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一般2021年07月14日 オリンピックとアスリートの意見表明 ~Rule 50.2 Guidelines - Olympic Games Tokyo 2020~ 執筆者:安藤尚徳

1 オリンピック大会中のアスリートの表現に関するガイドライン

 一年越しの東京2020大会が間もなく開催されようとしています。しかし、新型コロナウィルスの影響力は一年経っても大きく、東京2020オリンピックではほとんどの競技会場で無観客開催となることが決定しました。また、参加するアスリートやコーチ、大会運営者やメディア関係者は、新型コロナウィルス対策のため、「The Playbook」1に沿った行動が求められています。
 さて、その「The Playbook」以外にも、参加するアスリートやコーチなどに適用されるルールに関するガイドラインが、このほど国際オリンピック委員会(IOC)から新たに発表されました。それは、オリンピック大会中のアスリートの表現に関するガイドライン「Rule 50.2 Guidelines - Olympic Games Tokyo 2020」2です。

2 アスリートの表現とオリンピズム

 ちょうど1年前、アスリートの「スポーツの場」における人種差別への抗議活動に関するコラムを書きました(拙稿「「スポーツの場」における人種差別への抗議活動を巡る議論」参照)。そのコラムでも紹介しましたが、オリンピックに参加する者が遵守しなければならないルールである「オリンピック憲章」において、「いかなる種類のデモも、政治的、宗教的、人種的なプロパガンダも、オリンピック会場、競技場、その他の場所では許されない」と規定されています(50条2項(Rule50.2))3。これは、オリンピックは、国籍や人種、宗教などを超え、様々な価値観を有する者が参加する平和の祭典であり、そのためには、オリンピックにおけるスポーツは中立的なものであり、政治的、宗教的、その他のいかなる種類の干渉からも切り離されていなければならないという基本原則があるためです。
 他方で、アスリートも一人の人間として尊重されなければならず、自由な意見表明(表現活動)が認められるべきです。これまでも、Rule50.2に関して、アメリカオリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)や、IOCアスリート委員会(IOC AC)がそれぞれRule50.2の在り方について意見を述べてきました4
 これを受け、2021年7月2日、IOCの執行委員会において、IOC ACが提出した提言を承認する形で、Rule50.2を念頭に置きつつ、オリンピック大会期間中のアスリートの自由な意見表明をする機会を明確にするため、東京2020大会におけるRule50.2のガイドラインを公表しました。

3 Rule 50.2 Guidelines - Olympic Games Tokyo 2020の内容

 Rule 50.2 Guidelines - Olympic Games Tokyo 2020(以下「Rule50.2ガイドライン」といいます。)では、オリンピック期間中、アスリートは自分の意見を表明する機会があることを明言し、以下のようにいくつかの意見表明の場面を例示しています。

・ミックスゾーン(メディアへの対応時を含む)。
・国際放送センター(IBC)またはメインメディアセンター(MMC)(メディアへの対応時を含む)
・会場内およびMMCでの記者会見時
・インタビュー時
・チームミーティング時
・紙媒体メディアやデジタルメディアの場
・ソーシャルメディアチャンネルの場

 また、控え室等を出た後や、選手やチーム紹介中のような競技開始前の競技場内では次の表現が可能とされています。

・オリンピズムの基本原則に合致していること
・ 直接的にも間接的にも、人、国、組織および/またはその尊厳を対象としていないこと
・妨害的でないこと(例として、他の選手やチームの国歌斉唱や紹介の際に、他の選手やチームの競技への集中や準備を妨げる可能性のある表現、他の選手やチームの紹介やプロトコル自体を物理的に妨害すること(例えば、旗や横断幕を広げるなど)、人や財産に物理的な危害を加えること(またはその危険性を負うこと)などが妨害的な表現とみなされる)
・関連する国内オリンピック委員会(NOC)の規則や、関連する国際連盟(IF)の競技規則によって禁止またはその他の制限を受けていないこと

