解説記事2010年05月17日 【最新判決研究】 使用人賞与の損金算入時期と当該政令規定の合憲性(2010年5月17日号・№354)

最新判決研究
使用人賞与の損金算入時期と当該政令規定の合憲性
品川芳宣
早稲田大学大学院教授

大阪地裁平成21年1月30日判決(判例タイムズ1298号140頁)
大阪高裁平成21年10月16日判決(未登載)

一、事実

(1)X会社(原告、控訴人)は、平成15年6月1日から同16年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分法人税について、X会社において平成14年7月16日から実施されている使用人に係る給与規定(以下「本件給与規定」という。)に基づき、平成15年11月16日から同16年5月15日までの計算期間に係る賞与(未払)合計919万円余(以下「本件賞与」という。)を損金の額に算入(製造原価の労務費424万円余及び販売管理費495万円)して確定申告をした。なお、X会社は、本件賞与を平成16年7月16日に支給している。
  これに対し、Y税務署長(処分行政庁)は、本件事業年度分法人税につき、平成18年改正前の法人税法(以下「法」という。)65条と法施行令(以下「令」という。)134条の2(現行の72条の3)に基づき、本件賞与の損金算入を否認するなどの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下各処分を一括して「本件各処分」という。)をした。X会社は、国(被告、被控訴人)に対して、本件各処分の取消しを求めて、本訴を提起した。
(2)本件給与規定は、賞与に関し、次のように定めている。
① 賞与額の決定
  賞与の額は、会社の営業成績及び社員各個人の業績に応じて決定し、業績の都合・業界の不況・事業の特別の不振・その他やむを得ない事由がある場合は支給しないことがある。
② 支給時期
  賞与の支給時期は、原則として、毎年8月・12月の2回とするが、会社の都合により他の時期に変更することがある。そのほか、臨時賞与を支給することがある。
③ 計算期間
  賞与の計算期間は、次のとおりとする。
・8月支給賞与 自11月16日~至5月15日
・12月支給賞与 自5月16日~至11月15日
④ 受給資格
  受給資格は、各々前記の賞与期間中勤務し、かつ、賞与の支払日に在籍する者とし、賞与計算期間中の一部について勤務した者については、日割計算した額を支給する。
⑤ 査定
  賞与は、人事考課規程に基づき、社員各人の計算期間中における勤務成績その他を勘案してその都度これを決める。
⑥ 賞与支給が不適当と認められる者については、原則として、支給しない。

二、争点及び当事者の主張

1 争点
(1)本件更正処分のうち、申告額を超えない部分の取消請求に係る訴えの適法性(本案前の争点)
  具体的には、増額更正が申告に係る課税標準の一部取消しと新たに認定された課税要件事実に基づく課税標準の加算から成り立っている場合に、更正の請求を経ることなく、申告に係る課税標準の範囲内のうち新たに認定された課税要件事実に基づく課税標準の部分の取消しを求めることが許されるかという争点である。
(2)令134条の2の合憲性(本案の争点1)
(3)令134条の2が無効である場合、本件賞与を本件事業年度の損金の額に算入できるか(本案の争点2)

 国の主張
(1)X会社の確定申告により確定していた所得金額及び法人税額を超えない部分については、X会社が自ら確定申告により納税義務を確定したものであるから、更正の請求という法の求める特別の手続を経由せずにその取消しを請求することは原則として不適法であり、ただ、申告の無効を主張することのできる例外的な場合にのみ、更正の請求を経ずに同部分の取消しを請求することも許されるところ、本件がそのような例外的な場合に当たらないことは明らかである。
(2)法65条は、法22条から64条までにおいては直接規定されていない事項について、あえて政令において定めることを予定しているものと解されるのであって、その委任の内容及び程度という点についても、法65条自体から、各事業年度の所得の金額の計算に関し、法に直接的な規定がなくても、大綱を定める法の規定から明らかに法の趣旨が推定できる事項について、専門的技術的な細目の定めを政令にゆだねたものであることが明確にされているといえる。このように、法65条における委任の目的、内容、程度は同条の委任規定自体から明確にされており、同条は、各事業年度の所得の金額の計算に関し、概括的白地的な委任をしたものではなく、具体的個別的な委任をしたものであって、委任を認める法律自体から委任の目的、内容、程度などが明確にされているという要件を満たしているものである。そして、令134条の2の規定は、使用人賞与の損金算入時期に関する趣旨に基づいて、実際に支払った日の属する事業年度の損金の額とするという原則を明文化するとともに、法22条3項各号の趣旨を害しない限度においてその例外に当たる場合をも規定し、もって専門的技術的な細目を定めたものということができる。
(3)仮に、令134条の2が無効であって、本件賞与につき法22条3項1号及び2号の規定によってその帰属年度を判断するとしても、本件賞与を本件事業年度の損金の額に算入する余地はない。本件給与規程は、その20条1項において、受給資格は、賞与の支払日に在籍する者とする旨規定していることから、本件賞与は、支給日当日まで、使用人に対する賞与の支払債務が発生する余地がない。

