解説記事2024年09月30日 SCOPE 「自己脱税」等に該当し税理士業務の禁止処分は適法(2024年9月30日号・№1045)
東京地裁、税理士の職業倫理に著しく反する
「自己脱税」等に該当し税理士業務の禁止処分は適法
税理士である原告が、亡き妻の相続税申告で受けた税理士業務の禁止処分の取消しを求めるとともに、国家賠償法に基づく賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所(篠田賢治裁判長)は令和6年4月26日、税理士業務の禁止処分となった原告の各行為は「自己脱税」等に該当し、国賠法上違法はないとし、原告の請求を棄却した(令和2年(行ウ)第245号)。
期限後申告及び相続財産の申告漏れ等で税理士業務の禁止処分
本件は、税理士である原告がその妻の相続に係る自己の相続税の申告に当たり、①亡妻には相続税の基礎控除額を超える多額の相続財産があることを把握するなどしていながら、相続財産である預貯金の具体的な金額を共同相続人である原告の子らに知らせることなく隠匿し、課税価格7,594万2,120円を法定申告期限までに申告しなかったこと(本件行為1)、②預貯金のほかに課税価格4,083万6,880円の申告漏れを生じさせたこと(本件行為2)が税理士法37条に規定する税理士の信用失墜行為の禁止に違反するとして、同法46条に基づく税理士業務の禁止の処分を受けたことに対し、その取消しを求めるとともに、違法な処分によって精神的苦痛を被ったなどと主張して、国家賠償法1条1項に基づく賠償を求めた事案である。
処分取消しを求める訴えの利益はなし
裁判所は、税理士業務禁止処分を受けた者は、3年の間は税理士となる資格を有しないから、税理士登録を受けることができないが、本件では、既に原告が処分を受けた日から3年以上経過しており、現時点において、処分の法的効果は失われている上、原告は税理士として再登録を受けており、税理士業務の禁止期間である3年の経過後も、過去の税理士懲戒処分を受けた事実をもって将来の処分をする場合の加重要件とするなど、不利益な事由としてこれを考慮することを定める法令等の規定は見当たらないことから、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益があるということはできず、その取消しを求める訴えの利益を認めることはできないとした。
その上で裁判所は、税理士業務の禁止処分となった本件行為1が財務省告示(表参照)にいう「自己脱税」、本件行為2が同告示の「多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ」に該当するか否かを検討している。
【表】税理士等・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方(財務省告示第104号)(抄)
2 税理士が法第46条(一般の懲戒)の規定に該当する行為をしたときの量定の判断要素及び量定の範囲は、次の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによる。 (1)(略) (2)法第37条(信用失墜行為の禁止)の規定に違反する行為のうち、以下に掲げる行為を行ったとき。 イ 自己脱税(自己(自己が代表者である法人又は実質的に支配していると認められる法人を含む。次のロにおいて同じ。)の申告について、不正所得金額等があることをいう。以下同じ。)(上記1に掲げる行為に該当する場合を除く。) 不正所得金額等の額に応じて、 2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止 ロ 多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ(自己の申告について、申告漏れ所得金額等が多額で、かつ、その内容が税理士としての職業倫理に著しく反するようなものをいう。以下同じ。)(上記1及び2(2)イに掲げる行為に該当する場合を除く。) 申告漏れ所得金額等の額に応じて、 戒告又は2年以内の税理士業務の停止 |
遺言に不満を抱き、子の相続税申告を妨げる
まず、本件行為1については、「自己脱税」とは自己の申告について不正所得金額等があることをいい、「不正所得金額等」とは、通則法68条に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したところに基づく所得金額、課税価格その他これらに類するものをいうとした。
本件では、原告は遺言書の内容に不満を抱き、原告の子らに対し、相続した財産の管理を原告に委ねることを求め、長男から財産の管理の問題が解決しなくても相続税の申告手続を進めることができないのかと繰り返し尋ねられるとともに、早く申告するよう頼まれていたにもかかわらず、原告の子らが財産の管理を原告に任せると約束するまでは相続手続を進めることに応じられないなどとして、申告期限までに相続税を申告しなかったものであると指摘。これにより当時大学生ないし高校生であった原告の子らが相続財産の総額を把握できず、事実上、相続に係る相続税の申告ができない状態を作出したものであり、預貯金の存在を隠ぺいしたものと評価することができるとした。したがって、裁判所は、原告は相続税の申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をとっていたものであり、本件行為1は、「自己脱税」に該当するとの判断を示した。
相続税の申告や必要な処理をあえて放置
本件行為2の「多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ」とは、自己の申告について、申告漏れ所得金額等が多額で、かつ、その内容が税理士としての職業倫理に著しく反するようなものとしている。本件では、申告漏れ所得金額等の額は4,083万6,880円であって、自己の申告に係る申告漏れ所得金額等は多額であるとした上、相続税調査の開始から3か月半が過ぎ、申告期限から1年4か月も後になって調査担当者からの勧奨に応じて期限後申告を行うに至ったものであって、相続税の申告及びこれに必要な処理をあえて放置していたといわざるを得ないと指摘。税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士としての職業倫理に著しく反するものといえることから、本件行為2は告示にいう「多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ」に該当するとの判断を示した。
したがって、裁判所は、財務大臣が行った処分は国賠法上、違法とはいえないとして原告の請求を棄却した。
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