 そして、「アスリートは、自分の意見を表明する際には、適用される法律、オリンピックの価値、そして仲間のアスリートを尊重することが求められる。いかなる理由であれ、差別、憎悪、敵意、または暴力の可能性を構成または示唆するような行動や表現は、オリンピズムの基本原則に反することを認識すべきである。」と述べられています。
 他方で、これらとは反対に、禁止される表現、すなわち、Rule50.2が適用される場面も記載されており、以下の場面では表現が認められないとされています。

・公式セレモニー中(メダル授与式、開会式、閉会式を含む)
・競技場内での競技中
・選手村(Olympic Village)の中

 そして、これらのガイドラインを遵守しない場合には、IOCの懲戒手続きの対象となる可能性が示唆されています。

4 Rule50.2ガイドラインに対するアスリートの考え

 今回のRule50.2ガイドラインに対して、IOC AC委員長のカースティ・コベントリー氏は、「この新しいガイドラインは、世界のアスリートのコミュニティとの広範な協議の結果である。このガイドラインは、アスリートが競技前に自己表現するための新たな機会を提供する一方で、競技場での競技、セレモニー、勝利のセレモニー、選手村での表現を守るものである。これは、国際的な協議における大多数のアスリートの願いであった。」と述べています5。ここから窺えるのは、大多数のアスリートは、競技中や、競技の結果に対するセレモニーにおいては、競技に関するもの以外の表現が注目されることを「是」としていないということです。純粋に、競技そのものや、競技の結果そのものを見て欲しい、という気持ちは共感できます。

5 東京2020大会でのアスリートの一挙手一投足に注目

 1年前のコラムで「延期された1年間に、「スポーツの場」における人種差別への抗議活動について議論が深まり、1年後の東京大会は、これまでとは違ったオリンピックになることを期待せずにはいられません。」と書きました。そして、1年を経て、Rule50.2ガイドラインが出来上がり、アスリートの意見表明の場が明確化されました。まさに、これまでとは違ったオリンピックになりそうな予感がしています。
 新型コロナウィルスが流行する中での東京2020大会の開催には様々な意見があります。大会期間中のアスリートの競技をする姿を見るだけでなく、アスリートの意見表明に触れることによって、勇気づけられ、困難に立ち向かう力を貰えると信じています。アスリートの一挙手一投足に注目です。

1 https://olympics.com/tokyo-2020/ja/news/news-20210615-04-ja
2 https://olympics.com/athlete365/app/uploads/2021/07/Rule-50.2-Guidelines-Olympic-Games-Tokyo-2020-Final.pdf
3 「No kind of demonstration or political, religious or racial propaganda is permitted in any Olympic sites, venues or other areas.」日本オリンピック委員会「オリンピック憲章 Olympic Charter 2020年版・英和対訳」
 https://www.joc.or.jp/olympism/charter/pdf/olympiccharter2020.pdf
4 USOPCの提言については、拙稿「「スポーツの場」における人種差別への抗議活動を巡る議論」参照
5 https://olympics.com/athlete365/voice/ioc-extends-opportunities-for-athlete-expression-during-the-olympic-games-tokyo-2020/

(2021年7月執筆)

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執筆者

安藤 尚徳あんどう なおのり

弁護士(東京フィールド法律事務所)

略歴・経歴

スポーツに関する案件(スポーツ団体のガバナンス・コンプライアンス、スポーツ事故、スポーツ仲裁、マーケティング等)を専門に扱う。
日本スポーツ法学会事務局、共栄大学国際経営学部非常勤講師 (スポーツ法学)、公益財団法人 日本スポーツ仲裁機構 仲裁調停専門員。
著書に「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務-スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」(共著 2013 清文社)、「標準テキスト スポーツ法学 第2版」(共著 2017 エイデル研究所)、「スポーツの法律相談」 (共著 2017 青林書院)など。
その他の略歴等は、事務所サイト(http://tokyofield.jp/)を参照。

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