3 X会社の主張
(1)国税通則法(以下「通則法」という。)は、租税法律関係を早期に安定させるため、納税者が誤って税額を過大に申告した場合につき、その是正手段を期間制限を付した上で更正の請求に限るという制度(更正の請求の原則的排他性)を採用しているところ、租税法律主義の下においては、法律上根拠を有しない課税は許されず、上記のような場合には、本来、租税債権者である国(国税の場合)がこれを保持することは許されないはずである。そうであるとすれば、更正の請求の原則的排他性の適用を広く認めることは許されず、申告が錯誤に基づく場合のほか、更正の請求の手続を経ないで申告に係る課税標準・税額の減額の請求を認めることが、租税債務の安定的かつ可及的速やかな確定の要請を害さない場合には、当該請求をすることも認められるべきである。そして、本件のように、課税庁により増額更正がされ、その内容が、①申告に係る課税標準の一部取消しと②新たに認定された課税要件事実に基づく課税標準の加算から成り立っている場合に、②の加算部分の取消しを求めて争う場合は、判決等によって当該訴訟が終了するまでの間は、当該納税者の租税債務は確定しないのであるから、①の更正の請求を経ていない申告に係る課税標準の一部取消しを求めることを認めても、租税債務の早期確定を害さず、更正の請求の原則的排他性の趣旨には抵触しない。
(2)令134条の2は、法65条の委任に基づく規定であるところ、法65条は、その見出しの文言等に照らして、損金不算入という課税要件について政令に一般的・白紙的に委任するものではなく、あくまで法が定める損金算入の原則の下で所得金額の計算方法を具体的に定めることに限定して委任するものである。しかるに、令134条の2は、債務確定基準等を定めた法22条3項とは明らかに異なる基準によって賞与の損金算入時期を定めているから、同条は、法65条の委任の範囲を超え違法であり、また、課税要件法定主義にも反し、違憲無効である。まず、法65条は、22条の「別段の定め」には該当しない。
  すなわち、法65条は、同条が法2編1章1節2款すなわち法22条に関する必要な定めについての政令委任の根拠ともなっていることから考えると、法65条は、原則的な益金、損金計算規定である法22条及び同条2項、3項の定める「別段の定め」である法23条ないし64条の規定について、各条項に反しない限りにおいて具体的な所得金額の計算に関する必要事項の委任を許容した規定であると解するのが素直であって、法65条が法22条3項の「別段の定め」であるという解釈は到底成り立ち得ない。仮に、法65条が法22条3項の「別段の定め」に該当するとすれば、法65条は法が定める損金算入基準とは異なる損金算入基準を政令に一般的白紙的に委任する規定であるといわざるを得ず、損金算入基準が法人税課税の基本的事項であることからすれば、同条は租税法律主義に反する違憲無効な規定であるというほかなく、同条の委任に基づく令134条の2も無効であると解される。
  更に、令134条の2は、法22条3項の細目を定め具体化したものであるといえない限り、法の委任の範囲を超え無効となる。そして、使用人賞与には、会計上、原価(法22条3項1号)に該当するものと販売管理費(同項2号)に該当するものがあるが、令134条の2は、原価及び販売管理費等の損金算入基準を定めた法22条3項に反し無効である。
(3)賞与に係る債務が確定するためには、使用人に対する通知が不要であることは、前記において、述べたとおりであるところ、X会社は、平成16年5月31日、各使用人に対する同年の夏期賞与(本件賞与)の額を定め、本件賞与一覧表を作成し、同日、このようにして決定した本件賞与の金額について仕訳伝票を作成し、金額の確定した未払金として記帳処理していた。以上のとおり、本件賞与の支払債務は、平成16年5月31日の本件事業年度の終了の日に確定していたのであり、この点は本件各処分に係る税務調査において担当調査官も認めていたところである。したがって、令134条の2が無効であれば、本件賞与のうち、販売管理費に該当するものついては法22条3項2号によって、売上原価に該当するものについては同項1号によって、いずれも本件事業年度の損金の額に算入することができる。

