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解説記事2019年10月07日 ニュース特集 相続税の節税策をめぐる税賠事件、高裁も税理士法人に3億円の賠償命令(2019年10月7日号・№806)

ニュース特集
最終的な結論は最高裁の場に
相続税の節税策をめぐる税賠事件、高裁も税理士法人に3億円の賠償命令


 税理士法人が相続税の節税策として提案したDESにより法人税課税が発生したとして、クライアントの会社が税理士法人に対し約3億2,900万円の損害賠償を請求していた事件で東京高裁(白石哲裁判長)は令和元年8月21日、東京地裁に引き続き税理士法人に対し全額の支払いを求める判決を下した(今号22頁参照)。税理士法人が提案したDESにより生じ得る課税リスクの説明を怠った点に説明義務違反があったと判断。DESに伴う債務消滅益に係る法人税約3億円などをクライアントの損害と認めている。
 なお、敗訴した税理士法人は上告を行っており(9月7日付けで上告受理)、最終的な結論は最高裁の場に移ることになったが、今回の事件は決して特殊な1つのケースと単純に割り切れるものではない。税理士法人などで相続税の節税対策を売りにするケースが少なくないなか、改めて節税策に潜む税賠リスクを浮き彫りにしたものであり、1つの参考事件として覚えておくべき判決といえよう。

清算方式とDES方式の2つの方法を提案も

 多くの税理士に衝撃を与えた東京地裁判決(平成28年5月30日、本誌648号4頁参照)に引き続き、東京高裁でも約3億円にのぼる税理士法人への損害賠償請求が認められた。税理士法人が提案したDES(デット・エクイティ・スワップ:会社の債権者が債務者である会社に対して有する貸金等債権を会社に現物出資し、債権者が会社の株式の割当を受ける方法)により生じる課税リスク(債務消滅益課税)の説明を怠ったことに説明義務違反があったと判断されたものだ。
会社に対する債権の相続税対策が発端
 それでは、事件の概要をみてみることにしよう(図表1参照)。まずは不動産の賃貸及び管理等を目的とする被控訴人である会社(債務超過状態)に対して、その代表者が貸し付けている約11億円の貸金等債権について、代表者が税務顧問契約を締結していた税理士法人(控訴人)に相続税対策を相談したことが事件の始まりとなった。
 相談を受けた税理士法人は、①清算方式(会社(被控訴人)が所有する建物及び車両を現物出資して新会社を設立し、新会社の株式を本件債務の一部に対する代物弁済に充てた上で、本件債務の残部については代表者が会社に対する債務免除を行い、その後会社を解散して清算する方法)及び②DES方式(代表者の会社に対する本件債権を会社に現物出資して、代表者に対して会社の株式の割当てを行う方法)の2つを提案した。

債務消滅益への課税の可能性に言及せず
 提案書によると、清算方式の場合は、メリットとして会社が債務免除を受けると収益になるが会社を解散することで税額はなく、本件債権が消滅するので代表者の相続に係る相続税の課税はないとする一方で、役員の勤続年数がリセットされること、口座の閉鎖、開設をやり直す必要があること、法人住民税が高くなることなどがデメリットとして挙げられていた。
 また、DES方式の場合は、会社には繰越利益剰余金がマイナス約10億円あるため、代表者が本件債権を10億円まで出資しても株価の評価は0円であるとした上で、メリットとして有利子負債の減少に伴う利息支払の軽減、資本金増額における取引先との格付けアップ、債権に係る相続税の軽減の3項目が記載される一方、デメリットとして交際費全額損金不算入、中小法人の特例が不適用、外形標準課税の導入、住民税均等割の増加の4項目が記載され、現物出資(DES方式)が最も有利と考えられるとの結論が示されていた。ただし、債務消滅益に対する課税の可能性や課税がされた場合の具体的な税額の試算等の記載はなかった。
 代表者らはこの税理士法人の提案を受け、DES方式によっても清算方式と同様に法人税課税がされる心配はなく、総合的にみて清算方式よりも有利であると考え、DES方式を採用し、実行されることになった。
 その後、代表者が死亡し、相続人が別の税理士法人に対して相続税の申告を依頼したところ、DESによって会社には債務消滅益に係る法人税が課税されるとの指摘を受けたため、控訴人である税理士法人に確認。相続人は控訴人である税理士法人と別の税理士法人の見解が食い違っていることに困惑したが、税理士法人(控訴人)はDESがなかったことにして法人税等の申告をするつもりであるとの方針を示した。これに対して相続人は債務消滅益の発生を前提とする法人税等の納税資金(約2億9,000万円)を用立てることは困難であったことなどから、税理士法人(控訴人)の方針どおり、DESはなかったという前提で法人税申告書を期限内に提出した。その後、資金手当てが完了したことからDESに伴う債務消滅益の発生を前提とする修正申告を行った上で、会社がDESを実行したことにより本来支払う必要のなかった法人税等相当額を含め、税理士法人(被控訴人)に対して損害賠償請求(約3億2,900万円)を提起したものである。
説明があればDESは採用せず
 税理士法人(控訴人)は会社(被控訴人)にDESを提案した際、本件DESの実行により債務消滅益が発生し、課税を指摘される可能性を指摘した上で、会社にとって最も有利な方法として本件DESを説明したものであるから、助言指導義務違反や説明義務違反はないなどと主張。一方会社(被控訴人)は、税理士法人はDESにより法人税が課税される可能性について一切説明しておらず、説明がされていたのであれば会社がDESを行うはずがないなどと主張した(図表2参照)。

