等の保護者の要望がある場合などは詳細調査を実施するよう求められています。
 これらの調査の目的は、
・日頃の安全管理の在り方等、事故の原因と考えられることを広く集めて検証し、今後の事故防止に生かすため
・被害児童生徒等の保護者や児童生徒等及びその保護者の事実に向き合いたいなどの希望に応えるため
とされています(もっとも事案によってはこれらに限られないと思われます)。
 また、調査に当たっては上記調査目的を達するに必要な項目を調査し、報告書にまとめることも想定されています。
 もっとも、どのような項目について、どのような調査を行うのかについては、事案によって異なるものといえ、画一的なものがあるわけではありません。
 この点、事故対応指針に基づきこれまでどのような調査が行われたのかについて、令和2年3月に文部科学省がまとめた「『学校事故対応に関する指針』に基づく詳細調査報告書の横断整理」4が参考になります。同横断整理においては13事例が取り上げられていますが、そのうち11事例が体育活動中の事故であり、ここでも学校事故におけるスポーツ事故の割合が多いことを示しています。また、同横断整理においては、事故発生要因の分析においていくつかの項目に分類し整理しており参考になります(同横断整理・5頁参照)。
4 学校におけるスポーツ事故調査の在り方
 学校におけるスポーツ事故の調査に当たっては、事故対応指針や、同横断整理においてまとめられた項目に従い、調査を行い、再発防止や被害者の知りたい気持ちに応えるべきと考えられます。弁護士としてスポーツ事故の相談に接していると、取りうる手段として(残された手段として)民事上や刑事上の責任追及をせざるを得ない場面も少なくありません。しかし、必ずしもそれらの手段が被害者側の気持ちに応えているとは限りません。真実を知りたい、再発防止に向けて取り組んで欲しい、といった被害者側の気持ちに応えるためには、事故対応指針に基づいた調査がもっと行われるべきと感じます。

(2021年12月執筆)

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執筆者

安藤 尚徳あんどう なおのり

弁護士(東京フィールド法律事務所)

略歴・経歴

スポーツに関する案件(スポーツ団体のガバナンス・コンプライアンス、スポーツ事故、スポーツ仲裁、マーケティング等)を専門に扱う。
日本スポーツ法学会事務局、共栄大学国際経営学部非常勤講師 (スポーツ法学)、公益財団法人 日本スポーツ仲裁機構 仲裁調停専門員。
著書に「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務-スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」(共著 2013 清文社)、「標準テキスト スポーツ法学 第2版」(共著 2017 エイデル研究所)、「スポーツの法律相談」 (共著 2017 青林書院)など。
その他の略歴等は、事務所サイト(http://tokyofield.jp/)を参照。

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