三、一審判決要旨
請求棄却。

1 申告額を超えない部分の取消訴訟の適法性
(1)法及び通則法は、法人税につき申告納税制度を採用し、納税者が申告内容を自己に有利に是正する手段として、更正の請求という特別の方法を設ける一方、当該更正の請求につき期間制限を設けているのであるが、その趣旨は、法人税の課税標準等の決定については、最もその間の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとして、その過誤の是正は、期間制限を設けた上で法律が特に認めた場合に限るという建前とすることにより、租税債務の可及的速やかな確定という要請に応じる一方、納税義務者に対しても過当な不利益を強いることのないよう配慮することにあるものと解される。以上のような法及び通則法の趣旨に照らせば、納税者が、申告内容を自己に有利に是正するためには、更正の請求という法律が特に認めた手段によるべきであって、更正の請求の方法以外にその是正を許さないならば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がない限り、更正の請求の手続を経ることなく、更正処分の取消訴訟において、申告に係る課税標準等又は税額等を超えない部分の取消しを請求することは許されないものというべきである。
(2)以上によれば、更正の請求の方法以外にその是正を許さないならば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特投の事情がない限り、更正の請求の手続を経ることなく、更正処分の取消訴訟において申告に係る課税標準等又は税額等を超えない部分の取消しを請求することは許されないところ、前記前提事実によると、X会社は、平成16年7月30日にX会社の本件事業年度の法人税につき所得金額を1,262万9,329円、差引所得に対する法人税額を304万6,200円とする確定申告を行い、その後、平成17年2月28日にY税務署長から本件更正処分を受けたが、上記確定申告については、法定の期間内に更正の請求をしていないというのであり、証拠上、更正の請求の方法以外にその是正を許さないならばX会社の利益を著しく害すると認められる特段の事情もうかがわれない。そうすると、本件訴え中、本件更正処分のうち申告額を超えない部分、すなわち、本件更正処分のうち、所得金額1,262万9,329円、差引所得に対する法人税額304万6,200円を超えない部分の取消しを求める部分については不適法であるといわざるを得ず、同部分は却下を免れない。
2 令134条の2の合憲性(有効性)
(1)およそ民主主義国家にあっては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきところ、憲法は、上記のような見地から、その30条において、国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う旨規定し、84条において、あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする旨規定し、いわゆる租税法律主義を定めている。そして、前記のような租税法律主義の趣旨に照らせば、租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準及び税率等の課税要件並びに租税の賦課徴収の手続についても、法律において明確に定めることが必要であると解される(最高裁昭和28年(オ)第616号同30年3月23日大法廷判決・民集9巻3号336頁、最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。
  もっとも、租税法規は、複雑かつ多様な経済事象をその規律の対象とするものであり、課税の公平及び徴税の適正等の観点から専門的、技術的かつ細目的な規定を設ける必要があるとともに、上記のような経済事象の変動に即応する必要があるところ、このような租税法規の性格に照らせば、課税要件等の細部についてまですべて法律において規定することは実際上困難であって、憲法も、課税要件等の規定について、一定範囲において政令に委任することも許容しているものと解される。しかしながら、このように、課税要件等の規定について政令に委任すること自体は許されるとしても、憲法が定める前記租税法律主義の趣旨からすれば、課税要件の具体的内容の定めを包括的に委任するようないわゆる一般的白紙的委任は許されないと解され、課税要件等に係る基本的事項については法律において定めることを要し、政令その他の下位法令に委任することが許されるのはその技術的細目的事項に限られるものというべきであり、また、委任を認める法律自体から委任の範囲が明確に読み取れることを要するものというべきである。
(2)法は、22条1項において、課税標準である各事業年度の所得の金額が当該事業年度の益金の額と損金の額から算定されることを定めて、益金及び損金の各額が課税標準の基礎となることを定めているところ、このように課税標準の要素を成す益金と損金については、22条2項及び3項においてその内容及び帰属年度についての基本原則を定め、23条ないし64条において各経済事象に応じた益金及び損金の内容及び帰属年度について個別に詳細に定めているのである。このような法の規定内容に加えて、法人税については租税特別措置法その他の法律においても個別の経済事象に応じて益金及び損金の内容及び帰属年度等について具体的に規定していることなどに照らせば、法は、益金及び損金の内容及びその帰属年度に関しては、法22条ないし64条その他の法律においてこれを規律して、政令その他の下位法令においてこれらとは異なった益金又は損金の内容又は帰属年度に関する定めを置くことを予定していないものと解するのが素直である。また、前記のとおり、課税要件等の規定について政令に委任することが許容されるとしても、当該課税要件等の基本的事項については法律において定めることを要するところ、益金及び損金の内容及び帰属年度は上記のとおり正に課税要件の一つである課税標準の要素を成す基本的事項というべきであるから、これらにつき法とは異なる定めを置くことを法が政令に委任しているとは解し難い。これらに加え、法65条は、その見出しが「各事業年度の所得の金額の計算の細目」とされていることなども併せ考えると、法65条は、法2編1章1節2款ないし7款(22条ないし64条)が規定する内容について、その技術的、細目的事項を定めることを政令に委任した規定であると解するのが相当である。そして、法65条について上記のように解する限りにおいて、同条は、法律において基本的事項を定めた上で政令にその細目的事項を規定することを委任するものということができ、また、法22条ないし別条の各規定と併せれば、その委任の範囲が明確に読み取れるから、租税法律主義に反するものではないというべきである。
(3)国は、平成10年度税制改正に当たり、課税の明確性、統一性を図る観点から、賞与については、原則として実際に支給した日の属する事業年度の損金の額に算入するものとし、賞与引当金を廃止することとして、令134条の2は、法の上記趣旨に基づいて、使用人賞与について、実際に支払った日の属する事業年度の損金の額とするという原則を明文化し、その専門技術的な細目を定めたものであるから、法65条による委任の範囲内である旨主張する。
  平成10年法律第24号による改正前の法人税法54条1項は、「賞与引当金」として、「内国法人が、その使用人及び35条5項(役員賞与等の損金不算入)に規定する使用人としての職務を有する役員に対して支給する同条第4項に規定する賞与(以下この項において「賞与」という。)に充てるため、各事業年度において損金経理により賞与引当金勘定に繰り入れた金額については、当該金額のうち、これらの者につき当該事業年度終了の日の属する年において同日までに支給された賞与の額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」と規定していたところ、当該規定内容は、法22条3項が法人税の課税標準の要素を成す損金の金額の計算について通則として定める規定内容とはその基本的考え方を異にするものであって、課税標準の基本的事項に係るものであり、そうであるからこそ、同項にいう「別段の定め」として法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの)中に明文の規定が置かれていたものということができる。そうすると、平成10年法律第24号により当該規定が削除された経緯からは、使用人賞与に係る損金の額の計算については法22条3項の通則的規定に従うという趣旨が読み取れるにすぎず、それを超えて、使用人賞与に係る損金の額の計算について法22条3項の規定内容とその基本的考え方を異にする取扱いを政令でもって定めることを許容する趣旨を読み取るのは困難というべきである。のみならず、令134条の2の規定内容が使用人賞与の性格に即して法22条3項の規定内容を具体化したものであって、同項の規定内容とその基本的考え方を異にする内容を定めたものではないと合理的に解することができることは、後に説示するとおりである。
