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教育2021年03月19日 部活動といじめ問題 執筆者:安藤尚徳

1 いじめに対する韓国バレー協会による代表資格のはく奪処分

 このほど大韓民国バレーボール協会は、校内暴力の加害者と暴露され過去に暴力行為を行った選手らに対し、「無期限での代表資格はく奪」処分をしたと発表した1。報道によれば、処分が下された選手らは共に24歳の双子の姉妹で、バレーボール女子韓国代表で中心的選手であったようだ。テレビ番組にも出演するほど人気があった両選手であったが、中学時代のチームメートにSNS上で、過去に両選手から暴力や暴言などのいじめを受けていたことを暴露され、両選手が謝罪する事態にまで発展したようだ。そして、大韓民国バレーボール協会は、「学校での暴力に対し、強力な措置を取らない場合、類似する問題の再発防止が難しいと判断した」とし、上記のとおり、両選手に無期限での代表資格はく奪処分が下されたようである。上記報道に触れた際、「厳しい処分」との印象を受けた。そのような印象を受けたのは、無期限での代表資格はく奪、という処分自体の重さの点と、約10年前の中学時代のいじめ問題に対する処分、といういじめ問題に対する厳しい姿勢の点からである。韓国では、学校におけるいじめ問題が深刻である、との報道もある。日本においても学校におけるいじめ問題は深刻であり、今回の大韓民国バレーボール協会の処分は、今後の日本スポーツ界に対しても大きな影響を与えるであろう。

2 日本における学校のいじめ問題

 日本における学校のいじめの問題で、大きな転換となったのは、2011年に発生した大津市の中学校で起こったいじめ自殺事件であろう。そのことに端を発し、2013年にはいじめ防止対策推進法が制定され、国や自治体、学校に対し、いじめを防止するために様々な措置が義務づけられた。同法律の下で学校では様々な取り組みがなされているが、それに関する調査として、文部科学省が全国の小・中・高等学校及び特別支援学校に実施した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、令和元年度の学校におけるいじめの認知件数は、612,496件であり、前年度に比べ68,563件(12.6%)増加している2。増加の要因は、いじめを初期段階のものも含めて積極的に認知している結果として肯定的に評価がされている一方で、いじめの件数それ自体は決して少なくなく、学校におけるいじめ問題の深刻さが表れているといえよう。
 学校においてどのような場面でのいじめがあるのかについては、前出の文部科学省による調査では、いじめが生じた場面の調査は行っていないので、実数としてどの程度あるか不明であるが、部活動内でのいじめは決して少なくないように思う。そのように考えるのは、学校における部活動が、課外活動という位置づけの下、閉鎖的な空間で、限られた人間関係の中で成り立っているものだからである。

3 日本における部活動の位置づけ

 日本における部活動の位置づけは次のとおりである。すなわち、部活動は、中学校及び高等学校の学習指導要領の総則において、「生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際、地域や学校の実態に応じ、地域の人々の協力、社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行うようにすること。」3と定められているのみであって、学校教育の一環ではあるものの、教育課程ではない、つまり、課外活動との位置づけである。
 このような教育課程の外に置かれた部活動の運営については、明確なルールが定められていなかった。しかし、ここにおいても、いじめ問題と同様、近年大きな転換があった。それは、2012年に起こった大阪の高校バスケ部でコーチから暴力を受けた生徒が自殺したという痛ましい事件である。これに端を発して、部活動内の暴力問題、ひいては、スポーツにおける暴力問題が社会問題となり、JOC、日本スポーツ協会等の国内統括競技団体が「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を行うと共に、文部科学省において「運動部活動での指導のガイドライン」が作成され、その後も、スポーツ庁を中心に、運動部活動改革が行われている。ただし、上記宣言やガイドライン等これまでの議論は、あくまでも、指導者から生徒に対する暴力を問題とするものであって、生徒同士のいじめ問題を正面から捉えたものにはなっていなかったように思う。

4 部活動におけるいじめ根絶を目指して

 前述のとおり、これまでのスポーツ界では、部活動でのいじめ防止よりも、部活動で起こる指導者から生徒に対する暴力を根絶する取り組みに重点が置かれてきたように思う。これからは、スポーツ、特に、部活動におけるいじめの根絶を目指して、スポーツ界と教育現場とが相互に取り組んでいくことが必要であると考える。大韓民国バレーボール協会の処分は、そのことを示唆するものであるといえよう。

1 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021021500782&g=spo
2 文部科学省「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」
 https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf
3 新学習指導要領では、「特に、生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化、科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等、学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際、学校や地域の実態に応じ、地域の人々の協力、社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行い、持続可能な運営体制が整えられるようにするものとする。」とされている。

(2021年2月執筆)

執筆者

安藤 尚徳あんどう なおのり

弁護士(東京フィールド法律事務所)

略歴・経歴

スポーツに関する案件(スポーツ団体のガバナンス・コンプライアンス、スポーツ事故、スポーツ仲裁、マーケティング等)を専門に扱う。
日本スポーツ法学会事務局、共栄大学国際経営学部非常勤講師 (スポーツ法学)、公益財団法人 日本スポーツ仲裁機構 仲裁調停専門員。
著書に「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務-スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」(共著 2013 清文社)、「標準テキスト スポーツ法学 第2版」(共著 2017 エイデル研究所)、「スポーツの法律相談」 (共著 2017 青林書院)など。
その他の略歴等は、事務所サイト(http://tokyofield.jp/)を参照。

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