相続・遺言2026年07月09日 相続時精算課税制度の活用戦略と実務上の留意点 執筆者:北島淳

1 概要
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子・孫に対し、財産を贈与する際に選択できる制度です。累計2,500万円までの特別控除枠を活用して贈与税を繰り延べることができます。また、2024年の税制改正により、本制度にも年110万円の基礎控除が新設されました。この基礎控除分については贈与税がかからず、将来の相続財産にも加算されません。そのため、毎年110万円以下の贈与を継続しながら、必要に応じて2,500万円の特別控除枠を利用することが可能となり、本制度の利便性は大きく向上しました。特に長期間にわたり資産移転を進めたい富裕層にとっては、相続税対策の選択肢として再評価されています。2,500万円を超えた贈与分については一律20%の贈与税が課されますが、贈与者が亡くなった際に、過去の贈与額(基礎控除を除く)を相続財産に持ち戻して相続税を計算し、納付済みの贈与税がある場合は精算(税金の控除または還付)を行います。
2 適用対象者
・贈与者(特定贈与者):贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母
・受贈者(相続時精算課税適用者):贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の推定相続人である子および孫
本制度は、「贈与者ごと、受贈者ごと」に選択することができます。たとえば「父からの贈与には本制度を活用し、母からの贈与には通常の暦年課税を適用する」といった柔軟な運用ができます。両親それぞれに本制度を選択した場合、特別控除はそれぞれ2,500万円で、合計5,000万円までの特別枠を活用することができます。
3 どの様な活用方法がある?
本制度は、単なる税金の先送りではなく、戦略的に活用することで高い節税効果と円滑な承継を実現することができます。
・値上がりが見込まれる資産の贈与
不動産や自社株等、将来値上がりが見込まれる資産を早めに贈与する場合に有利です。相続時の税計算には「贈与時の評価額」が適用されるため、贈与時から相続時までの値上がり分に課税されません。
・収益を生む資産の移転
賃貸マンション等の、収益を生む資産を子に移すことで、その後の収益をも子へ移転できる点もメリットです。これにより、贈与者の現預金が増えること(相続財産の膨張)を防ぎつつ、子の納税資金を確保することを実現できます。
・事業承継と争族対策
自社株等を、特定の人物へ生前に確実に贈与することができるため、事業承継に極めて有効です。例え
ば、経営者Xが後継者である次男Bに本制度を利用して株式を贈与すれば、生前に経営権を確定させ、将来の遺産分割協議における経営権の分散を防げます。また、意思能力がはっきりしているうちに財産配分を完了させることで、相続人同士の紛争リスクを低減できます。
4 注意点
本制度を一度選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税(年間110万円の非課税を使い切る方式)へ戻ることはできません。また、相続時に必ず申告が必要になる等、事務的な負担も生じるため、将来の相続税シミュレーションに基づいた慎重な判断が求められます。また、不動産を相続時精算課税制度で贈与する場合、贈与税以外のコストにも注意が必要です。具体的には、所有権移転登記に伴う登録免許税や司法書士等への報酬、不動産取得税などが発生します。相続による取得と比較すると、不動産取得税が課税される点や登録免許税率が高い点などから、税負担が増加するケースもあります。そのため、不動産の生前移転を検討する際には、相続税だけでなく取得時コストや維持管理コストも含め、総合的なシミュレーションを行うことが重要です。
相続時精算課税制度で贈与した財産は、すでに受贈者の所有財産となるため、相続時に適用できる各種特例との関係も検討しなければなりません。例えば、自宅や事業用宅地については、相続時に小規模宅地等の特例が適用できれば、土地評価額を大幅に減額できます。しかし、生前に贈与してしまうと、その土地は相続財産ではなくなるため、原則として同特例の適用対象外となります。その結果、相続税の節税効果よりも小規模宅地等の特例による減税効果の方が大きいケースでは、あえて贈与を行わない方が有利となる場合もありますので、慎重にご判断下さい。
相続対策において重要なのは、単に税負担を軽減することではなく、ご家族が円満に財産を承継できる仕組みを整えることです。相続時精算課税制度もそのための有力な選択肢の一つとして、長期的な視点から活用を検討したい制度といえるでしょう。もっとも、資産の内容や相続財産の規模によって最適な選択は異なるため、制度利用の前には十分なシミュレーションを行うことが重要です。
(2026年6月執筆)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者

北島 淳きたじま じゅん
税理士(北島淳税理士事務所)
略歴・経歴
1973年福井県生まれ。南山大学大学院法学研究科修士課程修了。
理念は「税理士はお客様を成功へと導くビジネスパートナー」。
税務・会計のみに留まらず広い視野から物事を捉え、お客様の将来像を共に考え共に描く
「未来創造型コンサルティング」を得意とする。
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