  以上のとおりであるから、国の前記主張を採用することはできない。
(4)上記において説示したとおり、法65条は、法2編1章1節2款ないし7款(22条ないし64条)に規定する内容について、その技術的、細目的事項を定めることを政令に委任した規定であって、法22条2項及び3項の「別段の定め」には該当しないものと解される。したがって、令134条の2が法律の委任の範囲内にあるといえるためには、同条が、法22条ないし64条の規定内容についての技術的、細目的事項を定めたものといえることが必要である。そして、法23条ないし法64条においては、法35条3項が、内国法人が、各事業年度においてその使用人に対し賞与を支給する場合において、その賞与の額につきその確定した決算において利益又は剰余金の処分による経理(利益積立金額をその支給する賞与に充てる経理を含む。)をしたときは、その経理をした金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定するほか、使用人に対する賞与に係る損金の額の計算について定めた規定は存しないから、結局、同項に規定する経理がされていない使用人に対する賞与の損金算入時期につき規定する令134条の2が法律の委任の範囲内であるか否かは、同条が、損金の額の計算についての基本原則を定める法22条3項の技術的、細目的事項を定めたものといえるか否かによって決せられることになる。
(5)令134条の2が規律の対象とする賞与は、法35条4項に規定する賞与、すなわち、役員又は使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいうところ、以上認定説示したところによれば、令134条の2にいう使用人に対して支給する賞与に該当するもの(以下「使用人賞与」という。)の多くは法22条3項2号に掲げる当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用に該当すると考えられるが、同項1号に掲げる当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価(売上原価等)に該当するものもあり得ると考えられるので、以下、令134条の2の規定内容が法22条3項1号又は2号の規定内容に係る技術的、細目的事項を定めたものとして法の委任の範囲内といえるか否かについて順に検討する。
  法22条3項2号は、各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、同項1号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額を掲げ、費用の帰属年度についてのいわゆる債務確定基準を定めている。このように、同号が債務確定基準を採用しているのは、債務として確定していない費用については、その発生の見込み及びその金額が明確ではなく、このような費用を損金の額に算入することを認めると、所得の金額の計算が不明確となることから、課税の公平を確保するために、このような費用の損金の額への算入を否定したものであると解される。この点、法人税基本通達2-2-12は、法22条3項2号の償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものの基準を定めているが、当該基準は合理的なものということができる。
  他方、令134条の2は、内国法人が各事業年度において支給する使用人賞与の額は、同条各号に掲げる賞与の区分に応じ、当該各号に定める事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する旨規定している。
  ところで、使用人賞与は、使用者である法人との間の法律関係に基づいて支給される給与の一種ではあるが、これを支給するか否か、どの範囲の者に対し(支給対象者)どのような要件の下に(支給要件)支給するか、その具体的な金額をどのように決定するか(具体的な金額の決定基準)等の事項は、労働契約等支給当事者間を規律する法律関係の定めにゆだねられており、就業規則や労働協約においてその基本的事項が定められていることが多いと考えられるものの、成文の規定を欠いたまま慣行によって規律されているものも少なくないと考えられ、具体的な賞与の性格及び賞与に係る当事者の権利義務関係には多様なものが存在し、これを一律に把握することはその性質上できないものである。しかしながら、前記認定事実によれば、多くの場合、就業規則等において、賞与は、臨時的な給与として位置づけられ、支給対象期間、これと異なる支給時期(支給日ないし支給基準日)、支給日在籍要件等が定められた上、その支給の有無ないし具体的な支給金額は、当該法人の支給対象期間等に係る業績ないし支給当時の財務状況等に連動させられるとともに、支給付象者の支給対象期間における勤務実績等が反映されるものとされ、基本的にその決定は使用者である法人の経営上、人事上の裁量判断にゆだねる仕組みが取られており、各使用人に対する具体的な賞与の支給額はその支給時に同時に通知されているのが実情であるということができ、使用人賞与の性質については、賃金の後払い的性格を含むものであることは否定することができないものの、利益配分的性格、生活保障的性格ないし功労報償的性格等をも含むものということができる。令134条の2の規定も、現存する法人の使用人賞与に関する制度及びその運用の実情並びに賞与の性格を以上のようなものととらえた上で所定の規律を定めていることは、同条及び法35条4項の規定の文言並びに前記認定の使用人賞与の損金算入に係る平成10年度税制改正の経緯等から明らかである。このような賞与の仕組み等にかんがみると、具体的な賞与の支給に係る法人とその使用人との間の権利義務関係(債権債務関係)は、少なくとも当該法人において個々の使用人ごとの具体的な賞与の支給額を最終的、確定的に決定した上これを外部に表示した時点で初めて成立すると解され、前記のとおり、多くの場合、賞与の支給要件として支給日在籍要件が定められるとともに、各使用人に対する具体的な賞与の支給額はその支給時に同時に通知されているという実情の下においては、具体的な賞与の支給に係る法人の債務(使用人の債権)は、当該賞与の支給時に成立するとともに、法人税基本通達2-2-12の定める基準をすべて満たすものとして、確定するものと解される。
  そうすると、使用人賞与の損金算入時期について原則としてその支給をした日の属する事業年度の損金の額に算入すべきものとする令134条の2の規定は、多くの場合において個々の使用人賞与の支給に係る法人の具体的な債務が当該賞与の当該使用人への支給と同時にされる通知をもって(当該法人による当該賞与の支給についての最終的、確定的意思決定の外部への表示として)成立し確定するという我が国の実情に即して、債務確定基準に従ってその損金算入時期を当該賞与に係る債務の確定する支給日の属する事業年度と定めたものであって、正に法22条3項2号の規定内容を使用人賞与に即して具体的に明らかにしたものということができる(賞与についてのこのような取扱いは、費用等の計上時期の適正化、保守的な会計処理の抑制、債務確定主義の徹底等の見地から使用人賞与について引当金制度を廃止した前記平成10年度税制改正の趣旨に沿うものということができる。)。また、令134条の2第1号に掲げる賞与については、労働協約又は就業規則により定められた支給予定日が到来し、かつ、使用人にその支給額が通知されている場合は、現実にその支給がされていなくても、当該支給予定日又は当該通知をした日のいずれかの時点(多くの場合はその遅い日)をもって、当該法人による当該賞与の支給についての最終的、確定的意思決定が外部に表示されたものとして、当該賞与の支給に係る当該法人の債務が成立し確定すると解され、同条2号に掲げる賞与についても、その支給額が各使用人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知され、当該通知に係る金額が当該通知をしたすべての使用人に対し当該通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1月以内に支払われている場合は、当該通知の時点において当該法人による当該賞与の支給についての最終的、確定的意思決定が外部に表示されたものとして、当該賞与の支給に係る当該法人の債務が成立し確定すると解されるから、これらの規定も、債務確定基準に従ってこれらの要件に該当する賞与についての損金算入時期を定めたものであって、同様に法22条3項2号の規定内容をこれらの賞与に即して具体的に明らかにしたものということができる。
