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一般2022年06月14日 子どものスポーツをする権利から考える全国大会廃止 執筆者:安藤尚徳

1 全柔連の全国小学生学年別柔道大会廃止

 2022年3月14日、公益財団法人全日本柔道連盟(以下「全柔連」といいます。)は、2022年より全国小学生学年別柔道大会を廃止するとの文書を都道府県柔道連盟宛に通知しました1。この通知に対しては、「勝つための柔道よりも大事なことがある。小学生を冷遇するわけではない」として肯定的な意見2がある一方、SNS上では「勝負しないと子どもが弱くなる」、「全国大会がなくなって悲しい」といった否定的な意見もあるようです。本コラムでは、「子どものスポーツをする権利」という視点からこの通知の持つ意味を考えてみたいと思います。

2 全国小学生学年別柔道大会廃止の背景

 全国小学生学年別柔道大会は、2004年から始まり、小学生5年生及び6年生の男女を対象とした年に一度開催されるトーナメント方式の全国大会ということのようです。今回、全柔連が全国小学生学年別柔道大会を廃止した理由として、「行き過ぎた勝利至上主義」を挙げています。心身の発達途上であり、事理弁別の能力が十分でない小学生が勝利至上主義に陥ることは好ましくなく、また、勝利至上主義は日本柔道の創始者である嘉納師範の教えにもそぐわないとのことが理由として挙げられています。

 この勝利至上主義とは、説明の仕方は様々ですが、要するに、スポーツにおいて、試合に勝つ(相手に勝つ)ことが絶対的な目標とされる考えです。スポーツにおいて、試合に勝つ、相手に勝つことを目標にするのは競技スポーツであれば自明のことであり、それ自体が非難されるべきことではありません。しかし、勝利至上主義は、試合に勝つことを絶対的な目標に置くため、試合に勝つためであれば、過度のトレーニングも厭わないとされる風潮を招きやすいといえます。また、勝利至上主義を指導者から見た場合、試合に勝つことは、指導者としての評価を計る上で分かりやすい物差しであることから、指導においても、まずは試合に勝つ、ということが絶対的な指標となり、過度なトレーニングや、勝利を急ぐ焦りから暴力を伴った指導に陥りやすい点も指摘できます。

 さて、上記のとおり、全国小学生学年別柔道大会は年に一度開催されるトーナメント方式の全国大会ということであり、負ければ終わり、という過酷な大会であるため、過度な競争になりやすいともいえます。参加選手や指導者は、この大会を目指して1年間トレーニングをしてくる訳で、そこでは、行き過ぎた勝利至上主義から、過度のトレーニングや、暴力を伴った指導に陥りやすい環境にあるといえます。さらに、心身の発展途上の小学生においては、過度のトレーニングや暴力を伴った指導により、成人以上に心身共に傷ついてきた経緯があったのではないかと想像されます。このような背景もあり、この度の全国小学生学年別柔道大会の廃止に至ったものと思われます。

3 子どものスポーツをする権利

 1989年11月20日に第44回国連総会において、「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」3が採択され、日本においても,1990年9月21日にこの条約に署名し,1994年5月22日に効力が生じています。本条約は、世界の多くの児童(本条約では、18歳未満のすべての者を児童と定義)が、今日なお、飢え、貧困等の困難な状況に置かれている状況にかんがみ、世界的な観点から児童の人権の尊重、保護の促進を目指したものです。本条約において、すべての児童は、「その年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利」を有すると定められており4、子どもにはスポーツをする権利があると解されています。また、本条約では、「子どもの最善の利益」を主として考慮すべきとされており5、子どものスポーツをする権利を考えるにあたっても、子どもの最善の利益を主軸に考えるべきといえます。

 子どもの権利とスポーツに関して、ユニセフ及び日本ユニセフ協会は、2018年11月20日、「子どもの権利とスポーツの原則」6を発表しました。この原則では、子どもの権利条約において、子どものスポーツをする権利が定められているとの理解の下、スポーツ団体やスポーツに関わる教育機関、スポーツ指導者に期待されることとして、「子どもの権利の尊重と推進にコミットする」ことが挙げられています。そして、「常に子どもの最善の利益を考慮して行動する」ことが求められ、「試合における勝利だけに価値があるという考え(勝利至上主義)は必ずしも子どもの最善の利益にはつながらないこと、また、生涯にわたる子どものスポーツへの参加を促進することにはならないことに留意する。」と述べられています7。本原則においても、前述した勝利至上主義の弊害が特に児童にもたらされることの懸念が示され、子どものスポーツをする権利からみて、勝利至上主義のような過度の競争がもたらす弊害は大きな障害となっているといえます。

4 ノルウェー、フランスでの取り組み

 ノルウェーでは、Provisions on Children’s Sportという規定があり、12歳になるまではヨーロッパ選手権やワールドカップといった国際大会に出場できない規定があります。また、11歳までは結果やランキングも発表しないこととされており、年少の頃から過度な競争をすることを禁止し、子どもの心身の保護を図っています。

 また、フランスでは、かつて開催されていた子どもの柔道全国大会について、現在では15歳以下の全国大会を廃止したようです。廃止の理由として、心身の発展途上にある子どもにとって、勝利を求める余り指導者が過度のトレーニングを課すことによる弊害から保護するためということのようです。

5 次なる子どもの目標

 子どものスポーツをする権利から見てみると、過度の競争は、子どもの心身に悪影響を与え、結果として、子どものスポーツをする権利を奪ってしまうものといえます。全国小学生学年別柔道大会のようなノックアウト形式の全国大会は過度の競争に陥ってしまう危険があります。子どもの権利条約にいう「その年齢に適した」スポーツ環境を今一度考えると、今回の全柔連の全国小学生学年別柔道大会廃止の判断には合理性があると思います。

 全柔連では、小学生たちが参加することを目標にできるようなイベントを開催したい、とも通知しています。その際、大人の立場から、子どものスポーツはかくあるべし、と考えるのではなく、子どもの最善の利益とは何か、という視点から、全国小学生学年別柔道大会に代わる次の目標を模索すべきと思います。

(2022年5月執筆)

1 https://www.judo.or.jp/news/9766/
2 https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=16501943518827
3 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html
4 子どもの権利条約31条1項「締約国は、休息及び余暇についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める。」
5 子どもの権利条約3条1項「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。」
6 https://childinsport.jp/
7 日本ユニセフ協会「子どもの権利とスポーツの原則」原則1-ⅰ

執筆者

安藤 尚徳あんどう なおのり

弁護士(東京フィールド法律事務所)

略歴・経歴

スポーツに関する案件(スポーツ団体のガバナンス・コンプライアンス、スポーツ事故、スポーツ仲裁、マーケティング等)を専門に扱う。
日本スポーツ法学会事務局、共栄大学国際経営学部非常勤講師 (スポーツ法学)、公益財団法人 日本スポーツ仲裁機構 仲裁調停専門員。
著書に「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務-スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」(共著 2013 清文社)、「標準テキスト スポーツ法学 第2版」(共著 2017 エイデル研究所)、「スポーツの法律相談」 (共著 2017 青林書院)など。
その他の略歴等は、事務所サイト(http://tokyofield.jp/)を参照。

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