【図表2】東京高裁での当事者の主な主張

税理士法人(控訴人) 会社(被控訴人)
・DESを採用した場合、相続による相続税は課税されないこととなるし、被控訴人の法人税についても、本件債権を9億9,000万円と評価すれば、課税がされない。
・清算方式は、被控訴人の解散を偽装する方法であり、そのような租税回避行為に該当したり、不当又は不自然な行為により課税を免れたりする行為について、税理士である控訴人は助言指導義務を負わない。


・控訴人は、本件DESを提案した際、DESの実行により債務消滅益が発生し、課税を指摘される可能性を指摘した上で、その場合でも税額は法人税3億円程度であると説明するとともに、6億円程度が想定される相続税を回避するための方策として、課税上最も有利な本件DES方式を指導したものであり、控訴人に説明義務違反はない。
・控訴人は、本件確定申告の時期に至っても本件債権の時価評価を行っていなかったのであり、単に平成18年改正により本件債権を時価評価する必要があることを認識していなかった。
・控訴人は、被控訴人の顧問税理士であったのであるから、税務の専門家として、租税関係法令に適合した範囲内で、被控訴人にとって最も有利な方法がいかなるものかを検討し、その場合の税額がいくらとなるかを算定すべきであり、被控訴人が主張する清算方式により相続税や法人税を軽減することが可能である以上、その方式による助言指導する義務がある。
・控訴人は、被控訴人に対して、本件DESにより法人税が課税される可能性について一切説明していない。控訴人が主張するような多額の法人税の負担が発生することが説明されていたのであれば、被控訴人が本件DESを行うはずがない。

節税効果が得られる清算方式を採用するよう助言する義務あり

 裁判所は、原判決を引用しつつ、税理士法人は顧問税理士として、租税関係法令に適合した範囲内で、会社にとって課税上最も有利となる方法を検討し、その方法を採用するよう助言指導する義務を負っていると指摘。また、DES方式を提案するに当たり、DESにより生じ得る課税リスク、具体的には、DESに伴い発生することが見込まれる債務消滅益課税について、課税される可能性、予想される課税額等を含めた具体的な説明をし、法人税及び相続税の課税負担を少なくし、より節税の効果が得られる清算方式を採用するよう助言する義務があったとの判断を示した。
 加えて、税理士法人によるDES方式の提案書には、法人税が課される旨は一切記載されていない上、DES方式が最も有利であると記載され、法人税も相続税も生じないことを前提としており、法人税が3億円程度生じる可能性がある旨の説明がされたとは到底考えられないなどとした。その上で裁判所は、原判決は相当であるとし、控訴人である税理士法人の控訴を棄却する判決を下している。

【参考】清算方式とDES方式の課税関係について

清算方式を採用した場合  清算確定事業年度において、清算法人に残余財産がないと見込まれるときは(残余財産がないかどうかの判定は、清算確定事業年度の終了時の現況によるが(法基通12-3-7)、解散した法人が当該事業年度の終了時において債務超過状態にあるときは、残余財産がないと見込まれるときに該当すると判定される(法基通12-3-8)、清算確定事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額に相当する金額は適用年度の所得金額の計算上、損金の額に算入される(同法59条3項、同法施行令118条)。なお、期限切れ欠損金は、通常の事業年度においては損金の額に算入することができない。
 会社は、平成24年4月末の時点において、9億6,711万7,425円の債務超過状態となっており、代表者による債務免除額を同額以下とすれば、債務超過は解消せずに残余財産がないと見込まれるから、上記欠損金額の控除規定の適用要件を充足する。そして、会社は、同期末時点において、9億8,300万7,337円の期限切れ欠損金を有していたことから、代表者による債務免除額から上記期限切れ欠損金を控除することができる。これにより原告の所得金額は0円となり、会社が清算確定事業年度において納付すべき法人税額は存在しないこととなる。
 また、会社が本件DESを実行した時期と同時期に清算方式を採用し、これを実行していた場合には、代表者の会社に対する債務免除により、相続税の課税対象となる本件債権は存在しないことになるから、本件債権に係る相続税も発生することはなかった。
DES方式を採用した場合  DESとは、企業の債務を企業の資本に交換することをいい、債権放棄などと同様に、企業の財務再構築の一手法として利用される。具体的な方法としては、債権者が債務者企業に現金を払い込んで募集株式の割当を受ける方法(現金払込型)と、現金ではなく債務者に対する債権を現物出資して同様に募集株式の割当を受ける方法(現物出資型)がある。本件DESは後者の方法を想定したものである。
 税務上は、会社法の施行を受けた平成18年度税制改正において、①法人が現物出資を受けた場合の税務上の取扱いは債権の券面額ではなく時価によるものとされ(法人税法2条16号、同法施行令8条1項)、この結果、現物出資する債権の券面額と時価の差額は債務消滅益として認識する必要があるものとされたが、他方、②経営不振企業の再建を目的として行われるDESの趣旨が没却されないよう、会社更生、民事再生等の法的整理においてDESが行われる場合、DESにより発生する債務消滅益を期限切れ欠損金と相殺することを可能とした(法人税法59条1項1号、2項1号)。
 なお、その後、法的整理に準ずる一定の私的整理(私的整理ガイドライン、中小企業再生支援協議会の支援、RCC企業再生スキーム、事業再生ADR手続によるもの等)についても、期限切れ欠損金との相殺を認める旨の国税庁の取扱いが示されるに至っている(平成22年2月15日付け「企業再生税制適用場面においてDESが行われた場合の債権等の評価に係る税務上の取扱いについて(照会)」に対する同月22日国税庁回答)。

(平成28年5月30日東京地裁判決より作成)

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