  そうであるとすれば、令134条の2の規定は22条3項2号の定める債務確定基準と基本的に異なる考え方に立脚した規定ではなく、我が国における使用人賞与支給の実情を踏まえた上で、正に同号の定める債務確定基準に従って、我が国に多くみられる使用人賞与の支給態様に即してその損金算入時期を具体的に定めたものということができ、その意味において、同号の規定内容を使用人賞与について具体的に明らかにした技術的、細目的規定ということができる。
  もっとも、前記のとおり、現実に存在する法人の使用人賞与に関する具体的な制度は多様であって、これを一律に把握することはその性質上不可能である上、賞与の支給に係る法人の具体的な債務の成立及び確定の時期は、あくまでも使用人賞与に関する個別具体的な制度に則して認定されるべきものであり、我が国の実情に照らして多くの場合賞与の支給に係る法人の具体的な債務はその支給の日に成立し確定すると解されるものの、そのように解することのできない場合も少なからず存在していると考えられるのであり、令134条の2第1号及び第2号がそのような場合のすべてを網羅する規定になっていないことは、その規定内容等からも明らかである。しかるに、令134条の2は、同条にいう使用人賞与について一律にその損金算入時期を規律する趣旨のものであることが明らかであるから、同条の規定は、その1号から3号までに掲げる日以外の時点で当該賞与の支給に係る法人の具体的な債務が確定する賞与に適用される限りにおいて、法22条3項2号の定める債務確定基準となる基準を定めるものということになる。
  しかしながら、前記のとおり、憲法は、複雑かつ多様な経済事象をその規律の対象としつつ、課税の公平及び徴税の適正等を確保するという租税法規の専門技術的性格にかんがみ、課税要件等の細部についてまですべて法律において規定することを要求するものではなく、課税要件等に係る基本的事項については法律において定めることを要するものの、その技術的、細目的事項については政令その他の下位法令において定めることを許容していると解されるのであり、その趣旨からすれば、法律において課税要件等の基本的事項を定めた趣旨を損なわない範囲において、課税の公平及び徴税の適正等の確保の見地から、これと異なる規律を設け、もって、課税の明確性、統一性を図ることも、当該基本的事項についての技術的、細目的な定めとして、租税法律主義の要請に抵触せず、許容される場合があると解される。前記のとおり、令134条の2は、平成10年法律第24号による法人税法の改正により使用人賞与の損金算入についての賞与引当金制度が廃止されたのを受けて、我が国における使用人賞与支給の実情を踏まえた上で、法22条3項2号の定める債務確定基準に従って、我が国に多くみられる使用人賞与の支給態様に即してその損金算入時期を具体的に定めるとともに、これを使用人賞与一般についての統一的な基準として規定することにより、課税の明確性、統一性を図ったものということができるから、その限りにおいて、法22条3項2号の規定内容の技術的、細目的事項を定めたものとして、法65条による委任の範囲を逸脱するものではないというべきである。
  以上によれば、令134条の2は、法22条3項2号の規定内容の技術的、細目的事項を定めたるものとして、法65条による委任の範囲を逸脱するものではない。
(6)法22条3項1号は、各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき額として、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これに準ずる原価(売上原価等)の額を掲げている。このように、同号は、特定の収益との個別的対応関係を明らかにすることができる売上原価等の帰属年度については、適正な期間損益計算を確保する観点から、収益との対応関係のみを規定し、同項2号のような債務確定基準を採用していないのであって、売上原価等を損金の額に算入するためには、当該売上原価等に該当する費用に係る債務が確定していることは要しないものと解される。もっとも、このように売上原価等に該当する費用は当該費用に係る債務が確定していない場合でも損金の額に算入することが可能であるとしても、当該費用に係る債務の額を適正に見積もることができなければこれを損金の額に算入することは困難であるし、当該費用が結局支出されない可能性が大きい場合にまでこれを損金の額に算入することを認めると、当該法人の財務状況の適正な把握が困難となることなどに照らせば、売上原価等に該当する費用のうち、当該費用に係る債務が当該事業年度終了の日までに確定していないものについては、近い将来にこれを支出することが相当程度の確実性をもって見込まれており、かつ、同日の現況によりその金額を適正に見積もることが可能である場合に限り、その見積金額を当該事業年度の損金の額に算入することができると解される(前掲最高裁平成16年10月29日第二小法廷判決参照)。そして、法人税基本通達2-2-1は、法22条3項1号に規定する売上原価等となるべき費用の額の全部又は一部が当該事業年度終了の日までに確定していない場合には、同日の現況によりその金額を適正に見積もるものとする、この場合において、その確定していない費用が売上原価等となるべき費用かどうかは、当該売上原価等に係る資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供に関する契約の内容、当該費用の性質等を勘案して合理的に判断するのであるが、たとえその販売、譲渡又は提供に関連して発生する費用であっても、単なる事後的費用の性格を有するものはこれに含まれないことに留意する旨規定しており、同通達も、法22条3項1号に掲げる売上原価等の損金計上時期に関する上記解釈を前提とするものと解される。
  ところで、賞与については、前記のとおり、現実に存在する法人の使用人賞与に関する具体的な制度は多様であって、これを一律に把握することはその性質上不可能であるが、多くの場合、就業規則等において、賞与は、臨時的な給与として位置づけられ、支給対象期間、これと異なる支給時期(支給日ないし支給基準日)、支給日在籍要件等が定められた上、その支給の有無ないし具体的な支給金額は、当該法人の支給対象期間等に係る業績ないし支給当時の財務状況等に連動させられるとともに、支給対象者の支給対象期間における勤務実績等が反映されるものとされ、基本的にその決定は使用者である法人の経営上、人事上の裁量判断にゆだねる仕組みが取られており、各使用人に対する具体的な賞与の支給額はその支給時に同時に通知されているのが実情であり、そのような使用人賞与については、その支給に係る当該法人の具体的な債務は、当該賞与の使用人に対する支給と同時にされる通知をもって初めて、当該法人による当該賞与の支給についての最終的、確定的意思決定が外部に表示されたものとして、成立すると解される。そして、上記のような使用人賞与の基本的性格等にかんがみると、上記のような使用人賞与については、その支給に係る当該法人の具体的な債務が成立した時点で初めて、近い将来これを支出することが相当程度の確実性をもって見込まれ、かつ、その現況によりその金額を適正に見積もることが可能になるということができるのであって、それ以前の時点においては、近い将来にこれを支出することが相当程度の確実性をもって見込まれるとはいえず、また、その金額を適正に見積もることもできないというべきである。しかるところ、使用人賞与の損金算入時期について原則としてその支給をした日の属する事業年度の損金の額に算入すべきものとする令134条の2の規定は、上記のとおり、多くの場合において個々の使用人賞与の支給に係る法人の具体的な債務が当該賞与の当該使用人への支給と同時にされる通知をもって(当該法人による当該賞与の支給についての最終的、確定的意思決定の外部への表示として)初めて成立するものであるという実情を踏まえた上で、そのような使用人賞与については、それ以前の時点においては、近い将来にこれを支出することが相当程度の確実性をもって見込まれるとはいえず、また、その金額を適正に見積もることもできないことにかんがみ、その損金算入時期をその支給日の属する事業年度と定めたものであって、正に法22条3項1号の規定内容を使用人賞与に即して具体的に明らかにしたものであるということができる。また、令134条の2第1号及び第2号に掲げる賞与についても、それぞれ、これらの賞与に即して法22条3項1号の規定内容を具体的に明らかにしたものということができる。そうであるとすれば、令134条の2の規定は、法22条3項1号の定める基準と基本的に異なる考え方に立脚した規定ではなく、我が国における使用人賞与支給の実情を踏まえた上で、正に同号の定める基準に従って、我が国に多くみられる使用人賞与の支給態様に即してその損金算入時期を具体的に定めたものということができ、その意味において、同号の規定内容を使用人賞与について具体的に明らかにした技術的、細目的規定ということができる。
  以上によれば、令134条の2は、法22条3項1号の規定内容の技術的、細目的事項を定めたものとして、法65条による委任の範囲を逸脱するものではない。

