民事2013年04月22日 面会交流の間接強制 平成25年3月28日最高裁決定を受けて 執筆者:冨永忠祐
離婚して子どもと離れて暮らすことになった親(非監護親)は、子どもと定期的に会って、遊園地に行ったり映画を見たり、食事や買い物などをして親子の交流を図りたいと考えます。このことを面会交流といいます。民法766条は、離婚するときには、面会交流について夫婦が話合いで決めるものとし、もし話合いがまとまらない場合には家庭裁判所が定めると規定しています。
この面会交流は親の権利であると考える見解が一般的でしたが、最近は、面会交流は親の権利であると同時に、子どもの権利でもあると考える見解が有力です。すなわち、子どもは親との交流を通じて精神的に成長しますから、これをもって子どもの権利と捉えるわけです。このように面会交流は子どもの成長にとって大切なことですから、子どもと同居する親(監護親)は、面会交流がスムーズに実施されるように協力しなければなりません。
しかし、仲が悪くなって離婚したのですから、もはや監護親と非監護親との間の信頼関係は失われています。子どもを非監護親に会わせると、子どもを返してくれないのでないか、自分の悪口を子どもに吹き込むのではないかと、いろいろと疑心暗鬼になります。また、非監護親が養育費の支払を怠っている場合には、監護親とすれば、「養育費を払うまで、子どもには会わせない」と主張したくなります。これらの理由から、面会交流について合意しているにもかかわらず、約束を反故にして、面会交流に協力しない監護親が生まれるのです。
では、監護親が面会交流に協力しない場合、非監護親としては、どのような法的手段をとることができるでしょうか。
この点について、学説では一般に、間接強制をすることが可能であると考えています。裁判例でも、面会交流について間接強制を認めたものがあります。
間接強制とは、義務があるにもかかわらず、その義務を履行しない者に対して、「義務を履行せよ。もし履行しないときは、不履行1回につき○○万円を支払え」といった命令を裁判所が出す制度です。この命令を受けた者は、義務を履行しないと、お金を払わなければならないので、大きな心理的なプレッシャーを感じることになり、その結果、渋々ながら義務を履行するようになるわけです。
ところが、面会交流の場合、間接強制を行うことが難しいケースがあります。というのは、面会交流では、「義務」の内容がはっきりしない場合があり、義務を履行したかどうかの判別ができないことがあるからです。たとえば、「毎月第3日曜日の午後1時に、JR新宿駅東口で子どもを非監護親に引き渡し、同日の午後5時に、同じ場所で子どもを監護親に戻す」という合意であれば、「義務」の内容ははっきりしています。これに対して、「毎月1回程度面会交流をするものとし、その日時、場所等については協議して決める」との合意では、「義務」の内容がはっきりしていないので、義務に違反したかどうかも判断できず、間接強制もできないことになるのです。
ただ、「義務」の内容が特定しているかどうか、面会交流の間接強制ができるかどうかの判定は難しく、裁判例も分かれていましたが、この度、最高裁判所がその判断を示しました(平成25年3月28日決定)。これによると、「面会交流の日時または頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがない」ときは、間接強制ができ、「1か月に2回、土曜日または日曜日に、1回につき6時間面会交流をする」といった合意内容は、面会交流の頻度や各回の面会交流時間の長さは定められているが、子どもの引渡しの方法が定められていないので、「義務」の内容は特定されておらず、間接強制はできないとされました。
実務上、面会交流の内容をどのように定めるかは、相手方との交渉事ですので、容易ではありません。本来ならば事細かに決められると良いのですが、そうなると、相手方となかなか合意に至らず、いつまでたっても離婚ができないことになりかねません。そこで、離婚の成立を優先させるために、とりあえず面会交流については、「1か月に1回程度を目安にして、具体的な方法は別途協議する」といったように抽象的に定めておくことが少なくありません。しかし、こうした抽象的な定め方では、間接強制ができないことになります。
したがって、今後は、間接強制ができることを優先するか(できるだけ具体的に面会交流の取決めをするか)、早く離婚を成立させることを優先するか(面会交流は抽象的な取決めにとどめるか)の選択を迫られることになりそうです。
(2013年4月執筆)
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