3 本件各処分の適法性
 以上のとおり、令134条の2は、法の委任の範囲を逸脱するものではなく有効であるから、X会社のその使用人に対する賞与を本件事業年度の損金の額に算入することができるか否かは同条によって判断すべきところ、前記前提事実によれば、X会社は、平成16年5月31日までにその使用人に対する各人別の賞与支給額を決定してはいたものの、実際に本件賞与を支給したのは本件事業年度終了後の同年7月16日であり、しかも、X会社は、本件賞与の支給前には、本件賞与の各人別の支給金額について、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知してはいなかったというのであるから、本件賞与を本件事業年度の損金の額に算入することはできないことになる。したがって、本件賞与の額を本件事業年度の損金の額に算入することができないものとしてした本件更正処分は令134条の2の解釈適用を誤ったものということはできず、他に本件更正処分が違法であることをうかがわせる事情は本件記録上認められないから、本件更正処分は、適法である。また、本件各処分も適法である。

四、控訴審判決要旨
控訴棄却。

、解説
はじめに
 本件は、使用人に対する賞与(未払分、本件賞与)の損金算入時期が争われた事案である。本件賞与のような使用人賞与は、通常、製造原価等を構成する原価又は一般管理費、販売費等の費用に該当するものであるから、原則として、法22条3項1号又は2号に掲げる原価又は費用として、当該各規定及び法22条4項の規定に照らしその損金算入時期が解されることになる。
 しかしながら、使用人賞与の損金算入時期については、平成10年の法人税法改正によって、賞与引当金制度が廃止されたことに対応し、本件で問題となっている令134条の2の規定が設けられ、同規定の定めるところによって損金算入が行われることになった。
 かくして、本件においては、Xは、本件賞与か債務が確定しているとして本件事業年度の損金の額に算入したのであるが、Y税務署長は、本件賞与が本件事業年度中には令134条の2に定める損金算入の要件を満たしていないとして当該損金算入を否認したため、まず、令134条の2の規定それ自体が、租税法律主義の課税要件法定主義における法律の委任の範囲を超えている(違憲)か否かが争われたものである。
 ところで、令134条の2の規定は、平成18年の法人税法改正の際、法人税法施行令72条の5(平成22年改正により72条の3に変更)へ移行しているが、当該移行もその根拠が明確ではないところ、平成10年の制定当初からその合憲性が問題とされていた(注1)。したがって、その問題を明らかにするため、本件のような事案が法廷で争われることは、意義のあることである。
 なお、本件においては、本案前の請求として、本件更正処分中、X会社が確定申告段階で損金算入していなかった経費を損金算入(減額)した部分があるところ、X会社は、当該減額部分のみ本訴において取り消すべき旨請求している。当該請求の法律問題については、当事者の主張と一審判決要旨を紹介するに留めることとする。
1 違憲審査の限界(範囲)
(1)本件の主たる争点は、平成10年の法人税法改正によって制定された令134条の2の規定が、租税法律主義の課税要件法定主義にいう法律の委任の範囲を超えているか否か(憲法違反の有無)にある。当該条項の制定の趣旨等については、追って詳述するが、ここでは、違憲審査が判例においてどのように解されているかを要約する。
  まず、租税法律主義における課税要件法定主義とは、課税要件(ある事実が充足されることによって納税主義が成立するための要件)のすべてと租税の賦課・徴収の手続は法律によって規定されなければならないことを意味する。これは、租税法律主義の趣旨から当然の原理であるが、問題となるのは、法律と行政立法(政令・省令・告示)との関係である。
  この場合、法律の根拠なしに政令、省令等で新たな課税要件に関する定めをなし得ないことは当然であるし、また、法律の定めに違反する政令、省令等が効力を持たないことも明らかである。しかしながら、現実の政省令の規定が法律の委任を適正に受けているものか否かを判断することも困難である。そのため、政省令に委任される範囲についての基準については、次のように解されている(注2)。
  「租税立法においても、課税要件および租税の賦課・徴収に関する定めを政令・省令等に委任することは許されると解すべきであるが、課税要件法定主義の趣旨からして、それは具体的・個別的委任に限られ、一般的・白紙的委任は許されないと解すべきであろう。この点で問題となるのは、具体的・個別的委任と一般的・白紙的委任との区別の基準であるが、具体的・個別的委任であるといいうるためには、委任の目的・内容および程度(〈略〉)が委任する法律自体の中で明確にされていなければならないと解すべきである。」
(2)前述のように、法律と政令及び省令との関係においては、「委任の目的・内容および程度が委任する法律自体の中で明確にされていなければ」、当該政令又は省令は、課税要件法定主義に反し、租税法律主義に反することになって、違憲問題を惹起することになる。
  ところで、裁判所の法令審査権については、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」(憲法81)と定められている。しかし、最高裁判所の違憲審査は、極めて厳格(消極的)に解されている。
  すなわち、現在の違憲審査の限界(範囲)を判断する基準(判例法)となっている最高裁昭和60年3月27日大法廷判決(民集39巻2号247頁)(注3)は、「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうであるとすれば、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関係で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできない」と判示している。
  かくして、この大法廷判決が下された後の違憲訴訟においては、裁判所の違憲審査が一層厳しく制限されるようになり、近年、国税について違憲判決が下された例は福岡地裁平成20年1月29日判決(判例タイムズ1262号172頁)(注4)ぐらいしか見当たらない。
2 令134条の2の制定経緯と内容
(1)平成10年改正前の法人税法は、企業会計原則等との調整を図るため、賞与引当金、退職給与引当金等の6項目の引当金を設定していた。本件賞与のような未払賞与についても、賞与引当金の対象とされていた。しかしながら、同年の法人税法改正により、まず、賞与引当金、特別修繕引当金及び製造保証等引当金が廃止され、退職給与引当金の累積限度額が半減された。次いで、平成14年の法人税法改正によって退職給与引当金も廃止されたので、法人税法上、いわゆる負債性引当金が姿を消すことになった。このように、負債性引当金を廃止することについては、次のように説明されている(注5)。
  「引当金については、利益の有無等によって必ずしも計上されていない例も見られるほか、支出額を適切に見積もることが容易でなかったり、支出が見込まれるとしても相当長期間経過後に発生するもの、費用計上時期の特定が明確でないものなど、当期に損金算入することが必ずしも適当とは言いがたいものも見受けられます。課税の適正化の観点からは、支払いが不確実な費用や長期間経過後に発生する費用の見積計上は、これを極力抑制することが適当と考えられます。」
(2)かくして、平成10年の賞与引当金の廃止に伴って令134条の2が制定されたのであるが、その趣旨については、次のように説明されている(注6)。
  「賞与については、所得計算上これを「賃金」と同様に取り扱うのがよいのかどうか、企業が賞与の支給対象期間を定めているとしても、別途支給基準日を定めているのが通例であり、支給対象期間が賞与という費用を負担させるべき期間として妥当なのかどうかといった問題の指摘があることから、課税の明確性・統一性を図る観点から、賞与については、原則として、実際に支給した日の属する事業年度の損金の額に算入することとされ、賞与引当金は廃止されました。」
  その結果、法人が使用人に対して支給する賞与(使用人兼務役員に対して支給する使用人分賞与を含む。)の額の損金算入事業年度は、次のとおりとされた(令134の2)。
① 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給の額の通知がされているもので、かつ、当該支給予定日又は当該通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理をしているものに限る。)は、当該支給予定日又は当該通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度の損金の額に算入される。
② 次のすべての要件を満たす賞与は、使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度の損金の額に算入される。
 イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしていること。
 ロ イの通知をした金額を当該通知をしたすべての使用人に対し当該通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1月以内に支払っていること。
 ハ その支給額につきイの通知した日の属する事業年度において損金経理をしていること。
③ 上記①及び②の賞与以外の賞与(利益又は剰余金の処分による経理がされているもの及び利益積立金額をその支給する賞与に充てる経理がされているものを除く。)は、その支給をした日の属する事業年度の損金の額に算入される。
 なお、上記②における各要件は、法人が未払計上した賞与全体についてその損金性をテストするものであることから、支給する額を通知したにもかかわらず、退職した者には支払っていないといった事実がある場合には、上記の要件は満たさないことになるとされている(注7)。
3 法65条と令134条の2の関係(委任の合理性)
(1)前述のように、令134条の2は、賞与引当金の廃止に伴って、その使用人賞与の損金算入時期を定めるために設けられたものとされているが、当該規定の法人税法上の位置づけが問題となる。
  すなわち、使用人賞与は、一般管理費のような費用か製造原価のような原価に属するものと解される。したがって、当該賞与については、法22条3項1号又は2号の規定に依拠して、当該費用又は原価の帰属事業年度が判定されることになる。そして、賞与引当金は、その別段の定めとして定められたものである。その賞与引当金が廃止されたのであるから、原則として、前記1号又は2号の規定に依拠して帰属事業年度を制定すれば足りることになる。
  この場合、法22条3項1号は、原価の計上につき、「当該事業年度の収益に係る44……」と定めているため、収益との対応関係が認められる。そのため、法人税基本通達においても、特定の原価について、費用のような債務確定を要件とせず、ある程度の見積り計上を認めている(法基通2-2-1等参照)。
  また、同条同項2号は、費用の計上につき、「償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定」しているものに限るとしている。この場合の「債務の確定」については、法人税基本通達では、当該事業年度終了の日までに、①当該費用に係る債務が成立していること、②当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、及び③その金額を合理的に算定することができるものであること、のすべてに該当することが必要であるとしている(法基通2-2-12)。この債務の確定の考え方については、裁判例(注8)においても容認されている。
(2)ところが、前述のように、平成10年の法人税法改正は、「賞与については、原則として、実際に支給した日の属する事業年度の損金の額に算入することと」し、令134条の2が設けられた。そうであれば、令134条の2は、法22条3項2号にいう「債務の確定」等の別段の定めとして、政令ではなく法律で定めることを要することになる。もっとも、法22条3項が、特定の場合には、政令に委任してその損金計上時期を定めることも可能である。
  しかしながら、令134条の2は、法65条の委任を受ける方法で定められることになった。法65条は、法第2編第1章第1節「課税標準及びその計算」の第6款「各事業年度の所得の金額の計算の細目」と題する最後の条文であって、「第二款から前款まで(所得の金額の計算)に定めるもののほか、各事業年度の所得の計算に関し必要な事項は、政令で定める。」と定めている。そして、この規定を受けて政令で定められているのは、本件の令134条の2のほか、資本的支出(令132)、少額の減価償却資産の取得価額の損金算入(令133)、リース取引に係る所得の計算(令136の3)、土地の使用に伴う対価についての所得の計算(令137)、外貨建債権債務の換算の方法(令139の3)等非常に多岐にわたる。
  もっとも、これらの政令の規定は、法65条の委任を受けた規定として適切ではないということもあって、その後、法律に移行したものもある(現行法の61条の8等(外貨建取引の換算等)、64条の2(リース取引に係る所得の金額の計算)等である。)。また、令134条の2の規定は、平成18年の法人税法改正の際に、72条の5へ移行し、平成22年の法人税法改正の際に、72条の3に移行しているが、このように移行させた平成18年の改正の趣旨(法的根拠)も定かではない。
(3)以上のように、法65条の委任を受ける政令の規定は、多種多様であり、かつ、その委任に適合しないということで法律に移行したり、本件で問題となっている使用人賞与の損金算入時期については他の法律の委任規定とされるものもある。しかも、使用人賞与の損金算入時期については、現行法において72条の3に移行しているものの、法人税法何条の委任を受けているものか全く不明である。
  このように、法65条の委任を受けた政令の規定が全体に鵺的であるが、その中でも、令134条の2の規定は、冒頭でも指摘したように、課税要件法定主義(政省令への委任の限界)の観点から疑問の多い規定である。
  このような問題があることに対し、一審判決は、「委任を認める法律自体から委任の範囲が明確に読み取れることを要するものというべきである。」と判示した上で、「法65条は、法律において基本的事項を定めた上で政令にその際目的事項を規定することを委任するものということができ、また、法22条ないし64条の各規定と併せれば、その委任の範囲が明確に読み取れるから、租税法律主義に反するものではない」と判示するとともに、「令134条の2は、……我が国における使用人賞与支給の実情を踏まえた上で、法22条3項2号の定める債務確定基準に従って、我が国に多く見られる使用人賞与の支給態様に即してその損金算入時期を具体的に定めるとともに、これを使用人賞与一般についての統一的な基準として規定することにより、課税の明確性、統一性を図ったものということができるから、その限りにおいて、法22条3項2号の規定内容の技術的、細目的事項を定めたものとして、法65条による委任の範囲を逸脱するものではない」と判示した。
(4)このような一審判決の内容は、令134条の2は、実質的には法22条3項の2号の別段の定めであるから、法65条の委任の範囲を逸脱していない、というものである。元々、令134条の2が法22条3項1号及び2号の別段の定めではないかということは、筆者は指摘したところである。しかし、一審判決は、令134条の2が22条3項の別段の定めではないとし、その上で、法65条の委任の範囲を逸脱していないといとうのは、論理の飛躍があるように思われる。
  もっとも、一審判決は、この結論を導き出すために、法65条の規定の解釈において法22条ないし64条の各規定とを併せる必要性を指摘している。しかし、法65条の委任を受ける政令が法22条ないし64条の関連するものであれば何でもよいというのであれば、極論すると、法22条ないし64条の規定を受けた数多くの個別の政省令の規定は、全て法65条の委任を受ければ足りることになる。これでは、一審判決がいう「委任を認める法律自体から委任の範囲が明確に読み取れることを要する」という前提から、大きくはずれることになる。また、平成18年の法人税法改正において、令134条の2を令72条の5に移行する意味が増々理解し難いことになる。いずれにしても、令134条の2は、法律と政令の関係(委任の範囲)において問題を有していたものと解さざるを得ない。また、本件各判決の判示にも首肯し難いところがある。
4 本判決の意義と問題点
(1)本件においては、本件給与規定に基づいて算定された本件賞与の総額(未払)が本件事業年度の損金の額に算入し得るか否かが争われたものである。本件賞与は、前述の本件給与規定に基づいて算定されたものであるから、その計算期間が本件事業年度に属するものであっても、当該年度末には未払いであり、翌事業年度の7月に支給されたものである。
  そのため、本件賞与の損金算入時期については、本件賞与の債務確定性を論じることもなく、令134条の2に規定する各要件の充足如何によって決せられることになる。そうなると、令134条の2と本件給与規定に照らすと、本件賞与の損金算入時期は、令134条の2第3号の規定により、本件賞与が現実に支払われた本件事業年度の翌事業年に属することになる。
  かくして、X会社は、本件更正処分の違法性を主張するには、令134条の2の無効(違憲)を主張せざるを得なくなる。この点、前述したように、令134条の有効性(合憲性)については、かねてより疑問視されていたので、それが法廷で争われたことは意義のあることである。
(2)しかしながら、本件各判決は、前述のように、令134条の2が法65条の委任を受けたものとして合理性が認められるとして、令134条の2の規定の有効性(合憲性)を容認した。その理由は、令134条の2が法22条3項2号にいう債務確定の別段の定めとして合理性を有すから、法22条から64条までの所得計算規定を包含する65条の委任規定として適法である、というものである。
  このような一審判決については、前述したように、その論理において無理があるように思われるが、控訴審判決も一審判決を支持しているので、上告審で争われるようであれば、その行方が注目されるところである。
  ともあれ、平成18年の法人税法改正において、令134条の2の規定が法65条の委任規定でないことを立法当局も認めたのであるが、立法当局も認めた不当性も大阪地方裁判所及び大阪高等裁判所に届かないことになる。このことは、前述した前掲最高裁昭和60年3月27日大法廷判決に代表されるように、裁判所が租税法令の違憲審査について非常に慎重(消極的)であることを物語っているのであり、本件各判決もその延長線上にあるものと言える。

 

(注1)品川芳宣『租税法律主義と税務通達』(ぎょうせい、平成16年)15頁、馬場末光「法人税法施行令134条の2(使用人賞与の損金算入時期)の法的有効性の検証」東京税理士会(東京税理士会機関誌)2002年1月1日号12頁等参照。
(注2)金子宏『租税法 第15版』(弘文堂、平成22年)71頁。なお、同旨の裁判例として、大阪高裁昭和43年6月28日判決(行裁例集19巻6号1130頁)、大阪地裁平成11年2月26日判決(訟務月報47巻5号977頁)等参照。
(注3)この判決は、「大島判決」とも称され、同志社大学大島教授が、昭和39年分所得税について、当時の所得税法上の給与所得の給与所得控除が低額であることを理由に、給与所得者と事業所得者の課税上の取扱いの差異が憲法14条にいう法の下の平等に反する等として争った事案に係るものである。著名な判決であるが故に、数多くの判例評釈がある。
(注4)品川芳宣「土地建物等の譲渡損失に係る損益通算禁止規定の合憲性(遡及立法の禁止)」本誌258号23頁参照。
(注5)国税庁「平成10年 改正税法のすべて」267頁。
(注6)前出(注5)279頁。
(注7)前出(注5)279頁。
(注8)大阪地裁昭和48年8月27日判決(税資70号940頁)、大阪高裁昭和50年4月16日判決(同81号205頁)、岡山地裁昭和54年7月18日判決(同106号74頁)等参照。

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